イベントレポート
Adobe MAX Japan 2019レポート|Photoshop iPad版はここまでできる! 世界的コンセプトアーティストがライブペイントで魅せる最強テクニック 富安健一郎
2019年12月18日
12月3日、パシフィコ横浜にて開催された「Adobe MAX Japan 2019」から、注目のセッションをレポートする。まずは、世界的に活躍するコンセプトアーティストの富安健一郎氏によるセッションから。都市をテーマにした雰囲気のあるコンセプトアートがライブペインティングでスラスラと仕上がっていく様子など、披露された驚きのテクニックを報告する。
映画やゲーム、都市計画などでも重要なコンセプトアートの役割
12月3日、アドビのクリエイター向けイベント「Adobe MAX Japan 2019」がパシフィコ横浜で開催された。毎回、著名クリエイターによる公演や、協賛各社のブース展示などが実施されている。
株式会社INEI(陰翳)の代表でコンセプトアーティストの富安健一郎氏によるセッションでは、iPad版Photoshopを活用して行っている業務の事例紹介と、即興でコンセプトアートを描き上げるライブペインティングを実施していた。
富安氏はセッションのはじめに自己紹介として、自身が手掛けたコンセプトアートを紹介。映画やゲーム、都市計画などで使われるコンセプトアートの役割について説明した。
富安: コンセプトアートとは、一言でいえば「プロジェクトのコンセプトを絵にしたもの」です。物語のある作品であれば、作品の世界観や雰囲気をひと目で伝えるようなイメージ。商品やサービスを開発するうえでも、コンセプトをはっきりさせることが重要ですので、それを伝える絵も描いています。大きいものでは都市計画。その都市がどういう暮らしを実現するのか、目指すコンセプトのビジュアル化が必要です。
富安健一郎氏
「Agni's Philosophy FINAL FANTASY」のコンセプトアート。作品制作の初期段階に、作品世界の空気感を伝える目的で描かれた
ゲーム「黒騎士と白の魔王」のコンセプトアート
富安氏が趣味で描いたもの。遊びで描いていても、世界観や物語を考慮に入れている
画面全体で不吉な空気感を理解してもらうために描いたコンセプトアート
SF世界に存在する巨大ロボット。人間の情報を衛星に送っているという設定
中国のSF小説「三体」の日本版を出版する際に描いたカバーアート。初期案は中央に女性が立っている左の絵だったが、作者の希望で右のデザインに変更したという
富安氏が関わった映像作品の中で、コンセプトアートを描いた世界観が映像作品の表現に関わった事例として、映画「HUMAN LOST 人間失格」を挙げた。作品に登場する都市や、登場人物が使う乗り物、脇役的に登場するドローンのコンセプトを紹介している。
富安: メカのデザインや、世界観を構築するのに、コンセプトアートが使われているというのを感じていただけると嬉しいです。
「HUMAN LOST 人間失格」のコンセプトアート
前輪がない状態で駆動するバイク。「"何かがロストしている”という世界観を作品に染み込ませたかった」との意図で描かれた
本来は4本脚が望ましいが、"何かがロストしている"世界を描くために3本脚になったドローン
作品の舞台となる都市。あえて東京に似せている
富安氏のPhotoshop iPad版の利用法
富安氏がPhotoshop iPad版を使うシーンは、主に打ち合わせの場。その場でさっと出して、ホワイトボードやメモ帳のように使っていると話した。顧客の前でPSDを開いて、構図やレイヤーを直接操作しながら軌道修正できるところが便利だという。
富安: Photoshop iPad版は機能が出揃っていなくて、正直、仕事としてコンセプトアートを描いていくにはまだまだ足りないと感じることは多いです。でも数十程度のレイヤー数であれば特に問題なく使えますし、やはり、お客さんと一緒にその場で作品を追い込んでいけるというのが大きな利点です。これよりレイヤー数が多くて重いファイルになると、画像が開けなかったり、開けても表示されないといったことが起こります。こういうあたりは、「まだこれから」だなと思うところですね。
仕事以外の使い方としては、写真に建造物や乗り物、人物などを直接書き込んで、コンセプトアートのように加工してみるという遊び方を紹介した。
ホワイトボードとして使っている例
撮った写真を読み込ませた
遠景や建造物を描き足して遊んでみるという使い方もしているという
富安: もうちょっと機能が充実してきたら、いずれはiPadだけでフルにコンセプトアートが描けるようになるかもしれないし、実際、アドビさんの方でも機能面、安定性の部分を充実させる準備はしているみたいです。今のPhotoshop iPad版は、それこそ「赤ちゃん」の状態。みんなで「こういう機能をつけてほしい」とリクエストして、自分たちが使いやすいソフトに成長させていくのを見守っていくような、そういう段階だと思っています。
機能リクエストの画面。機能リクエストのボタンや、現在準備中の機能が表示されている
Photoshopを使用したライブペイントを披露
ライブペイントは、PC用アプリのPhotoshopを使って制作した。遠景として水平線の向こうに見える巨大な建造物から描き始めて、手前に広がる都市の街路や建物を追加。図形の変形や写真素材などを活用しながら、現実に存在しない都市の景観を描写していた。「未来の横浜」をイメージしたという。
富安: 普段、仕事以外で落描きをするときでも、おおまかにコンセプトを考えて描いています。いま描いているものがどういう場面なのか、物語の中でどういうシーンなのかを想像しながら描きますね。レイヤーを分けていますが、これは特に深い意味があるわけではなく、適当なところで作業を区切るという意味で分けています。
水平線の向こうに描かれていく街並みのシルエット
あみだくじのようにも見えるランダムな格子状のレイヤー
台形に変形させて、都市の街路を表現している
前景の建物を追加。かなり街らしく見えてきた
遠くのものは淡く、近くのものは濃く描写して、遠近感を表現している
背景に夕焼けの写真を貼り込んでいるところ。左側に写真の幅が足りていないが、「コンテンツに応じる」塗りつぶしで足りない分を補っている
透明度の調整で背景の存在感を調整している
富安氏が登壇前に作ったという「街の光ブラシ」
大きなビルのふもとにブラシを配置していく
消しゴムツールでブラシの形を適宜削っていくことで、街の光らしく見せている
建物の明かりはビルに直接描き込むのではなく、写真素材から切り貼りしているところも印象的だった。ビル街を撮った夜景写真からビルの光だけを切り取り、レイヤーの描画モードを「スクリーン」に設定し、「レベル補正」で色をなじませている。
富安: ビルの光を入れたいので、夜景写真の素材から一部を取り出してみましょう。ネットには著作権フリーで使える写真素材がたくさん売っているので、こういうものを使ってみるのも有効な手です。
夜景の写真素材からビルの光の部分を取り出し、ビルの形に合うよう変形させている
写真素材から街の光を移植
不要な部分は消して表情をつけた
前景に人物を描き込んでいる
人物の前につける柵を描き足した
変形させて人物の前に設置。展望台から街を見下ろしているイメージが形になってきた
富安: コンセプトアートってこんな簡単な絵でいいのかと思う方もいらっしゃるかもしれないですが、僕がやってる段階のコンセプトアートに求められるのは正確さではなく「どういう雰囲気を持っているのか」、「どういう魅力があるのか」を伝えることなんですね。一番の目的は、なるべく速く、いいところをみんなに解ってもらうこと。だからこうして、その場で速く描いていくテクニックが自然と身についたりもします。
ビルにまとわりつくモヤと陽の光を描き足して、都市の雰囲気を演出している
空中に飛行する物体のシルエットを並べ、未来都市らしさを出して完成。制作の所要時間は25分
富安: ライブペインティングは以上です。僕がやっているのは、こういう絵を数週間かけてぎっちり描き込んでいくお仕事です。
- Adobe MAX Japan 2019レポート|Photoshop実践講座〜痒いところに手が届く、Photoshop技法「10の事」〜 畠山祐二/小柴託夢
- Adobe MAX Japan 2019レポート|Photoshop iPad版はここまでできる! 世界的コンセプトアーティストがライブペイントで魅せる最強テクニック 富安健一郎
- ラッセル・ブラウンに学ぶ iPad Proを使ったLightroomとPhotoshopの基礎
- 「令和元年『一億総クリエイター時代』の到来!?」Adobe Premiere Rush 製品説明会
- 中島信也監督、黒田秀樹監督など広告のプロが指導してくれる映像合宿「my Japan Creative Summer Camp2018」
- 巨大なLEDスクリーンで多彩なシーンを作り出した「第68回NHK紅白歌合戦」の舞台裏
- アマナドローンスクール「プロ空撮テクニック講座」で2オペレーター空撮を体験
- 会議室で恐竜体験! 複数人で同時体験できるVRアトラクション「ABAL:DINOSAUR」
- ソニープロフェッショナルムービーアワードの受賞作品が決定!
- 第11回 札幌国際短編映画祭「ブランデッドフィルム 2」レポート
- 「プロフェッショナルなドローン空撮の現場 〜NHK大河ドラマ『真田丸』のケーススタディ」 Inter BEE CREATIVE・レポート②
- 「8K/HDR エンタテインメントコンテンツ『LUNA』~クリエイティブの新たな領域へ~」 Inter BEE CREATIVE・レポート①
- Adobe Stockコントリビューター開始記念「Adobe Stock "START NOW"」レポート
- imagePROGRAF PRO-1000の実力と使いこなし
- キヤノン フルサイズ一眼の実力 EOS 5Ds & EOS-1D X Mark II
- 「水曜日のカンパネラ 4Kミュージックビデオ制作事例」 Inter BEE コンテンツフォーラム・レポート③
- 「iPhoneが可能にする映像表現」 Inter BEE コンテンツフォーラム・レポート②
- 「ブランデッドフィルム」 Inter BEE コンテンツフォーラム・レポート①
- 札幌国際短編映画祭「ブランデッドフィルム」レポート
- 世界的なFlameアーティスト、ビーコ・シャラバニ氏にきく
- カラリストに聞く、Adobe Premiere Proでのグレーディング