IDEA of Photography 撮影アイデアの極意

Vol.15 ─ Beautiful World ─ 「Sony FE 12-24mm F2.8 GM」

撮影・解説:南雲暁彦(凸版印刷 クリエティブコーディネート企画部)

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機材や被写体、テクニックやコンセプトなど、様々なエレメントから“写真のイデア”を展開していくこの連載。今回は超広角ズームレンズの登場だ。24mmより短い焦点距離から超広角と呼ぶことが多かったが、それも今は昔。16-35mmが広角ズームの標準となった今、今回使用する「FE 12-24mm F2.8 GM」は、胸を張って超広角ズームと言える領域にいるレンズとなる。最大122度の画角が作り出す圧倒的なパースペクティブとズームならでは画角バリエーションを活かして作品を生み出してみよう。
南雲暁彦
凸版印刷 クリエティブコーディネート企画部
チーフフォトグラファー
1970年神奈川県生まれ。幼少期をブラジル・サンパウロで育つ。世界約300都市以上での撮影実績を持つ。日本広告写真家協会(APA)会員。多摩美術大学、長岡造形大学非常勤講師。

ideaofphotography_vol15_1.jpg15s f14 ISO800
撮影協力
アートアクアリウム美術館GINZA(東京都中央区銀座4-6-16 銀座三越 新館8F)
深堀雄介
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12mmという焦点距離は、ずぼらに使ってしまうと、ただ目の前のものが遠くに小さく離れていき、スカスカな画面の写真が生まれてしまう。「室内が全て画角に入ります」「広大な風景が撮れます」というのは良く聞く話だが、今回はもっとエキセントリックな使い方で、この超広角ズームの存在意義を形にしよう。

ロケ地に選んだのはアートアクアリウム美術館GINZA。金魚の美を用いたアート表現で、独特な展示を行っている空間だ。

メインカットに選んだ展示は、面を刻んだ球体の水槽を取り囲むように、折り紙の金魚が吊り下がっているアート作品だ。122度の画角をフルに活かしてこの中にレンズを突っ込み、画面全体を折り紙の金魚で埋め尽くす。手前の方に吊るされている金魚を少し揺らしながらスローシャッターを切り、本物の金魚が空中を泳いでいくかのごとく、尾びれのディテールを生み出した。


ideaofphotography_vol15_2.jpg

【使用機材】
カメラ&レンズ
Sony α1
Sony FE 12-24mm F2.8 GM

ライト
環境光

G MASTERとα1という豪華なマッチング。944万ドットのファインダーが活きる。



使用機材とその性能

今回使用した機材について、その特性と魅力を読み解く。
撮影設計の引き出しとして吸収してほしい。

1. 今回のレンズ Sony FE 12-24mm F2.8 GM

ideaofphotography_vol15_3.jpgSony FE 12-24mm F2.8 GM 主なスペック
対応マウント:Eマウント / 焦点距離:12~24mm / 明るさ:f2.8 / レンズ構成:14群17枚 / 寸法:Φ97.6×137mm / 質量:約847g

現時点で35mmフルサイズ12~24mmの全域で開放F値2.8を誇る超広角ズームレンズはこれしか存在しない。流石はミラーレス一眼の先駆けとなったSonyといったところで、フルサイズミラーレス用レンズのラインナップは頭一つ抜けていると言っていいだろう。

ナノARコーティングⅡ、 EDガラス3枚、スーパーEDガラス2枚、9枚の絞り羽、防塵防滴にフッ素コーティングと、G MASTERの称号に違わぬスペックを誇る。

そして今回使ってみてまず驚いたのは、その軽さだ。α1に装着して使用するので、軽く小さなボディとのバランスを心配していたのだが、杞憂に終わった。高画質なのはもちろんのこと取り回しの良さが光る。

またこの画角になると、画面の中で被写体がとても小さく、細かくなってくるのでα1の超高精細EVFは役に立った。この組み合わせの良さも記しておこう。


2. 超広角ズームの使い方と存在意義

ideaofphotography_vol15_4.jpg「広角はグッと寄って撮れ」の基本は今も昔も変わらない。

ideaofphotography_vol15_5.jpgメインカットを撮影したエリア。金魚を模した折り紙が吊られている。

12mmというような超広角域では、画角1度の差でも画面変化が大きく、2倍のズーム比から想像するより遥かにバリエーションに富んだ作画が可能だ。また撮り方もその特徴を活かすには、それなりのテクニックと作画の素になるイメージが頭の中に必要になる。

メインカットは12mmで一番広い画面を作り、三脚で固定。f14としっかり絞り込む。画面を被写体で埋め尽くして、遠近感と立体感を両立させた。上左の金魚のカットは、24mmで絞りは開放F2.8。手持ちで金魚との距離、背景の滲みを調整しながら不思議な空間を漂うように泳ぐシーンを作った。いずれも人の視覚では味わえない空間を演出できた。同じレンズで撮影したとは思えないほど、撮影者のイデア次第でバリエーションを創り出せる。


バリエーション1

レンズの持つパフォーマンスを活かして、様々なビジュアルを撮り下ろしていく。
フォトグラファーのアイデアとレンズのスペックが織りなすクリエイティブ。

ideaofphotography_vol15_6.jpg1.3s f8 ISO100
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ideaofphotography_vol15_7.jpg1/10s f2.8 ISO200
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上の2枚は、被写体のセンターにカメラを置き、シンメトリックに作画した。このような撮り方は、しっかりとカメラがセンターにきていないとバランスが悪くなる。また被写体によっては、パースのつき方で、不自然に見えるものもある。

例えば上のカットの上部に浮いている月のオブジェは、ここからずらして配置すると放射状に引っ張られて楕円になってしまい、このような落ち着いたイメージは無くなってしまう。このカットはスローシャッターで金魚の軌跡を表現しているので、それ以外の余計な動的要素は排除している。

下のカットは、四角い水槽に近寄り強いパースを付け、背景をぼかして浮遊感のある空間演出を施した。どちらのカットも微細な位置調整が必要なカットである。


バリエーション2

レンズの持つパフォーマンスを活かして、様々なビジュアルを撮り下ろしていく。
フォトグラファーのアイデアとレンズのスペックが織りなすクリエイティブ。

ideaofphotography_vol15_8.jpg3.2s f18 ISO100
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これは会場の最後に展示されている華道家、假屋崎省吾氏がアートアクアリウムとのコラボレーションで製作した作品である。

かなり大きな作品で、色々な方向から見て楽しめるようになっているとは思ったが、おそらくどこかにセンターがあるはずだ。そう思い、かなり慎重にアングルを探した。カメラ位置を決めるのに一番時間がかかったのはこのカットだ。何せ超広角でこの距離だとほんのちょっと動くと、劇的に見え方が変わる。前後上下左右12mmから24mmまで全て試して、南雲的センターをやっと掴んだ。

アートアクアリウムに華道家がアートを加えて、それを写真家がアートするのはこんなに大変なんだと思ってしまった。「だが楽し」である。


フォトグラファーに花束を

僕が初めて手に入れた広角レンズは28mm F3.5だった。それまで持っていたレンズは50mm F1.4だったから、それと比べると、随分と小さくて暗いレンズだなあと思ったが、そのF3.5が作る、暗いファインダーの中に写る広々とした空間に、自由さえ感じたのを覚えている。今まで視界に収まらなかった空間が、ギュッとファインダーに集まり、1枚の写真になって手に取れる面白さ。レンズ交換式の一眼レフの面白さとは、こういうことだと教えてくれたのが広角レンズだった。広い空間を自分の視界に収め、手に入れる。それが広角レンズの醍醐味だ。

そして今や、12-24mmのズーム、しかもF2.8という明るさで、それが実現できる時代になった。その空間征服感は凄まじいものがある。ただしこれを上手く統治するには、広大な土地を治めるのと同じく、領主の裁量が必要となってくるのは言わずもがな。その情報量たるや28mmとは比べものにならないのだ。

僕は画角の広いレンズほど、アングルにごまかしが効かないと思っている。今回もやはり、微細なアングル調整に力を注いだ撮影だった。この世界の広がりを繊細に統治するような作業は、遠く異国の土地に出向いて、一葉の思い出を作ってくるような超望遠レンズの撮影とは、かなり趣の違う仕事だ。ともあれ、美しい世界ができあがったので、いい仕事ができたのではないだろうか。

とにかく、今回撮影させてもらったアートアクアリウム美術館GINZAの魅力は本当に大きく、ご協力に心から感謝したい。以前から本気で撮影してみたいと思っていたので、素晴らしい時間を過ごすことができたし、この誌面を通じてフォトアート的にその魅力をお伝えすることができたと思う。

今回僕がやったことは、すでに完成された表現として、展示されている空間への写真的挑戦とでも言おうか。記録写真ではなく、写真家がこの空間をさらに表現したらどうなるかを見せたいという気持ちが強かった。当然のことながら安易な撮影は許されず、この超広角ズームという凄まじい個性を持った唯一無二のレンズを使いこなして世界観を作ることが必要だったという訳だ。また写真の神様も味方についてくれたようで、スローシャッターで動きを出そうと揺らした折り紙の金魚が、まるで生きているようにヒレを動かして泳ぎ始めたのには感動した。僕の撮影設計から想像を超えて、いい表情を出してきたのは嬉しかった。やはり“IDEA of Photography”は普通であってはならない。

写真というのは面白いものだなあと改めて思う。今回の超広角ズームレンズを含め、超望遠ズーム、拡大マクロ、超大口径、超高画質と、この連載で触れてきたレンズだけでも全く違うアイデアやテクニックを必要とし、各々使いこなせると本当に充実した時間を過ごすことができる。これは写真を通して、フォトグラファーだけが可能な世の中との対話ができているのだろうと感じた。もちろんこれはレンズだけが担っている訳ではなく、一眼レフやレンジファインダー、スマートフォンなど、それぞれのカメラの特性や、フォルム、色、光、テクスチャーといった被写体の持つ魅力など、今まで連載で取り上げてきた様々な写真のエレメントが、その対話を構築している。

「IDEA of Photography撮影アイデアの極意」は、今回の第15回をもって最終回を迎える。今まで読んでくださっていた読者の皆様には感謝の気持ちが尽きない。妥協せずに本気で企画、撮影、執筆をやってこられたのは、「読んでくれている人がいる」という一心からだった。図らずも最後の被写体になったのが大きなフラワーオブジェ、何か花束をいただいたような気持ちになり、これをしっかり撮って読者の皆様にお届けしようと思った。

スマートフォンからレンジファインダーまで、全てのフォトグラファーに花束を!

ideaofphotography_vol15_9.jpgイデア(理想)を持ち、求め、シャッターを切る。それが極意だ。


※この記事はコマーシャル・フォト2022年12月号から転載しています。

関連書籍1

20230414_ideaofphoto.jpg
IDEA of Photography 撮影アイデアの極意

当連載を一冊にまとめた「IDEA of Photography 撮影アイデアの極意」。カメラ篇・被写体篇・レンズ篇の3部構成で、15点の作品を解説と合わせて掲載。また、コラム「ブツ撮りエフェクトアイデア」では、被写体を際立たせるために施す7つのアイデアを用いた作品も掲載。フォトグラファーはもちろん、写真を扱う全てのクリエイターにとって、ビジュアル設計の引き出しを増やすための助けとなる1冊。

価格は2,300円+税。

関連書籍2

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Still Life Imaging スタジオ撮影の極意

筆者・南雲暁彦氏の著作「Still Life Imaging スタジオ撮影の極意」。格好良い、美しい、面白いブツ撮影の世界をコンセプトに、広告撮影のプロによる、被写体の魅力を引き出すライティングテクニックや、画作りのアイデアが盛りだくさんの内容となっている。

価格は2,300円+税。

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