IDEA of Photography 撮影アイデアの極意

Vol.7 白い世界

撮影・解説:南雲暁彦(凸版印刷 クリエティブコーディネート企画部)

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機材や被写体、テクニックやコンセプトなど、様々なエレメントから“写真のイデア”を展開していくこの連載。連載7回目は「白い被写体が作る世界観」を表現する。画面内全てを単色で作り込むセットは独特な統一感を生み出し、またライティングによって極端に表情を変えていく。中でもこの白い世界は、光の変化によって一体感と立体感の差が最も大きくなるという性質を持つ。

南雲暁彦
凸版印刷 クリエティブコーディネート企画部
チーフフォトグラファー
1970年神奈川県生まれ。幼少期をブラジル・サンパウロで育つ。世界約300都市以上での撮影実績を持つ。日本広告写真家協会(APA)会員。多摩美術大学、長岡造形大学非常勤講師。

ideaofphotography_vol7_1.jpg0.8s f11 ISO100
撮影協力:深堀雄介
スタイリング:鈴木俊哉(BOOK.INC)
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ブツのイメージカットを撮影する場合、製品コンセプトやフォルムからイメージを作り上げていくやり方や、メインの被写体を核として、それに似合った背景や小道具を選定し、シチュエーションを構築していくことが多い。それは製品のイメージアップや使用感を想像させる上で至極当然ではあるのだが、ブツ撮影のイメージカットはこうあるべきという壁を作ってしまうことにもなる。仕事ではそういったカットも散々撮ってきたが、今回はその壁を取り払った世界観構築を行なう。

メインの被写体はスニーカー。小道具は前述した「メインの被写体に合わせたもの」ではなく、「メインの被写体と同じ色」を集めた。全く脈絡のないただ「白い物」で構成された世界は決まり切ったブツ撮りのイメージを一蹴する面白さがある。

ライティングはなるべく光をフラットにして影を消し、画面に一体感を持たせた。一枚絵の様な、それでいて写真のリアリティーがあるグラフィックだ。


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【使用機材】
カメラ&レンズ
 Leica SL2-S
 Leica Vario-Elmarit-SL f2.8/24-70mm ASPH.

ライト
 GODOX SL200II

小道具選びは、自分の持っている白い世界の“イデア”に基づいてセレクトしていった。


撮影の流れ

メインカットをどのように撮影したのか順を追って説明していく。
使用機材やライティングセットの参考にしてほしい。

1. 被写体と使用機材

ideaofphotography_vol7_3.jpg色転び防止のためにカラーチャートを使用

ideaofphotography_vol7_4.jpgLeica SL2-S + Vario-Elmarit-SL f2.8/24-70mm ASPH.

メインの被写体は、真っ白いアディダスのハイテクシューズ「4D FUSIO」。これをクラシカルな額縁の中心に配置して、陶器やガラス、植物や貝殻といった材質の違うアイテムを並べていく。

額縁を使うとその中に絵を描いている様にレイアウトできるのでバランスがとりやすい。丸いモチーフと植物のフォルムを活かして、左上から右下に流れを作る様に配置した。

カメラはダイナミックレンジが広くローパスレスで繊細な絵を描けるLeica 「SL2-S」を使用。またカラーチャートを使ってホワイトバランスを設定し、色の転びを抑える。今回は特にこれが重要だ。


2. ライティングとセット

ideaofphotography_vol7_5.jpgセット全体の様子


ideaofphotography_vol7_6.jpgメインカットのヒストグラム

マットな白い世界を作るため、四方をディフューザーで囲い、アンブレラでバウンスさせたLEDライトで影を消したライティングを施す。被写体の反射率の違いも、これでかなりフラットになり一体感のあるビジュアルになっていく。カメラは真俯瞰で、額縁の歪みを最小限に抑えるようにセット。あとは、ライブビューを見ながら細かく物の位置を調整していく。

露出の設定としては、「白い物は白く」飛ぶギリギリまでしっかりと明るく撮影していく。カメラの性能を活かした露出の決め方で、暗く撮って明るく現像するより、広いダイナミックレンジを活かしていることになる。


バリエーション

メインビジュアルから被写体を動かさず、ライティングを調整することで、
表情に変化を出したバリエーションカットを撮影。

ideaofphotography_vol7_7.jpg0.8s f11 ISO100
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全面をディフューザーで囲っていたライティングから左の一面だけ開放し、アンブレラでバウンスさせたライトを少し上方から直接打ち込んだ。これにより表情は一変し、夏の日差しの中で見ている様な爽やかなビジュアルに生まれ変わる。

影が生まれることで、被写体一つ一つの輪郭がはっきりとして立体的に立ち上がり、それぞれの白色が主張し始める。これは映り込んでいたディフューザーの白が外され、直線的な光を受けることで発色が良くなったからだ。カップは青っぽい白、オウムガイは黄色やピンクが浮き出てきた。

アンブレラを外して直接ライトを打てば、もっと真夏の直射日光のような光になるが、影が強すぎて被写体より目立ってしまうので、このぐらいにしておいた。

ライト1灯でどれだけそのビジュアルが表情を変えていくのか、この白い世界を作ると良くわかるだろう。


バリエーション2

メインの被写体を入れ替え、それを中心に小道具をセレクト。
ストーリーを思い描きながら画面内を再構成した。

1s f11 ISO100
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これまでに白一色で画面内を構成し、ライティングで表情に個性を与えてきたが、面白いことに「白いこと」しか共通点のないものを並べていると、不思議と物語が自分の中で生まれていくのだ。画面を構成しながら、想像力が勝手に刺激され“イデア”が生まれ、何をどう置いていくのかが自然と決まっていった。

視角の中の色情報がすごく単純化、整理された状態になったことで、逆に色や光、時間が想像しやすくなったのかもしれない。

確かに頭の中でも、白いものとしてアイテムは登場するのだが、それを取り巻く場所や光には、もっと様々な色彩や質感があったし、音もあった。木の古びたテーブルにカップはのっていたし、青い海の近くで葉は風に揺られていたと思う。そういった記憶と想像が自然と手を動かし、出来上がったのがこの世界観を持つビジュアルだ。


類似性がもたらす共感と反発

単色でその月の色を統一するといったコンセプトのカレンダーを撮影したことがある。すごく広い面積を埋め尽くす「赤いアイテムの月」「緑のアイテムの月」といった撮り方だったのだが、その時に思ったのは、なんでこんなに全く違うカテゴリーのものを集めているのに、画面としてはまとまって見えてしまうのだろうかということだ。「同じ色だから」それはそうだがやはり「色」というビジュアル要素の集合は、他のものより強い統一感をもたらすと感じる。

そもそも人は「同じ」ということに対して不思議なほど敏感に「嬉しい」という感情を抱く。 同郷の人、というのは最も分かり易いだろう。同じ学校出身、同じ趣味、同じ誕生日、同じ星座など、驚くほどそういうことにシンパシーを感じるのだ。近すぎると同族嫌悪ということもあるが、まあ一般的な話でここはとどめておこう。

物でそういった同郷の安心感をもたらすこともできなくないが、それを判断するには専門的な知識が必要。例えば全部ドイツ製のカメラを並べて撮影しても、それがわかって統一感を感じることができるのは、ほんの一部のカメラマニアだけだろうし、全員プロのサッカー選手だという集合写真だって、同じ色のユニフォームを着ていなかったら、サッカーマニア以外は全くわからない。逆に同じ色のユニフォームを着てしまえば、それは誰が見ても同じチームの集合写真であり、それは他との差別化であり、仲間であり、同じ目的意識の象徴となっている。

そういうことからもわかるように、写真というただでさえ一目瞭然のコミュニケーションを生み出すメディアにおいて、一番シンプルに誰でもわかる安心感、統一感をもたらし、かつ魅力的なビジュアルを作れる可能性があるのは「色による統一だ」というのが今の僕の見解である。

今回の作品は、自分のイデアが現れたなかなか魅力的なビジュアルになったと思う。ただし、ここまでならやったことがあるし、「同じ安心感」に最も甘んじてはならず、刺激の発掘や価値の革新を生み出していくクリエイターとしてはもう一手ほしいところ。ということで、ダイレクトに反発した黒いオブジェクトを際立たせるビジュアルも作ってみた。というよりこの撮影を設計したときから、何かこのままで終わりたくない気持ちが芽生えていたのである。

バリエーション2のメイン被写体の白いヒールを黒いものに変え、強烈なコントラストを作り出す。これ以上ない明暗の対比の中で白はより白く、黒はより黒く、画面の中でお互いを主張していく。孤軍奮闘の黒い個性は白の世界の中で一人染まらず、自らの意思を世界の中心に叩きつけたのだ。

ideaofphotography_vol7_9.jpgバリエーション2のヒールを黒いものに差し替え。物語のシナリオがガラッと変わり、緊張感のあるブラックスワンに変わっていった。

こうすると白だけで作った世界とは物語のシナリオがガラッと変わる。美しい思い出の一場面だった額の中が、途端に緊張感のあるブラックスワンに変わっていく。もはや主役は一人に絞られ、白いアイテムはそれを引き立てる脇役に回っていった。白い世界の中で擬態していた自分が本性を隠しきれず…みたいな気持ちが僕にあったのか、こうなりたい自分がいるのか、みたいなことを考えながら、皆さんもこういう世界の構築を試して欲しいと思う。僕は久々に自分でやってみて、精神分析みたいで面白いと感じた。

ここでもう一つ、同じ色がもたらす安心感に大きな危険性があることも述べておこう。先述のユニフォームの話に戻るが、同じユニフォームを着ていると、そのチームの写真にしか見えないということは、全く関係ない人が着ていても同じチームだと認識してしまうということだ。一見統一感のある世界は擬態に満ちている可能性もある。ユニフォームのカタログならそれでいいが、チームの写真としては白々しいイミテーションなのである。クリエイターとして生きていく上でこれを見極める審美眼は欲しいと思う。

さて話が大きくなったが、今回は一番印象的でライティングによって大きく表情を変える「白の世界」を作った。こういったベースを構築することで、さらなるワンアイデアがより刺激的な表現を生み出す布石となるという話で締めくくるとしよう。

※この記事はコマーシャル・フォト2022年4月号から転載しています。

関連情報

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Still Life Imaging スタジオ撮影の極意

当連載の筆者・南雲暁彦氏の著作「Still Life Imaging スタジオ撮影の極意」。格好良い、美しい、面白いブツ撮影の世界をコンセプトに、広告撮影のプロによる、被写体の魅力を引き出すライティングテクニックや、画作りのアイデアが盛りだくさんの内容となっている。

価格は2,300円+税。

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