IDEA of Photography 撮影アイデアの極意

Vol.9 存在が放つ光

撮影・解説:南雲暁彦(凸版印刷 クリエティブコーディネート企画部)

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機材や被写体、テクニックやコンセプトなど、様々なエレメントから“写真のイデア”を展開していくこの連載。連載9回目は「光を放つ物」を選んだ。それ自体が光を放つ物は、その環境によって見え方が違い、撮影においては環境光とのバランスが重要になる。そもそも「光る」ということはどういうことなのか、その魅力の捉え方を写真的に考察してみようと思う。

南雲暁彦
凸版印刷 クリエティブコーディネート企画部
チーフフォトグラファー
1970年神奈川県生まれ。幼少期をブラジル・サンパウロで育つ。世界約300都市以上での撮影実績を持つ。日本広告写真家協会(APA)会員。多摩美術大学、長岡造形大学非常勤講師。

ideaofphotography_vol9_1a.jpg1.6s f11 ISO100
撮影協力:深堀雄介
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被写体に光をあて、ライティングによってその世界観を構築するということをやってきたが、今回は被写体自体が発光する物の撮影だ。今までも言ってきたが「光」は太陽に象徴され、最高神は太陽の神であり、もっとも肯定的に捉えられるエレメントである。その光る姿をしっかりと撮影で表現していく。

ライティングは、被写体の放つ光と定常光(LED)のバランスをとってその発光感と外観を両立させるテクニックを使用。

メインの被写体に選んだのは、テーブルトップで使用するカットの美しいクリスタルの照明器具だ。照明器具というより光るオブジェと言うにふさわしい美しさと存在感がある。クリスタルのディテール、発光感、その光が作り出す反射を少し物語を想像するようなセットで構築してみよう。


ideaofphotography_vol9_2.jpg

【使用機材】
カメラ&レンズ
 Leica SL2-S
 SIGMA 105mm F2.8 DG DN MACRO | Art

ライト
 GODOX SL200II

光と反射、その存在意義とは、といったことを考えながらセットを組む。


撮影の流れ

メインカットをどのように撮影したのか順を追って説明していく。
使用機材やライティングセットの参考にしてほしい。

1. 被写体と使用機材

ideaofphotography_vol9_3.jpgLeica SL2-S + SIGMA 105mm F2.8 DG DN MACRO | Art

ideaofphotography_vol9_4.jpg発光する被写体をいくつか用意

ideaofphotography_vol9_5.jpg動物のオブジェも用いて世界観を構築

カメラはLeica SL2-SをCapture Oneでテザー撮影のセッティング。SL2-S のLマウントはライカ、シグマ、パナソニックのアライアンスでレンズの選択肢が多く、アダプターなしでこれらのレンズが使えるのがありがたい。

今回はシグマのマクロレンズを使用。この等倍マクロは光学性能も非常に安定した高画質をみせる。

被写体は、主役に光るオブジェや、アロマポッドを用意。助演として動物のオブジェを用意した。光を放つものと、それと対峙する者との世界観を構築していく。背景の布も光をあててみて質感を確認。砂漠のような表情を出した。


2. ライティングとスタイリング

ideaofphotography_vol9_6.jpgセット全体の様子

ideaofphotography_vol9_7.jpgスタイリングの様子

今回は基本的に被写体が自ら出す光が主役である。その光がどう広がり、どう周りに反射していくかを最初に考えていく。最初に、布で砂漠のような柔らかいドレープを作り、メインのオブジェを配置。クリスタルのカットが生み出す放射状の光に立体感を与えていく。

補助光として左サイドの低い位置から、大きなディフューザー越しにLEDライトを一発弱めに入れる。クリスタルが放つ光を損なわないように、クリスタルより高い色温度のライトで柔らかく全体の雰囲気を作る。イメージは星空の青い光の中で暖かい光に魅せられ、それを見つめる動物。というシーン。


バリエーション1

メインとなる被写体によりフィーチャーしたビジュアルを撮影。
被写体の発光感やディテールをより鮮明に写し撮る。

ideaofphotography_vol9_8a.jpg1/4s f4 ISO100
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被写体は、Ambientecのクリスタル・アクルクスという製品。これ自体が素晴らしい作品なのだ。発光する物や発光させられる物を色々と探してみたが、この作品には自らの造形も、放つ光も圧倒的に引き寄せられるものがあった。

このバリエーションカットはグッと寄って立体感や透明感、発光感を強調し、表面の質感、布の質感など触れるようなリアリティーを持たせている。左サイドから入れている青白い光がクリスタルに効いているのもよくわかる。これを同じ色の光にしてしまうと自ら放つ光と混同し、ディテールをスポイルしてしまう。

メインカットでその光に見惚れていたハリネズミのように、光るクリスタルの輝きに吸い込まれていくような、カットになった。


バリエーション2

メインの被写体を入れ替え、そこはかとなく発光する
ステンドガラス調のボトルで静かな光を感じるシーンを作った。

ideaofphotography_vol9_9a.jpg1.3s f2.8 ISO100
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ここまで使用していたクリスタル・アクルクスの照明を落とし、アシュレイ&バーウッドのアロマボトルをメインの被写体に。これはステンドグラスのような表情を持ったガラスのアロマポッドなのだが、発光する機能はなく、ボトル内のフレグランスオイルを燃焼させ、芳香を広げながら室内の空気清浄を行なうアイテム。そのボトルの下にLEDライトを仕込み、透過光でボトルの表情を浮き立たせた。つまりこの光は、僕がこのアイテムが持つ目に見えない空間への作用を視覚化した光とも言える。

優しく目立たず、空間を心地よい場所へ変えていく。写真では芳香は伝えられないが、その存在の素晴らしさを伝えるために、写真的な演出を行なうのもフォトグラファーの仕事だろう。


満天の星空の下で

今回使用したクリスタルが放つ光はとても魅力的で、暗がりの中に広がる光のアートはついつい見入ってしまう引力を持っていた。そして同時に、クリエイターとしてこれを被写体に写真を撮りたいという気持ちが出てきた。つまり僕はその光の魅力に自分の本分で反応してしまったわけだ。フォトグラファーは常に光を見て反応し、あるいは自ら光をコントロールして写真を使って表現している人種だ。光などいくらでも見てきたし操ってきたが、それでもきれいな光を見ると飽きることなく反応する。逆に光に対して敏感だから余計そうなるのかとも思った。

光る物の撮り方、という実技的なことで言うならば、主要被写体が発する光が主役、被写体のガラスボディが準主役、それを引き立てるための背景のセットと補助光、そのバランスで発光感と立体感を出していく。主役の光より弱く柔らかく、色の違う光を使うというのが設計で、その色や強さ加減は自分がイメージしたシーンに基づいて決めていけば良い。

美しい輝きや、強い光に惹かれ、目や心を奪われるのは自然なことだ。そこに力や希望を見出し、憧れを抱き、明るく輝く場所に生命は集まっていく。人が光に抱く憧れは強い。太陽を神に見立て崇拝し、自ら火を使い、発明した電気の力で光を作りだし、暗闇を克服してきた。光り輝く未来、明るい明日、眩しい笑顔、一筋の光、などの表現からわかるように光は圧倒的希望の象徴なのだ。

しかし、その強い光ばかり見ているとそれが消えてしまった瞬間に、その光に慣れてしまった目には暗闇が訪れ、大事なものが見えなくなっていたことに気が付く。暗闇の中に目を凝らすと月光のような優しい光で、自分を照らしてくれていた人や、自分自体も光を発していたことに気が付くのかもしれない。人は自らが物理的に発光することはないが、存在が輝くといった意味で光を発している。それは種類は違えど皆が持っているものだろう。人と人の関係はそういった固有の光の存在を意識すると見えてくる。自分の光が相手を照らすことで初めて、その対象との関係や相性が浮き彫りになる。またその逆もしかり。各々が照らし照らされ、反射し、共鳴し、反発し、戦い、避け、救い、混ざり合い、求め合って関係を築いていく。強い光ばかりに目を奪われず、そういった本当に大事な光にもちゃんと目を向けて生きていければと思う。

ではそのために必要な物は何か。言わずもがなそれは闇である。強い光の中で閉じ切った瞳孔を、暗闇の中で開かなければならない。レンズの絞りをしっかりと開けて、ほのかな光も視野に入れ、本当に大事な光にフォーカスすることが重要なのだと思う。

今回のメインビジュアルを作っていて、最初はクリスタル・アクルクスの作り出す光にばかり目がいき、自分の世界観の構築をどうするかが飛んでしまっていたのだ。我に返り一度セットを離れ、暗いスタジオの中で用意したハリネズミの顔と、しっかり選んだ生地の目をもう一度じっくりと見て、そこで自分を取り戻したような気がする。僕のほのかな光がハリネズミを照らすと、光と対峙する存在を僕の代わりにやってあげましょうと照り返してきた。

もう一度セットに戻った時には頭の中にしっかりと表現したい世界が浮かんでいた。満天の星空の下、広大な砂漠の中で明かりを灯して食事をした時、あの時の光とそれに照らされていた自分がそこにあった。涙が出るような壮大な星空。その下で蠢く小さな自分の存在と、それでも暖かい手と手元を照らす光、あの光。砂丘の峰をイメージしたドレープを作り、青白い星空の光を入れる、足元には乾燥した植物を置いた。

強く美しい光に我を忘れ、暗闇の中のほのかな灯で、大事なものを取り戻し、自分の光を構築できた。なんだかわかりづらいが、そういう話である。

ideaofphotography_vol9_10a.jpg冷静に色々な光と対峙するために、自分の中に光を吸い取るブラックバードを飼っておくといい。時には目の前の光を蹴っ飛ばし、真実に寄り添う。


※この記事はコマーシャル・フォト2022年6月号から転載しています。

関連情報

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Still Life Imaging スタジオ撮影の極意

当連載の筆者・南雲暁彦氏の著作「Still Life Imaging スタジオ撮影の極意」。格好良い、美しい、面白いブツ撮影の世界をコンセプトに、広告撮影のプロによる、被写体の魅力を引き出すライティングテクニックや、画作りのアイデアが盛りだくさんの内容となっている。

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