イベントレポート

「ブランデッドフィルム」 Inter BEE コンテンツフォーラム・レポート①

コマーシャル・フォト編集部

11月18日から3日間にわたり、幕張メッセで開催された国際放送機器展 Inter BEE。その初日、会場内に設けられたInter BEE Asia Contents Forumのステージでは、コマーシャル・フォト編集部が2つのコンテンツフォーラムを開催した。ここでは「ブランデッドフィルム」と題したセッションの内容をレポートする。

ブランデッドフィルム ~ブランディングとしてのショートフィルム~

Inter BEE 2015 初日の14:00から行なわれたのは、「ブランデッドフィルム ~ブランディングとしてのショートフィルム~」と題したセッション。近年、企業がWebなどで公開するようになったショートフィルムを「ブランデッドフィルム」と名付け、10月に開催された札幌国際短編映画祭で上映した。今回はその時と同じく、厳選したブランデッドフィルムを大スクリーンで上映しながら、P.I.C.S. クリエイティブディレクターの寺井弘典氏と、コマーシャル・フォト統括編集長の川本康が解説を加えた。

img_event_other_interbee2015_01_06.jpg寺井弘典氏(左)と、コマーシャル・フォト統括編集長 川本康

川本「寺井さんはクリエイティブ・ディレクターとして、YouTubeがメジャーになる前、10年ぐらい前からネットで面白い動画を作ってましたよね。当時はバイラルCMって言ってましたっけ」

寺井「そうですね。2006年に作ったものはトヨタ カローラの40周年を記念したエンターテインメントムービーで、ダウンロード自由にしたり、どこでも動画を貼り付けられるようなタグを配信して、ネットで話題になるような仕掛けをしました。トヨタさんのクルマは将来はこうなるんじゃないかというアイデアで、100年後や200年後のクルマはUFOみたいな乗り物になっているという内容でした。

当時はまだSNSが発達していなかったので実験的な要素が強かったのですが、FacebookやTwitterが普及した5、6年くらい前からは、多くの企業が競ってエンターテインメント性の高い動画コンテンツを作るようになりました。単なる広告映像の枠を超えて、もはやショートフィルムと言っても過言ではないと思います」

川本「そういったコンテンツは一般的には“ブランデッドエンターテインメント”とか“ブランデッドコンテンツ”と呼ばれているんですが、ここでは“ブランデッドフィルム”と呼びたいと思います。

テレビCMとの違いを簡単に説明すると、テレビCMは商品の情報を伝えるのが主な目的で、長くても30秒以下、不特定多数の人にテレビで見てもらうもの。テレビCMを見たいからテレビを見るという人はほとんどいません」

寺井「テレビの前の人は受動的に見ているわけですね」

川本「一方のブランデッドフィルムは商品の情報を最小限に抑えて、もっと見る人を楽しませたり、それによってブランドを好きになってもらうという点に主眼を置いています。時間は長めだし、テレビとはどうしても見る人数の桁も違う。でも、検索サイトで探したり、FacebookやTwitterで流れてきた情報を追いかけて見に行くことになるので、見る人の態度としては能動的です」

寺井「自分からわざわざ探して見るっていう視聴特性ですから、受動的に見ているテレビCMよりもずっと印象に残るわけです。若い人を中心にテレビ離れが進んでいる中で、ネットメディアでコンテンツの面白さを追求する流れが出てきたことは、映像の作り手としてはとても嬉しいですね」

川本「それではさっそく本日の上映作品を見ていただこうと思います。サントリーの忍者女子高生をはじめ、8本ほどを上演します」


サントリー C.C.レモン 「忍者女子高生」

川本「2014年7月に公開されて、1週間で350万回、現在は800万回近く再生されているそうです。ターゲットは日本やアジアの若年層で、世界でC.C.レモンのブランドをアピールするために作られたコンテンツです。素人投稿動画のリアリティを狙ってiPhoneとGoProだけで作られているところが新しい」

寺井「これは午前中の『iPhoneが可能にする映像表現』のセッションでも上映されていましたが、通常の映像とは違う作り方をしているので、何かちょっと今までにない映像を見たという感覚になる。僕も最初見た時、“あれ、一般の素人さんが撮っている絵じゃん”というふうに騙された。プロフェッショナルが敢えてそういう機材を使って、しかもカメラマンだけでなく、スタッフや出演者みんなでiPhoneで撮り合っていたという話を聞いて、これは今後の映像の作り方を示唆しているとな思いましたね」

川本「C.C.レモンは最後にちょこっと登場するだけで、それまでは一体誰が何のために作った動画なのかわからない。でも面白いから最後まで見てしまう。商品の露出を少なくしてコンテンツの面白さだけで勝負したのは、クライアントであるサントリーの要望だったそうです」

寺井「見る人を惹きつけるには、フィクショナルな面白さだけではなくて、映像のどこかにリアリティが必要ではないかと思いますが、iPhoneやGoProの映像は見ている人にとっても身近なカメラ。たぶんそこが、今の時代に通じるリアリティを生んでるんじゃないかなと思います」


NTTドコモ「3秒クッキング 爆速エビフライ」

川本「2014年11月に公開されて、すでに1600万回近く再生されています。NTTドコモの回線が爆速であることにひっかけて、料理をたったの3秒で作ってしまおうという動画です」

寺井「これも何回見ても面白い」

川本「爆速餃子編と合わせてカンヌライオンズでゴールドを3つ、シルバーを2つも獲るなど、海外でも非常に評価が高い。言葉がなくても通じる面白さです」

寺井「爆発的な音がしてマシンからエビが飛び出してくるところは、演者さんも本当に驚いてると思うんです。忍者女子高生とはまた違ったリアリティがあって演出がうまいと思う」

川本「へんてこな調理マシンが出てきますが、全てイチからこの動画のために作ったそうです。ものすごい回数の実験を重ねているそうで、本当にエビを飛ばして卵がかかって...というシーンは全部実写で、CGは使っていません。そこまでしてリアリティを追求した、ばかばかしさが面白いんじゃないかと思います」


トヨタ G’s「Basball Party」

川本「2015年3月に公開されて1週間で175万回、最終的には860万回ほど再生されています。“クルマって、スポーツだ”のコピーが最後に出てきますが、トヨタのスポーツカーブランド G 's の認知が目的です」

寺井「かなり面白さに振り切っている作りです。最後にホームランボールをキャッチするところまでクルマが出てこないので、何のための動画なのかわからないところに、スリル感がありますね。ホームラン性の打球を打つバッターの女性は、この動画のおかげでかなり人気が出たらしいですが、グラビアアイドルなのに野球経験があって、バットスイングも本格的でリアル」

川本「バッターやピッチャーの仕草がイチローや野茂を思わせる動きだったり、最初に公開されたバージョンでは元ジャイアンツのクロマティがカメオ出演していたり、リアリティにこだわった細かい演出も楽しい。ベースボールの本場アメリカでも、メジャーリーグの公式サイトやCBSスポーツの電子版で取り上げられて話題になったそうです」

寺井「メイキング動画を見ていても飽きないですね。ブランデッドフィルムは舞台裏をちゃんと公開していることが多いので、そこも楽しめます」

川本「メイキング動画は、企業側と見る側の距離感を近づけるっていう意味がありますね」


カゴメ×明和電機「ウェアラブルトマト」

川本「カゴメが東京マラソンのオフィシャルサポーターということで始まった企画です。スポーツとトマトの相性がいいという事実を広めることが目的ですが、ナンセンスマシンで有名な明和電機とのコラボがミソですね」

寺井「実際のカゴメ社員で農学博士である鈴木さん自らが出演して、マシンの制作工程、記者発表からの流れも映像化しています。鈴木さんのキャラクターがいいですよね。一度見たら忘れない」

川本「単に動画を作るだけでなく、リアルな世界でも社員が顔出しをして、実際にマシンを背負って東京マラソンで走るところまでやって、そこまでが1つのプロジェクトになっているということですね」

寺井「いまテレビ業界ではいわゆるリアリティ番組が人気で、ドラマなのかドキュメンタリーなのか分からない番組がたくさんありますが、どんどんエスカレートしてきていて、実際にこれ現実なんじゃないか、みたいなところまできてると思うんです。ウェアラブルトマトはその域に達していますね」

川本「映像はドラマチックにかっこよく作ってあるんですけど、鈴木さんが背中に背負っているマシンはとんでもなく間抜けなもの。そのギャップが面白いですね」


大塚製薬「さわる知リ100 supported by オロナインH軟膏」

川本「上映した30秒の映像はJRや私鉄の車内にある液晶ビジョンで流れたものですが、『さわる知リ100 知ったつもりにならないでリアルにさわってみたい日本の100』というWebサイトやFacebookでは、15秒や20秒くらいの動画がたくさん公開されています」

寺井「日本全国にいる“知リ100レポーター”の人たちが、各地方のいろんな事を取材して、見たり聞いたりの視覚・聴覚だけでなく、触覚までを伝えようとしているところが新しいと思いました。たとえばカブトムシの感触が“がちがち”しているとか、イルカの表面が“きゅいきゅい”しているとか、カワウソの肉球は“ぷにぴと”といった具合です。触覚を動画で伝えるというのはこれまでにない斬新な切り口だと思います」

川本「カワウソの肉球なんて触ったことないですが、たしかに触覚まで伝わってくる。ちょっと触ってみたくなりますね」

寺井「普通のショートフィルムのようにきちんとしたストーリーがあるわけではないんだけど、触覚を伝えるという意味では、ストーリー的な構造のフォーマットはできている。これはきわめてネット的なコンテンツだし、新しい取り組みとしてこれからも出てくると思うので、川本さんと話し合って、敢えてブランデッドフィルムの一つとして位置付けることにしました」

川本「オロナインH軟膏のブランディングの観点から見ると、2013年にこのシリーズの前身となる『知リ100』が始まって、2014年には過去最高の売り上げという結果が出たという話ですから、ブランデッドフィルムとしてきちんと機能していると思います」


日清食品 カップヌードル「バカッコイイ」

川本「履いている靴を足で放り投げると、友達がそれをアシストして下駄箱に見事シュートするとか、くだらないけれど成功するとカッコイイ技が“バカッコイイ”です」

寺井「たぶんOKカットが撮れるまで何回も撮っていて、それを粘り強くやり続けた努力の結果です」

川本「CGなんかは一切使っていなくて、目の前で起きていることは本当に起きたことだというところが、見る人の共感につながるんでしょうね。実はこの手の動画はYouTubeで大人気のジャンルで、一般の高校生がたくさんバカッコイイ動画を上げています」

寺井「このCMの制作スタッフはもちろんそれを理解した上で、そこに乗っかる形でターゲットとなる若い人とコミュニケーションしているんだと思います。新聞などのマスメディアではまったく注目されていなくても、何十万人とか何百万人がネットで話題にしていることがあって、世の中には自分で探しに行かないとわからないことが沢山あることに気付きました」

川本「このネタの起源がどこにあるのかを調べてみたら面白いことがわかって、流行のきっかけは、とある国民的アイドルグループが出演していた2009年のテレビ番組で、彼らがバカッコイイ動画に挑戦するという企画でした。これを高校生が真似て学園祭用のビデオを作って、その後、続々とフォロワーが生まれたという流れです。ですがこの企画にも元ネタがあって、2007年にドイツの学生がYouTubeに投稿した動画です。番組の中でもちゃんと元ネタになった動画が紹介されていました。

つまり、最初の起源は海外の学生が作った動画で、そのネタがテレビ番組に伝播して、それを見た日本の学生が真似をして、広告業界のクリエイターがその流行に刺激を受けてCMを作ったということになります。カップヌードルのWebサイトにはきちんと、学生たちに人気のこの動画をテーマにした旨が記されています」

寺井「一般の人がネタ元になって、それが映像制作のプロに伝播しているところが面白いし、しかもそれをオープンにしているところがネット時代ならではという感じがします。一般の人たちのネタをプロが面白がって、ある意味でリスペクトしていることが、企業と消費者のコミュニケーションを良いものにしていると思います」


サントリー ペプシストロングゼロ 「桃太郎」 Episode.3 4分バージョン

川本「2014年3月からテレビCMのオンエアが始まり、ネットでもシリーズ累計700万回再生以上の話題作。2014年のACCグランプリも受賞しています。これまでネットでは60秒や90秒の長尺バージョンが公開されていましたが、今回のEpisode.3では初めて4分バージョンが作られました。ここまで予算をかけたものは劇場映画でもなかなかないし、ファッション、スタイリング、キャスティングなどすべてが素晴らしいです」

寺井「最初オンエアが始まった時は、スケールの大きさにかなりびっくりしました。ストーリーにいろいろな謎があって、テレビで見るだけではよくわからなかったんですが、この4分バージョンをネットで見てやっとわかりました。いろんな秘密が埋め込まれているので、何回でも繰り返し見られるようになっている」

川本「このシリーズの面白さは、誰もが知っている昔話が新しい解釈の元に生まれ変わっていることだと思います。企画を担当した多田琢さんによると、クリストファー・ノーランが監督したバットマン・シリーズの映画『ダークナイト』にヒントを得て、桃太郎をリブートさせたと言います。フィクションをとことん追求しているんだけど、かといってファンタジーになりすぎず、できるだけリアルな演出がなされています。画面もゆらゆら、フラフラしていて、若者たちのロードムービーという趣があって、そこが今の時代のリアリティなのかなと思います」

寺井「Episode.3はオンエアの2日前に、ペプシブランドサイトで先行公開されたそうです。CMとしてはかなりの予算と時間をかけて作った王道のCMなんですが、その王道感を伝えるためにわざわざネットで先行公開している。逆説的なんですけど、ネットの使い方がよくわかっているなという気がしますね」


OK Go「I Won’t Let You Down」

川本「OK Goの超大作ミュージックビデオで、初めて日本で撮影した作品です。その一方で、ホンダが開発中のUNI CABとのコラボレーションという側面もあって、2015年のACCグランプリを受賞しています。2014年10月に公開されて、現在の再生回数は2600万回という驚異的な数字になっています」

寺井「OK Goは10年近く前にルームランナーを使った低予算のミュージックビデオで大評判になりました。それ以来ワンシーン・ワンカットにはまってしまったそうで、いろんなクリエイターとコラボしながらワンシーン・ワンカットのMVを作っています。今回もドローンを使ったワンシーン・ワンカットや、2000人以上のダンサーを起用したマスゲームで大きな話題になりました」

川本「一説によると高度700メートルまでドローンで上がっているらしいですね。そこまで大規模な作品なのに、CGを一切使用せず、目の前で起きたことだけをカメラで写し撮っている。そういうリアリティが、見る人の心に響くんじゃないかなと思います」


まとめ

川本「ブランデッドフィルムの上映作品は以上となりますが、ここまでの話で何回も出てきたのは“リアリティ”というキーワード。映画には映画のリアリティがあるし、テレビにはテレビのリアリティがあるでしょう。しかしネット動画なりブランデッドフィルムには、そのどちらとも違うリアリティがあり、しかも今という時代をもっとも反映しているような気がします」

寺井「今の世の中はテレビもあるし、ネットもあるし、いったいどの情報を信用したらいいのかが分かりにくい時代。人々はそれぞれの真贋を嗅ぎ分けて、どれが信用に足る情報なのか自力で見つけなければいけない。そいう意味で、リアリティは重要なキーワードになっています。今日ご覧いただいた映像はすべて、それぞれに、ある強力なリアリティがあったと思う。それは映像の作り方や、伝わり方が、時代とともに変わってきた、という一つの現われなんじゃないでしょうか」

川本「ブランデッドフィルムは、これからますますネットと共に広がっていくジャンルですので、また改めてこういう場を設けられればと思います」


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