Photoshop CC の新機能

新ブランド「Photoshop CC」はどんな変化をもたらすか? ①

解説:黒川英治

Photoshop CSシリーズが終了し、新たなブランドPhotoshop CCへと生まれ変わることになった。これによりどんな変化が生まれるのか。Photoshop CCの概要を2回に分けて紹介していく。

Photoshopが研ぎ澄まされ、新シリーズへと変貌を遂げた

newproduct_20130507_adobePscc_I.jpg Photoshop CCの起動画面

去る2013年5月7日「Adobe Create Now Max 2013 速報スペシャルイベント」において、アドビ システムズの日本向けクリエイティブ製品の発表が行なわれた。

この速報イベントは、5月初めに米国アドビ本社がロサンジェルスにて開催した「Adobe MAX 2013」の内容を、日本のユーザーに届けるために急遽開催されたものである。

ここでは新しく発表されたPhotoshopの全容を2回に分け、ひもといていきたい。

今から10年前の2003年、Adobe Creative Suiteの登場とともに、Photoshopも「Photoshop CS」というブランドに変更され、以来、昨年5月の「Photoshop CS6」までバージョンアップを繰り返してきた。そのPhotoshopが今回新たなシリーズ名と共にさらなる変貌を遂げることとなった。その名は「Photoshop CC」である。

初代から数えて14番目であるPhotoshopを一言でいうと「シャープな進化」であると、アドビでは説明している。それは「スマートシャープ」の強化、「手ぶれ補正」機能の追加など、画像をシャープに見せるための新技術が数多く投入されているからだろう。筆者の感想では、細かなツールやフィルターなどがよりブラッシュアップしているので、かゆいところに手が届くような印象を受ける。

この名称変更に伴い、その他CS製品群全てが「CC」シリーズ となり、主なデスクトップアプリケーションが刷新される。今後アップグレードに伴ってPhotoshop CC2、CC3へと名前が変わるのか、あるいはずっとPhotoshop CCのままなのかは、現時点では未定だという。

PhotoshopがCCシリーズに変貌したことでいくつか大きな変化が生じている。

まず、Photoshop CS6ではスタンダード版とExtended版、二つのバージョンが存在したのだが、今回この二つは統合されて、Photoshop CCは1つのバージョンのみとなった。つまりPhotoshop CCはExtended版の3D機能なども含んでいるということだ。

CCとはCreative Cloudの事である。勘の鋭い読者は すでにお気づきかもしれないが、このCCシリーズへの変更に伴って、販売方法が刷新されるのである。最大の変化は、パッケージ版の存在がなくなることである。詳しくは2回目の記事で述べるが、CC以降は Adobe Storeで決済してAdobe Creative Cloudからダウンロードするか、販売店やEコマースサイトでダウンロードカードを購入するだけとなるのでご注意頂きたい。

また、Photoshop CS6も併売されるが、パッケージ版は在庫がなくなりしだい販売終了となり、個人向けはESDと呼ばれるダウンロード販売、企業向けはTLP/CLPのライセンス販売に移行することになる。ただしCSシリーズの新バージョンの予定はない。

Creative Cloudとの統合が進み、パッケージ版がなくなることに違和感を感じる人も多いだろうが、その一方でアドビはCreative Cloudの使い勝手を向上する努力も怠っていない。Creative Cloudからダウンロードしたアプリケーションは、従来通り2台のマシンまでインストールできるが、同時起動はできないというのが、スタート当初からの仕様だった。

それが2013年4月からは、2台同時に使用できるように変更されている。この利用条件の変更はもちろんPhotoshop CCにおいても適用される。これは多くのユーザーにとって朗報ではないかと思う。

さてテクノロジー分野に話を移すと、CS6では描画速度を高めるための画像処理エンジン「Mercury Graphics Engine」が搭載されたが、今回は「Upright™テクノロジー」が新開発された。このテクノロジーは、Camera Raw内のレンズ補正機能で、水平が傾いたり、台形にゆがんだ写真の歪みをワンタッチで修正する機能である。4×5カメラの機能に例えるならば、あおりやスイング、カメラの傾き等を自動補正するといった感じだ。撮影したカメラのレンズプロファイルが思ったように補正してくれない場合などに、この「Upright™テクノロジー」を利用して補正するとよい。下の補正前、補正後の画像を見るとわかるが、かなり強力な補正機能である。

Uprightテクノロジーによるレンズ補正

img_soft_cc_features1_01.jpg 補正前
img_soft_cc_features1_02.jpg Uprightテクノロジーによる補正後

またスマートシャープのようなCPU、GPUに過大な負荷が掛かるフィルターも、バージョンが上がるごとに処理が軽くなるようアルゴリズムの見直しやコードの書き換えが進んでいる事も見逃せないポイントだ。

強化された「スマートシャープ」「画像解像度」と、新機能「ぶれの軽減」

新機能については次回でも詳しく述べるが、今回はシャープ系のフィルターの説明をしておこう。「シャープな進化」の呼び名通り、新バージョンではシャープ系のフィルターがより成熟している。

たとえば「アンシャープマスク」のような従来からあるフィルターは、ダイアログボックスの大きさが固定されて小さいままであるが、Photoshop CCの「スマートシャープ」はダイアログボックスの大きさが変更できるようになっている。この小さなエボリューションにより、プレビュー画像の大きさを画面いっぱいで見ることができるようになり、シャープ適用量の確認には非常に便利である。

振り返ってみると、コンピュータの発達と共にモニターサイズも変化している。10年以上前のモニターは17inch以下が主流であったが、現在は20inch以上の製品が一般的に普及しており、画面解像度も高精細化されている。古くからあるフィルターのダイアログボックスは15inchぐらいのモニターに適合するように設計されていたが、現在のモニター環境においては不釣り合いに小さいので、ユーザーの使用環境に合わせられるように仕様変更したわけだ。

この「スマートシャープ」フィルターはCS2から搭載されているので、比較的設計が新しいフィルターであり、仕様変更も比較的簡単だったのだろう。今後さらに仕様変更が行なわれる場合でもスムーズに行なえるように考えられた次世代を見据えたダイアログである。

また シャープのかけ方も従来方式と最新方式を選択可能である。ダイアログの右上に歯車マークがある。そこでON-OFFの切替ができ その場でプレビューを見比べられる。シャープ量を多めにかけてもハレーション量が以前のフィルターと比較すると減少していることから、微細な変化ではあるが成熟度が上がっている。

強化された「スマートシャープ」

img_soft_cc_features1_03.jpg 従来方式によるスマートシャープの結果
img_soft_cc_features1_04.jpg 新方式による結果

「画像解像度」もリニューアルされた。まずインターフェース面では、スマートシャープと同様にダイアログボックスの大きさが拡大できるようになり、プレビュー画面が追加された。さらに「再サンプル」のオプションの中に「ディテールを保持(拡大)」という項目が追加され、ノイズ軽減機能まで付いた。小さいことながら、「 シャープな進化 」を示す部分である。

従来からある画像解像度は、バイキュービック・バイリニア・ニアレストネイバーの3種類であったが、今回「 ディテールを保持(拡大)」が追加された。この機能は、低解像度の写真を拡大して 美しい印刷にできるようにするためのテクノロジーで、ノイズ軽減機能も同時に搭載されているので、ノイズが発生することなく画像がシャープなまま拡大できるのである。画像を見てもらうとわかるが、髪の毛は鮮明に、肌のしわが減っているのがわかる。

強化された「画像解像度」

img_soft_cc_features1_05.jpg 「再サンプル:自動」による拡大結果
img_soft_cc_features1_06.jpg 「再サンプル:ディテールを保持(拡大)」による拡大結果

今回新たに搭載されたのが「ぶれの軽減」フィルターである。

使い方は、手ぶれした画像に対し「ぶれの軽減」フィルターをかけると、画像の内容を自動解析してぶれを除去するというもの。「ぼかし予測領域を表示」のチェックボックスがONになっていると、画像のどの範囲を基準にして手ぶれを解析しているのかが表示される。この領域を任意に設定することも可能で、その場合も範囲を設定するだけで、あとはすべて自動計測してくれる。ユーザーの気持ちを理解したフィルターの設計がなされていると言えるだろう。

実際の効果のほどだが、「X点からY点」のような直線的なブレに対しては有効であるが、Xを中心点とする円弧状のブレに対しては未対応なので、今後の改良が望まれる。スマートオブジェクトに対応しており、何度でも後からやり直せる点は評価が高い。

新機能「ぶれの軽減」

img_soft_cc_features1_07.jpg 補正前(プレビューOFF)

img_soft_cc_features1_08.jpg 「ぶれの軽減」による補正結果

Photoshop CCの対応OSは、Mac OS X 10.7以降、Windows 7 Service Pack 1以降となっており、Windows XPはついにサポートされなくなった。また、最低必要VRAMは256MB以上だが、3D機能を使うためにはVRAM512MB以上が推奨となっているので注意が必要だ。ライセンス認証や、メンバーシップの検証、及びオンラインサービスの利用には、インターネット環境が必要となっている。

詳しくは、アドビ社のホームページで確認して欲しい。

また、Photoshop 公式ブログも始まっているので、こちらからも情報が手に入れることができる。


黒川英治 Eiji Kurokawa

写真家。1965年東京都生まれ。Triceps代表取締役。大阪写真専門学校(現・大阪ビジュアルアーツ専門学校)を経て、1985年頃よりパリをはじめヨーロッパ各地で過ごし、自らの芸術性にヨーロツパの影響を受ける。ファッション誌やCDジャケット、広告写真を手がけるほか、コマーシャルプロデュースや、婚礼写真のデイレクションも行うなど幅広く活動。日本のみならずアメリカ、ヨーロッパでも活躍。コンピュータにも才があり、デジタル写真の分野においても異才を放つ。APA(日本広告写真家協会)正会員。

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