2013年09月18日
フォトグラファー TAKAKI_KUMADAが水中撮影に挑戦
コマーシャル・フォト 2013年9月号表紙
数年ほど前からVOGUE、ELLEなどの海外のファッション誌では、表紙撮影にREDデジタルシネカメラを使い話題となっている。今はまだ事例こそ少ないが、シネマカメラの性能が上がるにつれ、動画からスチルカットを切り出して雑誌やグラフィック広告を作るというワークフローは、さらに増えていくだろう。ならば本誌「コマーシャル・フォト」でも早急にトライしなくてはなるまい。
というわけで、9月号の表紙はRED EPICでの撮影。
フォトグラファーはTAKAKI_KUMADA。動画/静止画のレタッチはフォートン。しかもKUMADAさんから出た撮影のアイデアは、水中でのファッションムービー。ドレスを着て水中で動くモデルを5K/ハイスピードで撮影し、そこから表紙カットの切り出すというものだ。
「REDって水中で使えるんですか?」という編集部の心配をよそに、強力な水中撮影チーム、照明チームのサポート、最新の機材、そして何度も水に潜るモデル、水深5mのプールに沈みカメラを回すKUMADAさん、そんな最先端技術と体育会系「人力」で9月号の表紙は完成した。撮影の様子をレポートしよう。
PHOTOGRAPHER:TAKAKI_KUMADA HAIR: DAI MICHISHITA@FEMME MAKE UP: YUKA WASHIZU@FEMME STYLING:TOSHIO TAKEDA@MILD CAMERA CHIEF:TADANOBU USUI LIGHTING DIRECTOR:TETSU MORITERA MODEL:OLA KOWAL@DONNA 水中撮影機材:AQUA GEO GRAPHIC 撮影機材・D.I.T:RED DIGTAL JAPAN 水中撮影協力:ZEAL Co.,Ltd. RETOUCH:TERUYO MURAYAMA(foton)
カメラはRED EPIC、5Kの性能を水中に持ち込む
水深5mのプールを暗幕で囲い、周囲にライトをセット
ロケ地は市川マリンセンター(國富 市川営業所)の潜水用プール。水深5m。周囲を黒く落とすためプール壁面と上には暗幕が張られている。HMIライトは水面上とプール横の窓にセット、さらにプールサイドにもムービングライトを6灯セットしている。
水に潜るモデルを下からのアングルで狙う
衣装を確認するKUMADAさん。裾の長いドレスが、モデルの動きに合わせ水中で動いてくれるか。
本番撮影中。と言ってもこの間、潜水用マスクをつけたKUMADAさんは水面下でカメラをかまえているため、その姿は見えない。
モデルが水中に潜るタイミングでムービーを回し、彼女の息が切れて水面に上がったらストップ。それを数セット繰り返したら、KUMADAさんも水面に上がりSSDを交換するという流れ。
水の中ではこんな感じで撮影
プール側面の窓から見た水中での様子。ちなみにRED+ハウジングの重量は20kg以上あるが、水中では重量はほぼゼロになり、かなり自由なカメラの取り回しができたと言う。
4Kモニタで撮影動画をチェック
撮影の合間合間でプールから上がり、撮影動画をチェックする。Mac BookでRED RAWデータ(R3Dデータ)をコントロール。RED ROCKET(専用グラフィックボード)を介しデコード、ナナオの4Kモニタ「DuraVision」に表示する。水中撮影動画のため、気になるのはピント、ブレ、モデルの表情。表紙カット切り出しも想定してコマを止めながらチェック。4Kモニタで細部まで確認できるのがありがたい。
こちらがR3Dデータをコントロールするソフトウェア「REDCINE-X PRO」。
撮影された動画から表紙用カットを選ぶ
白と赤の衣装でパターンを変えて撮影をしている。
水中撮影のため、モデルも表情やポーズを作りにくい。このように不確定要素が多い撮影で、連続した動画の中から最高のカットを選べることはひとつのメリットだろう。今回の場合、1秒72フレーム(24フレーム/3倍ハイスピード)、3分の動画でも17280カット。カットを選ぶのはなかなか大変だ。
選んだカットは現像、tiffデータに書き出し。レタッチはフォートンで行なう。REDが他の高解像度デジタルシネマカメラと異なる点は、1コマ1コマを独自のRAWデータで記録する点。デジタルスチルカメラと同じようにRAWデータで色味などを調整して、静止画出力できる。
今回はスケジュールもあり、表紙スチルカットのレタッチを優先したが、ムービーの方もフォートンで編集、レタッチ。最終的には1分ほどのムービーを制作する予定だ。
Interview TAKAKI_KUMADA
デジタルシネマカメラでスチルを撮る意味
撮影の数日後、表紙用スチルのレタッチ立ち会いでフォートンを訪れたTAKAKI_KUMADAさん。レタッチを担当した村山輝代さんを交え話を聞いた。
TAKAKI_KUMADA 2004年独立。ファッション誌を中心に、広告、CDジャケット、CM撮影などで活躍する。
www.takakikumada.com
表紙の仕上がりを確認するKUMADAさん。左が今回レタッチを担当してくれたフォートン村山さん。
───今回はREDで表紙を撮ってもらいましたが、「デジタルシネマカメラでスチルを撮る」というのは初めてですか?
KUMADA REDは普段もCMの撮影などで使っていますが、そこから1枚を写真として切り出す作業は初めてですね。
───水中撮影も初めてですよね?
KUMADA この機会にやりたかったことにトライしてみようと思って。なぜ水中撮影かと言うと、自分はフォトグラファーなので、ムービーから静止画を切り出せるとしても、普通に撮れる内容ならスチルカメラで撮ると思うんです。だから何枚もシャッターを切り続けなくてはならないシチュエーション、なおかつ撮影した動画からカットを切り出した時、1枚のファッション写真として成立するようなシチュエーションを考えました。それに水中のモデルの動きをムービーで追うということにも興味があって、色々調べてみると、REDの水中用ハウジングもあるし、それならばできるんじゃないかと。
───水中でREDを使ってみてどうでした?
KUMADA 今回はムービーでもストーリーを作るのではなく、1枚を切り取るということを前提に、フレーミングだとかモデルとの距離感だとかファッションフォトに近い感覚で撮っています。
REDは、もともとスチルカメラと同じように片手で持てるサイズで、ホールドもスチルカメラに近いから機動性がある。今回は水中ハウジングだったのでどうなのかなと思っていたんですが、水中では浮力があって割と自由に動かせた。
シャッター速度は1/500秒。これは今回の撮影条件で静止画としてブレずに止まるギリギリのところ。
画質の面からは感度をもう少し下げたかったし、絞りも絞りたかったところですが、ライティングバランスなどの色々な条件をクリアできる一番いいところを、照明チーム、撮影チーム、みんなで計算して撮っています。
───動画だとかなりのコマ数になりますが、そこから表紙用に1カットを選ぶのは大変ではなかったですか?
KUMADA それがそんなに苦労しなかった。やっぱりスチルを撮っている時と一緒で、あの時の感じが良かったというのは記憶にあるから、それぞれのテイクに絞って、後は写真をセレクトする普段の感覚でできました。
───フォートンでは、今回のような動画から切り出した画像をレタッチするというケースは増えているのですか?
村山 増えていますね。ムービーだけの撮影だったけれど、そこからグラフィックを抜き出したいという依頼だったり。
───シネマカメラも高解像度化が進んでいますが、画質的にはスチルカメラで撮影された写真と比べてどうなのでしょう?
村山 画像クオリティは、撮影条件やレンズなどにも左右されますから、一概には言えないのですが、条件が良ければ通常のスチルと比べて遜色がない場合もあります。ただ基本的に動画として撮影されているので、スチル撮影とは条件が違います。今回も5Kのハイスピード撮影のため、画像が圧縮されていて、実際のスチルカメラのRAWに比べるとノイズはありましたね。動画では気にならないと思うのですが。
KUMADA 表紙以外に5Kのムービー作品を作ることも目的でした。それでいてハイスピードで撮った映像も欲しかったので、スチルとしては最高の条件とまではいきませんでしたが、その後の作業はフォートンにも頑張ってもらって(笑)。
───その辺は今後、REDの性能が上がれば解決されるのではないでしょうか?
KUMADA そうですね。ただ、先ほども話しましたが、デジタルシネマカメラでスチルカメラと遜色ない写真が切り出せるようになったとしても、スチルを撮るなら僕はやはりスチルカメラを選ぶと思う。だけど動画のように絶えず記録し続けた方が撮りやすい条件の時、もし動画の切り出しで満足できるクオリティを得られるのなら、スチル撮影の可能性は広がると思います。
写真ってシャッターを押してからシャッター幕が下りるまでのタイムラグ、次のシャッターを押すまでのタイムラグが、もどかしい時もあるじゃないですか。そのタイムラグを感じないで、1コマを切り出せるというは新しい選択肢になります。
───次はこの映像素材を1本のムービーにまとめる。
KUMADA これからフォートンと編集作業を進めていく予定ですが、1分ほどの5Kムービーに仕上げようと考えています。
───1分だけですか?
KUMADA 素材はあるのですが、そのくらいの長さの方が気持ちよく見られるかなと。もし長くするなら、また別の映像を撮って足していっても面白いかもしれない。今回の水中撮影はその最初の映像。8月中に完成できればと考えています。
※この記事はコマーシャル・フォト2013年9月号 特集「4K入門」を転載しています。
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