レタッチの基本ワザ

第14回 3DCGの背景にモデルを合成する

画像処理・解説:大里宗也(VONS pictures)

イメージした背景を実際にセットを組んで撮影できない場合、3DCGを使って作ることが増えている。今回は3DCGの空間をPhotoshopでうまく調整し、人物と合成する方法を解説する。

img_soft_retouch14_01.jpg Photo:片岡竜一 ST:松下静 Make:中山夏子 Hair:野元洋 Model:Kalina
衣装協力:エミリーテンプルキュート ラフォーレ原宿店 TEL 03-3404-7766

3DCGで作った背景と実写が馴染むような画像処理を行なう

前回は写真素材を組み合わせて、日常空間とは異なる世界を作り出したが、今回はさらに非日常的でバーチャルな空間を作ってみた。その空間は柔らかい素材でできていて、不規則な凹凸があり、 曲がりくねったチューブのような形状。

今回イメージした背景は2Dだけで作るには面倒な形状なので、3DCGソフト「Autodesk 3ds Max」を使って作った。3DCGソフトで作成した画像をそのまま使って合成してしまうと写真との違和感が出るため、Photoshopを使い色調補正、被写界深度の調整、光の陰影の追加を行ない、実写のポートレイトと馴染むようにレタッチを進める。

Autodesk 3dsMaxを使って背景となる空間を作る

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背景のオブジェクトをモデリングした後、質感とライティングを設定しカメラ位置を決めてレンダリング。

3DCGから書き出した32bit画像を「露光量」で整える

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Open EXR形式で書き出した画像。

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「露光量」で整えた画像。

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少し浅い画像にレンダリングされたので、色調補正の露光量を使って色補正した。

マスクを作成し、色を変える

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単色だと単調な印象だったので、オブジェクトごとにマスクを切って色変換してみた。

img_soft_retouch14_12.jpg 色調補正を行ない完成した画像。マスクを作成するのが面倒な場合は、オブジェクト毎に個別でレンダリングしておけば時間短縮に繋がるだろう。

3DCGの深度情報を使って奥行き感を作る

3DCGで作成した画像では、基本パンフォーカスとなるので、奥行きやレンズのボケを追加する必要がある。ここでは「Autodesk 3ds Max」から書き出した深度情報のグレースケール画像を使い、マスクを作り、奥行きとレンズのボケを表現。さらにトーンカーブで奥に行くほど明るく光が差し込んでくる感じに仕上げた。

img_soft_retouch14_13.jpg レタッチで調整しやすいようパンフォーカスでレンダリングしてある。

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試行錯誤しやすいように、素材となるレイヤーはスマートオブジェクトにしておくと便利。

img_soft_retouch14_16.jpg 3ds Maxで書き出した深度情報画像。手前が明るく奥に行くほど暗くなっているこの画像を、ぼかし部分用のマスクとして使用する。

深度情報を活用してマスクを作り、レンズのボケ味を表現

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そのままではボケてほしくない部分もうっすらとボケてブレたような画像になってしまうので、マスク画像にコントラストをつける。
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トーンカーブを使ってマスク画像のコントラストを調整。

img_soft_retouch14_19.jpg マスクの境界が硬すぎるのでぼかしを入れた。

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img_soft_retouch14_21.jpg 素材となるスマートオブジェクトレイヤーをコピーして、手前にもボケをつくった。

img_soft_retouch14_22.jpg 奥の方の抜け感(光が射し込む様子)を出すためにトーンカーブを使って明るめに補正。

スタジオ撮影のモデルカットを調整して3DCGの背景に馴染ませる

背景に合わせてうまく配置するために、同じ人物カットからパーツを選び、反転・合成を行なった。さらに背景は奥のほうが明るいという設定にしたいので、合成した人物に細かくマスクを作成し、トーンカーブでやや逆光気味に見せている。最終的に人物だけでなく背景も違和感が無くなるように再度色合いを調整している。

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スタジオ撮影しておいたモデルカットの不自然に見える左足や、動きをつけたい髪の毛などを別カットから合成した。

img_soft_retouch14_27.jpg 完成したモデルカットを左右反転して3DCGの背景に合わせる。

背景のトーンに合わせて人物のトーンを調整

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モデルカットを切り抜きし、サイズと位置をシミュレートしてみる。
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img_soft_retouch14_30.jpg モデルカットを色調補正し、背景と馴染むように調整していく。

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さらに背景とモデル両方に対してそれぞれ色調補正を加えながら、自然に見えるトーンに仕上げる。

img_soft_retouch14_33.jpg 全体のトーンとコントラストを整えて完成。背景も最初の3DCGだけの状態よりもかなり印象が変わった。

今回は3DCGをフューチャーした絵柄であったが、レタッチの現場では補助的に3DCGを使うこともよくある。ざっくりとモデリングして影の落ちる方向や形状のシミュレーションをしたり、映りや反射の具合をみたりするためだ。今回のように実際にレンダリングした画像を使うわけではないが、レタッチする上でのガイドラインとしては非常に重宝している。3DCGというと、ぐっとハードルが上がるが身近なところからチャレンジしていけば、レタッチの可能性もどんどん広がっていくと思う。


大里宗也 Souya Ohsato

熊本工業大学附属情報技術専門学校メディアデザイン学科卒。2000年より株式会社VONSpictures所属。チーフCGデザイナー。http://www.vons.co.jp

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