2016年01月06日
2015年で10周年を迎えた札幌国際短編映画祭は、日本を代表するショートフィルムの祭典である。コマーシャル・フォト編集部は、今回初めてこの映画祭に参加して、10周年記念特別プログラム「ブランデッドフィルム」の上映を行なった。
札幌国際短編映画祭はフィルムメーカーにとって世界進出の登竜門
アワードセレモニーの様子。前列左から山岸正美実行委員長、国際審査員のウイルソン J. タン、ダイアン・ペルネ、大林宣彦、鈴井貴之、イ・ジスンの各氏。
映画祭と銘打ったイベントは、日本国内で大小合わせて100以上存在するが、ショートフィルムに焦点を絞ったもの、しかも海外から審査員を招いてインターナショナル・コンペティションを開催する短編映画祭となると片手で余るほどしかない。札幌国際短編映画祭はその意味で、日本を代表するショートフィルムの祭典である。
2015年のコンペティションには世界99の国と地域から3,321本の新作の応募があり(国内からは243本)、さらに映画祭が始まった2006年までさかのぼると、応募総数は約28,000本に達する。このように同映画祭は海外でも広く認知されており、また最近では同映画祭のプログラムが世界各国の映画祭で招待上映されるなど、内外のフィルムメーカーにとって世界進出の登竜門的な存在となっている。
コマーシャル・フォト編集部は今回初めてこの映画祭に参加する機会を得て、特別プログラム「ブランデッドフィルム」の上映を行なった。このプログラムについては後ほどゆっくり述べることとして、まずは今回の映画祭についてレポートしよう。
コンペには25の国と地域から100の作品がノミネート
札幌市の狸小路界隈を舞台に行なわれた第10回札幌国際短編映画祭の様子。
10回目となる2015年の札幌国際短編映画祭は、10月7日から12日まで札幌市の狸小路界隈を舞台に開催され、6日間の来場者は12,000人を数えた。メイン会場となる札幌プラザ2・5は数年前まで映画館として営業していた貸しホールで、2階のホールは現在でも劇場の雰囲気をそのまま残しており、映画祭の会場としてはまさにうってつけ。コンペティション参加の100作品がこの会場で連日上映された。
今回のコンペティションには25の国と地域から作品がノミネートされているが、日本人には馴染みが薄いコソボ、チュニジア、ウクライナなどの国の作品も含まれている。その一方で国内作品の中には安藤政信、桃井かおり、寺島しのぶ、石田えりなど有名俳優が出演する作品や、海外作品ではブレード・ランナーで知られるルトガー・ハウアーの主演作品もあり、ショートフィルムの多様性を感じることができた。
それ以外にも、クレイアニメの「アードマン・アニメーションズ」特集、協力映画祭の「ショートショート フィルムフェスティバル & アジア」特集、北海道の映画特集など様々な特別プログラムが用意されており、さらには商業映画で活躍する海外のクリエイターによるセミナー、協賛機材メーカーによるワークショップ、来札監督たちによるフィルムメーカーズプレゼンテーションなども開催。映画の魅力を様々な角度から楽しめるようになっている。
最終日の前日となる10月11日には、インターナショナル・コンペティションのアワードセレモニーが札幌プリンスホテルで行なわれた。審査委員長の大林宣彦氏をはじめ、日本、フランス、カナダ、韓国から参加した5人の国際審査員がグランプリに選出したのは、フィルムメーカー部門ではイラン出身のオミッド・アブドラヒ監督、作品部門ではドイツ出身のウナ・ゴンニャック監督の手による「チキン」だった。
第10回札幌国際短編映画祭
日程:2015年10月7日〜12日
会場:札幌プラザ2・5/シアターキノ/イベントスペースEDiT/札幌プリンスホテル
主催:SAPPOROショートフェスト実行委員会/札幌市
公式HP:sapporoshortfest.jp
映画祭の期間中、狸小路のアーケードには映画祭のキャラクターをあしらった黄色いフラッグがひるがえり、会場の前には朝早くから夜遅くまで入場を待つ人の列が並び、劇場では多くの人の歓声と拍手が鳴り止まなかった。札幌の街にしっかりとショートフィルムの文化が根付いていることを実感する6日間だった。
「ブランデッドフィルム」はショートフィルムの新しい形
「ブランデッドフィルム」の会場は札幌プラザ2・5の地下にあるシアター。100人余りのショートフィルム愛好家が来場した。
解説を務めた寺井弘典氏(左)とコマーシャル・フォト統括編集長の川本康。
ショートフィルムを制作しているのは、なにも個人の作家だけではない。近年では企業コミュニケーションの新しい形として、ショートフィルムの形態で作られるエンターテインメント・コンテンツが増えている。
その多くはネットでの公開を前提に作られているが、これを映画祭という晴れ舞台でスクリーンにかければ、コンテンツ自体の魅力も倍増するし、なによりショートフィルムの面白さを広く発信できるのではないか。このような発想から始まったのが、今回の「ブランデッドフィルム」の企画である。
映画祭実行委員会から協力を呼びかけられたコマーシャル・フォト編集部では、このワクワクするようなアイデアの実現に向けて、すぐさま映画祭への参加を決めた。プログラム内容の検討は、P.I.C.S.のクリエイティブディレクター寺井弘典氏と共同で作業を行なっている。寺井氏は2006年頃から他に先駆けていわゆるバイラルCMと呼ばれる動画を手がけており、この企画のキュレーターに適任であるのはもちろん、そもそも実行委員会と一緒に企画を立ち上げた仕掛け人でもあるのだ。
編集部と寺井氏が最初に話し合ったのは、プログラムのタイトルをどうするか。今回取り上げようとしている動画は、広告業界では一般にブランデッド・エンターテインメント、ブランデッド・コンテンツなどと呼ばれているが、せっかく映画祭で上映するのであれば、それに相応しい名前をつけるべきだということで、新たにこのジャンルの動画のことを「ブランデッドフィルム」と名付けることにしたのである。
こうして札幌国際短編映画祭の10周年を記念した特別プログラム「ブランデッドフィルム」の企画は順調に進み、ついに上映の本番10月9日を迎えることになった。ここではそのラインナップを紹介すると共に、セレクションの狙いについても報告しよう。
上映作品としてセレクトした10本
「鉄板」のブランデッドフィルム
まずプログラムの冒頭では、誰が見ても面白いと思う鉄板ネタを立て続けに上映しようということで、国内外で評価の高いサントリー C.C.レモン「忍者女子高生」、NTTドコモ「3秒クッキング 爆速エビフライ」、そしてベースボールの本場米国でも話題になったというトヨタ G’s「Baseball Party」の3本を選んだ。上映が1本終わるごとに観客席から拍手が起こるなど、出足から反応はすこぶる良好だ。
① サントリー C.C.レモン
「忍者女子高生」
② NTTドコモ
「3秒クッキング 爆速エビフライ」
トヨタ G’s
「Baseball Party」
企業とコンテンツのいい関係
続いて企業とコンテンツのいい関係が伺える作品として、安川電機「YASKAWA BUSHIDO PROJECT」、カゴメ×明和電機「ウェアラブルトマト」を上映。どちらも企業の製品や担当者が前面に出る形でありながら、エンターテインメント性を重視した作りになっているので、見る側が素直に感情移入できる点が共通している。
④ 安川電機
「YASKAWA BUSHIDO PROJECT」
⑤ カゴメ×明和電機
「ウェアラブルトマト」
ネットならではのリアリティ
ここまでが起承転結の「起」「承」とするならば、次は「転」だ。大塚製薬「さわる知リ100」 、日清食品 カップヌードル「バカッコイイ」、武田薬品 アリナミン7「7つの挑戦」がそれだ。これらはいずれも一般的なショートフィルムの概念にはおさまりきらないが、ネットならではのリアリティを感じさせる作品としてセレクトしている。
「さわる知リ100」は、一般の人たちがいろんなものにさわってみる短い動画のシリーズで、彼らの演技なしのリアルな反応を通じて、映像ではなかなか伝わりにくい触感まで伝えることに成功している。
これに対して「バカッコイイ」「7つの挑戦」はカメラの前で起こった奇跡のような出来事を、CGやVFXを使わないでそのまま見せるというもの。じつはこの手の動画はYouTubeで人気のあるジャンルで、一般の投稿動画がたくさんあるのだが、プロの制作者があえてそこに乗っかった作りになっている。その距離感の近さが、かえって見る人の共感を呼ぶのだろう。
⑥ 大塚製薬
「さわる知リ100」
⑦ 日清食品 カップヌードル
「バカッコイイ」
⑧ 武田薬品 アリナミン7
「7つの挑戦」
ブランデッドフィルムの大作
そしてプログラムのラストを飾るのは、サントリー ペプシストロングゼロ「桃太郎 Episode.3」と、OK Go「I Won’t Let You Down」。どちらもブランデッドフィルムの大作ともいうべき作品で、劇場映画並みの予算と手間暇をかけて作られている。上映後、「これこそ大きなスクリーンで見たかった」という反応を数多くもらうことができた。
このように今回の試みは、幸いにも映画好きの人が集う映画祭の場で好評をもって迎えられた。「ブランデッドフィルム」は2016年以降も、ショートフィルムの世界をより豊かなものにするプログラムとして、札幌国際短編映画祭を盛り上げるのに一役買うことに違いない。
⑨ サントリー ペプシストロングゼロ
「桃太郎 Episode.3」
⑩ OK Go
「I Won’t Let You Down」
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2015年11月18日、幕張メッセで開催された国際放送機器展 Inter BEEの会場で、「ブランデッドフィルム」の再演が行なわれた。この記事では、P.I.C.S. クリエイティブディレクターの寺井弘典氏とコマーシャル・フォト統括編集長・川本康の解説の再録を中心に、当日の模様をレポートする。 この記事を読む
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