4K入門 高精細映像の世界

デジタルサイネージの新たな可能性を切り拓く ヴォンズ・ピクチャーズの「4Kシネマグラフ」

大型ディスプレイに映像や情報を表示する「デジタルサイネージ」は、新しい広告媒体として注目されている。家庭用テレビと同様、サイネージも今後4Kに対応していくことは確実だが、いち早く4Kのサイネージ用コンテンツ制作に着手したヴォンズ・ピクチャーズの取り組みを紹介する。


4Kシネマグラフ「THE THAI BOXER」篇(15秒)。鋭いキックの瞬間をとらえた写真のように見えるが、水しぶきが砕け散る部分が動画で表現されている。

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6月11〜13日の3日間、幕張メッセでデジタルサイネージの展示会、デジタルサイネージジャパン2014が開催された。参加企業のほとんどがサイネージ関連のハードウェアやシステムを展示している中で、「4Kシネマグラフ」というコンテンツを前面に打ち出した展示で、来場者の注目を集めるブースがあった。広告写真のレタッチカンパニー、ヴォンズ・ピクチャーズのブースである。

ヴォンズ・ピクチャーズはなぜサイネージの展示会に出展したのか、そしてそのコンテンツとはどんなものだったのか、詳しく話を聞いた。

得意とする静止画の技術をベースにサイネージに進出

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片岡竜一
ヴォンズ・ピクチャーズ代表


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磯崎大介
CGディレクター


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大里宗也
映像部ディレクター

「今回の出展の1つのきっかけとなったのは、昨年65インチの4Kテレビを購入したことです」と語るのは、ヴォンズ・ピクチャーズ代表の片岡竜一氏。同社では最近動画の分野にも進出しており、もともとは4K動画を大画面で見たいというのが購入の動機だった。しかし、たまたま65インチの画面サイズがB倍ポスターに近い大きさだったので、試しに同社で手がけているポスターの画像を表示させたところ、想像以上にきれいで驚いたという。

同社CGディレクターの磯崎大介さんも「普段使っているモニターはせいぜい27インチなので、仕上がりの大きさを想像しにくいんですが、このテレビなら大きさも品質もポスターと変わりません。B倍ポスターなどの実寸サイズの絵の見え方は、このテレビを使ってアートディレクターの方に見てもらうようにしています」と話す。

この経験を契機に同社では、4Kの新しい可能性を追求することになる。「4Kの技術と広告がどこで交差するのかを考えた時、テレビ放送はまだまだ先の話でしょうが、デジタルサイネージは2020年の東京オリンピックに向けて、数年のうちに4Kが注目されることでしょう。このサイネージの分野なら、弊社が得意とする静止画の技術をベースにして、4Kならではの新しいコンテンツが作れるんじゃないかと思ったんです」(片岡氏)。

そこで同社が現在取り組んでいるのが「4Kシネマグラフ」だ。シネマグラフは写真の一部分だけに動きを付ける手法で、部分的に動かすことで、そこに注目を集めたり、静止している部分がそこだけ時間が止まってしまったかのような不思議な世界観を感じさせる。これを4Kサイズで制作することで、デジタルサイネージの新しい可能性を切り拓こうというのだ。

2013年から自主的に制作を始めて、Webサイトやセミナーで公開したところ、周囲からは大きな反響があり、さらに今回の展示会への誘いも受けた。「最初お話を聞いたときは、えっ、ウチが出展するんですか? と驚きました」と映像部ディレクターの大里宗也氏が証言するように、当初はそこまでは想定していなかったが、社内で議論を重ねるうちに、時代の変化を肌で感じるために思いきって出展することを決意。そして、わざわざ出展するからには、新しいコンテンツを制作しようじゃないかという気運が盛り上がった。


「THE SKATER」篇(15秒)


「THE BMX RIDER」篇(15秒)


「THE RUGBY PLAYER」篇(15秒)


「THE BALLERINA」篇(15秒)

RED EPICで動画を撮影し4Kシネマグラフを制作

そこで急遽制作されたのが、上で紹介している作品群だ。一見すると、アスリートやバレリーナたちの力強く美しい一瞬を切り取った写真のように見えるが、よく見ると一部分だけが動いている。静止している部分が多いので4Kの高精細を充分堪能できるし、それでいて写真とも動画とも違う独自の魅力を放つ。

撮影は5月25日、横浜スーパーファクトリーのオープンスタジオで行なわれた。撮影監督として4KカメラのRED EPICを回したのは片岡氏。磯崎氏は全体を統轄するアートディレクターとして撮影現場を取り仕切り、大里氏は2人のすぐ横にMac Proとモニターを置いて撮影データの管理とバックアップを担当。それ以外にも全社員が総出で準備と撮影を行なった。

「新作の制作が決まったのはいいけれど、企画が固まるまで1ヵ月ほどミーティングを重ねたし、出演者集めも一苦労。アスリートの動きを撮るためには広いスペースが必要で、水も使うので場所探しは難航した。そして最後の関門は撮影方法。この絵をスチルで撮るのは難しくないけれど、シネマグラフはムービーで撮って静止画を抜き出す。動きをきれいに止めるために、秒120フレームで撮影し、動画にも関わらずシャッタースピードは2000分の1秒に設定したので、ものすごい光量が必要となりました」(片岡氏)。

「現場では僕がデータ管理をしていたんですが、その場である程度コンポジットを組んでいます。後でこれが足りない!ということが起きないように、かなり本気で作業をしたので、モニターばかり見ていて、生で本番を見ていないんですよ(笑)」(大里氏)。

「撮影が終わったら、まず僕の方で静止画をレタッチして世界観を作り込んで、それと同時進行で大里がコンポジットの作業を行なっていきました。トータルで2週間かかりましたが、日常業務の合間を塗っての作業だったので、結構タイトでしたね」(磯崎氏)。

しかしその甲斐あって、展示会の本番は予想をはるかに超える盛況。3日間でブースを訪れた人はおそらく数千人、手元に残った名刺は600枚以上で、4Kシネマグラフの手応えは非常に大きかったという。

ヴォンズ・ピクチャーズは、ここで得た経験と実績をジャンピングボードにして、4Kデジタルサイネージの次なるステージへと進み始めたところだ。

4KカメラRED EPICでの撮影現場

img_products_4k_vons_10.jpg 撮影はオープンスタジオで、12KのHMI 3灯と5KのHMI 1灯を使用。社員総出でスモークマシンや送風機などを駆使して撮影を行なった。

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RED EPICはレンタルではなく自社で導入したもの。

img_products_4k_vons_13.jpg 手前から、撮影を担当した片岡氏、出演者やスタッフに指示を出している磯崎氏、モニターに向かって作業している大里氏。
img_products_4k_vons_14.jpg 撮影現場にMac Proとモニターを持ち込んで、撮影したらすぐに映像を確認し、その場で簡単なコンポジットを行なった。

4Kシネマグラフの制作フロー

撮影に4Kカメラ(RED EPIC)を使うことで、たった1回の撮影で静止画と動画を取り出して、複雑な合成なしにインパクトのある作品をシンプルに作ることができる。また、すでに高精細な静止画素材がある場合、動画素材や3DCGによる効果を追加してコンテンツを制作できる。
作例の一番上は、髪の毛の一部を切り抜いて、風で髪の毛が揺れる様子を合成。真ん中は、静止画にタバコの煙の動画素材を合成。一番下は、リアルな気泡の3DCGアニメーションを合成している。
ヴォンズ・ピクチャーズでは、4Kカメラでの撮影、静止画のレタッチ、動画素材の編集、3DCG制作、静止画と動画のコンポジット(合成)など、4Kシネマグラフの制作に必要なすべてのスタッフが揃っている。

[ CASE 1 ] 4Kカメラでの撮影→静止画抜き出し
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4Kカメラでの動画撮影
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静止画を抜き出し一部を切り抜き
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コンポジット
[ CASE 2 ] 静止画+動画素材
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静止画
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動画素材
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コンポジット
[ CASE 3 ] 静止画+3DCGによる効果
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静止画
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3DCG
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コンポジット

YouTubeを活用したサイネージへの配信方法

4KでYouTubeにアップロード
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再生リストでの連続配信
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コンテンツを作るだけでなく、サイネージへ配信するためのミニマムな方法も考案している。YouTubeにアップした4Kコンテンツを再生リストで連続配信するというもので、簡単なHTMLと4Kディスプレイ、4K対応のMacがあれば、インターネット経由で配信できる。 img_products_4k_vons_down.gif
HTMLファイルでの再生
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シネマグラフのギャラリーサイト

img_products_4k_vons_29.jpg ヴォンズピクチャーズのシネマグラフギャラリーサイト「4K CINEMAGRAPHs」 www.vons.co.jp/cinemagraphs/ 。現在12本の作品がアップされている。

※この記事はコマーシャル・フォト2014年8月号から転載しています。

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