製品レビュー

SIGMA & FUJI FILM コンパクトで高画質シネレンズで広がる映像表現 ③

シグマと富士フイルムから50万円前後のシネレンズが発売された。購入可能な価格のレンズの登場で映像の表現はどう変わるのか。最終回は、既に映像作品として発表されている、富士フイルムのシネレンズを使用した事例を検証する。

【作例】富士フイルム/FUJINON MK18-55mm T2.9

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「spirit of beauty 南砺」


dir/camera:広川泰士 企画・演出・撮影:広川泰士 Pr:谷田督夫 Crd:田中敏惠 撮影チーフ:宮崎勝之 撮影助手:渡慶次勇太 DIT:秦勝行 照明:タナカヨシヒロ エディター・テクニカルスーパーヴァイザー:奥山英男 カラリスト・ビジュアルスーパーヴァイザー:棚橋一樹 ポストプロダクションアシスタント:山田秀樹 音楽・MIX:野村弘 タイトル:古代文字アーティスト・天遊 協力:南砺市・南砺市のみなさま

富山県南砺市。岐阜県との境の山間には世界遺産五箇山合掌造り集落があり、平野部には田園が広がる。自然の中に人々の生活が根付き、昔ながらの文化や伝統が今でも残る土地だ。広川泰士さんが、富士フイルムの新しいシネレンズ「FUJINON MK18-55mm T2.9」のプロモーションのために撮った映像は、庄川を遡る船の舳先から撮られた山々の映像から始まり、伝統工芸や文化を守る人たちを紹介していく。まだ雪が舞う春間近の山林の風景や、息を詰めるような職人たちの手作業の接写、そんな凛とした映像の合間に入る人々の笑顔のポートレイトが温かい…。「MK18-55mm」はソニーEマウントレンズのため、カメラは同社の4Kデジタルシネカメラ「FS7」を使用。途中デジタルカメラα7R IIのタイムラプス映像もインサートされている。映像は4月末にラスベガスで開かれた映像機材ショーNABの会場で上映されたほか、富士フイルムホームページなどでも視聴可能。

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合掌造りの民家の屋根裏から外の雪景色を望む。
コントラストの高いシーンでも柔らかさがあるナチュラルな表現になっている。



INTERVIEW  広川泰士

デジタルになってから、なおさら柔らかいレンズを好んで使うようになった

───アメリカの映像機材ショーNAB会場やWebで放映するために富士フイルムの依頼で撮った映像ということですが。

最初、フジからの依頼は「人物寄りの映像を」ということだったのですが、よくあるフィルムやカメラのプロモーションのようにモデルを撮ってもあまり面白くない。そこでふと思いついたのが6年前に写真集を出した南砺のことなんです。岐阜との県境にある南砺市は白川郷とも山続きで、山側は合掌造りの古い民家があり、平地には田んぼが広がっている。写真集では1年かけて撮影したのですが、それをもう一度、今度は映像で撮ろうと。

実際、6年振りに行ってみると人も風景は全く変わっていない。変わっていないどころか、映像を見るとわかりますけど、若い人たちも出てきますよね。伝統工芸が若い世代にちゃんと受け継がれている。

img_products_review_sigma02_04.jpg カメラはソニーFS7を使用。右手前が広川氏。



───撮影はいつ頃だったのでしょう。

3月です。真冬ではないので、着いた日は山に雪が少なくてどうしようかと思っていたら、撮影開始の前日の夜、一晩中吹雪いて、いい感じに雪化粧された。それはラッキーでしたね。撮影はまるまる4日間、写真集と同じように南砺の自然、そこに暮らす人、工芸品や文化を撮っていきました。

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撮影は4日間。人、場所を尋ねてまだ雪がちらつく南砺を巡った。

───映像では山の遠景あり、職人さんたちの手元や顔のアップあり、そして各シーンの最後にはその人たちのポートレイトが入る。レンズの話になりますが、それをすべてこの18-55ミリのズームレンズで撮影した。

標準の画角を挟んだその前後、テレ側もワイド側もあまり無理をしていない。写真集の撮影をした時も、その時はズームではなく単焦点レンズを何本か使ったのですが、だいたいこの範囲内の焦点距離だったので、使いやすかったですね。ただ手元のアップなどは、このレンズもマクロ機能はあるけれど、それ以上に寄りたいのでプロクサ(クローズアップ補助レンズ)を使っています。

───シネレンズとしてはサイズもかなりコンパクトですよね。

ソニーのEマウントということもあるだろうけど、この大きさでよくこれだけのレンズにまとめたと思います。普段僕らが使っているPLマウントのズームレンズはもっと大きい。今回はシネカメラFS7の他、α7R IIにつけてタイムラプスを撮っているのですが、小さなα7R IIにつけてもそんなにひどいバランスではない。

この撮影はコマーシャルの撮影と較べるとかなり少ないスタッフで撮影しているのですが、それよりももっと少人数のキャメラマンがひとりでセルフオペレーションするような撮影、山岳撮影などあまり機材を増やせない撮影にはいいと思う。フジの狙いもその辺にあるんじゃないのかな。

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タイムラプスはMK18-55mm T2.9をα7 R IIにつけて撮影。

───レンズの撮れ味はどうですか?

フジノンらしい柔らかさがありますね。雪景色は結構コントラストが強いし、古い民家の屋根裏のシーンなども、天井の黒く煤けた梁と窓の外でかなりコントラストがあるのですが、ディテールを出しながらナチュラルに撮れたと思う。

映像もデジタルになり解像度が上がってくると、レンズもそれに合わせてシャープな解像感を求められるだろうし、技術的にはそれも可能なのだろうけれど、実際に僕らは硬いレンズはあまり使わないんです。人によって違うのかもしれないですが、デジタルになってから、なおさら柔らかいレンズを好んで使うようになった。ズミクロンとかクック、ツァイスの古いレンズとか。写真も古いレンズが人気じゃないですか。4K、6K、8Kと解像度は上がっていくけれど、やはり映像として見て心地いいラインがある。その辺がこれからのレンズ開発の難しい所ですよね。



※この記事はコマーシャル・フォト2017年6月号から転載しています。


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