IDEA of Photography 撮影アイデアの極意

Vol.13 ─ The New Standard ─ 「Canon RF100mm F2.8 L MACRO IS USM」

撮影・解説:南雲暁彦(凸版印刷 クリエティブコーディネート企画部)

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機材や被写体、テクニックやコンセプトなど、様々なエレメントから“写真のイデア”を展開していくこの連載。13回目はマクロレンズを選んだ。単焦点レンズの中でも今や特殊な立ち位置になった感があるが、実は中望遠のマクロレンズには銘玉が多い。近接撮影域で良好な画質を得るためには様々な光学的課題を乗り越える必要があり、通常のレンズよりシャープだというのもその理由のひとつだろう。そして今の時代のマクロレンズはどう進化しているのか。それを使いこなしてみたいと思う。

南雲暁彦
凸版印刷 クリエティブコーディネート企画部
チーフフォトグラファー
1970年神奈川県生まれ。幼少期をブラジル・サンパウロで育つ。世界約300都市以上での撮影実績を持つ。日本広告写真家協会(APA)会員。多摩美術大学、長岡造形大学非常勤講師。

ideaofphotography_vol13_1.jpg1/50s f2.8 ISO3200
撮影協力:KANADE
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レンズ篇に突入してから特徴的なレンズを選んで作品制作を行なってきたが、今回この RF100mm F2.8 L MACRO IS USMを選んだ理由はただひとつ。単体で1.4倍まで可能な近接撮影能力を持った唯一の中望遠マクロだからだ。

今回撮影したのは瞳を中心とした子どもの目だ。子どもの目というのは透明感が高く澄んでいて、非常に魅力的なのだが、大人と比べるとひとまわり小さく等倍では少し物足りない画角になる。

そこでこのレンズの出番だ。1.4倍、最近接撮影で画角を作った。光源は色相を変えられるLEDを1灯使い、虹彩を浮き彫りにするライティングを施している。そのままの色だと、医療用の写真のようになってしまうので、色相をレッドに変えてイメージを作った。


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【使用機材】
カメラ&レンズ
Canon EOS R3
Canon RF100mm F2.8 L MACRO IS USM

ライト
LIFX A19

R3とのコンビネーション。思いの外、軽く振り回せる。



使用機材と被写体

今回使用した被写体と機材について、その特性と魅力を読み解く。
撮影設計の引き出しとして吸収してほしい。

1. 今回のレンズ Canon RF100mm F2.8 L MACRO IS USM

ideaofphotography_vol13_3.jpgCanon RF100mm F2.8 L MACRO IS USM 主なスペック
対応マウント:RFマウント / 焦点距離:100mm / 明るさ:f2.8 / レンズ構成:13群17枚 / 寸法:約Φ81.5×148mm / 質量:約685g

90mmから105mm近辺には、各メーカーから高性能を謳うマクロレンズが多く存在してきた。描写に関しては優れているもが多いのだが、1/2倍~等倍撮影が近接撮影領域の限界で、そこから先は中間リングやベローズをお使いくださいということになっている。

そこに登場したのがこのレンズだ。この焦点距離のマクロレンズはポートレイトやブツ撮りでも活躍し、さらに寄って小物の撮影も、というかなり守備範囲の広いレンズなのだが、「さらにもう一歩寄りたい」というときに、このレンズならば中間リングやテレコンバーターに頼らずに撮影できる機動力を持っている。

キヤノンの100マクロはもともと画質に定評のあるレンズで、僕も散々使ってきたが、RF化にあたりしっかりと進化して登場したのは素晴らしいと思う。他にも前後のボケ味を変えたりソフトフォーカスを演出できるSAコントロールリングなるものも搭載されている。


2. 等倍と1.4倍の差

等倍 ideaofphotography_vol13_4.jpg
1.4倍 ideaofphotography_vol13_5.jpg

これが今後の中望遠マクロのスタンダードな倍率となるか。

被写体の全てを最大撮影倍率で撮影するわけではないが、ここでその等倍と1.4倍の違いを比べておこう。左の画像が他社の105mm等倍マクロで、右の画像がCanon RF100mm F2.8 L MACRO IS USMである。お互いマニュアルフォーカスで最近接にして距離を詰めて撮影した。思いの外0.4の違いが大きいのがおわかりいただけるだろう。この「もう一寄り」は望遠レンズで考えると、150mmほど稼げているように感じる。ここまで必要ない、という人もいると思うがコンバーターなしでこれだけ表現の幅が広がっているのは単純に喜ばしい。

今までトリミングなどで対応していた小さなアクセサリーの写真なども、これでかなり解消されるはずだ。被写界深度は準じて浅くなるので、ちょっとでいいからアオリが使えたら…と思ってしまった。


バリエーション1

レンズの持つパフォーマンスを活かして、様々なビジュアルを撮り下ろしていく。
フォトグラファーのアイデアとレンズのスペックが織りなすクリエイティブ。

ideaofphotography_vol13_6.jpg5.2s f32 ISO1600
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1/18スケールのモデルカーに搭載されたエンジンを撮影。全長は7~8cm程度なので、等倍まで寄れるマクロレンズの撮影範囲に収まるのだが、このように斜めのアングルで寄っていくと被写界深度が極端に浅くなり、せっかくの作り込みがボケてしまう。そこでしっかり絞って撮影すると、レンズのポテンシャルがあらわになる。

通常、絞れば絞るほど被写界深度は深くなるが、その分解像度は低下する(回析現象)が、キヤノンのデジタルカメラには、独自のデジタルレンズオプティマイザーという機能が搭載されており、回折現象による画質低下を軽減できる。

F32まで絞りつつも、デジタルレンズオプティマイザーの恩恵を受けた高画質の画像がこれだ。


バリエーション2

フォトグラファーの思い描くビジュアルをどこまで表現してくれるのか。
レンズの特性をさらに活かした撮影を行なう。

ideaofphotography_vol13_7.jpg0.3s f2.8 ISO6400

ideaofphotography_vol13_8.jpg2.0s f4.5 ISO100

ideaofphotography_vol13_9.jpg0.5s f8 ISO100

ideaofphotography_vol13_10.jpg1/6s f2.8 ISO100
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ここではもっと自由にマクロレンズを使いこなし、バイオリンをモチーフにその表情を浮き彫りにした。

絞りを浅くすることで空気感が生まれ、このようにフォーカスしたい部分が1点という撮り方では、その1点がふっと浮かび上がってくる。シンプルにその空間に浮かぶフォルムを見せたかったのでモノクロで撮影したのだが、やはりマクロレンズは面白い。

60cmほどの楽器の中に、色々な魅力を見つけ出し、浮き彫りにしていく宝探しのような撮影になる。古い楽器には演奏の歴史が宿っているのだ。

このレンズが僕の表現したいことにしっかりとついて来てくれるのもわかった。昔からマクロレンズは使っているが、いつの時代も必要な1本である。


偽りなき光

マクロとは、巨大であること、巨視的であることを意味する。マクロレンズとは、巨視的視覚を可能にするレンズ、つまり小さいものを大きく撮ることのできる光学系を持ったものである。

なんだか回りくどい表現だなあと思う。ミクロレンズとかクローズアップレンズとした方が、意味合いはダイレクトでわかりやすいのにとよく思うが、長いカメラ文化の中で近接撮影が可能なレンズは「マクロレンズ」が標準的な言い回しになっている(そういえばニコンはマイクロニッコールだが、これはこれで逸話があるらしい)。

なんでこんなことを言い出したかというと、実は「マクロ写真の定義」というのがあって、それは「原寸大より大きい倍率で撮影する写真」ということらしい。マクロ写真が撮れるレンズがマクロレンズ、ということで標準化していったのであろうが、なんと今までマクロレンズと呼ばれていた物は、ほとんどが等倍を超えない。つまりマクロ写真が撮れないマクロレンズだったということになる。まあどうでもいい話だが、それでもこのレンズの誇る1.4倍というのは、立派に胸を張ってマクロレンズだと言えるわけだ。

さて、僕はこのレンズに対し、徹底的にこの倍率を手に入れたことを称賛したい。総合的に優れているし、新しい機能が搭載されているのもキヤノンらしい部分だが、やはりベーシックな部分の進化が最も重要で、撮影設計の中の選択肢として頭ひとつ抜けた存在となったのは確かである。等倍との差はコーヒー豆の写真でおわかりいただけたかと思うが、テレコン1個分ぐらい違うし、そういった光学系を増やすわけでもないので画質的にも有利だ。また、絞りがF32まであるのも必然ではあるが「わかってるなあ」と感心してしまう。

キヤノンはTS-Eシリーズもマクロ化を果たしているし、このラインナップのRF化にも期待が高まる。

僕が今回メインカットで撮影したのは「瞳」だ。撮影設計としては35mmフルサイズにぴったり収まるようにフレーミングできるレンズということだが、そうまでして表現したかったものは何か。

設計は物理的な条件だが、その前に作品としてのコンセプトがあってこそのクリエイターだ。今回僕が表現したかったものは「瞳の機能美」である。人が得る情報の8割は視覚から得ている。考えてみると「何々がしたい」というのは、多くの場合に「何々が見たい」ということに繋がる。「どこかに行きたい」とか「誰々に会いたい」というのは基本的に「それを見たい」ということが欲求のほとんどで、素晴らしい景色を見たり、久しぶりに会う人の笑顔を見たりすることで、まずはその欲求は満たされる。そしてその本物を見て、瞳から人に入る光は単なる情報から感情になり、視覚以上の感覚へと導かれるだろう。

もちろん味覚や嗅覚、音など目から入れられない感覚も大事だ。そこに反論の余地は無いが、感覚を得る機関として瞳には圧倒的に優れた特徴がある。それは舌や鼻や耳と違って自らも表情を発して感情を表現する器官であるということだ。しかもそれは、五感を使って得た全ての感覚を束ねて自らの感情として発するのである。「目は口程にものを言う」というが本当にその通りで、人の持つ表現器官の中で最も饒舌で、嘘がつけず、純粋で、それが故に美しい。

そういう機能が目には備わっている。いやそれ以上に、その人自身の今までの経験に基づく人生の深みや、未来を見つめる希望に満ちた光まで発する器官だろう。

優れたマクロレンズは僕のこの表現を支えてくれた。そして人間のレンズ(瞳)はそれ以上に素晴らしい宝なのだ。

ideaofphotography_vol13_11.jpg小さな水滴も一回り大きく、その瞬間の表情まで見えてくる。さあ、身の回りの宝を探そう。


※この記事はコマーシャル・フォト2022年10月号から転載しています。

関連書籍1

20230414_ideaofphoto.jpg
IDEA of Photography 撮影アイデアの極意

当連載を一冊にまとめた「IDEA of Photography 撮影アイデアの極意」。カメラ篇・被写体篇・レンズ篇の3部構成で、15点の作品を解説と合わせて掲載。また、コラム「ブツ撮りエフェクトアイデア」では、被写体を際立たせるために施す7つのアイデアを用いた作品も掲載。フォトグラファーはもちろん、写真を扱う全てのクリエイターにとって、ビジュアル設計の引き出しを増やすための助けとなる1冊。

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関連書籍2

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Still Life Imaging スタジオ撮影の極意

筆者・南雲暁彦氏の著作「Still Life Imaging スタジオ撮影の極意」。格好良い、美しい、面白いブツ撮影の世界をコンセプトに、広告撮影のプロによる、被写体の魅力を引き出すライティングテクニックや、画作りのアイデアが盛りだくさんの内容となっている。

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