2018年04月13日
ニコン創立100周年の節目にあたる2017年8月に発表されたニコンD850。裏面照射型CMOSセンサーを搭載し、画素数、高感度性能、そして高速連写などすべての面で大きな進化を遂げている。ローパスフィルターを廃した4575万画素の解像感は圧倒的だ。
4575万の高画素と高感度を両立させた
ニコン100周年の節目に発表されたのが、「NIKON D850(以下D850)」だ。D800シリーズはニコンの中でも高画素機の位置づけにあり、画素数が必要なコマーシャルの撮影や風景写真を撮影するユーザーには定評のあるカメラだ。そのため、連写性能や高感度性能はニコンの他の機種と比べると劣っていたのも事実。しかし、D850はその概念を覆すモンスター機に仕上がっている。今回は様々なシーンでテスト撮影を行なってみたのでインプレッション形式でD850の魅力を紹介したいと思う。
ニコンD850
ニコンD850。写真はバッテリーパックMB-D18をつけた状態。
バッテリーにEN-EL18bを使用することで、最大秒9コマの連写可能。
撮像素子:35.9×23.9mm 裏面照射型CMOSセンサー
有効画素数:4575万画素
画質モード:RAW12ビット/14ビット/TIFF(RGB)/JPEG-Baseline準拠
ISO感度:ISO 64~25600
シャッター形式:電子制御上下走行式フォーカルプレーンシャッター/電子先幕シャッター
シャッター速度:1/8000~30秒/Bulb/Time/X250
連続撮影速度:ボディ単体時最大7コマ/秒/MB-D18(電源がEN-EL 18bの場合)使用時最大9コマ/秒
測光モード:マルチパターン測光/中央部重点測光/スポット測光
フォーカスポイント:153点(選択可能55点)
動画:<3840×2160>30p/25p/24p
<1920×1080>60p/50p/30p/25p/24p
<1280×720>60p/50p
<1920×1080スロー>30p(4倍)/25p(4倍)/24p(5倍)
モニター:チルト式3.2型TFT液晶モニター(タッチパネル)
外寸:約146×124×78.5mm
質量:約1005g(バッテリーおよびXQDカードを含む、ボディーキャップを除く)
D850はD810の後継機にあたる機種で、約3年2ヵ月ぶりのリニューアルになる。進化点も多く、フラッグシップ機であるNIKON D5から受け継いだ機能も多い。まずは、注目すべき進化点から紹介しよう。
画素数はD810の有効3635万画素から4575万画素に大幅にアップ。ローパスフィルターレスで、細かな部分までしっかりと解像している。遠景や近景など様々な被写体でテストしてみたが、ディテールの表現力は高い。画像等倍で見ても線が非常に細く、緻密に被写体の細かな所までを表現できている。同クラスの中判デジタルカメラとほとんど変わらないレベルの画質と言っても過言ではないだろう。ただし、ここまでの画素数と解像感になるとレンズも重要になるので、レンズ選びにも妥協したくない。
高画素+ローパスレスの描写力
レンズ:AF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8E ED VR ISO64/f8/1/80s
※画像をクリックすると別ウィンドウで本データを表示
広いダイナミックレンジ
レンズ:AF-S NIKKOR 35mm f/1.4G ISO64/f2.0/1/1250s
※画像をクリックすると別ウィンドウで本データを表示
高画素センサーはダイナミックレンジが心配となるが、D850は充分なダイナミックレンジがあるという印象。この作例はアクティブDライティングを使用していないのだが、ハイライトからシャドーまで粘りがある。アクティブDライティングを使うことで、さらに伸びしろは広がるはずだ。
最高感度はISO 25600
また驚くべきは高感度性能だ。画素数と高感度性能は相反するイメージがあるが、D850ではそのイメージは覆されるかもしれない。ISO感度の設定はD810ではISO 64-12800だったが、D 850ではISO 64-25600にアップ。数字だけで見ると1段のアップに見えるが、実写では驚きの結果だった。
【作例 1】夜景
ISO 6400 ※画像をクリックすると別ウィンドウで本データを表示
ISO 25600夜景と明るいシーン(作例2)での高感度性能を比較してみた。どちらのシーンでもISO 3200くらいまでは充分使える。ISO 6400でもシーンによって充分実用レベルだ。ISO 12800やISO 25600になると使うサイズやシーンによってはノイジーに感じるかもしれないので用途によって見極めたい。
実はD850のセンサーは、ニコンのデジタル一眼レフカメラとしては初めて裏面照射型CMOSセンサーを搭載している。配線層をフォトダイオードの下に配置する裏面照射型CMOSセンサーは、効率よく入射光をフォトダイオードに導くことができるが、その結果、ノイズは非常に少なく、厳しい目で見てもISO 800までは全くノイズを気にせず使えるレベル。細い線やディテールまでしっかりと残っており綺麗だ。空などの平面部分もざらつきはなくクリーンな印象である。
ISO 1600くらいから画像等倍で見た場合、暗部に少しだけノイズが確認できるが充分使えるレベル。超高感度域のISO12800でも全体的にざらつくが、ノイズ処理が優秀なため、塗り絵のようにべたつくこともなく、シャープに表現できている。さすがにISO 25600になると、ざらつきも増えカラーノイズも出てくる。ノイズ処理も強くなり、細かなディテールがなくなり、被写体によってはノッペリしている箇所が散見できる。
【作例 2】明るいシーン
ISO感度を変えて上のシーンを撮影。下写真がその部分拡大。
実写画像を見る限り、ISO 6400までは、少なくとも使えるレベルであることがわかる。もちろん高感度のノイズレベルは、許容範囲に個人差はあると思うが、筆者の場合で言えば、ISO 6400までは必要であれば使う。
高画素かつ高感度に強いとなれば、今まで撮れなかった被写体にも積極的に挑戦できるはずだ。
D5同等のAF性能で秒間7コマの連写
圧倒的な高速連写性能もD850の魅力の一つ。D810では5コマ/秒だったが、D850では7コマ/秒に進化。さらに、別売のマルチパワーバッテリーパックMBD18にEN-EL 18bバッテリーを使用すれば、9コマ/秒まで連写速度がアップする。連写が苦手だと思われていたD800シリーズではあるが、圧倒的なパフォーマンスが期待できる。
バッファメモリにも余裕があり、14bitロスレス圧縮RAWで約51コマの連写撮影が可能だ。それにより、動体を撮影することの多い人もストレスなくD850を使えるはずだ。また、省エネ設計によりEN-EL 15aを使った場合、約1840コマの撮影が可能になっている。連写撮影が多いユーザーでも安心して撮影できるだろう。
AFはNIKON D5より継承している。153点のAFシステムは画面の幅広い範囲をカバーしており、D810よりも面積比で130%も広い。クロスセンサーも153点の内99点をカバーし、被写体捕捉能力は最高レベルと言っていい。高画素になればなるほど、被写体の捕捉性能が重要になるが、D5と同等レベルなため、ストレスなくしっかりとピント合わせが可能になっている。筆者はD5ユーザーでもあるが、全く同じ感覚で動体を撮影することができた。
また、AFは中央1点は-4EVに対応しており、NDフィルターを付けたままピント合わせができたり、テレコンバーター使用時などでも、ピント合わせできるのもポイントだ。
D800クラスとしては初めてサブセレクターを搭載。フォーカスエリアの選択などが行なえる。セレクターの動きは少し硬めだがマルチコントローラーに比べ、親指がアクセスしやすい場所にあるので便利だ。
各部ブラッシュアップ操作性能も向上
操作性や信頼性もさらに向上している。注目すべきは倍率約0.75倍の広い光学ファインダーだ。D5の約0.72倍よりも広く、快適に撮影ができる。もちろん視野率は100%だ。アイポイントも長く、眼鏡を掛けていても殆どケラれがなく撮影しやすい印象だ。
倍率約0.75倍の光学ファインダーを搭載。D5の約0.72倍よりも広く視認性が非常に高いので、じっくりと被写体や構図を確認できる。もちろん視野率は上下左右共に約100%だ。また、アイピースシャッターレバーも備えている。
また、液晶モニターはタッチパネル採用のチルト式3.2型を採用している。3軸のヒンジ構造のため、90度近くまでチルトでき、俯瞰撮影も楽々行なえる。ライブビュー時のAFは一般的なミラーレス機と比べると少し遅めの印象だが、物撮りや風景撮影くらいであればストレスなく撮影できるだろう。タッチAF対応なので、構図を作った後にピント合わせできる点も便利だ。
液晶は3.2型のタッチパネルを採用している。また3軸ヒンジ構造のチルト式で撮影の用途に合わせて動かすことができる。上の写真では90°手前に液晶を倒した状態。俯瞰撮影などでも便利に活用できるはずだ。
さらに、静止画ライブビュー時には電子シャッターを使用するサイレント撮影が可能になっている。ブレや音の気になるシーンにおいて力を発揮するはずだ。モードは2つ用意されていて、モード1では有効画素4575万画素で撮影でき、モード2では864万画素で最大で3秒間の連写を30コマ/秒で行なうこともできる。サイレント撮影機能はローリングシャッターの気にならない被写体であれば、使い道は多いはずだ。
また、暗所での撮影にも便利なボタンイルミネーションを搭載。カメラの右側にあるボタン類はD5やD500同様に発光させることができるようになっている。
信頼性ももちろん抜かりない。ここ数年炭素複合繊維のモノコック構造を採用する機種が多かったが、D850では堅牢性の高いマグネシウム合金を採用。ガッチリとしたボディーはとても安心感がある。グリップは深めで、しっかりとホールドできるので、重量は1005gと少し重くなっているが、気になるほどではない。もちろん、防塵防滴性能も搭載しており、厳しい環境下での撮影もこなすことができるはずだ。
その他の注目点としては、FXフォーマットの機種として、初めて4K動画をフルフレームで撮影できるようになった。D5ではドットバイドットでクロップされてしまうが、D850ではセンサーの面積をフル活用できるようになっている。また、高画素を活かした8Kタイムラプスムービーが作成できる点もポイントだろう。
D850にはWi-Fi機能に加えて、Bluetooth機能も備えている。SnapBridgeとの連携で撮影した画像を常時スマートフォンなどに転送できる。常時接続ができ、位置情報なども記録できるので、使い方次第ではとても役立つはずだ。
今回D850を使用して、驚くべき進化を遂げていることに気づかされた。特にD810が苦手としていた高感度性能や連写性能が飛躍的に進化し、その結果、静物や風景だけでなく、動体や暗所での撮影もこなすことのできるモンスターカメラに仕上がっている。中判デジタル画質が必要で、高感度や連写撮影が必要という場合にもD850は必ず結果に応えてくれるだろう。
米国サンフランシスコに留学し、写真と映像を学ぶ。帰国後、写真家塙真一氏のアシスタントを経て、フォトグラファーとして活動開始。現在は雑誌、広告を中心に活動。ライフワークとして世界中のドラマチックなシーンを撮影。写真教室の講師や講演、書籍の執筆活動も行なっている。
※この記事はコマーシャル・フォト2017年10月号から転載しています。
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