2017年12月26日
経験豊かな講師から学べる、アマナドローンスクール「プロ空撮テクニック講座」。2日間にわたって2オペレーターによる空撮を体験してきた。
500人を超える卒業生を輩出するアマナドローンスクールが、11月21日、22日の2日間、パイロットとカメラオペレーターの2オペレーター体制の空撮に特化した講座「プロ空撮テクニック講座」を開催した。
アマナでは国交省認定のJUIDA操縦技能・安全運航管理者取得講座やDJI CAMP検定&特訓コースのような、ドローンの知識と基礎の操縦技能を学べるコースを多数開講しているが、本コースはこうした技能に加えてより実務に近い形のビジネス向け講座のひとつとして開催したもの。すでにドローンを操縦するパイロットとしての空撮講座は2016年から開講しているが、映画やCMなどより高いレベルでの映像表現が可能な2オペレーターによる空撮講座は初めての開催となる。今回はそんな2オペ講習を体験取材という形でレポートしよう。
パイロットへの指示は意図がストレートに伝わる言葉を選ぶ
2日間のプログラムは朝9時半から夕方5時まで昼食をはさんでびっしりとスケジュールが組まれた充実したもの。1日目は午前中に座学を行い、午後からは屋外で自動車を広場に置いて、停止状態での静止物の撮影実習を行う。2日目は自動車を走らせて動くものに対する撮影方法を体験するというカリキュラムとなっている。
座学で講師を務める横濱和彦氏。
座学では主に2オペレーターによる撮影に必要な知識と、主にInspire 2の操縦システムについての概論、さらに動画撮影に必要なカメラの知識を学ぶ。冒頭でアマナの空撮部門「airvision」を統括する横濱和彦氏は「2オペレーターはフライト中のパイロットとカメラオペレーターとの意思の疎通が大事。さらには飛行前にどういう飛行と撮影を行うか、というイメージの共有がとても大切」だと説く。そのためには撮影の狙いをお互いに共有して、飛行ルートとカメラワークを明確にする、さらにリハーサルでドローンのスピードなどを調整しておく必要があるという。
また、飛行中はストレートにすぐに伝わる言葉を選ぶことが大事だ。例えば “下がる” という言葉は、“高度を下げる” のか “機体を自分の方に下げる” のかがわかりにくい。同じような言葉として「引く」といった言葉も、イメージとしてはわからなくもないが、パイロットとカメラオペレーターの間で方向を共有できない。さらに、「ここから右」といった指示でも、急に進路を変えるのか、それとも直進からゆっくりと右に向かうのかなど、その変化の仕方が伝わらない。こうした例のように、とにかくカメラワークの意図がしっかりパイロットに伝わる表現を使う必要がある。
Inspire 2の2オペの構造
Inspire 2の2オペ時の操縦と映像信号の流れ。
座学では今回の講習で使用するDJIのInspire 2についても学ぶ。Inspire 2で2オペレーター運用を行う場合、カメラの映像はパイロットのプロポ(マスター)を経由してカメラオペレーターのプロポ(スレーブ)に届けられる。さらにデジタル変換の時間がかかるため約0.3秒のタイムラグがある。そのため、動く映像を見ながらカメラを操作したのでは映像上の狙った瞬間にカメラを動かせない。特にパンなどで向きを動かしたカメラを止める際には、このタイムラグを考慮したタイミングで止める操作をする必要があるという、豊かな経験に基づいた話をしてくれた。
講義で紹介されたカメラワークの一例。
さらに講義ではさまざまなカメラワークについても紹介。特に上昇・下降をともなうカメラワークはドローンならではあるが、ドローンの場合、上昇に比べて下降では機体が不安定になるため苦手だと説明。フレームの中に動くものがない場合には、下降するカットであっても上昇で撮影して逆再生にすることもある。また、上昇・下降にはカメラのチルトアップ、チルトダウンが密接にかかわる。カメラマンから「もう少し速く上昇」といった指示にパイロットは的確に応えられるように、操縦アプリのDJI GO4に表示される上昇下降のスピードを見て把握しておく必要があるという。
また、被写体を取り巻くように機体を旋回させるようなカットもドローンならではだと言える。2オペレーターの場合、常に被写体に機体の正面を向けながら旋回する方法と、カメラだけを被写体に向けて機体の向きは一定のままで旋回する方法が選べる。前者は主にラダー(旋回)を操作し、後者はエレベーター(前後)&エルロン(左右)の操作となるが、比較的前者の方が機体の動きがスムーズでカメラワークに影響が出にくいといったノウハウも紹介してくれた。
カメラオペレーター、パイロット両方の立場を経験しながら学ぶ
実地テストの模様。参加者一人ひとりがパイロットとカメラオペレーターを順番に体験。
昼食をはさんで午後はいよいよ実習に入る。貸し切った広大な駐車場にイギリス製の高級SUVレンジローバーを置き、このクルマを中心にさまざまなカメラワークを試みるというもの。実習前半はアマナビの小林講師がパイロットとしてInspire 2を操縦し、生徒が交代でカメラオペレーターを務める。小林氏が決めたルートを飛行する中で、カメラオペレーターは常に被写体のクルマをモニターの中心に捉える練習だ。
アマナビの講師の一人でairvisionの撮影なども行っている深田康介氏。豊かな経験に基づいた撮影時のスタンスを解説。
実技講習では主にパイロットを務めた小林宗氏。airvisionの数々の現場をこなしてきたベテランパイロットでありカメラオペレーターだ。
今回はDJIの協賛により、まだ市場にリリースされる前の新型カメラユニットX7用のレンズ4本が用意された。
静止物に対するカメラワークといっても、ドローンの場合カメラの位置が自分の思い通りに動くとは限らない。そのため慣れないうちは、思うように被写体を捉え続けるのが難しい。特にドローンにクルマが近づくと画面内にクルマが占める割合が大きくなり、さらに移動量も大きくなるため、狙った位置にクルマを捉え続けるのがなかなか大変。こればっかりは練習と慣れが必要だということを痛感した。
DJI GO4アプリのスレーブ側(カメラオペレーター側)プロポの設定画面。カメラジンバルのスピードやEXP(エクスポネンシャル)、ジンバルの停止時のスピードなどを、自分の操作感に合わせて、また撮るカットに応じて設定する。
また、思い通りにInspire 2のカメラを動かせるように、ジンバルのスピードやEXPといった動きのパラメーターを調整することも必要だという。あまりジンバルを速く動かせるように設定すると、ちょっとした指の動きに反応してカメラが動いてしまい、画が安定しない一方で、速い動きの被写体に対してはジンバルをゆっくりと動くようにすると、追いきれなくなることがあるため、自分の操作感に合わせた設定だけでなく、撮る画に合わせての設定も必要だ。
後半は生徒が交代でパイロットとカメラオペレーターを務める。今回、10時間以上のドローンの操縦経験と、ノーズインサークルの飛行ができることが参加の条件となっている。そのため、生徒が操縦して飛ぶInspire 2のフライトはとても安定しているが、カメラオペレーターと組んで飛ばすとなると、カメラオペレーターの指示に的確に応えなければならないという意味で、一人で操縦するのとは難易度が違ってくる。
まず、やはり座学で横濱講師が説明していた通り、フライト中のカメラオペレーターとのコミュニケーションがとても大切だ。ドローンの空撮というとドローンパイロットに脚光が浴びがちだが、本来空撮は映像を撮るという意味でドローンの飛行、カメラワークすべての中心はカメラオペレーターとなる。そのため、カメラオペレーターがパイロットに細かく指示を出すことが肝要。今回の講習に参加した生徒は全員初対面ということもあってか、また、カメラのスティックワークに夢中になるのか、飛行中はどうしても言葉が出なくなってしまう。そんな生徒に講師は「もっと指示を出して」といった激が飛ぶ。
また、ドローンパイロット側も2オペレーターの場合は、いかにカメラオペレーターの指示通りの飛行ルートを飛べるかということが大事。狙ったタイミングで希望の位置に機体を移動させるということが、いかに難しいかを痛感させられる。もちろん、その上で被写体や周囲の木々に万が一にもぶつからないようにといった、飛行の安全管理も怠ることはできない。
講習2日目には劇車を用意して、走行する車をカメラオペレーターとパイロットの2オペ体制で撮影。
こうしたカメラオペレーターとパイロットとの連携がもっと難しくなってくるのは、2日目に行われた動く被写体の撮影だ。広場を走るクルマを追いかける、並走する、さらには走るクルマの前後を横切る、といったカメラワークに挑戦する。静止物の撮影でも難しいのに、さらに被写体が動くとなると、さらに難易度は高まる。例えば単純に走るクルマに併走して真横から撮るといっても、パイロットはクルマとドローンのスピードを合わせる、カメラオペレーターはそのドローンの速度調整の指示を出しながら、カメラを動かすという、未経験者にとっては難易度の高いものとなった。
特に難しいのは走るクルマの前後を横切るカットで、クルマのスタート地点から目視でドローンを操縦するパイロットにとっては、自分から見てクルマと同じ距離、さらにはその前を安全に横切る距離を読みながら飛行させるというのが難しい。一方カメラオペレーターもクルマをドローンが横切るタイミング、さらにはクルマと同じくらいの高さから上昇させるタイミングなどを次々と指示していかなければならない。動くクルマの撮影実習では、こうした2オペレーター撮影の要素が詰まったフライトを、陽が暮れるまで繰り返し行った。
日没で終えた実習の後は、再び教室に戻って、この日撮影したカットを見ながら講師、生徒全員で講評を行う。撮影中はモニターを見ているものの、カメラワークとドローンの操縦でいっぱいで、実は客観的に見られていなかったカットも、改めて大きなモニターで見るとさまざまなアラが見えてくる。また、他の人のカットを見ながら学ぶことも多い。
体験終了後には参加者全員で撮影した映像を見ながら講評の時間も設けられた。
約半日の座学と、約1日半の実習を経験したことで、最後にモニターで見る映像からそれぞれ何かしらの手ごたえを感じ取ることができたであろう2日間の講習。ドローンの操縦は、機体と場所があれば自分で練習することはできるが、カメラオペレーターの経験とトレーニングは、パイロットがドローンを飛ばしてくれないとできないことだけに、今回のような2オペレーター講習は、とても有意義な場だと感じる2日間だった。
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