2016年01月19日
Inter BEE Asia Contents Forumのステージでは、11月18日と20日の2日間にわたって、"Adobe & Intel presents" クリエイティブ ユーザー セッション「水曜日のカンパネラ 4Kミュージックビデオ制作事例」が開催された。ここでは、アーティスト本人がゲストとして登壇した20日のセッションをレポートする。
インテルCPUを搭載したマシンだから可能になった4Kワークフロー
左から水曜日のカンパネラ コムアイ、関和亮、富田兼次、古田正剛の各氏。
古田「こんにちは、アドビ システムズの古田正剛と申します。これから行うセッションでは、アドビとインテルの製品を使って制作された4Kミュージックビデオの事例をご紹介いたします。ご登壇いただきましたのはディレクターの関和亮さん、プロデューサーの富田兼次さん、そしてスペシャルゲストとしてこのビデオに出演された“水曜日のカンパネラ”のコムアイさんとなります。みなさん、よろしくお願いします」
一同「よろしくお願いします」
古田「コムアイさん、11月11日に新しいアルバム『ジパング』が発売になりましたね」
コムアイ「はい、そのアルバムに入っている『マッチ売りの少女』という曲のビデオを関さんに作っていただきました」
古田「それではさっそく『マッチ売りの少女』のミュージックビデオを、4Kプロジェクターと200インチのスクリーンで上映したいと思います。4K版はたぶん国内で初めての公開じゃないかと思います」
コムアイ「私もまだ小さい画面でしか見たことがなくて、4Kの大画面で本領を発揮するのを見るのは初めてなので、すごく楽しみです」
古田「それでは上映スタートです」
古田「最初はアイドルビデオのような雰囲気ではじまったのに、突然バイオレンスシーンがあったり、セクシーなシャワーシーンがあったり、ラストシーンがゾクッとするような怖い終わり方だったりと、ジェットコースターのような展開でしたね。コムアイさん、4K版をご覧になっていかがでしたか。
コムアイ「シャワーのシーンで水滴の一粒一粒が見えてすごいと思いました。あと、汗とか産毛なんかも想像以上にはっきりと写っていましたね。4Kだと肌や毛先など細かいところまで全て写ってしまうので、撮られる方にとってはエグいというか、頭のてっぺんから足の先まで全部きれいに作り上げないと嫌だという人はいるでしょうね。でもモデルさんや女優さんと競ってもしょうがないですし、今回はありのままというか、全部見えてしまってもいいやと諦めて撮影に臨みました」
関「いえいえ、すごくきれいに写っていましたよ」
コムアイ「そんなことないですよ(笑)」
古田「今回は撮影も編集もすべて4Kだったわけですが、関さん、実際に作業されてみていかがでしたか」
関「撮影に関して言うと、4Kカメラを使う機会はミュージックビデオの中では結構あります。ただし編集に関しては、ポスプロのコストや、ワークフローが整っていないという問題もあって、実際にはHDに落としたもので完パケすることが多いですね。今回はインテルさんのCPUを搭載したワークステーションとアドビさんのPremiere Pro CCを使わせていただいて、4Kのままで作業を行ったのですが、全くストレスなく編集できました。データ量の大きな4Kだと、編集ソフトで映像が走らないんじゃないかとドキドキしながらの作業だったんですが、HDで編集する時とほぼ変わらない感じでしたね」
インテルのCPUを搭載したBOXX社のワークステーション。
コムアイ「私も編集に立ち会ったんですが、4Kでも作業が重くなる感じはなかったですね。直すところがそんなにあったわけではないんですが、色を少し変えたり、使うカットを入れ替えたりしてもらいました。私は横でその作業を見ていたんですが、特に待ち時間というのはありませんでしたね」
古田「Premiere Proで変更を加えても、すぐにそれが反映されて再生されるという感じですか」
コムアイ「そうですね」
富田「今回カメラはRED EPIC DRAGONを使いましたが、インテルさんからお借りしたBOXX社のワークステーションのスペックがものすごく高かったので、まず最初はテストのつもりで何も考えずに作業してみようと思って、撮影した素材をREDのRAWデータのままでPremiere Proに読み込みました。ミュージックビデオではいわゆる音貼りというリップシンクを合わせる作業を行なうのですが、4K解像度で音貼りの作業がスムーズにできたのには、正直かなりびっくりしました」
関「ミュージックビデオではたいてい何テイクも撮って、ベースとなる音源に対して撮影素材を重ねていきます。1つのフレーズに対して3テイク撮ったら、それを編集ソフトでどんどん上に重ねていくんですが、マシンやソフトによっては4Kの素材を重ねた時点で動かなくなってしまいます。でも今回はまったくそんなことがなかった」
コムアイ「それはすごくびっくりしました。再生しながら編集できる感じでしたよね」
古田「Premiere ProにはAdobe Mercury Playback Engineという映像再生処理エンジンが入っていまして、CPUとGPUのパワーをフルに使ってリアルタイムに処理できるようになっています。ほかの編集ソフトでエフェクトをかけたりすると、1回レンダリングを行なって他のムービーファイルに置き換えるので、どうしても待ち時間が発生するのですが、Premiere Proでは4Kでもレンダリングなしでそのまま再生されます」
Premiere Proの新機能で超スローモーション映像を実現
古田「今回のミュージックビデオでは、ハイスピード撮影が使われている印象的なシーンがたくさんありましたが、そのあたりはいかがですか」
富田「最終的には24Pのフレームレートで仕上げていますが、全編夢の中の出来事みたいな世界観なので、関とも相談しまして基本的に60Pのハイスピードで撮影し、シーンによってはその倍の120Pで回しています」
古田「冒頭でいきなりコムアイさんが石鹸ですべって転ぶシーンがありましたが、あそこは超スローモーション映像でしたね」
120Pのハイスピードで撮影された後ろ向きに転ぶシーン。
関「そこがちょうど120Pで撮影したシーンなんですが、Premiere Proでさらに伸ばしています」
古田「今回使っていただいたマシンには開発中のバージョンのPremiere Proが入っていて、オプティカルフローという新しいテクノロジーが使えるようになっています。これはタイムリマップの際にフレームを補間して、美しく滑らかなスローモーション映像を得られるというものです」(註・2015年12月1日のアップデートでこの機能に対応した)
関「コムアイさんがものすごくゆっくりと倒れる映像にしたかったので、120Pでも物足りず、毎秒600フレームまで伸ばせたので助かりました。オプティカルフローは背景の絵柄によってはうまくいかないこともあるので、割とシンプルな背景で使おうと思って、このシーンで使いました。おかげさまで、今回のミュージックビデオの中でも象徴的なシーンになりました」
オプティカルフロー・オプションの設定画面。
コムアイ「今回のビデオは主人公の私が怪我をしてだんだん傷だらけになっていくという内容で、滑って転んだり、ものを投げつけられたり、殴られたりとかいろいろひどい目にあうんです。その中でも、転んで頭を打つというのは、致命傷にもなりかねない大怪我じゃないですか。そのシーンを冒頭に持ってくると聞いたときは、もうキョトンとしましたね。関さんに『なんで最初に頭が割れるシーンなんですか。これ、へたしたら死んでしまうじゃないですか』と言ったら、『チマチマやっていてもしょうがないでしょ』って言われて(笑)」
関「そんなひどいこと言いましたっけ。まあ実際、チマチマやっていてもしょうがないですけどね(笑)」
コムアイ「ひどい!」
古田「そのほかにどんな作業をされましたか」
関「高いところからコムアイさんが飛び降りるシーンでは、下に安全マットを置いて撮影したんですが、そのマットを消しました。その作業はAfter Effectsでやったのですが、ダイナミックリンクの機能がすごく便利でしたね。After Effectsで作業をしてPremiere Proに戻ると、結果がすぐに反映されている。2つのソフトを同時に立ち上げて、行ったり来たりしても、動作的には全く問題がありませんでした」
古田「マットを消す以外に、肌のレタッチなんかもされましたか」
関「普通だったらいろいろ修正すると思います。でも何回も言いますけれど、彼女は肌もすごくきれいなんですよ」
コムアイ「そんなことないです。ふふ」
関「だから今回はレタッチは一切していません」
コムアイ「えー、全くやってないって言ったら逆に嘘っぽいじゃないですか! 私がお願いしたのは、ヨダレがたらっと垂れているところがあって、それはさすがに消してもらいました(笑)」
関「あ、それはやった。最後の最後で気がついたんだよね」
コムアイ「そう、しばらく気がつかなかったんですよ」
関「気がついて本当に良かった。今日この大きなスクリーンで見て思ったのは、画面が大きくなると、今まで見えなかったものが見えてくるということです」
コムアイ「たしかに(笑)」
関「編集の時にもっと大きい画面で見られればよかった。できるなら、この200インチのスクリーンを見ながら、もう一度編集し直したいぐらいです」
トークでも息がぴったりだったコムアイ氏と関氏。
ナチュラルでありながら美しい絵作りを目指した「マッチ売りの少女」
古田「映像の色味についてはいかがですか」
コムアイ「今回のアルバムは何曲かビデオを作っていて、この一つ前の「ラー」というビデオはものすごく派手な衣装を着ているんですよね。今まではわりとそういう面白さを追いかけてきたんですが、今回初めて背景も衣装も白くて、品がいいというか、抑えた世界でどれだけやれるかというのを追求したのが面白かったですね」
関「もちろんカラーグレーディングはしているんですが、撮ったままの色に近いですね。Premiere Proの色調整の画面には「Creative」というセクションがあって、そこにいろんなルックのプリセットが用意されているので、画面を見ながらワンクリックでいろんなイメージを作っていける。それがとても面白くて、便利でした」
古田「普通であればカラーグレーディングは、プロのカラリストが作業されますよね」
関「その方が良いものができると思うんですが、今回は自分でいろいろやってみました。ミュージックビデオってわざと色を転ばせて独特の世界観を作っているものがよくありますが、今回はそういうのとは違うなと思って、ナチュラルなんだけどすごくきれいでカッコいい方向にしています」
古田「とある1日の朝から夜までを追いかけていて、時が経つのに合わせて色味が少しずつ変わっていきますよね。そういうところも含めて短編映画のような仕上がりだと思いました」
Premier Proでのカラーグレーディング作業について説明する関氏。
古田「コムアイさんは満足のいく出来栄えでしたか」
コムアイ「出来上がって見たときに、本当にうわーっと思いました。ストーリーとか世界観もちゃんとあるんだけど、なによりも絵が美しくて、それを追っているだけで最後まで見終わっちゃうんですよね。4分半もあるので、決して短くはないんですが、あっという間に終わっちゃうという印象です。
ミュージックビデオを作るときは、今回もそうなんですけど、打ち合わせを毎週のようにやって、そのたびに参加して意見を言わせていただいています。毎回毎回、自分たちがやったことないものをやりたいし、世の中にまだ出てないものを作りたい気持ちがすごくあります。私個人としてはミュージックビデオを撮りたいがために音楽をやっているようなところがあって、今回は関さんのおかげですごくいいビデオができたと思います。ありがとうございました」
関「いえいえ、今回はカメラもライティングも良かったし、なによりモデルさんが良かった(笑)」
古田「そろそろお時間となりましたが、『マッチ売りの少女』は“水曜日のカンパネラ”のYoutube公式チャンネルでHD版が公開されております。ぜひ一度ご覧になっていただければと思います。本日はありがとうございました」
Inter BEE 2015 コンテンツフォーラム・レポート
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