IDEA of Photography 撮影アイデアの極意

Vol.12 ─The Nocturne(夜想曲)─ 「Nikon NIKKOR Z 58mm f/0.95 S Noct」

撮影・解説:南雲暁彦(凸版印刷 クリエティブコーディネート企画部)

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機材や被写体、テクニックやコンセプトなど、様々なエレメントから“写真のイデア”を展開していくこの連載。連載12回目となる今回は、圧倒的な大口径を持つレンズの表現力に迫る。ズームレンズが全盛のこの時代において、まるで別次元のモノのように生まれた単焦点、超大口径、マニュアルフォーカスというスペックは、何をフォトグラファーにもたらすのだろうか。いや、それをどう使いこなして表現していくかが我々の仕事だろう。

南雲暁彦
凸版印刷 クリエティブコーディネート企画部
チーフフォトグラファー
1970年神奈川県生まれ。幼少期をブラジル・サンパウロで育つ。世界約300都市以上での撮影実績を持つ。日本広告写真家協会(APA)会員。多摩美術大学、長岡造形大学非常勤講師。

1/60s f0.95 ISO900
撮影協力:竹内義尊 TCガレージ
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今回は、驚異のf0.95という明るさを誇る「NIKKOR Z 58mm f/0.95 S Noct」をセレクト。ニコンは過去「AI Noct Nikkor 58mm F1.2」というレンズを作っていた。夜間撮影を開放絞りで美しく行なうために開発された「Noct Nikkor」は、Nocturne(夜想曲)からその名を取ったと言われる。

そういった伝説のレンズが存在し、そのコンセプトを受け継ぎ、さらなる大口径化が施され、現代に登場したのがこの「NIKKOR Z 58mm f/0.95 S Noct」というわけだ。

僕が知りたいのは、このレンズと共にどんなノクターンを奏でることができるか、それに尽きる。想像を働かせて被写体を選び、画面を構築していく。街路樹の隙間から観覧車を狙い、シャッターを切る。58mm 、f0.95、マニュアルフォーカス、その全てが僕の指揮でひとつになり、欲しかったビジュアルが生まれた。


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【使用機材】
カメラ&レンズ
Nikon Z 7II
Nikon NIKKOR Z 58mm f/0.95 S Noct

ライト
環境光

F0.95の表示、Noctの文字が誇らしい。後はフォトグラファーの指揮次第だ。



使用機材と被写体

今回使用した被写体と機材について、その特性と魅力を読み解く。
撮影設計の引き出しとして吸収してほしい。

1. 今回のレンズ Nikon NIKKOR Z 58mm f/0.95 S Noct

ideaofphotography_vol12_3.jpgNikon NIKKOR Z 58mm f/0.95 S Noct 主なスペック
対応マウント:ニコンZマウント / 焦点距離:58mm / 明るさ:f0.95 / レンズ構成:10群17枚 / 寸法:約Φ102×153mm / 質量:約2,000g

それは標準レンズというにはあまりにも大きく、太く、重く、だが決して大雑把には感じられない、精巧な作りと冷静な知性さえ感じる鉄とガラスの塊だった。標準的なのは58mmという焦点距離のみ、後は全てが規格外のレンズ。それが現代に蘇ったノクトニッコールの姿だ。

10群17枚で構成されるレンズの内、EDレンズ4枚、非球面レンズ3枚を使用しており、初代ノクトニッコール同様、サジタルコマフレアを徹底的に補正した超高画質を得ている。

このレンズが送られてきた時、これこれと思って開けた段ボール箱に入っていたのは一緒に借りたZ 7IIで、その横にあったまさかと思うほど大きいダンボールに入っていたのがこの「Noct Nikkor」だった。専用のトランクケースに入っていたからなのだが、その蓋を持ち上げた時の黒光りする佇まいから御神体的な迫力を感じたことが忘れらない。


2. 被写体と使用カメラ

ideaofphotography_vol12_4.jpg濡れた石畳と往年のアバルトの組み合わせは完璧である。

ideaofphotography_vol12_5.jpgMade in Japanここにあり、といった佇まい。そのスペックの全てを奏者に委ねる。

超高画質レンズとの組み合わせということで、画素数だけ考えてZ 7IIを選んだのだが、レンズを装着して少し後悔してしまった。というのもレンズが大きくて重量バランスが悪いのだ。こんなことなら遠慮せずにZ 9か、少なくともZ 7II用のバッテリーパックを借りておけば良かったと思った。

ともあれ画質面の相性は非常によく、そこにストレスは全くなかったことは述べておこう。

それにしてもレンズの迫力がすごい。この時代のミラーレス用でマニュアルフォーカス専用ということにも驚いた。分厚いフォーカスリングはその証である。

なるべくドラマチックなナイトシーンを撮影しようというのが今回のコンセプトで、メインカットでは観覧車、サブカットでは往年の名車アバルト595Sをお借りした。遠距離から近距離まで色々な距離で夜のシーンの撮影を行なったが、もちろん全て手持ちである。


バリエーション

レンズの持つパフォーマンスを活かして、様々なビジュアルを撮り下ろしていく。
フォトグラファーのアイデアとレンズのスペックが織りなすクリエイティブ。

ideaofphotography_vol12_6a.jpg1/200s f0.95 ISO1600

ideaofphotography_vol12_7a.jpg1/20s f0.95 ISO3200

ideaofphotography_vol12_8a.jpg1/50 f0.95 ISO100
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前回も同じような大口径レンズ「Leica Noctilux-M 75 f/1.25 ASPH.」だったが、今回は日本を代表する大口径レンズを選択。この「NIKKOR Z 58mm f/0.95 S Noct」と共にずいぶんと夜の東京を撮り歩いた。

前回は早朝、今回は夜という光の差はあれど、ノクティルックスとノクトニッコールの持つキャラクターの違いが頭をよぎる。

ライカの方は、非常に写真的演出が掛かったとでもいうべき大胆なコントラストで、見せ場にフォーカスしていくような感覚があり、それに対してニコンは、目の前のリアルを優しく映像的な空間に転化してくように感じた。もちろん使用カメラの映像エンジンの違いもその味付けに大きく影響している。

ideaofphotography_vol12_9a.jpg1/60s f0.95 ISO7200
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真剣の如く

オートフォーカスは働かず、ズームで焦点距離を可変させることもせず、ブレを止めるスタビライザーも搭載しない。大きく、重く、まるでそれを使うフォトグラファーのことなど無視したかのように、ただひたすらに美しく58mmの画角を切り取ることだけに心血を注がれて作り出された業物。NIKKOR Z 58mm f/0.95 S Noctはそんなレンズである。

正直こんなに取っ付きづらいレンズは初めてじゃないかと思ったほどだ。だがそれは逆にこの業物を使い熟したいという欲望につながっていった。こんなとんでもないレンズを日本のメーカーが作ってくれたことが嬉しく感じ、何か日本人として誇らしく思う気持ちまで芽生えてしまった。

ノクティルックスを持ったときの思考にニッコールがさせてくれた。何度でも言うがこのレンズを手にしてよだれも写欲も沸かないようならいっそフォトグラファーなどやめたほうがいい。とまあ、やはり伝説のレンズを手にしたときの儀を嗜むこととなった。これも楽しみのひとつだし、気分が高揚することはいいことだ。

実際、このレンズを使ってみると一分の隙もないといった印象を受ける。フォーカスは全画面で鋭く、前だろうが後ろだろうがごく自然なボケがf0.95に恥じない空気感を画面に含ませる。嫌らしいところがどこにもないのだ。逆にいうとレンズが勝手に面白い絵を出してくることは無いと思った。サジタルコマフレアが徹底的に押さえ込まれ、被写界深度が極端に浅く、ピントが良く、ボケが美しい。「だからといっていい写真が撮れるということでは無いんだぜ」とレンズが教えてくれるようだ。

このレンズを握りしめて巨大な観覧車の前に立った夜、真剣を握りしめて巨大な敵と対峙する侍のような気持ちになったのを覚えている。携えたものは間違いなく業物であり、ただしそれは振り方ひとつで全てが決まる。全てを集中して大上段から真に振り下ろす。そんな力をシャッターに込めた。

腕に覚えのあるフォトグラファーなら、撮影していてこんなに楽しいレンズはないのではないだろうか。癖のない描写は自分を表現するにはもってこいだし、被写体の魅力をリアルなままに取り込むこともできる。アバルトを撮影したカットはすごく素直に、ずっと見ていられる映像のような写真になったと思う。現場の雰囲気をそのままに、狙ったものがレンズに足を引っ張られることなど何もなく、欲しいがままに撮れたという感じだった。

僕はそんなに腕に覚えのある方ではないかも知れないが、このレンズは普通に欲しいと思ってしまった。そんな魅力というか、魔力のあるレンズである。

最後に愛車に戻ってインパネをバックに、ハンドルの根本に突き刺さったお気に入りのキーホルダーを撮影した。今までこんな撮り方はしたことがなかったが、だんだんこのレンズでハンティングできる絵に対する嗅覚が生まれてきたようだ。このアングルでこの被写体をこれ以上美しく撮れるレンズがあったら教えて欲しい。

ひとつ問題があるとすれば、今時の高性能レンズやカメラの絶妙な魅力を表現するには、B5判型でプロセス4色175線の普通の印刷では、いささか厳しいかもしれない。いずれ最高の画質でこの真剣勝負をご紹介できる場を設けたいなどと思ってしまうのだ。

ideaofphotography_vol12_10a.jpg一度使ったレンズは脳内に記憶される。ファインダーを覗く前から僕にはこう見えていた。


※この記事はコマーシャル・フォト2022年9月号から転載しています。

関連情報

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当連載の筆者・南雲暁彦氏の著作「Still Life Imaging スタジオ撮影の極意」。格好良い、美しい、面白いブツ撮影の世界をコンセプトに、広告撮影のプロによる、被写体の魅力を引き出すライティングテクニックや、画作りのアイデアが盛りだくさんの内容となっている。

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