イベントレポート

キヤノン フルサイズ一眼の実力 EOS 5Ds & EOS-1D X Mark II

講師:南雲暁彦 日時:2016年2月25日〜27日 会場:パシフィコ横浜 会議センター

キヤノンが発表した一眼レフのEOS-1D X Mark IIと、A2プリンターのimagePROGRAF PRO-1000はいずれもプロ向けのハイエンドモデルとして、2月末開催のCP+ 2016でも大きな注目を集めた。この2機種にEOS 5Dsも加えて、入力から出力まで各機器の連携をテーマとした「EOS+プリントセミナー」がCP+の会期中に開催された。フォトグラファーの南雲暁彦氏が講師を務めた前半「EOS編」の内容をレポートする。

EOS 5DsとEOS-1D X Mark IIが共存するEOSのシステム

フォトグラファーの南雲と申します。私のほうでは「キヤノン フルサイズ一眼の実力 EOS 5Ds & EOS-1D X Mark II」というタイトルで、主に入力機の話をさせていただきます。簡単に自己紹介をと思ったのですが、今日は話すことがたくさんあるのでそのへんは端折らせていただいて、キヤノンさんのカメラやレンズの性能を最大限引き出すチャンピオンデータの撮影を15年続けているということだけお話ししておきます。

img_event_eosprint01_01a.jpg 南雲暁彦氏。凸版印刷 TIC映像企画部 チーフフォトグラファー

それでは本編に入ります。EOS 5Dsについては昨年発売されたので既にご存知と思いますが、これは5D Mark IIIの後継機ではなくて、高解像度に特化したバリエーション機です。解像度モンスターというぐらいのカメラで、約5060万画素ありまして、今ある35ミリフルサイズ一眼レフの中では最高解像度を誇っているカメラです。通常のEOSにはローパスフィルターというモアレを軽減するフィルターが入っているんですが、その働きをキャンセルしてさらなる高精細感を狙ってるカメラが5Ds Rとなります。

次にEOS-1D X Mark II。これはフラッグシップ1D Xの後継機で、つい最近発表になったばかりです。ものすごくスピードが速くて、連写性能としてはAFもAEも追従したまま秒間14コマ、ミラーアップをすると秒間16コマも切れてしまう。これは他社も含めて一眼レフの中で最速です。さらにAFのスピードにも磨きがかかって、加えて4K動画撮影機能まで搭載した、最強プロ機という位置づけになっています。

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今回なぜこの2つを同時に取り上げるかというと、この2つが同じEOSのシステム内に存在することに、ものすごく大きな意味があるからなんです。1つは解像度が最高の5Ds、もう1つは機動力が最高の1D X Mark II。これが同じEFマウントの中に共存していて、この2台で撮れないものが世の中にありますか? というくらい充実した状態になっているんです。そういったことを前提として、それぞれのカメラの使いこなしを含めてお話をさせていただきたいと思います。

EOS 5Dsの約5060万画素はどういうデータなのか

最初に5Dsのおさらいをしたいと思います。まずは解像度です。昨年5Dsが出た時に「解像度が高くなるとレンズもすごく良くなきゃだめなんですよね?」「レンズも新しいものに買い換えなきゃだめなんですよね?」という質問がよくあったと聞いております。最近のEFレンズは確かにどれもシャープで、新しいレンズを使えば結果は良くなるんですけど、その前にまず約5060万画素とはどういうデータなのかをきちんと認識しなきゃいけません。

たとえば5Dsで広告のポスターのための撮影をするとします。5Dsの8688×5792ピクセルの画像をそのまま通常の175線で印刷すると、だいたい62×42cmくらいの大きさになります。ほぼA2サイズと同じです。いっぽう5D Mark IIIの5760 × 3840ピクセルだと約41×27cm、ほぼA3サイズです。

「なんだ、5DsでもせいぜいA2サイズなのか」なんて思わないでください。ポスターというのは少し離れたところから見るものなので、175線ではなく、「目伸ばし」と言ってもうちょっと線数を下げて作ります。そうすると5Dsのデータなら問題なくB1サイズやB0サイズぐらいまで大きくできます。レンズがいいとか悪いとか言う前に、5Dsのデータそのものがこれだけの大きさを持っているということをまず理解する必要があります。

では実際に5Dsと5D Mark IIIでどのくらいの解像度の差があるのかを具体的にお見せします。両者のデータを同じサイズにした場合にどのくらいの画質の差があるかという話です。

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これは画像のほんの一部を拡大したものですが、右側が5Dsで、左側が5D Mark IIIのデータを150%拡大したものになります。スパイスの粉とか粒、種、繊維などがどういうふうに表現できるのかを見るために撮影したのですが、こういうスパイス系の商品撮りでは、粉っぽさを表現できるかどうかがシズルのキモになってきます。5Dsはスパイスがきちんと粉っぽく見えていますが、5D Mark IIIは解像度が低いので粉ではなく砂のように見えてしまっています。

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次に、風景を撮るとどうなるか。この写真は石畳とか建物の屋根などが一面に広がっていますが、かなり細かいディテールを持っていて、遠くに行けば行くほどそれがどんどん小さく高密化していくような風景ですね。画面奥のほうの赤いケイ線で囲った部分を拡大してみます。

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5Dsは屋根の瓦がまだ1枚1枚識別できます。それに対して5D Mark IIIのディテールは偽解像しているところがあります。こういう風に1枚1枚エッジのあるものが規則正しく並んでいる絵柄では、解像感にすごく差が出てきます。

後で詳しく紹介しますけど、昨年発売されたばかりのEF35mm F1.4L USMというすごくシャープな良いレンズを使っていて、5Dsのパフォーマンスを最大に活かしているんですけど、実は5D Mark IIIも同じレンズを使っているんですね。

それから、さきほどのスパイスの写真はEF100mm F2.8L マクロ IS USMという2009年に発売されたレンズです。それでもかなりの違いがありましたよね。ということは、新しいレンズでも少し前のレンズでも、5Dsの高解像度はどちらにも効いてくるということなんです。レンズの買い替え云々の話をする前に、カメラを5Dsにするだけでも大きな意味があるわけです。

中心から周辺まですぐれた描写ができるレンズ35mm F1.4L II USM

次に、ようやくレンズの話になります。5Dsの最大パフォーマンスを引き出すためには、やはり新しくて性能のいいレンズが必要になってきます。たとえば昨年9月に発売された35mm F1.4L II USMは、独自開発のBRレンズを初めて採用したレンズで、色収差を大幅に減らして画面の周辺まですぐれた描写ができるというレンズです。

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このレンズの最大性能を引き出すサンプルデータの撮影をしたのですが、ギリシアのザキントス島の風景を撮影してきました。その一部を拡大したのがこの画像です。周辺までバッキバキのデータで、水の質感とか船が浮いている感じとかもすごくよく出ています。一番解像度の高いカメラで、一番撮影条件のいい時に、一番いいレンズを使って完璧な絞りで撮ると、ここまで凄いことになるという見本のようなデータです。

セミナーの後半でも登場しますが、こちらにA2プリンターのimagePROGRAF PRO-1000があります。これで出力すると、とてつもなく美しい絵が上がってくるんですね。僕は今まで、こういう水ものや、夜景やオーロラなどが発光する写真は、モニターで見るのが一番きれいなんじゃないかなと思っていたんですけど、今回それを覆すような驚愕のプリントができました。レンズもカメラもプリンターも、今はここまですごいレベルに到達したんだなと感慨深いものがあります。

新ピクチャースタイル「ディテール重視」の使いこなし

ではプリントするためのデータをどういうふうに作るかという話です。この辺からまた使いこなしになってくるんですけど、5Dsはたしかに画素数がすごいんですが、使いこなしが結構重要で、そこを失敗するとあまりいい結果が出ないこともあります。

だいたいどこで失敗しているかというと、現像の時のパラメータの作り方なんです。5Dsから「ディテール重視」という新しいピクチャースタイルが搭載されて、さらにシャープネスを「強さ、細かさ、しきい値」の3項目で細かく設定できるようになったんですが、これが鮮鋭度の高い画像を作るためのキモになります。

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「ディテール重視」のシャープネスの初期設定は「強さ4、細かさ1、しきい値1」なんですが、デフォルトのままでも非常に鮮鋭度の高いシャープネスをかけてくれます。トーンもうまい具合に残してくれて、赤のようにトーンがなくなりやすい色でもしっかりトーンが残っていますよね。

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「スタンダード」のピクチャースタイルと比べると、「ディテール重視」はホオズキの実がちゃんと玉の形をしていることを表現しつつ、葉脈の細かい線も再現しています。5Dsのユーザーでこの「ディテール重視」を知らない人が結構いるみたいなんですが、これをちゃんと使いこなすだけで5Dsの評価がだいぶ変わってくると思います。

DPPの「デジタルレンズオプティマイザ」の使いこなし

それから、キヤノンの現像ソフトDigital Photo Professionalにすごく面白い機能があって、「デジタルレンズオプティマイザ(DLO)」という機能です。カメラのレンズには様々な収差があって、これが画質に悪さをするんですが、DLOはレンズ1本1本の収差のデータをもとに収差のない状態にしてくれます。たとえば、周辺が甘いレンズだと周辺がパキッと戻ってくるとか、色の収差によるにじみが消えるとか、回折現象で眠くなった画質が戻るとか、そういう機能です。

それも使いこなしがすごく大事で、ピクチャースタイルのシャープネス設定とDLOを同時に両方かけると、実は結構ひどいことになるんです。この写真の周辺の方に写っている石像と、真ん中あたりの建物の壁を拡大してみます。まず周辺です。周辺というのはどんなレンズでも若干甘くなるので、DLOが良く効くんです。35mm F1.4L II USMみたいなすごくいいレンズでも周辺と中心とではちょっとだけ差があって、周辺が甘くなるのを救ってくれます。

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右はDLOで補正して現像したデータで、「ディテール重視」のシャープネスはオフにしています。左はDLOをオフにして、シャープネスだけをオンにしたものです。石像の翼のディテールはDLOをかけた右の方がよく出ている。左のシャープネス処理をした方は、たしかに鮮鋭感はあるんですが、色の境界線のところがチリチリしてきます。これをうまく使いこなさなきゃいけない。

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周辺はDLOのほうがよかった、じゃあ真ん中あたりはどうなのか。DLOをかけるとちょっとざらつきが出る時があります。特に壁面のような部分はあまり補正する必要がないところですが、DLOをかけるとザラッとするんですね。左はDLOをオフにしてシャープネスだけをかけている画像です。これは左のほうがいい。つまり、画像のどこの部分をより見せたいのかによって、機能を使い分けて現像しないといけないんですね。

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一番やっちゃいけないのがDLOとシャープネスの二重がけなんです。新しい機能だからと言って、両方の機能を使うとこういうザラザラ、ジャキジャキの絵が上がってくるんです。5Dsが発売になった時に、これをみんなやってしまったらしいんです。で、なんか線が太いね、なんかザラッとしない? という話があったらしいんですけど、その種明かしがこれになります。

DLOを使う時は絶対シャープネスのチェックマークは外さなきゃいけないし、そんなに収差が出ていない場合は、DLOを使わずにシャープネスだけで勝負するというのが1つのやり方になります。僕は、新しいレンズの場合は基本的にDLOは使う必要はないと思います。そもそも最近の新しいレンズは設計が素晴らしいので、何もしなくてもものすごくキレのある画質になります。DLOは古いレンズを使った時にこそ有効だと思います。

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ただしDLOには盲点というか、注意すべきこともあります。たとえば古いズームレンズを使って木漏れ日を撮ると、ハイライトの周辺に盛大な色にじみが出ますよね。レンズの収差補正やDLOをオンにすることによってにじみが消えるんですが、場合によっては周辺に強い色として固まって出てくることがあって、DLOを入れた瞬間にそういう現象が生じます。一番わかりやすいのが、この画面中央の少し上のところの赤い点です。元々は若干暖色系の収差が残った白いハイライトだったんですけど、DLOをかけることによってかなり強い赤になってしまいました。

これが嫌だったらシャープネスや収差を犠牲にして、「ニュートラル」など柔らかめのピクチャースタイルで普通のグラデーションに戻して、シャープネスをかけたいところはPhotoshopでマスクをかけてシャープネスをかけるしかありません。何でもかんでもDLOで救おうとすると、こういう盲点がある。高画素のカメラはものすごくデータが大きいので、拡大して全部チェックするのは大変なんですけど、これをやらないと痛い目に合いますよということで盲点としました。

ファインダー撮影時に秒間14コマを誇るEOS-1D X Mark II

そろそろ1D X Mark IIの話に移りたいと思います。こちらのサンプルデータの撮影も何点かやらせていただきました。ざっくり言うと、最新鋭のカメラでなおかつフラッグシップ機なので、普通のカメラでできないことができるんですね。

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まずは連写スピード。1つ前の1D Xは秒間12コマでした。今回は秒間14コマ撮れるようになっています。ファインダーをのぞいてミラーがバシャバシャ動いている状態でAFもAEも追従して14コマ撮れます。これは35ミリ一眼レフの中では世界最速です。さらにミラーアップをした状態で撮影するともっと速くなって、秒間16コマという恐ろしいスピードになります。

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これで何が変わるかというと、僕のような立場で言うのもなんですけど、人間がやることが減ってくるんです。今までは1ショット決め打ちで撮るときに、タイミングを計ってシャッターを切らなければいけなかった。たとえば5D Mark IIIだと秒間6コマ、7D Mark IIだと秒間10コマなので、シャッターを押しっぱなしにして連写していると、肝心の決定的瞬間が抜けちゃうことがあった。ところが1D X Mark IIの秒間14コマだと、ほとんど抜けなかったですね。

このジャンプのシーンは何回も何回もやったんですけど、ジャンプの頂点に達した瞬間はだいたい入っていました。僕はシャッターを押してるだけです。シャッターチャンスを狙って待っている必要はなくて、押し続けていたほうが確実に撮れるというスペックを持っています。

秒間14コマ撮れるカメラというと、かつて1984年に出たニューF-1 ハイスピードモータードライブカメラという、報道カメラマン限定のスペシャルモデルがありました。半透明の固定式ペリクルミラーを使っていたので秒間14コマを実現できたそうですが、この1D X Mark IIのすごいところは、AFもAEも追従したままミラーがバタバタ動きながら14コマ撮れるところなんです。

まるで動画専用カメラのようなEOS-1D X Mark IIのオートフォーカス

次に、僕が一番このカメラについた機能でうれしかったのは、デュアルピクセルCMOS AFという機能です。一眼レフの動画機能はいま当たり前になっていますが、一番の課題は動画撮影時のフォーカス合わせでした。被写界深度の浅い明るいレンズを使って、マニュアルフォーカスで追いかけながら動画を撮るというのはほとんど無理だったんですけど、EOS 70Dから搭載されたデュアルピクセルCMOS AFの技術は、ライブビューにした状態だとまるで動画専用カメラのようにピントをずっと追いかけ続ける。そういう機能が今回フルサイズ一眼として初めてこの1D X Mark IIに搭載されました。

さきほど赤い衣装のダンサーの写真を見せましたけど、同じモデルさんで動画も撮りました。すべてデュアルピクセルCMOS AFにお任せで撮っていますが、1つの被写体を追従させたら、ほぼ逃さないところは本当にすごいと思いました。

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写真の場合はワンマンオペレーションが基本ですが、動画だとそれがすごく難しかった。でも、これだったら撮影は1人でいい。ティルト・シフトレンズも使えるし、ワイドレンズも使える。70本のEFレンズに支えられて様々な動画表現ができるところは、他のメーカーではなかなかないなと思います。さらに今回から4Kが撮れるようになりましたが、単なる4Kではなく60pが撮れる。フルHDだと120pのハイスピード。そういった機能を駆使していろいろな動体を表現することができるようになりました。

中判デジタルにも対抗しうる画質の良さ

次に1D X Mark IIの画質はどうなんだという話ですが、画像データのサイズは約2020万画素とそんなに大きくはないですが、実はこれがすごくいいです。本当に大きな印刷物を作る時は5Dsが必要なんですけど、A3サイズぐらいで勝負するんだったら、ピクセルの質はこっちのほうが全然高い。画素の1粒が大きいのでダイナミックレンジが広く取れるんです。白い花のグラデーションなどはものすごくきれいに出ますね。

単純な画素数で言うと中判デジタルカメラと5Dsがよく比較対象になるんですが、画質は画素数だけで決まるものではないので、もしかすると1D X Mark IIの方が中判デジタルの対抗機ではないかという気がします。

中判デジタルのセンサーはかなり大きくて、画素の1粒が大きいから画質もいいんです。フルサイズの倍くらいのセンサーで4000万画素あったとすると、1D X Mark IIはちょうどその半分、フルサイズで2000万画素。画素ピッチ的には中判デジタルに近いのはこっちなんです。シャドウ部にノイズがなくて、ハイライトも美しい、ものすごく質の高い絵を出してきます。

さきほど、レンズ1本1本の固有データに基づいてパソコンで現像する時に収差を補正する「デジタルレンズオプティマイザ」の話をしましたが、1D X Mark IIではそれと同じことがカメラ本体でできるようになりました。さらに回折補正もカメラ内でできるようになっていて、こういったところも前モデルから着実に進化しています。

実際に1D X Mark IIで撮ったものをお見せします。回折補正も効くので、絞りをf16やf22まで絞っても鮮鋭度が保てます。こういう白の中に微妙なトーンがあるような絵は、いいカメラじゃないとこういうグラデーションは出ないんです。ピクチャースタイルは「ディテール重視」なので、レースの衣装の細かいところまで描写できています。微妙なところにグラデーションやトーンが残るというのはいいカメラの特徴ですね。このカメラはただ単に連写が速いとか4Kが撮れるだけじゃなくて、画質の面でもものすごくブラッシュアップがかかっています。

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感度についてですが、こういう画素ピッチの大きいカメラは高感度に強いですね。ダンサーの素早い動きを止めて撮るような場合、4000分の1秒ぐらいのシャッター速度でなければぴたっと止まらない。ある程度の被写界深度も欲しいので、絞りをf5とかf5.6まで絞るとすると、ISO感度はかなり上げる必要がありました。それで思い切ってISO6400で撮ってみたんですが、高感度の時にざらつきやすい白や黒の部分でもノイズがなくてきれいでした。これは新しい映像エンジン「デュアル DIGIC 6+」の性能だったり、新しいセンサーの性能のおかげだと聞いています。

EOS-1D X Mark IIのピクチャースタイルの使いこなし

1D X Mark IIのデータも、5Dsと同じように使いこなしが重要になってきます。先ほどお話しした「ディテール重視」のピクチャースタイルはこのカメラにも搭載されていて、これをうまく使いこなすことで表現の幅が広がります。白い衣装のレースの部分をDPPで拡大してみましょう。いまピクチャースタイルは「オート」になっていますが、これを「ディテール重視」に切り替えてみると、レースのディテールがすごく出てきましたよね。

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実はカメラのデータとしてはこれだけの情報量があって、レースの細部を出したいのであれば「ディテール重視」、やわらかい人肌を出したいのであれば「オート」か「ポートレート」といった具合に、ピクチャースタイルの選び方ひとつで表現の違いが出てきます。

一つ注意点を言っておくと、「ディテール重視」はいま説明したようにとても良いピクチャースタイルなんですが、人肌がメインの写真だとちょっとつらいことがあります。特に2000万画素ぐらいのあまり大きくないデータは「ディテール重視」に対する耐性が弱くて、肌がざらついて見えることがある。そういう場合は迷わず「ニュートラル」にしてください。お肌のトラブルはこれで解決です。

こういう風にカメラやアプリケーションの自由度が増すのはいいことなのですが、その一方でコントロールすべきパラメータも増えてしまうので、いい部分と悪い部分の両方があるんです。せっかくいいカメラが出ても、使いこなせなければ結果がついてこないのは、ものすごくもったいない。そういった使いこなしの情報はメーカーがきちんとアナウンスすべきだとは思いますが、われわれカメラを使う側も新しいことを学んだり経験を積んだりして、その結果をメーカーにフィードバックしていくことが必要だし、それがプロの役割だと思っています。自分自身も惜しみなく勉強していかないといけないと思っています。

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そろそろまとめに入ります。一番最初に言いましたが、EOSのシステムは今ものすごいところにいます。今日紹介しただけでも、高解像度の頂点として5000万画素機があり、もう一方の頂点として秒間16コマの最速カメラがあり、写真だけでなく4K60pの動画やフルHDで120pの動画まで撮れる。さらにものすごく再現性の高い最新のレンズを始め、いろんなレンズが70本以上もあり、それらが1つのレンズマウントを通じて大きなシステムとして存在している。さらに言うと、CINEMA EOSまで同じマウントだったりするわけです。

35ミリのデジタル一眼レフ、中でもキヤノンのEOSはいまや映像機器の進化のメインストリームとなっています。このシステムを使ってどんどん経験値を積んでいけば、新しい表現やテクニックを手に入れられます。そして、全方位の守備力を持った入力機のシステムが、今度は出力機との連携まで大幅に強化しようとしてます。それがこのimagePROGRAF PRO-1000です。ということで、前半のEOS編から後半のプリント編へとバトンタッチいたします。ありがとうございました。


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