4K入門 高精細映像の世界

4k映像の編集とポスプロワークを快適にするインテル® SSDの実力

藤本ツトム & デジタルエッグ

4k映像のワークフローの中でボトルネックになっているのがPCのスピードだが、フォトグラファーの藤本ツトム氏とポストプロダクションのデジタルエッグは、インテルのSSDを搭載したマシンを導入することで快適な環境を構築できたという。インテルSSDはどんな場面で役に立ったのか、実際の使い勝手について話を聞いた。

高速ストレージのSSDは4kの膨大なデータに最適


藤本ツトム氏が撮影・監督したインテルSSDのためのプロモーションムービー。SSDを奪い合う激しいアクションが展開される。

───編集やVFXまで含めて全て4kで仕上げた映像を制作されたそうですね。

img_products_4k13_01.jpg 藤本ツトム氏 フォトグラファー/代官山スタジオ 映像プロデューサー

藤本 11月中旬のInter BEE 国際放送機器展で上映されたインテルSSDのプロモーションムービーがそれです。インテルSSDは非常に高速なストレージで4kの膨大なデータを扱うのに最適なので、それを訴求するために作りました。実際にRED EPICを使って4kで撮影し、SSDを搭載したマシンで編集やVFXの作業を行なうなど、実証実験的なワークフローで制作しています。

僕はふだん代官山スタジオのプロデューサーとしてフォトグラファーの方々に4k映像を提案していますが、今回は映像業界の展示会で上映するということもあって、ぜひとも映像業界の人とコラボレーションしたいと考えて、企画段階からデジタルエッグの堀内睦也さんと和田大佑さんに相談しました。

img_products_4k13_02.jpg 堀内睦也氏 デジタルエッグ VFXスーパーバイザー/プロデューサー

img_products_4k13_03.jpg 和田大佑氏 デジタルエッグ デジラボ主任

堀内 藤本さんとは4kのセミナー等でお会いするうちに意気投合して、いつか一緒に仕事をしましょうということで、お互いに会社を訪問したりしていました。世の中が4kに向かって動き始めているので、今回たまたま藤本さんからこういう話をいただいて、こちらとしても渡りに船でした(笑)。

───どのようなコラボレーションだったんですか。

藤本 もともと写真業界では10年以上前からRAWデータを扱っていますので、われわれ代官山スタジオも動画のRAWデータに関してはそれなりにノウハウがあります。しかし、コマーシャル系の映像で重要な位置を占めるビジュアルエフェクトやCGのアニメーションに関しては、ほとんど経験値がありません。そこで今回のムービーでは、僕が監督・撮影・編集を担当して、VFXはデジタルエッグさんにお願いしています。

───ソフトなどは藤本さんとデジタルエッグさんで共通のものを使ったんでしょうか?

藤本 いま4kのワークフローにはいろいろあると思いますが、僕はWindows PCとAdobe Creative Cloudを使っています。デジタルエッグさんのようなポストプロダクションでは、PCベースのシステムはあまり使わないと思いますが、今回はあえて僕とデジタルエッグさんのマシン環境を同じにして、どのように連携できるかを探っています。

堀内 ポストプロダクションも多様化していて、ハイエンドの編集スタジオを時間単位で貸し出すのではなく、PCベースで作業して1ジョブいくらという業態も出てきています。実はデジタルエッグでもコンポジット、VFX、3DCG制作を専門に行なうデジラボという部署を作って新しいサービスを展開していますが、4kについての対応を検討する時期になっています。今回実験的なプロジェクトに参加させていただいたことで、PCベースの4kワークフローをじっくり検証できました。

藤本 実際にVFXの作業をしてもらう和田さんがAfter Effectsをメインに使っていたので、Adobe Creative Cloudを共通言語として、非常にスムーズなやり取りが行なえました。

───デジタルエッグさんでもAfter Effectsを使われているんですか。

和田 After Effectsを正式に使うようになったのは2011年の6月からです。それまでは多くのCMのポスプロと同じようにオートデスク製品がメインでした。私もオートデスク製品のアシスタントとして働いていたんですけど、デジラボの発足を機にAfter EffectsをメインツールとしてCinema 4D、3ds Maxとも連携してVFXを作らせてもらっています。

4kのままでストレスなくポスプロワークが行なえる

───実際の編集作業の流れは?

藤本 まず僕がPremiere Pro CCでカットをつないで、VFXを入れたいシーンは4kのDPXファイルに書き出して、和田さんに渡しました。

和田 終盤30秒くらいのVFXやアニメーションなどをAfter Effects CCで作りましたが、4kでもストレスがありませんでした。通常の業務では既成品のワークステーションを使っていますが、4kのデータは今回のBTOマシンでなければまともに動かないと思います。

藤本 和田さんに渡した4kのDPX連番ファイルは10bitでした。8bitのTIFF連番ファイルより色深度が深く合成に適していますが、その一方でファイルサイズは当然大きくなります。それでもストレスがないというのはマシンのおかげだと思います。

───やはりSSDの効果が大きいんでしょうか。

藤本 僕と和田さんのマシンは同一の仕様にしていて、メモリは128GBで、起動ディスクと作業ディスクの両方にインテルSSDを使っています。WindowsベースのBTOマシンでもある程度のメモリとSSDを搭載すれば、かなりのスピード感で作業できると思います。

特に作業ディスクはインテルSSD 910シリーズというサーバー用の特別なストレージを使っていて、PCIeバスでCPUと直結しているので安定的に動作します。それからプロセッサーは、12コアのインテル® Xeon® E5プロセッサーをデュアルで搭載しているので、これもスピードにかなり効いていると思います。

img_products_4k13_04.jpg 今回のマシンの内部構造。SSDを3台搭載している。

───アプリケーションもきびきび動きますか。

和田 After Effectsではプレビューにレンダリングが必要なのですが、今回の環境では4kサイズにも関わらず、ほぼHDサイズと同様のスピード感でストレスなく作業できました。最終の絵を見ながら作業できるということが、すごくよかったなと思います。ディテールを見ながら作業できるかどうかが仕上がりにかなり関わってくると思うので。

藤本 僕はPremier Pro CCで編集を行ないましたが、平均的な構成のPC環境ではこれまで、作業画面上で1/4解像度にしなければ4kデータを編集できなかったんです。しかし今回のBTOマシンでは、1/2解像度でほぼリアルタイムに編集作業ができ、プレビューもリアルタイムで行なえました。4kの1/2解像度とはつまりHDと同じですから、ディテールも確認できて、たいへん助かりました。

───モニターも4kだったんですか。

藤本 今回は現場に4kモニターを持ち込めなかったので、PremiereもAfter Effectsも1/2解像度にして、フルHDのモニターで表示していました。最終的な品質チェックの時だけ、EIZOの4kモニターで、デジタルエッグさんの編集室で確認しています。

img_products_4k13_07.jpg EIZOの4kモニターFDH3601で最終確認を行なった。手前に見えるのは今回使用したマシン。

タイムリマップの重たい作業もリアルタイムにプレビュー

───今回のムービーの内容はどういうものでしょうか。

藤本 今回は女性モデルを主人公にして、スパイアクションのようなムービーを撮りました。最初は主人公がメイクをしてもらっているシーンから始まります。ここでは4kの高精細な画質を活かしてメイクのディテールを見せたりしていますが、そのうち主人公がメイク道具の中に気になる金属製のケースを発見します。主人公がそれを奪おうとして、それをきっかけに女性同士の激しい格闘が始まるというストーリーです。

ケースの中にはインテルSSDが入っていたというのがオチなんですが、こういうアクション仕立てにしたのはタイムリマップを使いたかったからなんですね。タイムリマップというのは「速度可変」のことで、動きの途中で急にスローモーションになったり、逆にすばやい動きになったりする効果のことです。映画のアクションシーンの他にも、クルマやビューティ系のCMなどによく使われている表現です。

これを実現するにはハイスピードで撮れるカメラ、今回はRED EPICを使っていますが、通常は1秒30フレームのところを4倍の120フレームで撮っておいて、編集の時にスピードの強弱をつけていくわけです。作業としては非常に重たくて、4kではなおさらです。でも、インテルSSDがあればPCレベルでも実現できるということを実証しようと思いました。

img_products_4k13_08.jpg img_products_4k13_09.jpg Premier Pro CCのタイムライン。サムネイル上の折れ線グラフは、タイムリマップの速度の変化を表している。 ※画像をクリックして拡大

───実際のタイムリマップの作業はどうでしたか。

藤本 本編のうちの半分くらいがアクションシーンなんですが、アクションシーンはすべてPremiere Proでフレーム単位の可変をかけています。10フレームを早く動かしたら次の10フレームは遅くしたりとか、そういったことを何度も繰り返しているんですが、レンダリングの待ち時間が一切ありませんでした。タイムリマップを自在に4kデータに適用してリアルタイムプレビューできたことは本当に驚きです。これまでの環境では5秒のシーンでも30秒程の待ち時間が必要でしたから。

───人物の合成はしていないんですか。

藤本 ワイヤーアクションを使って人物がくるくる回ったりするシーンはあるんですが、合成はしていないですね。ワイヤーはAfter Effectsを使って代官山スタジオのチームが消しています。出演している3人の女性は映画やテレビのスタントでも活躍している人たちなので、とても迫力あるシーンに仕上がりました。

───和田さんが作業したのはどのシーンですか。

和田 主人公がSSDを手に入れてから後の、最後の30秒くらいですね。まず、ケースを開くとインテルのロゴがきらりと光るところ。次に、手のひらからSSDが浮かび上がって青い光を発するシーン。その光を受けて彼女の髪の毛が青く輝くシーン。そして最後に、火の鳥みたいな炎が飛んできてSPEED DEMONというロゴが炎に包まれるアニメーションなどです。

藤本 この一連のシーンは、主人公がSSDを手に入れたことによって彼女自身がバージョンアップするというイメージで作っています。

Model: Yoshi (BELLONA)
img_products_4k13_10.jpg
img_products_4k13_12.jpg
img_products_4k13_13.jpg
4kサイズのままVFXを駆使して作品を仕上げている。

和田 VFXの作業で大事なのは、どれだけたくさんトライアル&エラーができるかということで、それによって最終的なクオリティが変わってきます。あまり作業が重たいと何度もトライすることはできないけれど、今回のようにスピードが出るマシンがあると、トライアル&エラーの回数がぐんと増えるんですよ。これが今回の作業環境の一番のメリットだと思います。

藤本 そうですね。さっきお話ししたタイムリマップもそうですが、炎のアニメーションの書き出しも早かったですね。僕が「もっと炎を大きくしてください」とデジタルエッグさんにお願いして、本当だったら書き出すだけで1時間ぐらいかかるような場合でも、「10分だけ時間をください」と言われて、実際に10分後には確認できていましたから。

ちょっと話が脱線しますが、髪の毛が青く輝くシーンではメイクアップアーティストさんも一緒にVFXの打ち合わせに入ってもらいました。デジタルエッグさんからは「後で色を選択しやすいように、髪の毛になんらかの塗料を塗っておいてください」というリクエストがあって、それに対してメイクアップアーティストさんは「細かく、美しく仕上げるにはエアブラシを使いましょう」と、僕らが知らないようなアイデアを出してくれる。しかもヘアメイクの世界でトレンドになっている蛍光塗料を、わざわざアメリカから取り寄せてくれて。

今までの映像制作というのは各セクションの分業で成り立っていて、それぞれの領域はある意味ブラックボックス化していました。でも今回のように、PCをベースにしてAdobeのツールでワークフローを組むことによって、フォトグラファー、エディター、VFXやCGのクリエイター、スタイリスト、ヘアメイク、そしてモデルまでもお互いの仕事が見えるようになって、みんなでクリエイティブの共同作業ができるようになると思うんです。そういった点も、実は今回のトライの一つではあったんですよね。

───和田さんが作業したデータは再び藤本さんに戻して、最終的には藤本さんが仕上げたんですか。

藤本 そうですね、和田さんからやはりDPXでファイルをもらって、Premiere Proに差し込んでいます。作業環境を同じにしていたので、もしAfter Effectsのプロジェクトファイルでもらったとしても、そのまま簡単に対応できたと思います。

インテルSSDとAdobeのソフトの組合せはポスプロにとっても実用的

───最後に振り返って、今回4kで作業した感想を聞かせてください。

藤本 あらためて考えると、VFXを4kサイズで作ったというのはかなり大変なことですよ。プラグインなどは全部が全部4kに対応しているわけでもない中で、いろいろ苦労もあったと思います。テレビCMの世界でも、VFXは4kで作らないですよね。

和田 そうですね。今回はおそらくHDでも重いのではないかというぐらいの作業でしたが、僕としては限界に挑戦みたいな感じで、ある意味楽しみながらやらせてもらいました。

堀内 うちの会社の業務はテレビコマーシャルが95%以上ですので、基本的にはHDサイズで作業しています。4kで仕上げたものは数本あるだけです。最近は4kのカメラやモニターが出てきているので、4kなんて簡単にできるんだと思われがちですが、編集やVFXの作業はそうはいかない。今年のInter BEEでも4kのシステムがたくさん展示されていましたけれど、本当に実用レベルのスピードが出るものがどれだけあるのかという気がします。それに対して今回のインテルSSDとAdobeのソフトの組合せはとても実用的で、4kのワークフローが一気に現実的になった気がします。

われわれの仕事はカーレーサーのようなもので、与えられたマシンでスキルを駆使し最大の速さは出します。もし可能ならばF1マシンで走りたいという気持ちは絶対どこかにあります。スピードがないとどうしてもクリエイティブがそがれてしまうので、今回の検証では「スピードこそ命」を本当に実感しました。

───これから4kの仕事が増えそうですか?

堀内 去年の今頃は4kなんてと思っていましたけれど、この1年で官民挙げて4kをここまで盛り上げています。4k制作フローを最優先の課題として具体的に検討すべき時期だと思います。

藤本 これから4kの需要が本格化すると、ポスプロさんの存在が重要になってくると思うんです。ファイルベースのワークフローをちゃんと理解していて、なおかつRAWデータを上手に扱えるポスプロさんが絶対に必要になる。僕は、テレビCMを含む4k収録の現場に様々な立場で関わることが多いのですが、その時々で制作フローが異なります。4kのRAW収録においては、“PC+Adobe Creative Cloud”の活用は、テレビCM制作でもたいへん有効な選択肢のひとつです。堀内さんは、このような新しいスタイルを積極的に取り入れてくださるし、写真業界にあるRAW現像のノウハウを高く評価してくださいます。

堀内 動画映像業界はRAWデータを扱い始めてせいぜい5、6年、本当に一般的になったのはたぶん2、3年ぐらいです。それに比べてフォトグラファーの人たちは10年以上前からRAWデータを日常的に扱い、色の作り込み方を熟知しています。ものすごいアドバンテージがあると思うんです。そんな彼らが今、動画の世界に踏み込んできています。われわれ動画映像業界はそれを否定したり、ただ見ているだけじゃなくて、写真業界の人達に学び、手を取り合って仕事の幅を広げるべきじゃないかと考えます。

藤本 大手のポスプロさんで堀内さんのような方は本当に珍しくて、とても勇気がいることだと思うんですよね。これまでの慣習や業界のしきたりにとらわれずに、お客さんにとってよりいいもの、より役に立つものを提供しようという姿勢は素晴らしいと思います。フォトグラファーの中にも本格的な映像をやりたい人はたくさんいると思いますが、VFXの話になるとどうすればいいのか分からない。そういう人にとってデジタルエッグさんはとても頼もしい存在です。写真業界と映像業界の架け橋になるんじゃないかなと思います。

img_products_4k13_14.jpg EOS 5D Mark Ⅲで撮影したグラフィック用のビジュアル。今回のムービーはグラフィックの世界観を発展させる形で制作されている。

藤本 ムービーの最後に出てくる、このビジュアルの説明をさせてください。これはグラフィック広告用にEOS 5D Mark IIIで撮影したものですが、もともと今回のプロジェクトが始まる時に、まず僕の頭の中にこの絵が浮かんだんです。最初の頃の打ち合わせでこれに近いコンセプトデザイン画を出しているんですが、こういうイメージでグラフィックもムービーも作っていければ面白いよね、という感じで提案させてもらいました。

僕はフォトグラファーでもあるので、映像を作るときでも、やはり1枚の絵が最初に浮かぶんです。写真業界と映像業界の垣根がなくなっていく今後は、こういう作り方も「あり」なんじゃないかと思っています。関係者がみんなPCベースで仕事をして同じツールを使っていれば、1枚の写真からどうやって映像として動かそうかとか、どんな音楽をつけようかという話もしやすいと思うんですよね。

これからの時代は写真と映像を別物と考える必要はなくて、フォトグラファーが自身の写真の世界観を核にして映像を作ることが可能になる。そして、それを支えるのがインテルとAdobeのテクノロジーだろうと思います。


撮影:竹澤宏


img_products_4k13_15.png

今回使用したBTOマシンの構成

今回藤本氏とデジタルエッグで使用したマシンのスペックは以下の通り(2台とも共通)。
プロセッサー:インテル® Xeon® プロセッサー E5-2697 v2×2(24コア/48スレッド)
マザーボード:ASUS Z9PE-D8 WS(インテル® C602 チップセット)
メモリー:128GB(16GB×8)
ストレージ:[起動]インテル® Solid-State Drive 530 シリーズ 240GB×2(RAID 0) [作業]インテル® Solid-State Drive 910 シリーズ 800GB [保存]Western Digital WD Red 4TB(HDD)
グラフィックス:NVIDIA Quadro K5000
OS:Microsoft Windows 7 Professional(64bit)
電源:ENERMAX EPM1000EWT (1000W)
問合せ先:トーワ電機 www.towa-ele.co.jp/
img_products_4k13_16.jpg

関連記事

powered by weblio




バックナンバー