IDEA of Photography 撮影アイデアの極意

Vol.5 レンジファインダーカメラを知っているか

撮影・解説:南雲暁彦(凸版印刷 ビジュアルクリエイティブ部)

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機材や被写体、テクニックやコンセプトなど、様々なエレメントから“写真のイデア”を展開していくこの連載。連載5回目にしてカメラ篇最終回となる今回はレンジファインダーカメラに焦点を当てる。その操作はほとんどがマニュアル操作によるものだ。カメラの自動化、AI化が進むこの時代にレンジファインダー機がもたらすものとは。

南雲暁彦
凸版印刷 ビジュアルクリエイティブ部
チーフフォトグラファー
1970年神奈川県生まれ。幼少期をブラジル・サンパウロで育つ。世界約300都市以上での撮影実績を持つ。日本広告写真家協会(APA)会員。多摩美術大学、長岡造形大学非常勤講師。

ideaofphotography_vol5_1.jpg1/1000s f2 ISO200
撮影協力:深堀雄介
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レンジファインダーカメラとは光学視差式距離計とレンズが連動したカメラである。ファインダーの中央に像が二重になる部分があり、フォーカスリングを回してそれを合致させることで焦点を合わせる。一時期はこの方式を採用したカメラがたくさんあったが、今や孤高の存在と化したライカM型のみが圧倒的なクオリティーを持って、レンジファインダーカメラの生産を続けている。

今回作品作りに使用したカメラはM10-Pだ。35mmフルサイズセンサーを搭載しつつも小型なボディを活かしてロケーションでの撮影を行なった。

場所は三鷹跨線橋。維持の難しさから解体、撤去が決まっている。一眼レフ登場以前、様々な歴史を見つめて記録してきたのもレンジファインダー機を携えたフォトグラファーだったのだと思うと感慨深い。


ideaofphotography_vol5_2.jpg

【使用機材】
カメラ&レンズ
 Leica M10-P
 Leica SUMMICRON-M 50mm F/2

1929年に建設された三鷹にある跨線橋にて撮影。太宰治も愛したとされるこの跨線橋からの夕景をしっかりと残していく。


撮影の流れ

今回のビジュアルをどのように撮影したのか順を追って説明していく。
前述のメインカットと、後述のバリエーションカットと合わせて見ていこう。

1. ロケーションとイデア

ideaofphotography_vol5_3.jpg夕暮れ時を待ちながらベストな構図を狙っていく

ideaofphotography_vol5_4.jpgLeica M10-P+APO-SUMMICRON-M 75 mm f/2 ASPH

この跨線橋はJR三鷹駅から西に約400mの場所にあり、中央線など何本もの線路を南北に跨ぐようにかかっている。全長93m、幅約3mの鉄橋だ。このロケーションは空が広く開け、気持ちの良い空間が広がっている。今回は、50mmと75mmのレンズを用意し、日が沈んでいく西側に伸びる線路が赤い夕日を浴びて光りだすのを待って撮影した。

時を待つ間、スタジオと同じように光と被写体を読み、撮影のイデアを頭の中で構築する。スタジオと違うのは毎日違う表情が見られることだが、基本的な撮影条件は設計しておき、その中でベストを狙うのが僕のセオリーだ。


2. 小型なボディとレンズ、独特な描写を活かす

ideaofphotography_vol5_5.jpg口径が小さいレンズを活かし、金網越しにシャッターを切る

ideaofphotography_vol5_6.jpgカメラ本体も小型なため、隙間からの撮影も可能

このロケーションでは金網越しでの撮影となる。39mmや49mmと口径が小さいのでレンズを金網に掛けずに撮ることができる。最近の口径の大きなレンズではこのような芸当は不可能である。また鉄骨の隙間からも撮影できるのだが、奥まっているので大きなカメラは入らない。M10-Pは縦にすればその隙間に入ってしまうサイズ感だ。この状態でもライブビューを使えばアングルもフォーカスも操作可能なので問題ない。小型ボディを活かした撮影だ。

狙っていた時間が来たら、逆光で理想的なフレアが発生するズミクロンの特性を利用して、柔らかく温かい空気を写し込んでイメージを具現化する。


バリエーション

時間帯や構図を変えて別パターンの撮影。
アレンジアイデアのひとつとしてチェックしておこう。

ideaofphotography_vol5_7.jpgideaofphotography_vol5_8.jpg上:1/60s f2 ISO2500/下:1/180s f2.8 ISO100
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この場所は夕暮れ時から夜にかけて圧倒的にドラマチックな表情を見せる。西を向いているので日が落ちてからも残照がある日ならば空に表情は残り、逆光で浮かび上がる線路や電車の背中を印象的に撮影できる。

今回使用したM10-Pは35mmフルサイズで2,400万画素というスペック。レンズは単焦点の開放F2と明るいレンズなので夕景、夜景を手持ちで撮影するには持ってこいの組み合わせだ。手ブレ補正は付いていないが、小型なボディとレンズは手ブレを減らせるホールドができる。フットワークは軽く、大袈裟なセットにならず、人の目も気にならず、また邪魔にもならない。

名玉と言われるレンズで失われていく風景を残していくことは撮影そのものに風情を与えてくれる。レンズに合わせて設計されたセンサーも、映像エンジンもそれに一役かってくれる。


現行のレンジファインダーカメラ

現行のレンジファインダーカメラの中からこれぞというものを4つ紹介する。
特筆すべき魅力をスペックと合わせてまとめてみた。

Leica M10-P

ideaofphotography_vol5_9.jpg主なスペック
対応マウント:Mマウント/撮像素子:36×24mmCMOSセンサー/有効画素数:約2,400万画素/感度:ISO100〜50000/連写:最高約5コマ/秒/外寸:139×80×38.5mm/質量:約660g(バッテリー含む)
詳細スペック:jp.leica-camera.com

M型ライカがデジタル化して初めてフィルムボディと同等の厚みを達成したM10のP仕様だ。外装では赤バッジが外され、軍艦部にクラシックなライカロゴがグレービングされた。ライカ史上最も静かなシャッターに刷新され、タッチパネルを搭載。24Mセンサーで高感度の特性も良い最高のバランスを持つ傑作機である。

Leica M10-D

ideaofphotography_vol5_10.jpg主なスペック
対応マウント:Mマウント/撮像素子:36×24mmCMOSセンサー/有効画素数:約2,400万画素/感度:ISO100〜50000/連写:最高約5コマ/秒/外寸:139×80×37.9mm/質量:約660g(バッテリー含む)
詳細スペック:jp.leica-camera.com

M10-Pをベースに背面液晶を無くすという大胆な仕様の派生機。しかもフィルム巻き上げレバーの形をしたサムレストを装備し、見た目はほぼフィルムカメラの佇まいだ。カメラ自体の設定はスマートフォンのアプリ「Leica FOTOS」から行なうのだが、ここまで来たら細かい設定は固定でも良かったのではないかと思う。

Leica M10 モノクローム

ideaofphotography_vol5_11.jpg主なスペック
対応マウント:Mマウント/撮像素子:36×24mmモノクロ撮影専用CMOSセンサー/有効画素数:約4,000万画素/感度:ISO160〜100000/連写:最高約4.5コマ/秒/外寸:139×80×38.5mm/質量:約660g(バッテリー含む)
詳細スペック:jp.leica-camera.com

4,000万画素のモノクロ専用機。その名の通りモノクロ画像しか撮れないという思い切った仕様のカメラだが、この割り切りはライカらしくて良い。ボディもしっかりとモノクロ化され、ダイヤルの赤文字はグレーに、シルバーのボタン類はブラックになっている。M10シリーズ中、最もクールな外観を持つ。

Leica M10-R

ideaofphotography_vol5_12.jpg主なスペック
対応マウント:Mマウント/撮像素子:36×24mmCMOSセンサー/有効画素数:約4,000万画素/感度:ISO100〜50000/連写:最高約4.5コマ/秒/外寸:139×80×38.5mm/質量:約660g(バッテリー含む)
詳細スペック:jp.leica-camera.com

4,000万画素化された高画素版M10-P。静音シャッターやタッチパネルは踏襲しつつ、外観は普通のM10同様に赤バッジ仕様に戻されている。画素数とダイナミックレンジは基本的にバーターだが、APO-SUMMICRON M f2.0/50mm ASPH.の超解像度を味わいたい人はこれを選ぶといいのかもしれない。


フォトグラファーの聖域

IDEA of Photographyカメラ篇では一眼レフ、ミラーレス一眼、ラージフォーマット、スマートフォンと紹介して来たが、今回のレンジファインダーが一番独特の歩みで存在しているのかもしれない。今時シャッターボタンを半押しして自動でピントが合わないカメラなどほとんど無いのだが、レンジファインダーカメラはフォーカスリングを回してファインダー中央の二重像を合致させるまで一生ピントが合わない。

もはやレンジファインダー≒ライカという状態になっているのは周知の通り。なぜここまでクラシカルなものが生き残り、頂点として君臨しているのだろうか。

ドイツの工業製品で似たような歩みを持ったものがいくつか思い浮かぶ。一つはモンブランやペリカンに代表される万年筆だ。ドイツでは子ども用の万年筆があり、幼少の頃から使いこなす練習をするという。万年筆はボールペンに比べると扱いが難しくきれいに字を書くのも難しいが、一度使いこなすと独特の美しい筆跡を得ることができる。そうなるともうボールペンに味気なさを感じてしまう。これはよくM型ライカがそう例えられることだ。

もう一つはポルシェだ。利便性も運動性も低く、どのメーカーも生産をやめてしまったRR(リアエンジン、リアドライブ)の車を延々と作り続け、スポーツカー界に君臨し続けている。ライカも含めてこれらの共通点は操作における独自性とそれがもたらす大きな結果ではないだろうか。そこに追い求める価値があると信じて突き詰められ、作り続けられ、世界に認められる物として存在しているのだ。ちょっと日本のお箸にも通ずるところがあると思った。

レンジファインダー機にはパララックスがあり、広角も望遠も近接撮影も苦手だ。だがそこにはリアルな自分の視界に近い世界があり、求めるべきは利便性ではなく創造的な人生だと言われているように感じる。自らが所有し、使いこなした者だけに与えられる表現の領域、そこにあるのはフォトグラファー の聖域であり、そこに「撮る」行為の意識が宿る、それがいい。

実際に使ってみて思うことはよくできたレンジファインダーは操作しているだけで大変な心地良さがあり、短いフランジバックのおかげでレンズ設計の自由度が高くなり、素晴らしい描写をもたらす。それを大昔からとんでもない小型なレンズで達成しているのもすごい。かつてカメラはそういうものが多かったと思う。使いこなすこと自体に価値があり、美学があった。それは全てがフォトグラファーの意思であり、カメラを意のままに操って撮影した写真はそこにフォトグラファーの存在を強く証明したのではないだろうか。

今なおその感覚をハイクオリティーな画像とともに味わうことができる、それが今生き残ったレンジファインダー機である。

高価な物ではあるがバイクやオーディオ、ワインや楽器など本気でかかったらこちらの方が逆に安いぐらいだ。写真人が、クラシックで使いこなしが難しい物と考えて通り過ぎてしまうにはあまりも尊い経験がここにある。


※この記事はコマーシャル・フォト2022年2月号から転載しています。

関連情報

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Still Life Imaging スタジオ撮影の極意

当連載の筆者・南雲暁彦氏の著作「Still Life Imaging スタジオ撮影の極意」。格好良い、美しい、面白いブツ撮影の世界をコンセプトに、広告撮影のプロによる、被写体の魅力を引き出すライティングテクニックや、画作りのアイデアが盛りだくさんの内容となっている。

価格は2,300円+税。

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