2013年10月22日
4K映像の実用化に向けた課題と問題点
放送分野における4K/8Kへの進展
4K Ultra HD、またそれ以上の解像度における制作が大きく関わる放送分野については、昨年11月の総務省の発表以降、その動きに大きな変化が生じており、CM制作業界としてもフル4K制作への動きがにわかに現実として迫って来ている。
現在、総務省発表では2014年に4Kの本放送、16年に8Kの実用化試験放送、20年に本放送を実施するロードマップでその方針を固めており、これは4K/8K放送技術で世界をリードし、テレビ、電子機器産業の市場を活性化することが狙いだろう。
REDRAY PLAYER:現在4Kコンテンツを4Kディスプレイ、もしくは4Kプロジェクターで上映するためには4Kのレコーダー/プレーヤーが必要だ。REDRAY PLAYER は最も安い価格で上映するためのプレーヤー。HD画像の4K再生も可能。国内販売価格:232,050円。
「2014年度に4K放送、2016年に8K実用化試験放送、2020年に8K本放送で総仕上げという目標で推進していく予定」と総務省側はコメントしているが、国内ではまずは来年2014年に行なわれる、スカパー!JSATを中心とした4K放送開始の動きが4K実運用の初動として期待が高まっている。
2014年ブラジル/リオデジャネイロで開催予定のFIFAワールドカップに関する放送を睨んだ動きでもあるが、さらに今年9月に2020年のオリンピック開催地が東京に決まったことは、4K/8K放送への促進起爆として重要なキーポイントになるだろう。段階的に映像文化の進化を著しく促す起爆剤として、過去にもオリンピックなどのビッグスポーツイベントが重要な役割を果たしてきたことは言うまでもなく、東京オリンピック開催決定によって、HDから4K、8Kへの高解像度化へ更なる拍車がかかると思われる。
また一般市場の動きとして、4K/8Kへの移行はSDからHDへの転換期のように、アナログからデジタルという根本的な変革ではないため、4K/8K=高解像度映像の視聴という理由だけでは、テレビ受像機の買い替えへ喚起に関しては厳しいことが予測され、4Kによるモバイル端末普及などを含むスマートテレビとの融合も推進していく計画だ。
この4K/8Kの超高解像度放送への移管スケジュールは、当初の計画から大幅に前倒しとなった変更事項であり、その目的は次世代高臨場感放送において世界のトップになることにある。しかしすでに韓国が、昨年から地上波による4Kの試験放送を開始、7月にはCATVでも4Kの試験放送を前倒しで開始したこと、さらに英国のBスカイBや米国ディレクTVも衛星を使った4K放送を15〜16年ごろの施行に向けて着々と準備を進めていることで、日本の総務省としても海外勢に遅れをとりたくないという思いは強い。
4K/8K放送については現在、「放送サービスの高度化に関する検討会」の4K/8Kワーキンググループでロードマップを5月に策定、総務省が4K/8K放送前倒しの方針を固めたことで、検討会の作業にもこれを受けた動きが活発になっている。
それを受けて、この6月に設立発表を行なった4K/8K放送技術、番組制作等の推進母体となる、一般社団法人「次世代放送推進フォーラム(NexTV-F)」は、NHKを始め、在京キー局含む9社のほか、ソニーや東芝といった4社の家電メーカー、衛星放送のスカパー!JSATやKDDIら通信3社の計21社が名を連ねている。
総務省が5月末に作成したロードマップに従い、次世代放送サービスの早期実現を目指し、4Kそして8K、スマートテレビなどの次世代放送サービスの技術仕様の検討/評価、実用化に向けた実証実験放送の実施、そして利用促進に向けた広報活動などを行なっていく予定だ。
今後の課題と問題点
SONY VPL-VM1000ES:世界初の4Kホームプロジェクターとして登場し、価格も168万円というホームシアター用での最高スペックのプロジェクター。SXRDパネル搭載、2,000lmの高輝度、DCIと同等の広色域を実現、また簡単にシネマスコープサイズ(2.35:1)を視聴できる「ピクチャーポジション機能」、3D対応。
各分野の4K化への推進は好調な滑り出しを見せており、大手量販店の4Kテレビの売り上げも好調だ。大阪・ユニバーサルスタジオジャパンは7月に約15億円の費用を投じて『スパイダーマン3D』の4K上映の設備を導入している。パナソニックが、4K対応のタブレット端末等で、医療などの専門分野での新境地で4K映像技術の開発を進めていたり、世界の動画配信サービス業者では4Kコンテンツの配信に向けて様々な準備が進められるなど、4K包囲網とも呼べる動きは活発化しているが、実際にフル4K映像制作の確立には、まだ大きな障壁や課題がある。
まず4K制作におけるワークフロー確立の問題、そしてまたTV本放送実施に向けて放送事業者の負担が非常に大きいこと。さらには一般への4K映像の視聴環境の普及一般化と、本格的な実運用にはまだまだ道のりは険しそうだ。
さらには4K画像がそもそも必要なのかという議論も多い。現状における4K画像は特に映画、CM業界においては、質の高い2K(HD)画像を作り出すためのクロップ、スタビライズ、リサイズのための素材画像として用いられるケースがほとんどだ。これは現行のハリウッドを始めとする世界の映画業界、TV業界でも同様。これがフル4Kコンテンツのままの制作、配信、上映となれば、また考え方も変わって来る。
ARRI ALEXAがつい最近まで4Kカメラ開発の正式発表をしなかったのも、4Kでも充分に耐え得る画質と、色情報、ダイナミックレンジ、フレームレートなどの点において、これまでARRIが求めてきた映画界のトップエンドに通用するに必要充分な技術開発ができていなかったことを示しており、ようやくその時期が来た事を今回の発表声明の中で明らかにしている。特に問題視していたのはダイナミックレンジのようで、現行の他社製品のように4K解像度の実現によって、カメラのダイナミックレンジが犠牲になることは、フル4Kコンテンツにおいて最も避けたかったところのようだ。高精細なピクセル解像度は重要な要素ではあるが、貧弱な4K画像よりも優れた2K画像のほうが遥かに表現としては良いものに見えるという。
SONY 4K BRAVIA(上)・TOSHIBA 4K REGZA(下):まだ視聴できる4Kコンテンツの対応も不充分だが、4Kテレビの初速の売れ行きは各社好調のようだ。ソニーからは4K対応の家庭用テレビシリーズBRAVIAから、84型「KD-84X9000」と新たなフラッグシップシリーズ、64/55型の「X9200A」シリーズを発売。東芝はレグザエンジンCEVO 4Kと高精細4Kパネルを搭載した、Z8Xシリーズ(84、65、58型)を発売している。
モニターメーカーなどに取材すると、現行のHDモニタでも最大限の美しい表示レベルには至っていないとのことで、HDTVの信号も4:2:2から4:4:4へ、さらには8bitから10bitにすることでさらに美しい表示が可能になる。4Kでは従来のHD映像のカラースペースであるRec.709から、新たにRec.2020が4K映像のカラースペースとして策定されている。こうした色域が広くなっても、1ピクセル内における色情報が4:2:2と少なければ、その表示や色表現もそこまでのものでしかなく、完全な4K画像の恩恵を得るには、解像度以外の他のスペックも両立しなければ意味がないとする意見も多い。また伝送用の新コーデックHEVC(H.265)などの圧縮コーデックでは、やはり本来の4Kクオリティは失われてしまうなど、HD時代のハイビジョン(720p等)から次第にフルハイビジョン(1080p)への、ギミック的な移管も行なわれる可能性も否めず、高解像度化と引き換える上映条件等にもまだ多くの懸念材料が残る。
4K制作に向けて明らかに舵は切られた。SDからHDへの移行期のように、様々な技術のR&Dが次々と行なわれ、そこからまた何か新しい技術が生まれることも想像できる。クリエイターには、その時々の流れを見極めつつ、より実用性のある4K、8Kの作品制作を目指して欲しい。
※この記事はコマーシャル・フォト2013年9月号 特集「4K入門」を転載しています。
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