2013年11月11日
フォトグラファーのTAKAKI_KUMADA氏と、レタッチカンパニーのフォートンとのコラボレーションによって、ファッションをテーマにしたショートムービーが完成した。日本ではまだ例の少ない、高精細な5K解像度のファッションムービーが出来上がるまでの舞台裏を取材した。
コマーシャル・フォトの表紙と連動したファッションムービー
RED from TAKAKI_KUMADA on Vimeo.
コマーシャル・フォト9月号の4K入門特集号では、RED EPICの映像素材から静止画を切り出して表紙写真に使用している(表紙写真とそのメイキングはこちら)。その同じ素材から、今度は1本のショートムービーが生まれた。
撮影と監督はTAKAKI_KUMADA氏、映像のレタッチとフィニッシングはフォートンのVFXスーパーバイザー山際一吉、ムービーレタッチャー大部正典の両氏が担当。トップクラスのフォトグラファーとレタッチャーのコラボによって、5Kの高精細映像はさらに磨きがかけられて、珠玉のような映像美が生み出されている。
完成したムービーはVimeo (http://vimeo.com/78324252)で見ることができるほか、11月13〜15日の国際放送機器展「Inter BEE」(会場:幕張メッセ)でも、RED Digital Japan、EIZO、玄光社などの各ブースで、大型4Kモニターを使って上映されることになっている。今回のコラボレーションについて3人に話を聞いた。
写真右からTAKAKI_KUMADA、山際一吉、大部正典の各氏。
───9月号の表紙写真は、RED EPICで5K解像度のムービーを撮影して、そこから静止画を抜き出して写真として仕上げていますよね。初めての経験だったと思いますが、撮影は難しかったですか。
KUMADA 特にストーリーがあるわけでもないし、ムービー的な時間軸で撮ることは考えていなくて、最初のうちはスチールとしてきれいに見える構図を意識しました。でも、後でムービーの作品を作りたいと考えていたので、表紙に使えそうな絵が撮れたなと思った段階から、ムービーの世界観を構成する素材を撮っていきました。撮影の合間に水中の泡だけを撮って、ムービーの素材として使えるかなとか。
───どんな世界観で撮ろうと考えていたのですか。
KUMADA 今回は水中で撮影したのですが、水の中って無重力状態に近いじゃないですか。そこから「宇宙」というキーワードが浮かんで、プールの壁に黒い幕を張って水中を宇宙空間のような感じにしたり、モデルが無重力で浮いているような感じを狙っています。
宇宙の映像を合成したほうがいいんじゃないかと思って、実際にトライしてみたんですけど、最終的にそれはやっていません。真っ暗な背景のままでも宇宙っぽいし、それでいて水の中という不思議な世界観になったなと思います。
───ムービーの前半は白いドレスで静謐な印象。途中から一転して動きも音楽もアグレッシブになり、ドレスも赤に変わりますよね。とても効果的な構成だと思いました。
KUMADA 今回は「ファッション」っていうキーワードもあったので、やはり洋服をきれいに見せたいと考えていました。白い衣装はライティングした時に透けてきれいに見えるから、まず白を基本にしようと。服の素材が柔らかいので、映像も静かなイメージになって、穏やかな感情を表現できたと思います。
もう一つの衣装は対照的な色味で考えて、スタイリストと一緒に赤をチョイスました。赤のドレスは、撮影の順番としても後半の方だったんですけど、モデルも自分もがだんだん水に慣れてきて、動きがよくなってきたし、赤い色が持っている強さ、激しさをうまく表現できたと思います。構成には悩みましたが、いろいろ試行錯誤する中で、前半は白、後半は赤でいくことにしました。
───ドレスは特注なんですか。
KUMADA スタイリストに作ってもらっています。プールの水には塩素が入っているので、水に入れると服がダメになっちゃうんです。白い服は手作りで作ってもらって、赤い服は既製品なんだけど、処分しても大丈夫な物に手を加えて、水の中で大きく動きが出るようにしてもらっています。
───映像のレタッチと編集はフォートンさんが担当されていますが、どういうふうに進めましたか。
KUMADA 最初に自分の中で決めたイメージだけで作るより、チームで作る意外性が欲しかったので、まずFinal Cut Proを使ってオフライン編集を進行しながら、フォートンさんにも素材を渡して、宇宙を合成したいんだけどとか、映像のトーンはこうしたいとかざっくりしたイメージを伝えて、同時並行で作ってもらいました。
山際 宇宙のほかにも雲を入れたいという話もされていたので、いくつかのパターンで軽くコンポジットをして、「こういうのはどうですかね」「これはちょっとやり過ぎかな」というディスカッションをしながら進めました。
大部 主に山際が全体のトーンやカラーなどの絵作りをして、僕は「消しもの」とか、アシスト的な作業をしました。引きの映像になるとプールの壁が見えてしまうので黒い背景を足したりとか、水中のゴミを消したりとか、そういう部分は二人で分担しながら。
フォトグラファーとレタッチャーとのコラボレーション
───絵作りのイメージはどのように膨らませたんですか。
山際 撮影の立ち会いのときからずっと、どうすればかっこいい映像になるのかを考えていたんですが、今回は白と赤のコントラストがあるので、色がいちばん重要だろうなとは思っていました。
KUMADA 最初はモノトーンでもいいかなと思っていたんです。でも山際さんがカラーでトーンを作ったっていうので見てみたら、自分の想像以上にいい世界観が出ていた。映像の要素としては、水と黒い背景とモデルと洋服だけなんですが、それでもこういうカラフルな色の世界観ができた。それを見て、これはモノトーンじゃなくてもいけるなとジャッジしたんです。
山際 ありがとうございます(笑)。色もちょっと変化をつけてみたんです。1色だとつまらないかなと思ったので、同じ画面でも上のほうは赤っぽくて下のほうはブルーっぽいとか。前半は静かな世界なのでブルーを基調にして、後半は動きが激しくなるので色もそれに合わせたり。
───編集のソフトは何を使っているんですか。
大部 基本的にはAutodeskのFlameを使っていますが、Adobe After Effectsとかいろいろなソフトウェアを使っています。
───技術的に難しかったところは?
山際 難しいというよりは、とにかくレンダリング時間が長い(笑)。EPICのフッテージ自体が5Kだったので、5Kでそのまま作業しています。上映するときに、4Kモニターに合わせてトリミングすればいいので。
大部 あと、洋服から出た細かい糸くずもはっきり見えちゃうんですよね。それを一つ一つ消していくのが結構大変な作業でした。
山際 糸くずが水の中でふにゃふにゃ動くのがぜんぶ見えるんですよ。
KUMADA 5Kだと見え過ぎちゃってその点困る(笑)。
───泡も消しているんですか。
大部 そうですね、トップカットは特に気合いを入れて消しました。KUMADAさんから「宇宙にいるのか、水の中にいるのかわからない不思議な空間にしたい」と言われましたので。
KUMADA さじ加減がすごく難しくて、泡を増やした方がいいのか、泡を消して不思議な空間にした方がいいのか、いろいろやりながら見極めていった感じです。そこの作業は大変だったよね(笑)。
山際 えーっ、消しちゃダメなんですか!? って(笑)。だけど、これぐらいだったらいいんじゃないか、っていうところにだんだん落ち着いてきて。
───今回、仕上げは1秒24フレームですが、撮影は72フレーム。3倍のハイスピードで撮っているそうですね。前半のスローモーション映像はとても静謐な感じがしますが、途中から急に動きが速くなります。
山際 KUMADAさんのオフライン編集がすごくうまくて、最後のほうの動きやタイミングには感心しました。これはうまいなと。
KUMADA いやいや、Final Cut Proで下手くそにつないだだけで、俺はここまでしかできないから、後はうまくやって、って(笑)。
───音楽の話もお聞きしたいのですが。
KUMADA 音楽はドラマチックな展開のあるエレクトロニカ方向でと考えていたところ、マネージャーからの紹介でTicklesさんにお願いしました。映像を見ただけだと伝わりにくいけど、実は自分の中には「和」というキーワードがずっとあって、音楽にその感じを入れてほしいってお願いしました。最初の45秒くらいはゆっくり、終盤はちょっと激しく、でも「和」の要素を少し入れてほしい、みたいな感じで。
───確かに最初は音も映像も幽玄な感じで、後半は和太鼓というか勇壮な和のビート感がありますよね。それが外国人モデルとのミスマッチ感があって引き付けられる感じがします。
KUMADA おー。やっぱり「和」でよかった(笑)。
大部 実は僕、Ticklesさんが大好きで、CDを全部持ってるんです。クレジットに「MUSIC : Tickles」って書いてあったので、テンションが上がりました。今回そこが一番テンション上がったかもしれない(笑)。
ムービーでもスチールでも作品撮りは「吐き出し力」が違う
───KUMADAさんはムービーの監督は初めですか。
KUMADA 何度かあります。
───今回はどうでしたか?
KUMADA 大変だけど、面白かったですね。普段CMの仕事だと絵を切り取るだけで、その後は自分の手を離れるじゃないですか。でも今回は監督だから、いろんな絵の中から自分で選べる。ムービーは、編集してはじめて自分の思いをぜんぶ吐き出せるんだなという感覚を知りました。「吐き出し力」が違う感じがします。
───ディスカッションしながらの作業は、山際さんと大部さんも普段の仕事と違いましたか。
山際 慣れてない部分はいろいろありましたけど 。
大部 でも勉強にはなりましたね。
山際 普段より考えることが多かったですね。こうしたらもっとよくなるんじゃないか、ああしたらもっと可能性が広がるんじゃないかとか、トライ&エラーしながら勉強させてもらったなという部分が大きいですね。
KUMADA それってすごく大事だと思うんですよね。仕事って「こういうことできる?」っていう問いかけに対して、技術的にできるかできないかを探っていくものじゃないですか。でも、何もないところから、ゼロから想像するやり方って、ものすごく自由な発想ができる。なかなか仕事ではできないけど、たまにはこういう現場もいいなと思って。
山際 KUMADAさんからの指示も結構アバウトな感じでしたが(笑)、自分で考えなきゃいけないという意味ではすごく良かったですね。
大部 KUMADAさんはけっこう無茶を言われるし、山際もぜんぶ受けちゃうので、これは最後までできるのかなって不安でしたけど、なんとか乗り切った感じです。
KUMADA スチールのレタッチャーさんにお願いしている感覚で言っちゃっていたかも(笑)。「ここのゴミ消して」っていうのも、ムービーだと実はすごく大変なんだけど、でも山際さんにはそんな気配がまったくなくて、「やります」と。
───山際さんは以前、ハリウッドのVFXの仕事をされていましたよね。映画と広告の仕事と、今回はどちらに近いですか。
山際 映画のほうじゃないですか。映画は、監督やスーパーバイザーともそれぞれディスカッションしますし、VFXのチームの中でもディスカッションをしますから。議論して方向性が決まったら、1回作って見てもらって、またディスカッションする。そういう意味ではすごく映画に近かったですね。
───大部さんはもともとポスプロでオンラインエディターをやっていたそうですが、CMの仕事と今回は違いましたか。
大部 通常のポスプロでは、ここまで時間をかけることはできないですね。フォートンの場合は、1つのスタジオに1人のエディターをつけて1時間いくらで営業しているわけではないので、こういう作業でも対応できるんだと思います。
山際 時間に縛られるのではなくて、時間をかけてよりクリエイティブな方向を目指そうとしていますから、ポスプロとは環境が違います。
───これからも両者のコラボレーション作品は続きますか?
KUMADA ぜひやりたいですね。スチールでもそうなんですけど、作品撮りって仕事とは違う「吐き出し力」がありますから。もちろん作品は発表して「なんぼ」なんですけど、このムービーはInter BEEの会場で、いろんなブースの4Kモニターで上映してもらえることになりましたから、それも楽しみです。今回はそういう意味ですごくいいパーティだったかな。また次につなげたいですね。
【STAFF】
DIRECTOR+DIRECTOR OF PHOTOGRAPHY=TAKAKI_KUMADA VFX STUDIO=FOTON VFX STYLING=TOSHIO TAKEDA[MILD] HAIR=DAI MICHISHITA[FEMME] MAKE UP=YUKA WASHIZU[FEMME] CAMERA CHIEF=TADANOBU USUI LIGHTING DIRECTOR=TETSU MORITERA MODEL=OLA KOWAL[DONNA] EDIT=KAZUYOSHI YAMAGIWA and MASANORI OBE[FOTON VFX] MUSIC=YUKI KAMATA[Tickles] IN COLLABORATION WITH="COMMERCIAL PHOTO"MAGAZINE / RED DIGITAL JAPAN
関連記事
RED EPICでコマーシャル・フォト表紙を撮影する
https://shuffle.genkosha.com/special/4k/8457.html
国際放送機器展「Inter BEE」の会場で完成作品を4Kで上映!
11月13日(水)〜15日(金)、千葉市の幕張メッセで開催される Inter BEEの会場で、4Kモニターを使った上映が決定。上映されるのはRED Digital JapanとEIZOの各ブース。また雑誌「コマーシャル・フォト」の発行元である玄光社も今回初めてInter BEEにブースを構えるが、玄光社のブースでも4Kモニターでこのムービーを上映する予定だ。
[ Inter BEE概要 ]
開催日程 11月13日(水)〜15日(金)
開催場所 幕張メッセ 千葉市美浜区中瀬2-1
入場料 無料(登録制)
Web http://www.inter-bee.com/ja/
- コンプレックスを抱える男女のラブストーリー|デジタル短編映画「半透明なふたり」
- 博報堂プロダクツ シズルチームdrop 初の映像作品「1/2」
- アラフラ海沖150キロ、アバディLNGプロジェクトを6Kで撮る
- デジタルサイネージの新たな可能性を切り拓く ヴォンズ・ピクチャーズの「4Kシネマグラフ」
- HP Z820で4K映像編集マシンを作る③ 4Kのためのグラフィックスカード
- HP Z820で4K映像編集マシンを作る② 4Kのためのストレージ
- HP Z820で4K映像編集マシンを作る① 拡張性に優れるZ820
- マルチコプターとRED EPICによる映画「魔女の宅急便」の空撮シーン
- 4k映像の編集とポスプロワークを快適にするインテル® SSDの実力
- TAKAKI_KUMADA×フォートンの高精細5Kムービーが完成
- 4KをリードするRED製品を巡る状況
- ソニーF55で見えてきた4K映像の可能性②
- ソニーF55で見えてきた4K映像の可能性①
- 4Kの基礎知識③ 4K放送と試聴環境の課題
- 4Kの基礎知識② 各社から出そろった4Kカメラ
- 4Kの基礎知識① RED社の4Kテクノロジーの変遷
- 4Kケーススタディ④ シャープ AQUOS UD1「AQUOS REAL LIVE」
- 4Kケーススタディ③ ソニーマーケティング BRAVIA 4K 「美へのこだわり」篇
- 4Kケーススタディ② 特別展「京都−洛中洛外図と障壁画の美」 龍安寺石庭4K映像
- 4Kケーススタディ① Def Tech「Marathon」ミュージックビデオ
- RED EPICでコマーシャル・フォト表紙を撮影する