2016年12月19日
多くのテレビCMやNHK大河ドラマ「真田丸」オープニングタイトルバックなどの空撮を手がけるスタジオアマナ airvisionの小林宗氏。その「真田丸」をケーススタディに、使用機材に施している工夫やコツなども交えながら、プロフェッショナルなドローン空撮の現場について語った。
小林宗 氏(スタジオアマナ airvision)
スタジオアマナの小林です。アマナという会社をご存知の方もいらっしゃると思いますが、ヴィジュアルコンテンツの制作や管理、活用などの業務を幅広く行なっていて、一般的にはストックフォトが知られています。よく有名人の写真がテレビに出てくる時、「アマナイメージズ」だとか、最近は「アマナ」といったクレジットが出ているのをご覧になったことがあるかもしれません。スタジオアマナはそのグループ会社で、僕はその中のairvisionというブランドで空撮の仕事をしています。
「真田丸」オープニング映像のための空撮
さっそくですが、ドローンでどんな撮影をしているのか紹介していきます。最近手がけた空撮の中で一番大きな仕事がこちら、NHK大河ドラマ「真田丸」のタイトルバック、オープニング映像の撮影に参加させていただきました。ここで空撮をどのように使ったかをご紹介したいなと思います。NHKのWebサイトで、オープニング映像のメイキングムービーが公開されているので、まずこちらをご覧ください。
>>クリックすると大河ドラマ「真田丸」 THE MAKING OF OPENING VFXのページに移動します
最初のシーンのロケ地は長野県戸隠にある鏡池です。名前の通り、周りの山や木が鏡のようにきれいに映っている池で、映像では奥の方から手前へとカメラが後退していたのがわかると思います。たぶん普通の人は気がつかないと思いますが、実はドローンが後ろ向きの姿勢で飛ぶと、進行方向の後方、レンズが向いている方向に風圧がかかってしまい、そこに波紋ができます。つまり、後退しながら撮影するとカメラのアングルによっては波紋が写り込んでしまうんです。
波紋が写らないようにするにはどうすればいいかというと、編集時に逆再生することを前提として撮るんですね。仕上がりの映像とは逆に手前から奥に向かってドローンを飛ばしながら撮れば、波紋は後ろ側に出るので画面には映りません。ドローンが起こす風で問題なのは波紋だけでなく、髪の毛とか周りの草木が揺れたり、周りのものを吹き飛ばしてしまったりといったことがあるので、この撮影方法はよく使います。
上図のように撮影した映像を、逆再生して使用する
逆再生を前提とした撮影は、安全性を考慮しなければならない時にも行ないます。たとえば演者さんに向かって遠くから寄っていくようなシーン、ドローンが演者さんに寄っていくのは危険なので、先に終わりのカットを決めておいて引いていくという割り振りをします。それからこれは「ドローン空撮あるある」かもしれないですけど、予定の飛行ルートで撮影していてOKが出ました、じゃあドローンを戻しますという時にもカメラを回していたら、そっちのほうが良かったということがたまにあります。そういう時はそれを逆再生して使ってもらいます。
次のシーンに登場するのが、長野県の米子大瀑布です。毎週番組を見ている方ならこの映像は頭に焼き付いていると思いますが、実際に現地に行った時に見えるのはスクリーン左側の風景で、番組で使われているのは右側の画像です。つまり米子大瀑布の映像に群馬県の岩櫃山が追加されていて、さらに今はないお城も追加されているんです。最近、撮影場所をめぐる聖地巡礼をされる方が増えていますが、この場所まで行った人たちから「お城がない!」「お城ってどこにあるんですか?」という問い合わせが多くあったみたいです(笑)。
ここに映っている「パイロット」が僕です。その他にもう一人、カメラの操作をする「カメラオペレーター」がいて、だいたい二人一組で空撮をやっています。パイロットの僕は機体をどこに持っていくかということだけに集中して飛ばすことができますし、カメラオペレーターは360°カメラを自由に動かせるので、ドローンが移動しても被写体をずっと捉え続けることが可能になります。テレビCMやドラマ、映画のように規模の大きな撮影になると、このほかに「カメラマン」がいて、カメラオペレーターの後ろからモニターを覗き込んで指示を出しながら飛ばしていることもあります。
各スタッフ間のコミュニケーションには、Bluetooth搭載のバイク用インカムを利用しています。なぜこのようなものを使うかというと、普通の無線機だと、片方の人が喋っている時はもう片方の人は聞くだけで、それを交互に繰り返すわけですが、これだとレスポンスが悪すぎてうまく指示が通りません。そこで双方向で会話ができて、なおかつ4人同時通話ができるバイク用のBluetoothを使っています。
airvisionでは上の写真の通り、4人のメンバーがそれぞれ別々のインカムを改造して使っています。僕はちょうど3Dプリンターを手に入れたので、耳あてのカバーの部分を自分で作ってみました。このようにガジェットを手作りするなど、楽しみながら仕事をしています。
さて本題に戻って、次は備中松山城ですね。ここは日本で唯一残っている山城だと言われてます。山の上の城まで行くには石段を登るしかなく、クルマで行けないので、背負子に機材をのっけて運んでおります。
上のスライドの右端の写真が備中松山城に登っているところです。頂上の近くなので、すでにへろへろになっています。真ん中の写真では、背中のドローンが千手観音みたいになってますね。左端の写真は別のロケで、富士山の五合目から公園を目指しているところです。クルマで運ぶ場合は専用車がありまして、大型のドローンを同時に3台、EPICを2台、レンズも大量に運べて、4人乗りで移動できます。
備中松山城は上のスライドのように石垣だけが残っています。完成した映像ではこの上に城壁があり、石段のところに水が流れているのですが、撮影時には目印のマーカーだけがあるような状態で、それを目標に飛ばしております。
また話がそれますが、ちょっとした工夫として、コントローラーにはモニターをつけたり、無線機をつけたり といった改良を加えています。写真左の右側に写っている縦長の機材が初代のコントローラーですね。その左と写真右のコントローラーは現在使用しているものに近い形になってます。
ドローンのコントローラーは両手に持って使うタイプが多いのですが、僕はベルトを懸けて首から下げて、その上に両手を置いてスティックを操作するようにしています。この方が安定して操縦しやすいと思います。
これはよくあるドローンのコントローラーですけども、これだと僕のように首から下げて手を置いて使えないので、革製のカバーとベルトを自分で作ってしまいました。手を乗せる部分もあるので、安定して操縦できるようになっています。このように、出来合いのものでもなお扱いやすいように工夫しながら制作しております。
次に長野県の松代城です。カメラが進んで行くと門が開いて中に入っていくというカットを撮りました。人間の目の高さでの移動撮影なので、ほとんどの人がまさかドローンで空撮しているとは思わなかったのではないでしょうか、見てのとおり門の手前が太鼓橋になっているので、レールを引くのも大変だし、クレーンを使うと予算もかかる。手持ち撮影も考えたんですけども、やっぱり上下動が出てきてしまうので、ドローンでチャレンジすることになりました。
本当は鏡池のときのように逆再生でやりたかったんですが、逆再生だと門を開け閉めするタイミングが難しく、ここは仕方なく普通に、カメラが近づいたら門を開けるようにしています。門を開ける人が後ろに2人いるんですけど、こちら側の様子がまったく見えないんですね。外にもう1人声がけ係がいて「開門!」と叫ぶんですが、ドローンの動きに対してタイミングが早すぎても遅すぎてもダメ。操縦している僕からするとドローンがぶつかるんじゃないかと思うので早く「開門」って言ってほしいんですが、ギリギリまで引っ張って開けるのでドキドキの撮影でした。
続いては、戸隠神社の杉並木です。たくさんの木が生い茂っていてGPSの電波が入らないような地域でした。GPSをなぜ使うのかと言いますと、たとえ電波が切れたときでもパイロットのところに帰ってくるという機能と、風など外部の影響から機体の位置を安定させる機能があるからです。GPSが使える方が精神的な負担が全然軽いので、可能な限り使うようにしています。
ところがここではGPSが使えず、なおかつ木と木の間が結構狭く感じて、奥の方に突っ込めば突っ込むほど左右の間隔も遠近感も狂ってきますので、結構スリリングな撮影でした。木の横を通る時、自分が巻き起こした風が木に当たって影響を及ぼすんですね。機体がふらついたりするので大変神経を使う場所でした。
「真田丸」オープニング映像の空撮に使用した機材
ここでまたちょっと脱線しまして、機体はどんなものを使っているのかご説明ます。主に、FreeFly社製のCinestar 8という機体をつかっています。ちょっと古い機体で、折りたたむことができない代わりに、シンプルですごく扱いやすく軽いということで好んで使っています。
コントローラーはDJIのWookongシリーズがメインになっています。これも種類がいくつか出ていますが、まだ初代のWooKong-Mを使うことがたまにあります。というのも先日、飛行場の滑走路で飛ばすという案件があり、最近のフライトコントローラーは飛行制限の機能が加わっていて、飛行場の周囲ではプロペラすら回らないようになっています。そういう場合はその機能を外してもらわなければならないのですが、それが間に合わないということで、急遽これを引っ張りだして使いました。
バッテリーも6S 22.2V 10,000アンペア、これは電圧に詳しい方が見るとちょっと大きいぞと気づいていただけると思います。ショートさせると大変危険です。これをドローンに2個積んでも、EPICにコンパクトプライムのレンズなんかをつけていると、大体3〜4分くらいしかバッテリーがもちません。今ではこのバッテリーが空輸できないようになってしまい、今後どういう対応をしようかなと思っています。
そして下側のジンバル、これはFreeFly製Movi M10かM15を使ってます。これはRED EPICかARRI ALEXA miniあたりを持ち上げることが可能になります。レンズは、コンパクトプライム、ファスト、できればEFレンズなど軽いレンズを使いたいところではあります。一応フォーカスコントロールもついてます。ジンバルとカメラを合わせてこれで大体7kgぐらい。ぎりぎりの重さになります。
映像の伝送は、アナログの1281.5MHzが総務省から認められている唯一の電波です。これで総務省の許可を得て、小さなテレビ放送局のような許可を得て飛ばしています。なのでメンバー全員、無線の免許を所持しています。
シネマカメラは大体アナログの出力を持っていないので、変換が必要です。特にALEXAはSDIしかついてないので、SDIからHDMIに変換してさらにアナログに変換します。コントローラーと映像送信機を両方備えたDJI製のLightbridgeという送信機もあるにはありますが、今のところこれを使っております。
撮影の話にまた戻りまして、長野県の美ヶ原、王ヶ鼻です。大変きれいな雲海が出るということで、撮影のため何回かここに足を運びました。ところが行っても行ってもガスが強かったり、雲海が全く出なかったりという感じでした。しめて4日か5日、再撮影もしたのでかなりの回数ここに登りました。ただ特別な許可を得て、車ですぐ近くまで上がることができたのがせめてもの救いでした。晴れるとあたり一面の雲海で、すごくきれいに見ることができました。
というわけで「真田丸」オープニングは、空撮のカット数10カット、ロケ地6カ所、撮影日数は9日間で、フライト数は104フライトとなりました。CMやプロモーションビデオの場合、ドローンの空撮は1カットかせいぜい2カットぐらい。ちょっと趣向を変えてダイナミックに見せたいので途中にちょっとだけ差し込むことがほとんどです。これだけ空撮のカットを多く使っていただけるというのは非常に稀なケースです。
世界遺産・韮山反射炉を「フォト to 3D」で撮影する
ムービーの空撮のほかに、「フォト to 3D」という新しい撮影方法を始めました。これはその名の通り、複数の写真画像から3Dデータを生成するという技術です。先日、静岡県の世界遺産・韮山反射炉をこの技法で撮影したので、それについて説明します。
ここではPhantom 3というドローンを使っています。これで大体5m間隔ぐらいで写真を撮っていきます。ムービーではなく写真です。モニターの表示を見ながら5mずつ上下左右に動かして飛ばすのでなかなか難しいです。反射炉の周囲をぐるぐる周りながら撮影し、地上からも一眼レフで撮影して、だいたい全部で300枚くらいの写真を撮ります。
これを専用のソフトに読み込ませて処理をすると、点群データというものができあがります。たくさんの写真を画像解析することで撮影した位置や角度などを割り出して、そこから構造物の形状を3D空間内に復元します。主に測量などでよく使われている技術で、そこから結構精巧な3Dデータを作成できます。
これを我々が何に使うのかと言いますと、たとえば最近ゴーグルで見るVRコンテンツがありますよね。これですと、実写で撮ったのと違って立体的に見ることが可能ですし、VR空間内を自由自在に歩き回る手法にも使えると思います。あるいは、CGにこれを取り込んで実写と合成して使うという方法もあると思います。たとえば背景の道を写真で撮って、その道にクルマを走らせるとか、そういったことも可能になります。
立体なので、このように3Dプリンターで出力することも可能です。左の白いのが石膏プリンターで作ったものです。右の小さいのはフルカラーで出したんですが、サイズを間違って出力を依頼したのでこんなに小さくなってしまいました。解像度はあまり高くないのですが、筋交いの部分まできれいに再現されています。
仁徳天皇陵の360°動画を撮影
続きまして、最近流行りの360°動画です。これ、どこかおわかりですか? 大阪府堺市の仁徳天皇陵です。撮影前はちょっと軽く考えていて、「150mの上空に上がれば、向こう側の濠まで見えるだろう」と思って飛ばしたんですが、150m上がっても反対側まではしっかり見えないぐらい仁徳天皇陵は大きかったです。
空の部分を見ていただくとわかるんですけど、機体がまったく映っていません。360°をすべて動画にして、なおかつ機体を消すことができています。どうやってやったかは内緒です。が、インターネットで検索するとわかってしまうかもしれません(笑)。
このように機体は消せるのですが、実は消せないものがあります。ドローンを操縦している僕らがどうしても、どこかに小さく映ってしまうんです。これはドローンの360°動画に限ったことではなく、地上でもそうなんですけど、その対策にこんなことをやっています。
これは全然別件の沖縄での撮影の様子なんですけど、左側が僕で、右のマントを被っているのが監督です。こうやって草木に紛れて飛ばしています。決してサバイバルゲームをしているわけではありません(笑)。
このようにいろいろな撮影をしてきております。まだまだドローンでの撮影というのはかなり多くの可能性を秘めていると思います。今後ともさらに安全性を高めて新しいことにも取り組んでいこうと思っております。ご清聴ありがとうございました。
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