イベントレポート

「iPhoneが可能にする映像表現」 Inter BEE コンテンツフォーラム・レポート②

コマーシャル・フォト編集部

11月18日から3日間にわたり、幕張メッセで開催された国際放送機器展 Inter BEE。その初日、会場内に設けられたInter BEE Asia Contents Forumのステージでは、コマーシャル・フォト編集部が2つのコンテンツフォーラムを開催した。ここでは「iPhoneが可能にする映像表現」と題したセッションの内容をレポートする。

img_event_other_interbee2015_01_01.jpgInter BEE Asia Contents Forumのステージ

アップルのワールドワイドキャンペーン 「iPhone 6で撮影」

セッションの前半には、アップルのCM「iPhone 6で撮影」に映像が採用されたムービーディレクターの岩元康訓氏が登壇した。このCMは、世界中でリアルユーザーが撮った映像をそのままテレビコマーシャルにしており、日本人で映像が採用されたのは岩元氏と、よくコンビを組んで仕事をするというフォトグラファー/シネマトグラファーの石川肇氏と合わせて2人だけだ。


岩元康訓氏が撮影したiPhone 6のテレビCM

img_event_other_interbee2015_01_02.jpg写真左が岩元康訓氏。右はモデレーターの川本康コマーシャル・フォト統括編集長。

岩元「私と石川肇さんは、パプアニューギニアのオフィシャルツーリズムビデオを作っています。これまで10作品以上、さまざまなカメラを使って撮影してきたのですが、どのカメラがいいのか、日々考えていました。できるだけ高精細な映像を撮るのも大切ですが、世界で一番使われているカメラであるiPhoneで撮れば、見ている人が親近感を持って、リアルに美しさを感じながら映像を見てくれるのではないかと思ったのが、iPhoneを撮影に使い始めたきっかけです」

iPhoneで撮影した映像作品「Episode 1」は、岩元氏と石川氏のプライベート作品として制作された。著作権が2人に帰属することについてはパプアニューギニア側の理解も得られ、カメラだけでなく、ロケーションのセレクトも独特なものとなった。通常のツーリズムビデオに登場する有名な観光地を撮るのではなく、自身で見つけた美しい場所を撮影。そのクオリティが完成前から関係者の間で話題となり、そして広告会社を通じてiPhone 6のワールドワイドキャンペーンに映像を使わせてもらえないかという連絡がきたのだという。


岩元氏と石川氏が共同制作したプライベート作品「Episode 1」。

岩元「iPhoneだから撮れる映像はたくさんあります。たとえば、スローモーション映像が撮れる通常のハイスピードカメラというのはとても高価です。でもiPhone 6なら120fps(4倍スロー)、240fps(8倍スロー)で撮影することができます。サイズがコンパクトということもあって、普段ハイスピードカメラを導入できないようなリスクの高い現場でも撮影できました。例えば川に半分体をつけたまま撮影したり、すぐ転覆してしまうような小さなカヌーに乗って奥地の村に撮影に行ったり。動物たちが警戒心を持たないというメリットもありましたね。道具が小さいことで動物が安心するようで、普段は逃げてしまうようなワラビーが、こちらを興味深そうに見ている、といった絵も撮ることができました」。

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水中撮影にはiPhone専用のハウジングを使用

岩元「iPhoneはハウジングがあるので水中撮影もできます。30mぐらいまで潜っています。サイズが小さいから岩と岩の間にも入れて、入ったからこその映像もたくさん撮れました。小さな珊瑚の隙間にiPhoneを突っ込んで撮ったサメが、その地域で初めて撮影されたサメだったんですよ。また、バックにテーブルサンゴの隙間から漏れている光を捉えたシーンがありましたが、これもiPhoneとハウジングがなければ撮れなかったと思います」

世界で一番売れているスマートフォンだけあって、広角や望遠のさまざまなレンズ、三脚、ライトをはじめ、ソーラー充電ができるバッテリーなど、周辺機器は充実のラインナップ。しかもリーズナブルな価格で手に入る。

岩元「映像を作りたくてもお金がない、人手がないといった理由で、これまで諦められてきたアイデアがたくさんあると思います。それがiPhoneを使うことで世に出られるとしたら、新しい表現が生まれるのではないでしょうか。それがプロフェッショナル以外の一般の人からも生まれてくれば、映像業界全体の競争はすごく大変になりますが、パイは広がると思うんです。その分ピラミッドも大きく高くなって、素晴らしいことになると思っています」

石川肇氏が撮影したiPhone 6のテレビCM

サントリー C.C.レモン 「忍者女子高生」

続いてセッション後半には、サントリー C.C.レモンのWebムービー「忍者女子高生」のスタッフである博報堂ケトル クリエイティブディレクターの石原篤氏、BIJIN&Co. プロデューサー西藤篤史氏、CG&VFXアーティスト西藤立樹氏の3名が登壇した。

img_event_other_interbee2015_01_04.jpg左から、西藤立樹氏、西藤篤史氏、石原篤氏

「忍者女子高生」は、2014年に公開されて世界中で大人気となったコンテンツ。YouTubeの再生回数が1ヵ月で600万回、現在は800万回に近い再生回数を誇る。今年のカンヌライオンズでブランデッドコンテンツ&エンターテインメント部門でシルバーを受賞。ACCのフィルムフェスティバルでもゴールド、ブロンドを受賞している。その映像が、ほとんどiPhoneとGoProで作られているというのだ。

石原「多くの人に見てもらうためには動画をただ作ってもダメで、ニュースや情報番組で取り上げられたり、ソーシャル上のタイムラインに上がっていくことが必要。“シェアされるためにはどんなコンテンツを作ったら良いのか”という視点で、チームの取り組みを始めました」

西藤(篤)「海外のユーザーにどうリンクするのかは最初から大前提として考えていました。なぜ女子高生なのかについても、その当時、女子高生の間でマカンコウサッポウというポーズをして、周りの人が吹っ飛ぶ瞬間を撮った写真が流行っていたんです。あれを海外のユーザーが真似しているのが面白いねと。それを大人たちが本気で挑戦したらどうなるということが起点でした。それをさらに海外で流行らせることを考えた時に、日本にまだサムライ、忍者がいると本気で信じている人がいるというのを聞いて、その方たちにジョークとして出したいと思いました。プラットフォーム上、どこで広めるかについては、まずYouTubeは大前提。iPhoneで撮影したこと自体も、世界中の人がマネできるということで、1つのプラットフォームとして考えています」

こうして、スタッフも全員初のチャレンジという、iPhoneでの撮影が始まった。

西藤(篤)「最初から、女子高生が追いかけっこしてラストシーンでC.C.レモンのボトルから炭酸が勢いよく飛び出す、それだけ決めていたんです。それ以外は、撮って、それをiPhoneで見て、“これはこうしたほうがいいんじゃない?”と、スタッフが集まって話をしながら進めました」

石原「今回、演出コンテは作ってないんです。撮影するポイントと、映像全体の大きな流れだけ決めて、あとは現場で撮影しながらその都度プランを変えていきました。メイキング映像では、キャストの女の子もiPhoneを持って走っているのが映っていましたが、キャスト自体もカメラマンになっていて、“こういうふうに撮ったほうがいいんじゃないですか”と意見をもらいながら撮影していました」


メイキング映像「忍者女子高生、二つの秘密」

一見、撮りっぱなしのように見えるライブ感のある映像が続く中、実は要所要所でVFXが効果的に使用されている。

西藤(立)「あちこちの電線を消したり、キャストの身体につけているGoProのカメラを消したりといった地味な作業はいっぱいやってるんですけど、今回はデジタル的な作業よりも、いかにアナログのVFXを採用するかということに時間を割きました。

一番苦労したのは、炭酸が飛び出る最後のシーン。あれが本当に大変で、C.C.レモンは微炭酸なので、どんだけ振っても全然炭酸が飛び出さない(笑)。最後のオチとして成立させるために、哺乳瓶の乳首を買ってきて、それを中に仕込んで…といったことをやっています。

今回は演者がプロではないので、自然な演技を引き出すためには、本人たちが1回目の撮影で驚いた瞬間を使うのが一番よかった。そのために、アナログ的な仕掛けに時間をかけています。それに加えてiPhoneだったから、彼女たちが身構えずにリアルな絵が撮れましたね」

img_event_other_interbee2015_01_05.jpg勢いよく噴出するC.C.レモンのシーンにも人知れぬ工夫が凝らされていたという。

最後は、広告制作に関わる立場から、iPhoneによる撮影の可能性や今後の動向について語ってもらった。

石原「広告会社の視点でお話をすると、作りこんでいくテレビCMの時代があって、今はWeb動画で生っぽさとか素をみせていく時代がきているのかな、と。これからは、もっと生っぽいもの、ライブっぽいものが作られていくんだろうなと思います。その先は、例えば iPhone × ○○という形で、iPhoneというデバイスと何らかのプラットフォームの掛け合せによって、本当のライブに移行していき、新しいコミュニケーションを作っていくのではないでしょうか」

西藤(篤)「今回iPhoneでの撮影を体験して思ったことは2つあって、1つは岩元さんのセッションでもありましたが、被写体との距離感がものすごい近い。距離感を詰めた撮影手法はこれからもっと洗練されていくでしょうし、海外だとiPhoneで撮影した映像だけを使ったテレビ局ができたりと聞いているので、まだまだ伸びしろはあるんだろうと思います。

もう1つは、僕達も当日いろんなことを試行錯誤しながら、撮影2班に分かれて撮影したんですが、それができたのはみんなiPhoneを持っていたから。そういうフレキシブルな撮影体制なり、現場で考えることができるのは、こういうデバイスが加わることによって可能になるんですね」

西藤(立)「トイ・ストーリーの監督が、いずれiPhoneやGoProだけで映画が撮影されるようになるだろうと言っているんですが、進化の速さや、iPhoneの外付けレンズなどいろいろなアクセサリーの豊富さ、さらに機動力、撮影している側の楽しさからすると、ありえない話ではないと思います。映画ができるかどうか、そこまで言い切る自信はないんですけど、本当に忍者女子高生は楽しい撮影でした。映像制作がiPhoneでどう変わるかと言われれば、楽しい映像制作になるのは間違いないでしょう」


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