2013年09月25日
ミュージックビデオからフル4K制作を身近なものに
Def Tech「Marathon」ミュージックビデオ
7月3日から3日間開催されたプロダクションEXPO東京 2013のIMAGICAブースでユニット Def Techの4K ムービーが80インチ4Kモニタで上映され、注目を集めた。
このMVはIMAGICA+P.I.C.S.のコラボレーションによるもの。舞台は日が落ち雨が降るビルの屋上。スケーター、BMX、バスケ、ダンサー、インラインスケーターといったアスリート達によるパフォーマンスをフル4K解像度のスーパースローで撮影したものや、その下に広がる夜景など4Kをアグレッシブに使った映像だ。制作を担当した密岡譲氏(IMAGICA)と映像ディレクター黒田賢氏(P.I.C.S. )に話を聞いた。
雨が降る中、さらに人工的な雨を降らせハイスピードカメラ朋栄 FT-ONEで撮影した一場面。
「4Kと聞くと、どうしても皆さん、ハードルが高い印象を持っている方が多いですよね。そのイメージを払拭するためにも、IMAGICAの蓄積されたノウハウ、技術力、組織力を最大限に生かしてフル4K、59.94Pの映像をスピーディーに作れることをアピールしていきたいと。お客様に現実的な事例を示すために多くの人の目に触れ、なお且つ、作品性が高い映像を作りたいと考えていたんですね。
そこで、Def Techさんの新アルバム『24/7』と偶然出会い、P.I.C.S.との打ち合わせを経て、アルバム中の一曲をMVにしようと決まったんです」(密岡氏)。
今回のプロジェクトには2つの柱があった。1つは超高解像度の良さが伝わりやすい映像を作ること。雨をふんだんに降らせ、その有機的な動きを捉えてキメの細かい映像に仕上げた。そして、無理に4K的な演出をせず、Def Techの音楽を最大限に活かす演出にすること。
「Def Techの音楽を聴いた時に彼らの音楽に対するストイックさが伝わってきたんで、要素を削ぎ落してシンプルにアスリート魂みたいなものをドンと見せたいなと思ったんです。アイデアの段階では色々あったんですが、要素を削ぎ落として結果良かったと思います」(黒田氏)。
「今後4K映像がスタンダードになってきますし、今回4K映像だからといって、綺麗な花や風景を入れて“4Kプロモーション然とした美しい映像”を作るより、普段通り作品を撮るように制作を進めたので、必ずしも“4K、4K”してなくていいと判断しました」(密岡氏)。
通常の場面にはSONY Cine Alta F65を使用。暗闇の中でもくっきりと映し出す。
日が落ち雨が降る中の撮影。その中でアスリート達がそれぞれのパフォーマンスを披露する。今回の目玉の1つは、朋栄 FT-ONE(以下、FT-ONE)を使ったフル4K解像度でのスーパースロー撮影。本機は秒間60コマから最大900コマまで段階的に撮影可能。高速撮影を想定して開発されたカメラのため、いずれの撮影速度でも4Kクオリティを保てる。そのFT-ONEを今回ほぼ手持ちで使用している。
「綺麗に撮れてしまうカメラだからこそ、普通の使い方はしたくなかったんです。躍動感のある映像にするには、手持ちで動かすくらいでないとダメだと。FT-ONEは8倍で撮れる時間が最大16秒なんです。その16秒間にキャメラマンが振り回すくらいカメラを動かして、被写体が写ってないショットも実はたくさんあるんですが、写ってる瞬間は鳥肌モノの映像。そこはやっぱりキャメラマンのセンスですよね」(黒田氏)。
FT-ONEはデータ保存に数分時間が掛かる。保存に時間を費やす間、現場の熱が冷めるくらいならそのデータを捨てて、もうワンテイクを撮った方がいいと判断したため、最終的に必要最低限の素材のみが残ったという。
「ありえないくらい次々データを捨ててました。前のテイクより今回の方が絶対いいものが撮れるはずって。キャメラマンへのプレッシャーは相当大きかったと思います。普通だと、BMXやスケーターのジャンプのピークを狙うじゃないですか。でもスポーツとしては、技を決めた後の着地が重要なんです。今回はそれを入れたかった。アスリートにとっては、暗い中雨が降って相当条件は悪かったのに、積極的に協力してくれて嬉しかったです」(黒田氏)。
その後、IMAGICAで編集作業を行なった。グレーディングにこだわり、最終日まで微妙な調整していたという。「作る側からすると、そこって醍醐味なんですよね。1枚の画をPhotoshopでいじっているような感覚。微妙なディテールをいじるのは面白いですよね。そこは4Kならではだと思います」(黒田氏)。「完成後、4Kモニタで改めて映像を見ると、ビルの上から見下ろした所に車が走ってたり、人が歩いてるのが見えたり。何百回も見た映像の中にそういう発見がありました」(密岡氏)。
今回、MV本編とは別にメイキング映像も制作したが、こちらはMV本編とは異なったワークフローで制作した。具体的にはカラーグレーディングや合成は行なわずPCベースで編集、テロップ入れ、カラコレまで行ない、最終的にMA作業を経て完成させた。
「メイキングのワークフローは、映像をPCベースで仕上げていくというのを想定していて、シンプルに4Kを扱ってみるというのがテーマでした。僕も実際にやってみて学ぶ所が色々あり得たものが多かった。これからお客様のご要望に合わせていろんなご提案ができます。
今回、関わったIMAGICAのテクニカルスタッフも今後どんなふうに4Kに対応していくかも見えたし、取り組んだ価値は充分にありましたね。今後、4Kがスタンダードになって機材も進化していくはずなので、映像制作者と共にIMAGICAも進化していければと思っています」(密岡氏)。
使用カメラ企画制作=IMAGICA Executive Pr=藤川幸廣 Pr=松居秀之・西山一成 Dir=黒田賢 P=安藤広樹 L=水谷光孝 VE=新部信行 Technical Direction=高野光啓・松本渉 DIT=田尻浩司 特機=藤田良介 ST=横田勝広 HM=布施智訪 MA=大石篤 PM=松本直也 Data Management=阿出川健太・山田堅二郎 TC=原田麻子 ED=密岡譲/丹野豊一 Co-Pr=増山稔・清野晶宏・石井亜土
※この記事はコマーシャル・フォト2013年9月号 特集「4K入門」を転載しています。
- コンプレックスを抱える男女のラブストーリー|デジタル短編映画「半透明なふたり」
- 博報堂プロダクツ シズルチームdrop 初の映像作品「1/2」
- アラフラ海沖150キロ、アバディLNGプロジェクトを6Kで撮る
- デジタルサイネージの新たな可能性を切り拓く ヴォンズ・ピクチャーズの「4Kシネマグラフ」
- HP Z820で4K映像編集マシンを作る③ 4Kのためのグラフィックスカード
- HP Z820で4K映像編集マシンを作る② 4Kのためのストレージ
- HP Z820で4K映像編集マシンを作る① 拡張性に優れるZ820
- マルチコプターとRED EPICによる映画「魔女の宅急便」の空撮シーン
- 4k映像の編集とポスプロワークを快適にするインテル® SSDの実力
- TAKAKI_KUMADA×フォートンの高精細5Kムービーが完成
- 4KをリードするRED製品を巡る状況
- ソニーF55で見えてきた4K映像の可能性②
- ソニーF55で見えてきた4K映像の可能性①
- 4Kの基礎知識③ 4K放送と試聴環境の課題
- 4Kの基礎知識② 各社から出そろった4Kカメラ
- 4Kの基礎知識① RED社の4Kテクノロジーの変遷
- 4Kケーススタディ④ シャープ AQUOS UD1「AQUOS REAL LIVE」
- 4Kケーススタディ③ ソニーマーケティング BRAVIA 4K 「美へのこだわり」篇
- 4Kケーススタディ② 特別展「京都−洛中洛外図と障壁画の美」 龍安寺石庭4K映像
- 4Kケーススタディ① Def Tech「Marathon」ミュージックビデオ
- RED EPICでコマーシャル・フォト表紙を撮影する