4K入門 高精細映像の世界

アラフラ海沖150キロ、アバディLNGプロジェクトを6Kで撮る

クライアント:INPEX(国際石油開発帝石株式会社)  撮影:宮原康弘(acube)

INPEX(国際石油開発帝石株式会社)が進めているインドネシア・アラフラ海ガス田開発「アバディLNGプロジェクト」。今回のミッションはINPEXからのオーダーにより、洋上に浮かぶ「アバディLNGプロジェクト」の試掘船を空撮することだ。大海原に浮かぶ船をヘリから空撮という、時間的にも物理的にも厳しい条件の中、1台のカメラで高精細な静止画と動画を撮影した。

img_special_4k6k01_01.jpg INPEXアバディLNGプロジェクト撮影。
CD=泉沢宗史(東急エージェンシー ) Pr=芝田美佳(東北新社) 撮影助手=斉藤領・實重かおり(アキューブ) 3Dシミュレーション=田中洋平(アマナシージーアイ)

ミッション成功のためにデジタルシネマカメラを選択

撮影を担当したのはacube宮原康弘氏。東急エージェンシーのCD泉沢宗史氏から宮原氏が最初に受けた相談は「厳しい条件のムービー空撮が可能で、なおかつスチルも切り出せるカメラってある?」というものだった。その時は「REDなどのデジタルシネマカメラならば、可能です」と気軽に応えたそうだが、実際に撮影詳細を調べていくと、通常の広告撮影のやり方では困難であることがわかってきた。

img_special_4k6k01_02.jpg インドネシア、ジャカルタから東方に位置するアラフラ海。そこにアバディLNGプロジェクトのガス田がある。

まず第一に目的の試掘船までの移動の問題。

インドネシア首都ジャカルタから定期便と小型チャーター機を乗り継ぎ、「アバディLNGプロジェクト」の陸上基地があるヤムデナ島サムラキへ。試掘船まではそこからさらに150kmの洋上、ヘリをチャーターして向かうことになる。

大人数のクルーでは大型機のチャーターから何から、当然、予算が増えてしまう。しかもヘリには積載量制限があり、機材もできるだけ軽量/コンパクトにする必要があった。レンズを含めカメラ周りをコンパクトにすることは、空撮時の振動対策にも有効だ。

ヘリ空撮可能時間も限られていた。

サムラキのヘリ発着場からの試掘船までの距離は150km。最高速度で飛んで片道45分ほど。試掘船での給油ができないため、往復だけで300kmの連続飛行となる。スタッフ/機材の重量も想定して燃料を計算すると、現地で試掘船の周囲を旋回して空撮できる時間は、30分程度しかない。

そこで宮原氏がチョイスしたカメラは「RED EPIC DRAGON 6K」。19メガピクセル(H6144×V3160pixel)のドラゴンセンサーを使用したREDの最新機種だ。

「今回の撮影は現地に行くだけでもそれなりの手間と時間、費用がかかる撮影。できるだけ完璧なものを撮りたかった。DRAGONならば今後の4K放送でも対応可能、それ以上の映像が得られます。

同時にスチルもおさえたいと考えたのですが、動画撮影用リグを組むと、それだけでヘリ内部は一杯。しかも30分という撮影時間を考えると、ムービーとスチル、それぞれ別のカメラを使って撮ることは、物理的にも時間的にも難しい。しかしDRAGONの19メガピクセルの映像であれば、そこから1枚の画像を切り出しても、写真として成立します」(宮原氏)。

撮影当時(2013年末)、日本にはまだDRAGONが1台も入ってきていなかったため、アメリカから急遽、レンタルすることになった。

ヘリ不時着脱出訓練

特殊な条件で完璧な撮影をするために、カメラ以外にも様々な準備が行なわれた。

img_special_4k6k01_03.jpg 空撮中の宮原氏。ヘリが船の周囲を旋回飛行できる時間は30分。メディア交換以外、カメラを止めることなく、30分フルにカメラを回し続けた。

まずは3Dモデルによる空撮のシミュレーション。30分という短い撮影時間で必要なシーンを撮りきるため、船、ヘリコプターの3Dモデルを作成。ヘリの旋回パターンをシミュレーションして、撮影現場でもヘリパイロットにそのCGを見せて、飛行指示をしている。

ヘリにカメラをセットするためのリグも日本で制作。現地まで赴きヘリの内部を採寸。それを元にアルミ製のポールで分解式のリグを作り、現地まで運んだ。

さらに、そうした準備のひとつとして、同行スタッフ全員でヘリの緊急脱出訓練を受けている。

今回の空撮がデンジャラスな飛行というわけではないのだが、ヘリへの搭乗にはそのライセンスを取得する必要があった。宮原さんも、長い間、フォトグラファーをやってきてこんな体験は初めてと言う。

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ヘリで撮影した動画より。船の周囲を旋回するため、太陽の位置は変化し逆光となる場面もあるが、DRAGONの16.5+ ストップという広いラチチュードであれば、問題ない。

現地では天候に恵まれ計3回の撮影を行なう

撮影は2013年12月始め。スタッフはサムラキのホテルに泊まり、ヘリで2回、船で1回、遙か洋上に浮かぶ試掘船まで行き、撮影を行なった。

「天気はとてもよく、海も波ひとつない鏡のような状態。試掘船の周囲360度、島ひとつ見えない。太陽が真上にあったら絵にならないので、できるだけ斜光線で撮りたかった。そのため朝と夕の2回、ヘリで空撮をしています。

ヘリの飛行は日の出から日没まで。朝は日の出とともに飛び立って撮影。夕方は3時頃に飛び立って日没前に帰って来ないといけない。本当は日没のシーンを撮りたかったのだけど、それはどうしても無理ということで、別の日に船で10時間以上かけて現地に向かい、夕日のシーンをおさめました」(宮原氏)。

img_special_4k6k01_13.jpg ヘリ空撮動画から切り出した1枚。DRAGON センサーは水平方向に6Kの解像度を持ち、プロポーションは2:1。4Kよりややワイド感のある画面となる。

カメラのセッティングを紹介しておこう。

カメラは前述の通り「RED DRAGON 6K」。モーションマウントを介し、キヤノンEFレンズ17-24mm、16-35mmを使用した。このモーションマウントはグローバルシャッターなので、高速で飛ぶヘリからの近接撮影でも、ローリングシャッター現象による画面の歪みは生じない。また調整可能なNDフィルター機能を内蔵するため、今回のような晴天の洋上撮影には有効だ。

実行感度はISO800(モーションマウントのND効果で実質な明るさは約1段半落ちになる)。撮影のフレームレートは秒59.94コマ、シャッター開角度は45度(シャッター速度1/480秒相当)。これだけのシャッター速度であれば、スチルを切り出しても、ブレはほぼない。

一方、ブレゴマがないと動画ではカクカクして見えるが、2倍のハイスピードで撮影し、編集で秒30コマにフレームを減らすことで、その問題を解決している。

img_special_4k6k01_12.jpg 船から撮影した夕日のカット。沈み行く太陽を正面にしたカットだが、シャドー部のディテールも充分再現されている。

6Kシネマカメラは撮影の可能性を広げる

上に掲載した夕景と空撮、ページトップの写真は宮原氏がテストとして動画から切り出したカットで、コントラストなどの調整をした以外、切り出したままのデータ。350dpiで45cm×23cmほどのサイズとなる。

「このデータからグラフィック広告への展開を考えた場合、雑誌広告、新聞広告、小型ポスターならば、充分対応できる。少し離れて見ることを想定すると、B0ポスターなど大サイズのグラフィックもいけると思います。印刷物で拡大する場合、シャドー部のノイズが気になるところですが、DRAGONのローパスフィルターは交換可能で、この撮影ではノイズの少ない『ローライトOLPF』を使っています。さらに新しいバージョンのRED CINE X Pro build31 (現像ソフト)のD.E.BとA.D.D処理をすることで、ノイズはほぼ解消されます」(宮原氏)。

日本から遠く離れ、周囲に島ひとつない洋上での撮影だとか、ヘリの緊急脱出訓練だとか、「多分、こんな撮影はもう2度と経験できない」と宮原氏は語るが、今回ほどではないにせよ、広告制作でも1回しかチャンスのない撮影や、物理的、時間的にスチルと動画を両方撮ることが難しい撮影案件が、たまにある。そんな時、これだけの画質の静止画が動画から切り出せるという事実は、クリエイティブの強い味方となるだろう。

洋上150キロで空撮をするための作戦

今回の撮影を実現するために様々な準備が行なわれた。


RED EPIC DRAGON 6K

カメラはRED DRAGON 6Kセンサーを搭載した最新機種、「RED EPIC DRAGON 6K」を使用。センサー解像度は19メガピクセル(H6144×V3160pixel)。RAW(2:1/2.4:1)の撮影が可能だ。

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3Dモデルによるシミュレーション

ロケハンができない今回の撮影。ヘリでの空撮はぶっつけ本番となる。そのため3Dモデルを制作し、ヘリ(=カメラ)の高度、船からの距離、位置によって、どんなアングルとなるかを綿密にシミュレーションした。右側の二つの画面がヘリと船の位置関係。左側画面がヘリからの映像モデル。ちなみに船の3Dモデルは、今回の試掘船に似た形の船のプラモデルを組み立て、それを写真に撮って3Dモデル化している。


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カメラを固定するリグを作成

現地では資材調達に不安があったため、日本でアルミパイプ製分解式リグを作成。現地でヘリの内部に組み込む。そのリグに防振装置、カメラをセットしている。撮影中はヘリ側面のドアを空け、カメラをやや前に出して撮る仕組み。ヘリに乗り込むのは、宮原氏、東急エージェンシー泉沢氏、他撮影クルー2人の計4人。スタッフと機材の合計重量は600kgに抑えた。


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ヘリ不時着対応訓練

ヘリに乗るために、スタッフ全員、北九州市にある「日本サバイバルトレーニングセンター(NSTC)」で訓練を受ける。写真はNSTCサイトの訓練紹介動画より転載。この動画のように海に不時着し、逆さまになった機体から窓を破り脱出する訓練である。ライセンスは4年間有効。宮原氏も「通常の僕らの仕事では使う機会のないライセンスですが、貴重な体験でした」と語る。


※この記事はコマーシャル・フォト2014年12月号から転載しています。

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