IDEA of Photography 撮影アイデアの極意

Vol.14 ─ Phantom Shooter ─ 「SIGMA 150-600mm F5-6.3 DG DN OS | Sports + TELE CONVERTER TC-2011」

撮影・解説:南雲暁彦(凸版印刷 クリエティブコーディネート企画部)

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機材や被写体、テクニックやコンセプトなど、様々なエレメントから“写真のイデア”を展開していくこの連載。14回目は超望遠ズームレンズを選んだ。300mmを超えた焦点距離から超望遠と呼ぶことが多いが、そういった超望遠の明るい単焦点レンズは非常に特化した存在で、大きさも値段もそれに見合った撮影以外ではなかなかとっつきづらいものがある。そこでこの評判の高い超望遠ズームを使ってみた。さらに2倍のテレコンを使って1,200mmの世界にまでいってしまおう。

南雲暁彦
凸版印刷 クリエティブコーディネート企画部
チーフフォトグラファー
1970年神奈川県生まれ。幼少期をブラジル・サンパウロで育つ。世界約300都市以上での撮影実績を持つ。日本広告写真家協会(APA)会員。多摩美術大学、長岡造形大学非常勤講師。

ideaofphotography_vol14_1.jpg2s f14 ISO1600
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今回はレンズ篇初のズームレンズの登場だ。このSIGMA 150-600mm F5-6.3 DG DN OS | Sportsというレンズは、焦点距離と絞り値のスペックだけ見てもちょっと夢のようなレンズだと思う。

150から600mmという超望遠域で4倍のズーム比を持ち、開放F値がF5-6.3と決して暗くないのだ。しかもフルサイズミラーレス仕様となるDG DNというシリーズのレンズなので、その使い勝手の良さは想像に難くない。

さらに2倍のテレコンバーターを使用すれば、1,200mmという、普通はおいそれと覗けない焦点距離に達してしまう。もちろん画質だけを考えたら、単焦点やもっと大きく高額なレンズの方が良いかもしれないが、この仕様としてはコンパクトとも言えるサイズと、ズームならでは機動力を活かしてシャッターチャンスのある超望遠撮影を行なった。

上の写真は、スカイツリーのトップを横切る雲が一瞬、その照明で蒼く滲んだ幻想的な瞬間を捉えたものだ。


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【使用機材】
カメラ&レンズ
Leica SL2-S
SIGMA 150-600mm F5-6.3 DG DN OS | Sports
SIGMA TELE CONVERTER TC-2011

ライト
照明光

Leica SL2-Sに装着して使用。バランスも見た目も満足である。



使用機材とその性能

今回使用した機材について、その特性と魅力を読み解く。
撮影設計の引き出しとして吸収してほしい。

1. 今回のレンズ SIGMA 150-600mm F5-6.3 DG DN OS | Sports

ideaofphotography_vol14_3.jpgSIGMA 150-600mm F5-6.3 DG DN OS | Sports 主なスペック
対応マウント:Lマウント / 焦点距離:150~600mm / 明るさ:f5~6.3 / レンズ構成:15群25枚 / 寸法:約Φ109.4×263.6mm / 質量:約2,100g

まず150-600mmという時点で他に同類を見ない高倍率ズーム。望遠端600mmでもF6.3と極端に暗くならないどころか、ズームレンズとしては、むしろ明るいと言える開放値を持ちながらもコンパクトにまとめ上げている。超望遠系ズームや標準域から望遠域までの高倍率ズームには、今まであまり良い印象がなく食指が動かなかったが、このレンズはスペックとデザインを見てピンと来た。

特別な望遠の世界が欲しいときには400mmでは短いと思うことが多く、かといって600mmでF4などのバズーカはサッと用意して出かけるには大きすぎる。それは望遠ズームという機動性を持ったレンズとは別カテゴリーだ。

このレンズは焦点距離、明るさ、画質、大きさ、デザイン、価格が素晴らしいバランスで調和している。今後他のメーカーもこのカテゴリーに参戦してくるのではないだろうか。いや、せざるを得ないはずである。


2. テレコンバーターで焦点距離を2倍に拡張

ideaofphotography_vol14_4.jpgファインダーの中の自分にしか見えていない風景を捉えていく。

メインカットの撮影シーン。小さく青っぽく光っているのがスカイツリーのトップだ。この距離まで離れるとスカイツリーとはいえ見上げる必要は全くなくなるのだが、1,200mmという焦点距離であればそこをグイッと画面に大きく引き寄せることができる。レンズ自体の大きさはほとんど変わらないので、巨大な三脚でなくても耐荷重量的にはクリアできるものが増える。もちろん微振動でもブレるので、なるべくしっかりした三脚や雲台があればいいが、その分相当な重量と大きさを運ぶことになり、超望遠ズームの機動力を活かすという今回のスタイルとは外れてしまう。

僕が使ったのはマンフロットの055トライミナールという往年の三脚に410ギアヘッドという組み合わせ。シャッターはLeica FOTOSというアプリを使ってiPhoneから行なった。


バリエーション1

レンズの持つパフォーマンスを活かして、様々なビジュアルを撮り下ろしていく。
フォトグラファーのアイデアとレンズのスペックが織りなすクリエイティブ。

ideaofphotography_vol14_5.jpg1/320s f14 ISO3200
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9月の美しい満月と人工物を合わせたシーンを撮影するため、レインボーブリッジの近くに出向いた。アングルを作るのが難しく、そもそもテレコン付き1,200mmの画角だとほぼ月しか写らないのだが、今回のレンズはテレコンを付けても300mmまで引くことができる。これはその300mmの画角で撮影したカットだ。

画質のことを考えるとテレコンを外して撮った方が良いのだが、月はどんどん動いていくし、雲も近づいてくる。今回はせっかくのハーベストムーンを逃さないように、チャンス優先でそのまま撮影。それでも手持ちでISO 3200、1/320秒で撮影した写真としては優秀な画質だ。
 シャドーに浮かび上がるレインボーブリッジが月の美しさを支えている。


バリエーション2

レンズの持つパフォーマンスを活かして、様々なビジュアルを撮り下ろしていく。
フォトグラファーのアイデアとレンズのスペックが織りなすクリエイティブ。

ideaofphotography_vol14_6.jpg1/1250s f6.3 ISO800
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IDEA of Photographyということで、望遠レンズで遠くのものを撮りました、では終われないのである。ということで、600mm時の最近接撮影280cm付近での面白い作品をご紹介しよう。デジタル模様のようなこの写真、何が写っているかわかるだろうか。

写真の表現力はレンズという部分だけ考えても、人の目を遥かに凌駕する超広角から超望遠の画角を一枚絵として描き出し、1mmにも満たない被写界深度からパンフォーカスまで焦点をコントロールすることができる。

昆虫や鳥は人が見えていないものが見えたり、見え方をしたりするというが、写真も似たようなところがあると思う。

この写真は網戸に降り注いた雨が作り出した、空からのデジタルメッセージである。


そこに夢幻が生まれる

このレンズを使ってみて思ったことは、空想上の風景のような絵が撮れるなあということだ。超望遠の焦点距離を使った遠景の写真というのは、肉眼で遠くを凝視したときに起こるちょっとした望遠効果のレベルを遥かに凌駕して、高い場所にあるものを見上げている時のパース感が無くなり、まるでその物体の直前に自分が浮かんで見ているようなビジュアルを生み出す。

メインカットのスカイツリーのトップで雲が青く光っているシーンなど、小雨が降る暗闇の中、自らその目の前に飛んで行って流れるちぎれ雲を見ているような感覚になった。この小さな雲がスカイツリーのトップを横切り、青く光ったのはほんの一瞬であり、同じようなカットは一枚もない。この場所からは、肉眼では青い点にしか見えていない距離の、上空634mにおきた幻影のようなシーンだった。今この写真を見ても、そこで想像する自分の姿はEVFを見ながらiPhoneでシャッターを切っているのではなく、自らの体ごとスカイツリー頂上の直前に飛び、暗闇と雨の中、この幻影を目の当たりにしている自分の姿だ。

雨の中ほぼ真っ暗な場所で一人きりで撮影していたので、そういう感覚も持ちやすいのだろうとも思うが、想像した自分の姿とこのイメージを結びつけて、物語のひとつでも書けそうなほど色々なイマジネーションが湧いてくる。

この前のこと、この時のこと、この後のこと、その時の音や匂い、怖さ、寂しさ、小さな希望、勇敢な気持ち、本当に見たかった風景、そこに現れた夢幻のような現実。いやいや、本当に書き始めてしまいそうなのでこの辺でやめておこう。

1590年頃にオランダで顕微鏡が発明され、それをもとに1604年に望遠鏡が作られたという記録がある。人が本能的に求めるもののひとつに無限への探究(挑戦)があるのだろう。「無限」は数字によって概念は理解されるが、目の前の事象としては様々に形を変える。速度や高度記録の競争はスポーツなどの現場でもよく見られる。一方で、無限の世界を持つ小さな世界、遠くの世界を見るために顕微鏡や望遠鏡が生まれている。

小さな世界も遠くの世界も、今の人類にとっては無限だと言ってもいいだろう。

前回のマクロレンズ(Canon RF100mm F2.8 L MACRO IS USM)は顕微鏡側の、今回の超望遠レンズは望遠鏡側の無限を求めて進化してきた人の本能から生まれた道具の一翼で、僕らフォトグラファーの表現欲を支えてくれる写真的に独自進化したツールだ。

ここで面白いのは、普通カメラの交換レンズでは焦点距離を表す数字は画角を表していて、これは無限ではない。広角レンズは35mmフルサイズでは、目の前全てが写ってしまう8mm相当の円周魚眼より広くはならない。つまりもっと広く見たい、という欲求はすでに満たされていて、なんならば360度カメラなんていうものも存在している。非常に面白いものではあるのだが、そこには無限に対する浪漫はもうないのだ。

だが、望遠という領域に関しては、技術的にどうこうは置いておいて、人に対し「未知の遠く」は無限に存在する。もっと遠くの世界を見てみたいという本能はまだ満たされていないわけだ。だから宇宙を望む望遠鏡はどんどん進化を遂げているし、ちょっと気の遠くなるような話ですらある。

カメラ用のレンズはそれと比べれば、遠くを見るということでは全く敵わないが、1,200mmの画角は目の前の世界にギリギリの現実感を持たせつつ、幻想的なという意味の「夢幻」を感じさせてくれた。それはほんの数キロだが、雨の闇を切り裂きながら彼の地へすっ飛んで行って、その現象を目の当たりにした感覚であり、数百メートルだが浮遊して月を同じ高さから見た優越感であり、目の前の網戸を異世界の風景に変えていく異次元感だった。

こんなに浪漫の溢れるレンズなのだから、特化した使い方に拘ってはいけない。

ideaofphotography_vol14_7.jpg2倍テレコン使用の1,200mmノートリミングの月。これは満月の前日、雲がきれいに光った日だった。


※この記事はコマーシャル・フォト2022年11月号から転載しています。

関連書籍1

20230414_ideaofphoto.jpg
IDEA of Photography 撮影アイデアの極意

当連載を一冊にまとめた「IDEA of Photography 撮影アイデアの極意」。カメラ篇・被写体篇・レンズ篇の3部構成で、15点の作品を解説と合わせて掲載。また、コラム「ブツ撮りエフェクトアイデア」では、被写体を際立たせるために施す7つのアイデアを用いた作品も掲載。フォトグラファーはもちろん、写真を扱う全てのクリエイターにとって、ビジュアル設計の引き出しを増やすための助けとなる1冊。

価格は2,300円+税。

関連書籍2

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Still Life Imaging スタジオ撮影の極意

筆者・南雲暁彦氏の著作「Still Life Imaging スタジオ撮影の極意」。格好良い、美しい、面白いブツ撮影の世界をコンセプトに、広告撮影のプロによる、被写体の魅力を引き出すライティングテクニックや、画作りのアイデアが盛りだくさんの内容となっている。

価格は2,300円+税。

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