2022年12月23日
美術家・映像作家の中村壮志氏が、Canon EOS R5 Cを使用して、新たな劇場作品『永遠の休暇』を制作。2022年11月25日・26日にMOA美術館 能楽堂にて上映された。『井筒』という能の曲から インスピレーションを受け、制作された本作品。今回はその制作の過程から、作品に込めた中村氏の想いを聞いた。
中村壮志 永遠の休暇
上画像撮影:KENJI AGATA ATAMI ART GRANT 2022
協賛=キヤノンマーケティングジャパン Cast=里々佳・遊屋慎太郎 Dir=中村壮志 P=福谷 崇 L=海道 元 ST=服部昌孝(Hattori Pro.) HM=菅谷征起 (GÁRA) R+MA=高橋 勝 PM=池田 駿(Hattori Pro.) 制作=Hattori Pro.
─能楽堂でのイベントということでしたが、どのような上映だったのでしょうか。
上映ではなく公演とも言えるような、能楽堂だからこそできる演出を考えました。まず、舞台に語りが現れ、より作品に没頭してもらえるようなヒントを織り交ぜつつ、あらすじを語ります。今回は、太田光海という映画監督に語りを依頼し、彼が舞台からはけると同時に映像作品が上映されるといった、能の構造を活かしたような舞台にしました。なので劇場作品と題しています。
─作品も能の曲から着想しているとか。
『井筒』という能の曲をベースにしています。ストーリーを簡単に話しますね。
旅の僧が、寺を訪れます。そこで出会った女性から、在原業平と妻の恋物語を聞きます。幼馴染みであった2人が小さい頃に井戸の水面へ面影を映し合っていたことなど。話を聞いていると、その女性が実は業平の妻の霊であることがわかり、その晩、僧の夢の中に現れます。女性は業平の形見の衣装を着て、思い出の井戸の水面に映る自身の姿に業平の面影を見るのです。純粋に愛した想いを静かな舞に託す。そこで僧は夢から覚めます。
─それを現代劇にしていったのですね。
登場人数、男女の会話劇、大筋の流れといった部分はそのままに、“映画”という要素をテーマにして、現代劇の脚本を書きました。
映画好きの男性が、今はなき映画監督のお墓参りに向かうための船を待っているところで、女性と出会う。女性はその監督に知見があり、2人は意気投合し彼の過去の映画の話をしながら、ベンチで一緒に待つことになる。女性は今ではフィルムが残っていない未完の作品についても話し出す。知るはずもない内容をなぜ知っているのか。といった内容です。
─なぜ、映画という要素を取り入れたのでしょうか。
そもそも僕が、もう観ることができなくなった映画に強い興味を持っていて、タイトルだけ残っていたり、一部分だけフィルムが残っていたりするものが結構あるんです。それに儚さを感じたり、人から伝え継がれているストーリーに思いを馳せたり、そういったところに魅力を感じます。
僕が制作する上映環境やインスタレーションも、その空間でしか体験できないもので、「今はもう観ることができないものをどう捉えるか」といったテーマで合わせていきました。特に日本はフィルムの失い方が特殊だったりするので、日本映画という文化を個人的に見つめ直したかったのかもしれません。
─水面やススキといった『井筒』の中で重要となる要素も取り入れていますね。
寄せては返す波や水面のきらめき、繰り返しのようで毎回違う動きに、時間の流れや地球規模の現象を表現しました。もしかすると永遠という言葉の逆説なのかもしれません。水場という共通点だけではなく、船で海を渡る行為に、あの世とこの世、時間や時空を移動するといったニュアンスを持たせました。
上映も秋の季節なので、ススキを映しています。季節を象徴するものに趣や美しさを感じるのは、日本人には根付いているものですし、能や詩でも重要なエッセンスですよね。
─演出や表現でこだわったポイントはどこでしょうか。
能を扱っているということもあり、会話劇を中心にシンプルな絵作りを意識しています。舞台を観ているような映像にしたかったので、ほとんど定点で撮っています。セットも簡易的にして、動きも最小限に。
物語はベンチで始まって、最後もベンチで終わるのです。この辺りも映像が始まる前の語りや、映像の中の会話に伏線があり、作品自体が入れ子構造のようになっています。また約13分ほどの会話を長回しで2カメで撮影しています。これにより会話の間や、リアクションなども自然に撮影することができました。
撮影にはEOS R5 Cを2台使用。ボディが小型軽量なため、ロケーションチェンジやセッティングがスムーズで、撮影に集中することができました(中村)。
EOS R5 Cの詳細はこちらから
https://cweb.canon.jp/cinema-eos/lineup/digitalcamera/r5c/
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