2017年06月21日
シグマと富士フイルムから50万円前後のシネレンズが発売された。購入可能な価格のレンズの登場で映像の表現はどう変わるのか、検証する。
中堅シネレンズ市場の活況にみる新シネマ時代
Panavision(パナビジョン/アメリカ)、Cooke(クック/イギリス)、Angenieux(アンジェニュー/フランス)、Carl Zeiss(カールツァイス/ドイツ)、FUJINON(フジノン=富士フイルム/日本)等々 映画撮影の世界を知っている方なら、映画撮影用のレンズ=シネレンズ(シネマレンズ)といえば、このような世界的レンズメーカーが浮かんでくることだろう。ハリウッドを中心に世界的作品を生み出してきたこれらのメーカーのシネレンズは、いまだ映画産業を支える映像の要だ。
これら映画撮影用レンズは、その高度な光学性能から1本数百万円、中には数千万円もするものもあり、通常はレンタル機材として使用されてきた。中でも核となる“プライムレンズ”、すなわち単焦点レンズは、シリーズごとに14、16、17、20、24、35、40mmと広角側は細かく刻まれており、50mm以上は85、100、135mmといったセットでのレンタルが標準的。1回の撮影では1セット7〜10本セットで借りる場合が多い。そこにロング(望遠)を狙うズームレンズが数本入ってくる構成になる。映画撮影ではこれらのレンズをシーンによって使い分けるため、1本の映画作品でも数多くのレンズが使われるのである。またパナビジョンなどは過去に、映画の中のたった1シーンのために作られたレンズもあった。こうした特注レンズは当然高価であるし、世界に数本しか存在しないようなシネレンズも数多くある。ところがここ数年、このシネレンズの世界にも変革が起こっている。特に昨年(2016年)の秋以降、安価でありながら高性能なパフォーマンスを発揮する、中堅クラスのシネレンズ市場がにわかに活況を帯びている。
変革を呼んだ大判センサ搭載のシネマカメラ
これまでのハイスペック/高価なシネレンズの性能を受け継ぎながらも、価格は100万円を切るような、新しいユーザー向けのシネレンズが近年相次いで市場参入。この背景には、2008年末のキヤノンEOS 5D Mark IIの登場以来のDSLRムービーの台頭と、その後の大判センサーカメラの登場が大きく関わっている。35mmフルサイズ、スーパー35mmなど、それまでのビデオカメラに搭載されていた2/3、1/3センサーといったセンサーサイズに比べて、大判のセンサーを積んだシネマカメラが市場に台頭してきたのである。
2010年以降、DSLRムービーのムーブメントとそのフィードバックを受けて、その後のスーパー35mm大判センサー搭載によるシネマカメラが続々と市場に登場。2011年にはキヤノンCINEMA EOS SYSTEM、2012年のブラックマジックデザインシネマカメラ、さらにはRED Digital Cinema社からもSCRLET-W、RAVEN、ソニーのPXW-FS7、FS5などなど、ミドルレンジからローレンジ市場へ向けてのカメラが登場。各社からここ数年で多くのシネマカメラがリリースされている。近年のシネレンズの台頭はこうした背景を元に生み出されてきた。
シネレンズの特徴
DSLRムービーも、当初はスチルカメラ用のレンズをそのまま使った作品が多かったが、スチル用のレンズとの大きな違いとして、レンズ自体のトーンがスチルレンズに比べて柔らかいこと、またスチルレンズで起きてしまうブリージング(フォーカスリングを回転させた際に発生する画角変動)がないこと、またフォローフォーカス用のギアなどが装着されている等、現場での操作環境とその装備の違いも大きい。
映像のプロからすれば、従来のスチルカメラ用レンズでは表現力や操作性には限界がある。さらに、いわゆる味わいや暖かみのある“シネマルック”といわれる、しっとりとした映像表現はスチルレンズの撮影では難しいという意見も多い。
昨今登場して来たミドルレンジ向けのシネレンズは、DSLRムービーが活況となった直後からすでに市場で注目されてきた。カールツァイスから2009年に登場した、単焦点のCompact Prime(コンパクトプライム)レンズシリーズ(CP)はその先駆けだ。キヤノンEOSにあわせたEFマウントと、シネマの世界ではスタンダードのPLマウントに対応し、35mmフルサイズをカバーした。その後、ソニーαシリーズのEマウントやマイクロフォーサーズ(MFT)など、様々なレンズマウントのシネマカメラが登場し、これに対応するIMS交換マウントシステムを搭載したCP.2(40万〜60万)が発売。安価で高性能なシネレンズシリーズは、瞬く間に世界のムービーカメラマンに重宝され、これまでで約3万本を出荷し、既に世界のスタンダードレンズとなっている。
その後もキヤノンのCINEMA EOS SYSTEMからのCN-Eシリーズなど、各社から次々と比較的安価なシネレンズが発表されている。そしてここ数年は、4K、そして8Kという解像度への対応も、レンズ製造にとって大きな壁となっていた。レンズ製品は実際の製造ラインに乗るまでに時間を要するため、2010〜11年頃から登場してきたデジタルシネマカメラに対応するべく準備を進めて来た各レンズメーカーが、ここにきてようやくそのユーザーニーズに叶うシネレンズが完成した。
最近のシネレンズでは、安価にも関わらずレンズマウントの豊富さや、フォローフォーカスのギアピッチを業界標準の0.8Mに揃えているなど、現場での操作環境の標準装備、またズーム&フォーカスリングの回転方向に関するキヤノン派vsニコン派の回転方向の選択の自由度など、デジタル時代のシネマカメラに沿った様々な工夫が施されている。
その中でも、昨年9月に発表された、シグマのCINEMA LENSシリーズ、そして今年3月にリリースされた富士フイルムのMKレンズは、値段の手頃感と本格的な操作性能、そして優れた解像感が特徴だ。まさに日本のレンズメーカーならではの手頃感×高性能シネレンズの新世代ラインナップが登場した。
SIGMA CINEMA LENS
SIGMA 18-35mm T2 SIGMA 50-100mm T2www.sigma-global.com
富士フイルム 「MKレンズ」シリーズ
FUJINON MK18-55mm T2.9fujifilm.jp/business/broadcastcinema/
※この記事はコマーシャル・フォト2017年6月号から転載しています。
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