2010年06月14日
Photoshop CS5は、Windows版だけでなくMac版も64-bit OSにネイティブで対応となり、高速な処理が可能となる。「ADOBE PHOTOSHOP CS5 ハンドブック」では検証ができなかったが、ようやくテストの機会を得たので詳しくレポートする。なお、今回から原稿の執筆はフォトグラファーの黒川英治氏にバトンタッチ。
Photoshopが64-bitに対応したメリットとは?
Photoshop CS5を開発するにあたり、アドビ システムズはプログラムのコーデックを根本から見直している。Mac版のCS4までは、Mac OS Xのクラシック環境との互換性を重視した「Carbon」をベースにコードが書かれていたが、CS5は、Mac OS Xネイティブの「Cocoa」をベースに刷新されている。つまり、プログラム自体が全くの別物になっていると言っても過言ではない。
64-bit化のメリットとしては、大量の画像で高精細な処理をする場合や、GB(ギガバイト)クラスの大きな画像を操作する場合に、高速な処理が可能となると言われている。
そもそも32-bit版OSと64-bit版OSでは、システムが認識できるメモリ量も大きく変わってくる。32-bit版OSではシステム上メモリ容量4GBが上限と定められていたが、64-bit版OSではこの上限がなくなる。アプリケーション自体が64-bit対応することで、搭載メモリの最大限まで作業スペースとして割り当てることが可能となり「より速く、精細に」が実現するわけである。
Adobe Creatives Suite 5 のキャッチフレーズでもある「より速く、精細に」が、果たしてどこまで実現されているのか、64-bitネイティブサポートを実現したMac版の処理速度をテストした。
処理速度測定のための準備
使用したマシンと環境
まず、今回のテストに使用したマシンを紹介しておこう。
Mac Pro 8-Core
・2.26GHz Quad-Core Intel Xeon "Nehalem" プロセッサ x 2
・8GB(1GB X 8)メモリ
2.26GHzのCPUを8コア搭載した史上最強のモデル。メモリ搭載量を8GBにしたのは、予算面で現実的な環境として、よりユーザ目線に近い測定をすることが目的である。
MacBook Pro 17inch
・2.66GHz Intel Core i7プロセッサ
・4GB(2GB X 2)メモリ
こちらも現在出ているMacBook Proの最高峰。普段は2.66GHzの速度で動作しているCPUであるが、統合的な負荷が掛かる処理の場合は、主力コアの速度を3.33GHzまで引き上げる「ターボブースト機能」に対応している。
どちらのマシンも本格的な64-bit OSであるMac OS X 10.6 Snow Leopardで検証を行った。通常、Snow Leopardを起動すれば、周辺機器などの互換性の関係で、32-bitカーネルで起動する(カーネルとはOSの中核となる部分)。64-bitカーネルで起動するには、「6」+「4」を押しながら起動する。ただ、32-bitカーネルも64-bitカーネルも見た感じは同じである。違いがわかるとすれば、「システムプロファイラ」を起動させた時だ。「64ビットカーネルと機能拡張」の項目が「はい」であれば 64-bitカーネル、「いいえ」であれば32-bitカーネルということである。
システムプロファイラ 64-bitカーネル(上)と32-bitカーネルの比較
64-bitカーネルで起動
32-bitカーネルで起動
Photoshopを64-bitモードで起動する
OSを64-bitカーネルで起動したら、次はPhotoshopを64-bit版として使用するための準備だ。
アプリケーションフォルダの「Photoshop CS5」本体を選択、ファイルメニューの「情報を見る」で、「32ビットモードで開く」にチェックが付いていないことを確認する。
そしてPhotoshopを起動すると、スプラッシュスクリーンに 「x64」と表示される。
Photoshop CS5を32-bitモードで起動した時には、「バージョン 12.0」としか表示されないが、64-bitモードでは「バージョン 12.0 x64」となっているのが確認できる。
処理速度の測定値
テスト内容は以下の5項目である。
① Nikon D3sで撮影したRAWデータ(1210万画素)1000枚を、「Camera Raw 6」の再サンブル機能を使用して、標準(1210万画素)・縮小(160万画素)・拡大(2510万画素)で各々JPEGとTIFFに書き出す。
② 2510万画素画像=約71MB を1GBに拡大
③ 1GBの画像を90度回転する
④ 1GBの画像に「ぼかし(シェイプ)...」をかける
⑤ 1GBの画像に「モザイク(200平方ピクセル)」をかける
①のテストについては、色域はAdobe RGB、色数は8bit、RAWデータは全て同じ画像を使用という条件でテストをした。
②〜⑤では、「違う画像を10枚」処理した場合の速度を測り、最も速かったものと最も時間がかかったものを除いた8画像の処理速度を合計して平均値を出した。
テスト①-1 RAWデータ1000枚の書き出し(サイズ変更なし)
1210万画素のRAWデータ1000枚を、そのまま1210万画素のJPEGとTIFFに書き出す時間を各々計測した。
下のグラフで、「フェイク64-bit」という言葉が出てくるが、これはOSを32-bitカーネルで起動し、Photoshopを64-bitモードで起動した場合の検証結果を指している。「64-bit起動」はOS、Photoshopとも64-bitの場合、「32-bit起動」は両方とも32-bitの場合である。
いずれのテスト結果でも「64-bit起動」が最も高速だったのは予想通りだが、意外なことに「フェイク64-bit」が健闘しているのが見て取れる。
Mac Pro 8-Coreでは、マシンの性能が高すぎるので、ほとんど差を感じられない。一方 MacBook Proは一般的なものに比べて高性能であるが、飛び抜けている性能ではないので、割と平均的なマシンでも似た結果になると捉えることができるだろう。参考値として1210万画素のJPEGに書き出す場合にだけMacBook Proに参加してもらった。
テスト①-2 RAWデータ1000枚の書き出し(サイズ縮小)
1210万画素のRAWデータ1000枚を、160万画素に縮小したJPEGとTIFFに書き出す時間を各々計測した。
「Camera RAW」の今までの特性から、このテストが一番時間が掛かると予測していたが、プログラムコードを全て書き直したというだけあって、体感的にも非常に高速化されていることがわかる。
これまでの「Camera Raw」は、バックグラウンドで Rawから一度 TIFFに書き出してから縮小してJPEGに保存というプロセスであったようだが、「Photoshop CS5」の「Camera Raw 6」では、このプロセスも全て見直されたようである。ただ、意外にもTIFF書き出しの際の「フェイク64-bit」がとても遅かったのが残念である。
テスト①-3 RAWデータ1000枚の書き出し(サイズ拡大)
1210万画素のRAWデータ1000枚を、2510万画素に拡大してJPEGとTIFFに書き出す時間を各々計測した。
さすがに1枚の画像が約72MBと巨大化するために書き出し作業も遅くなっているが、それでも高速処理されていることに違いはない。ここでも「フェイク64-bit」が大健闘している。
テスト② 画像の拡大
このテスト以降は「MacBook Pro」に本格的に参加してもらう。ここからは「フェイク64-bit」の検証は省いて、OSもPhotoshopも「64-bit起動」の場合と、両方とも「32-bit起動」の場合を比較してみた。
ここで、OSとPhotoshopの動作ビット数による速度の違いが明確に出てきた。Mac Proでは大した差は出ていないが、MacBook Proでは、「64-bit起動」と「32-bit起動」とで大きな差が出ているのが見て取れる。
テスト③ 画像の回転
1GBの画像を回転させる操作は、想像以上に重い処理であるが、MacBook Proの32-bitに比べて、Mac Proの64-bitは20倍も速いという驚きの結果となった。このテストでは、動作ビット数だけでなく、マシンの性能差も加わって、違いがさらに際立っている。
テスト④ フィルター(ぼかし-シェイプ)
このテストでは、単純にマシンの性能差と動作ビットの違いが反映された結果となっている。
テスト⑤ フィルター(モザイク)
Mac Proの32-bitより、MacBook Proの64-bitの方が速くなっているところが、これままでの結果と違っていて興味深い。フィルターの種類によっては、CPUの性能以上に、動作ビット数の方が演算スピードに関係が深いようだ。
テスト結果の考察
以上のテストを行なってわかったことは、OSとPhotoshopを両方とも64-bitで起動した場合の圧倒的な速度である。32-bitと64-bitであまり大きな差がない場合もあったが、処理の内容によっては同一のマシンでも2倍から4倍くらいの速度差が出ることもあった。
Mac Pro 8-Coreを64-bitで動かした時の驚異的なスピードも印象深い。さすがMacの最高峰だけのことはある。今回は8GBメモリで検証を行なったが、さらにメモリを搭載した時に一体どうなるのか興味は尽きない。
冒頭でも述べたが、64-bit化による高速処理のメリットは、大量の画像を一度に処理する場合や、GB(ギガバイト)クラスの大きな画像を操作する場合に顕著となる。こういった仕事が多いフォトグラファーやレタッチャーにとっては、今回のバージョンアップは意義のあるものと言えるだろう。PhotoshopをCS5にバージョンアップしたら、OSも同時に「Mac OS X 10.6 Snow Leopard」にアップグレードしたり、マシンを買い替えたりすることで、作業効率の向上をはかり、より快適な環境を手に入れよう。
それからもう一つ興味深かったのは、意外と「フェイク64-bit」が健闘しているという点である。
本格的な64-bit OSとして登場したMac OS X 10.6 Snow Leopardが、通常は32-bitカーネルで起動していることを知る人は意外と少ないだろう。とすると、多くの人はこの「フェイク64-bit」の状態でPhotoshop CS5を使っているのではないだろうか。今回の検証結果によると、それでもかなりのメリットがあることがわかったのは収穫である。
しかし、より速度を追求するのであれば、Snow Leopardを64-bitカーネルで起動させることをオススメしたい。ただ、OSを64-bitで起動すると、周辺機器の互換性の問題が出てくることもわかっている。今後、時間を見つけてMacBook Proでフェイク64-bitをもう少しテストして、周辺機器がうまく動作するかも検証してみたい。また、現在MacBook Pro用のメモリが世界的に不足しており、今回のテストにも間に合わなかったので、実装メモリを追加したMacBook Proも再テストしてみたい。
最後にもう一つ速度向上のTIPSがある。Photoshop、Bridgeともに仮想記憶とキャッシュで起動ディスクの空き部分を大量に使用するので、仮想記憶用外付けHDDを1台追加してほしい。マシンを新調したほどの快適感が味わえるはずだ。ぜひ試してみてほしい。
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黒川英治 Eiji Kurokawa
写真家。1965年東京都生まれ。Triceps代表取締役。大阪写真専門学校(現・大阪ビジュアルアーツ専門学校)を経て、1985年頃よりパリをはじめヨーロッパ各地で過ごし、自らの芸術性にヨーロツパの影響を受ける。ファッション誌やCDジャケット、広告写真を手がけるほか、コマーシャルプロデュースや、婚礼写真のデイレクションも行うなど幅広く活動。日本のみならずアメリカ、ヨーロッパでも活躍。コンピュータにも才があり、デジタル写真の分野においても異才を放つ。APA(日本広告写真家協会)正会員。
- Camera Raw徹底研究 ④ CS5で追加された機能
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- パペットワープ
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- HDR Pro と HDRトーン
- 「レンズ補正フィルター」の強化
- Camera Raw 6
- Mac版の64-bitネイティブサポート、驚愕の処理速度
- コンテンツに応じた修復とパペットワープ
- 使える「HDR Pro」と「境界線を調整」
- フォトグラファーに便利な3つの機能
- 64-bitの対応とGPU機能の強化