IDEA of Photography 撮影アイデアの極意

Vol.11 Drawing highlight 「Leica Noctilux-M 75mm f/1.25 ASPH.」

撮影・解説:南雲暁彦(凸版印刷 クリエティブコーディネート企画部)

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機材や被写体、テクニックやコンセプトなど、様々なエレメントから“写真のイデア”を展開していくこの連載。連載11回目となる今回からレンズ篇に突入、個性的なレンズを取り上げ、その作品創りにおけるポテンシャルを紐解いていく。僕にとって写真はそのままを記録するということではない。そこには個性的なレンズが介在し、自らの想いとともに目の前の事象を表現に変えていく。レンズ篇ではそんなレンズたちを通して感じた表現の話をしていく。

南雲暁彦
凸版印刷 クリエティブコーディネート企画部
チーフフォトグラファー
1970年神奈川県生まれ。幼少期をブラジル・サンパウロで育つ。世界約300都市以上での撮影実績を持つ。日本広告写真家協会(APA)会員。多摩美術大学、長岡造形大学非常勤講師。

ideaofphotography_vol11_2.jpg1/1000s f2.0 ISO100
撮影協力:深堀雄介
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最初の一本に選んだのは、「Leica Noctilux-M 75mm f/1.25 ASPH.」。75mmという珍しい焦点距離は目の前の気になる物をじっと見つめたときの少しだけ視野が狭まるような画角だ。

被写体としてクーペフィアットを選んだのはこれまで僕が最も撮り続けてきた車であり、そのフォルムを知り尽くし、かつ本気で捉えることができるものだから。ノクティルックスの類まれな表現力に翻弄されず、自分なりの一枚を撮るためには知り尽くした被写体を持ってくる必要があったのだ。

雨上がり、早朝の並木道にこの車を連れ出して撮影に挑んだ。ヘッドライトカバーの奥に潜んだライトバルブに信じられないようなディテールを与え、木漏れ日がハイライトを描いていく。湿気を含んだ柔らかい空気や濡れた路面の冷たさまで伝わってくる。


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【使用機材】
カメラ&レンズ
Leica SL2-S
Leica Noctilux-M 75mm f/1.25 ASPH.
Leica M-Adapter L

ライト
自然光

写真でしか出来ない表現を今一度感じさせてくれるレンズだ。



使用機材と被写体

今回使用した被写体と機材について、その特性と魅力を読み解く。
撮影設計の引き出しとして吸収してほしい。

1. 今回のレンズ Leica Noctilux-M 75mm f/1.25 ASPH.

ideaofphotography_vol11_3.jpgLeica Noctilux-M 75mm f/1.25 ASPH. 主なスペック
対応マウント:ライカMバヨネット / 焦点距離:75mm / 明るさ:f1.2 / レンズ構成:6群9枚 / 寸法:約Φ74×91mm / 質量:約1,055g

「ノクティルックス」というのは開放f値が1.4より明るいレンズに対し、ライカで使われる呼称だ。50mmが有名で、0.95から1.2まで様々なノクティルックスが存在してきたが、この75mmは唯一の50mm以外のノクティルックスとなる。すべてのガラスに異常分散性と低分散性のある物を使用し、そのうち2枚が非球面レンズと描写性能の追求には全く抜かりがない。M型ライカ用のレンズなので最短撮影距離は0.85mと長めだが、近距離での撮影に頼らずともボケや空気感は存分に表現できるし、ピントピークのキレも素晴らしい。

M型ライカのレンズとしてはかなり大型だが、75mmの超大口径というスペックからすると小型といっても良いほどの大きさ、緻密なビルドクオリティとシンプルで美しいデザインを持つ。何よりスペックだけではわからない表現力があると感じた。これを引き出し、どう使いこなすかはフォトグラファーにかかっている。レンズにおんぶに抱っこではいけない。


2. 被写体と使用カメラ

ideaofphotography_vol11_4.jpg30年経っても色あせないクーペのデザイン

ideaofphotography_vol11_5.jpgSL2-SとMレンズの組み合わせはもはや定番だ

純正のマウントアダプターLeica M-Adapter Lを使用してライカSL2-Sに装着。この組み合わせは重量バランスに優れる。ノクティルックスはM型ライカで最高パフォーマンスを発揮するレンズだが、ライカのSLシリーズはセンサー前のカバーガラスが非常に薄く作られており、Mレンズの性能を正確に受け止めることができる。映像エンジン、マエストロⅢの作り出すハイコントラストなトーンがまた素晴らしい。

被写体のクーペフィアットは1993年にクリスバングルがピニンファリーナとのコンペに勝利し生み出したデザインコンシャスの権化の様な車である。


バリエーション

レンズの持つパフォーマンスを活かして、様々なビジュアルを撮り下ろしていく。
フォトグラファーのアイデアとレンズのスペックが織りなすクリエイティブ。

ideaofphotography_vol11_6.jpg1/500s f2.4 ISO100

ideaofphotography_vol11_7.jpg1/80s f2.4 ISO100

ideaofphotography_vol11_8.jpg1/5000 f2.8 ISO400
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75mm f1.25というスペックから想像する、あるいは経験から導くイメージはどういうものだろか。適度に殺されたパースペクティブ、浅い被写界深度とピントピークから続くなだらかなグラデーションの様なフォーカスアウト。

もちろんそのイメージは疑う余地はないし、間違ってもいない。だが撮っている時に最も印象強く感じたのは「凄まじい立体感」。それは写真だけが生み出せるリアリティを伴いつつも肉眼を超えた世界だった。

クーペフィアットの大きな特徴となるリアフェンダーの盛り上がり、スパッと落とされたテールの造形、ウィンドウ越しのインテリア。ここまで象徴的で、ゾクっとするような存在感を伴った写真は見たことがない。

ideaofphotography_vol11_9.jpg1/1250s f2.0 ISO100
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閃光

Leica Noctilux-M 75mm f/1.25 ASPH.。レンズ篇第1回目にして、トリを飾るようなレンズを持ってきたのは逆に正解だったと思う。一気にレンズの持つ魅力に引きずり込まれ、写真表現のど真ん中に裸で立つことが出来た。今後この立ち位置から様々なレンズと共にその表現の話ができればと思う。

このレンズを使っていて、以前ライカのレンズ開発責任者と対談した時に、彼から聞いた言葉を思い出した。「最高のレンズを設計、製造し、そのレンズが導く光を最も純粋な状態でセンサーに導く。それが大事なことなのです。我々が欲しいのはPhotographyであり、Digital paintingではないのですから。」そうだ。まさに、徹底的に、ノクティルックスとS L2-Sが作り出すものはPhotography=“光が描いたもの”だった。

これはウィリアム・ヘンリー・フォックス・タルボットによる世界最初の写真集が「The Pencil of Nature (自然の鉛筆)」と名付けられたことをも想起させることであって、写真の何が素敵で、何が大事なのかということのオリジナルに触れた気がする。また写真特有の現実を切り取ったものでありながら、それを超えた表現をするという特徴もこの時点で認識されているようだ。

もう少し僕なりの解釈を踏まえて具体的に言うと、撮影とはフォトグラファーが光という自然の絵具を使い、レンズという筆を駆使し、撮像面というキャンバスを彩っていく、そこにはリアリティだけではない表現の領域が展開され、それが作品の個性になっていくということだ。

ノクティルックスは普通のレンズより良質な光をたっぷりと吸い込み、鋭く、柔らかく、撮像面に光画を描いていく。もうひとつ例えるならば、ものすごく広い音階を鳴らすことができる楽器とでも言おうか。広いダイナミックレンジの中で、それをどう描いていくか。その幅が格段に広い。

ここで面白いのが、ノクティルックスとS L2-Sの組み合わせは、その広い諧調をだらっとそのまま出そうとせず、「ここだ」というポイントに鋭い閃光のようなコントラストをつけて見せつけてくる。これはまさにマエストロだと思った。ちなみに今回掲載した写真はすべて撮って出しのJpegを調整せずに掲載した。

被写体にしたクーペフィアットはもう23年付き合っている僕の愛車だ、この車をデザインしたクリス・バングルという男は、当時フィアットデザインセンターの無名なカーデザイナーの一人だった。彼はピニン・ファリーナとのデザインコンペというほとんど勝ち目のない勝負の中で奮起し、大胆極まりないデザインを採用することにより奇跡的な勝利を手にした。そしてこの車と共に一躍カーデザイン界の寵児となっていく。このように一台の車が一人のヒーローを生んだ伝説を僕はリアルタイムに見ていた。そんな彼の引いたラインがこの車には宿っている。

様々な光の中、20年以上こいつと過ごしてきたことで、僕はそれを全て理解し、だからこそノクティルックスでもそれを表現したいと思ったのだ。今までのレンズでは表現しきれなかった僕の頭の中にあるクーペフィアットのIDEA。それを広大な光のレンジの中から引っ張り出そうというわけだ。

Leica Noctilux-M 75mm f/1.25 ASPH.の開放の被写界深度は浅く、ピントピークはどこまでも鋭い。ファインダーの中に潤沢に取り込まれた光には重さのようなものまで感じることが出来る。それが醸し出す空間はリアリティを持ちながらも圧倒的写真表現を生みだす可能性を秘めている。これを活かすには自分が表現したいポイントを確実に定め、確固たる意志のもとにそのピークを作り上げることが必要だ。このレンズの表現力にズボラに頼ってしまうのは愚の骨頂で、ノクティルックスとマエストロⅢ、そしてフォトグラファーの真剣極まりないコラボレーションが最高の演奏を生む。

ideaofphotography_vol11_10.jpg写真を撮る面白さはレンズを使いこなす面白さだと言っても良い。そのぐらい重要な表現のエレメントである。時には鋭く、ときには穏やかに。


※この記事はコマーシャル・フォト2022年8月号から転載しています。

関連情報

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Still Life Imaging スタジオ撮影の極意

当連載の筆者・南雲暁彦氏の著作「Still Life Imaging スタジオ撮影の極意」。格好良い、美しい、面白いブツ撮影の世界をコンセプトに、広告撮影のプロによる、被写体の魅力を引き出すライティングテクニックや、画作りのアイデアが盛りだくさんの内容となっている。

価格は2,300円+税。

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