2014年08月19日
夕日が絶妙な色合いで辺りを染め上げる感動的な夕景。しかしこれもまた、見たままを写真で再現するのが難しい題材だ。記憶どおりに夕景を再現するにはレタッチが必須。今回はそのコツを紹介する。
朝日や夕日は、目で見ると美しくても写真に撮るとがっかりすることも少なくない。カメラの設定が上手く追い込めていないからという理由もあるけれど、現実の色と記憶の色の違いのほうが大きいだろう。
そこにレタッチの必要性が生じてくる。
「こんなはずじゃなかった」写真を記憶どおりに仕上げることで印象に残る写真にでき、もちろん作品性も高まるだろう。
ちなみに、朝日と夕日でレタッチの方向性が異なるかという点だが、個人的には多少のニュアンスを変えるようにしている。朝日は凛とした冷たい空気感、夕日は暖かさを意識して時間的な違いを感じさせるとともに、画一的な仕上がりを避けるのが目的だ。
色の大人しい夕日を印象的な色彩に仕上げる


キヤノンEOS 6D EF28-135mm f/3.5-5.6 IS USM 絞り優先AE(f3.5 1/30秒) 補正なし ISO100 評価測光 WB:日陰
夏の夕日ということで、熱の残る雰囲気を出すためにホワイトバランスを「日陰」で撮影。その狙いは再現されているのだが、焼けた空の色彩や高空の青い空など、発色が少々もの足りない結果に。
レタッチの設計
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彩度に頼らずに夕焼けの色を作り込んでいく
まず覚えておきたいのは、夕日の補正を行なうときには彩度に頼らないという点。見栄えをよくするために彩度を強めて鮮やかにしたくなるところだが、夕日の赤やオレンジはくすんでいるように見えても彩度は高めなので、すぐに色が飽和してしまう。
したがって、基本的には「トーンカーブ」や「カラーバランス」で色を作り込んでいく方法がベスト。Photoshop CCなら、「Camera Rawフィルター」で色温度を調整する方法も効果的だ。
また、赤やマゼンタ、青系の微妙な発色をコントロールするときには「特定色域の選択」が便利。今回は、夕焼けの赤や空の青に対して微妙な色をこの機能で調整している。
「特定色域の選択」に関しては、第1回から第3回でも存分に使い込んでいるので、そちらも参照してもらいたい。
はじめに

作業のポイントとなるのが、色の飽和を抑えて発色をよくするという点。そのためには彩度機能に頼らずに、CMYやRGBの色のバランスを調整して作り込む必要がある。
最終的なレイヤーは、下から①明暗とコントラスト補正の「トーンカーブ1」、②空の青を補正用する「トーンカーブ2」、③青と赤系の色をコントロールする「特定色域の選択」、④全体の雰囲気を整える「カラーバランス」で、最後に⑤色温度を微調整する「Camera Rawフィルター」と⑥補正の強さを整えるためのレイヤーで構成されている。
各補正のレイヤーも大切だが、もしかすると⑥のレイヤーが仕上がりにもっとも影響のあるレイヤーといえるのかもしれない。
①全体の露出とコントラストを整える
■STEP1 「トーンカーブ」を選択
少し色の濃さを出したいので、色濃く(暗め)補正するための「トーンカーブ」(調整レイヤー)を用意する。レイヤーパネル下部の ボタンから「トーンカーブ」を選択するか、「レイヤー」メニューの「新規調整レイヤー」→「トーンカーブ」で機能を表示。トーンカーブが表示されたら、線グラフの左下と右上付近にポイントを作成しておく。




■STEP2 明るさとコントラストを整える
STEP1で作った2つのポイントは、①左下を上下するとシャドウの明暗が、②右上でハイライトの明暗が調整できる。つまり、シャドウとハイライトを個別に補正することで、明るさとコントラストが同時に仕上げられるということ。難しいことは考えず、基本的には写真の変化を見ながらふたつのポイントを上下させればOK。作例の場合は、③シャドウのポイントを下げて暗くし、色濃くなるようにコントラストを強めている。




コントラストを強めている

②空の青さに深みを出す
■STEP1 「トーンカーブ」を選択
次の作業は、空の高いところに見えている青系の色の補正だ。できればもっと色濃く、深い色彩に仕上げたい。空の高い位置になるほど青の強さを強めていきたいので、調整レイヤーのトーンカーブ+レイヤーマスクで作業を行なっていく。まずは、レイヤーパネル下部の ボタンから「トーンカーブ」を選択して2つ目のトーンカーブ機能を表示。




■STEP2 「グリーン」チャンネルを編集
青に深みを出すには、マゼンタとシアンを増加すればOK。トーンカーブのチャンネルでいうなら、「グリーン」と「レッド」チャンネルに相当する。まずは①「チャンネル」を「グリーン」に設定して、②線グラフの中央を下げてマゼンタを強めておく。写真によっては、この調整だけでも青に深みが出てくるし、夕焼けの赤にもマゼンタが乗って栄えのある色彩にすることができる。





■STEP3 「レッド」チャンネルを編集
続けて、STEP2のトーンカーブでシアンを増加していく。作業的には、①「チャンネル」を「レッド」に変更したら、②線グラフの中央を下げればOK。これでSTEP2のマゼンタとSTEP3のシアンが重なり、発色のよい青が再現できるようになる。





■STEP4 マスク描画の準備
このままでは、空の青さを改善する補正が写真全体に適用されてしまう。必要なのは青い部分のある画面上部だけなので、補正をこの範囲に制限するために「レイヤーマスク」を使用する。まずは、「レイヤー」パネルで「トーンカーブ2」レイヤーの「レイヤーマスクサムネール」 をクリックして選択。


■STEP5 「グラデーションツール」を設定する
画面の上部に向けて滑らかに補正を適用したいので、レイヤーマスクへの描画は「グラデーションツール」で行なう。①ツールパネルで「グラデーションツール」を選択したら、②「グラデーションピッカー」ボタンをクリックして、③「黒、白」を選択。グラデーションのタイプは④「線形グラデーション」に設定し、⑤「不透明度」を「100%」にしておく。
「グラデーションツール」を「黒、白」に設定する
■STEP6 補正の範囲を制限する
「トーンカーブ2」レイヤーの「レイヤーマスクサムネール」と、ツールパネルの「グラデーションツール」が選択されているのを確認したら、補正しない部分から補正を適用する部分に向けて写真上でドラッグ。このとき、Shiftキーを押しながらドラッグすると角度が固定できて便利だ。





③青と赤の発色を調整する
■STEP1 「特定色域の選択」を選択
青や赤系色の微妙な発色をコントロールするには、調整レイヤーの「特定色域の選択」が便利。「レイヤー」パネル下部の ボタンから「特定色域の選択」を選択して属性パネルに「特定色域の選択」画面を表示したら、画面下部の設定を「絶対値」にしておく。




≪ワンポイント≫
■「特定色域の選択」とは
指定した色の系統(レッド系やブルー系など9系統)に対して、「カラーバランスとブラックの濃度」が補正できる機能。色別に補正できるため、補正する場所を「面」で制限する「レイヤーマスク」では難しい緻密で繊細な部分に対しても、適切な補正が施せる。「特定色域の選択」画面の下部にある「相対値」と「絶対値」は補正の効き方の設定で、相対値を選ぶと色の成分(RGBの数値)に対しての割合で(繊細な調整に適している)、絶対値を選ぶと指定した量で色の成分が増減できる(強めの効果が得られる)。
■STEP2 赤系の色を調整する
まずは、赤系の色の発色から整えていく。属性パネルの「特定色域の選択」画面で「カラー」を「レッド系」に設定したら、赤い色に着目して各スライダーを調整。作例では、少しオレンジ色の雰囲気を出したかったので、「イエロー」スライダーを右に移動して色を整えている。この辺りはイメージで微調整しよう。





■STEP3 青系の色を調整する
STEP2の「特定色域の選択」を使い、今度は青の発色を補正する。「特定色域の選択」画面で①「カラー」から「ブルー系」を選択し、②「シアン」と③「マゼンタ」スライダーを右に移動。これで、青い色に対してシアンとマゼンタが増加し、深みを出すことができる。作例では省いているが、薄い青(水色)が含まれているときには、「カラー」から「シアン系」を選択して同様の補正を適用しておく。





④全体の雰囲気を整える
■STEP1 「カラーバランス」を選択する
各部の色は整えられたので、今度は全体の色を調整して雰囲気を再現する。この作業はトーンカーブでもよいのだが、シンプルに「カラーバランス」を使うと分かりやすいだろう。「レイヤー」パネル下部の ボタンから「カラーバランス」を選択し、属性パネルに「カラーバランス」画面を表示したら、繊細な補正が行なえるように「輝度を保持」のチェックを外しておく。




≪ワンポイント≫
■「輝度を保持」機能とは
「カラーバランス」画面にある「輝度を保持」チェックボックスは、補正中の露出の扱いを決めることができる。たとえばRGBの値が「R:100、G:100、B:100」の写真に対してレッドを増加して「R:120、G:100、B:100」になった場合、データの総量が増えるため写真は明るくなる。これを防ぎ、明るさを一定にしたまま色を変化させる機能が「輝度を保持」チェックボックスの役目だ。ただし、輝度を保持しているとレッドの調整に伴いグリーンやブルーも調整されるなど、狙った色が得にくいこともある。
■STEP2 燃え立つような夕景を再現
仕上がりのイメージは「熱っぽい燃えるような夕焼け」なので、それに合わせて暖色系に偏るように補正していく。①補正する階調は「中間調」を選択し、全体的な色彩が調整できる設定に。オレンジ色を残しつつ藤色と熱い空気感がほしかったので、②マゼンタと③レッドを増加してみた。





■STEP3 補正のバランスを整える

調整レイヤーを使った補正の最後に、各補正の強さを整えておく。たいていは補正が強過ぎる傾向にあるので、必要に応じてレイヤーパネルの「不透明度」を下げて補正を弱めておこう。ちなみに、調整レイヤーの内容を修正すると、せっかく整えた色のバランスが崩れる恐れがあるので、まずは「不透明度」を下げて様子を見ること。それでも対処できないときに、各調整レイヤーを再編集すればよい。
⑤色温度で色彩を作り込む
■STEP1 表示部分の複製を作る
Photoshop CCを使っているなら、さらに「Camera Rawフィルター」で色彩が作り込める。ただし、この機能は調整レイヤーには対応していないので、補正を試行錯誤するためには工夫が必要だ。手順としては、「補正された状態」でレイヤーを複製して、「スマートオブジェクト」に変換してから「Camera Rawフィルター」を使えばOK。これで、補正が再編集できるようになる。まずは、レイヤーパネルでいちばん上のレイヤーを選択して、キーボードで「Alt+Shift+Ctrl+E」(Macは「Command+Shift+Option+E」)キーを同時に押してレイヤーの複製を作成しよう。



≪ワンポイント≫
■「すべての表示レイヤーのコピーを結合」機能
キーボードの「Alt+Shift+Ctrl+E」(Macは「Command+Shift+Option+E」)キーで実行できるのは、「すべての表示レイヤーのコピーを結合」と呼ばれる機能だ。メニューからは直接選べないため、ショートカットを変更していてこの機能が使えないときには、①「Ctrl+A」キーで全選択、②「編集」メニューの「結合部分をコピー」、③「編集」メニューの「ペースト」で代用する。
■STEP2 スマートオブジェクトに変換
「Camera Rawフィルター」を調整レイヤーのように使うために、作成した画像のレイヤーを「スマートオブジェクト」に変換する。手順は、①レイヤーパネルで画像のレイヤーを選択し、② ボタンから「スマートオブジェクトに変換」を選択。スマートオブジェクトに変換しても画像の見え方は変わらないが、③レイヤーのサムネールの右下にアイコンが追加され判別できるようになっている。



≪ワンポイント≫
■「スマートオブジェクト」とは
元の画質を維持したまま編集が行なえる形式の画像レイヤーのこと。拡大や縮小、フィルター加工、変形などを行なった後でも、編集内容を変更したり取り消して元の状態にすることができる。「調整レイヤー」の編集機能版と考えると分かりやすい。
■STEP3 「Camera Rawフィルター」を選択
①STEP2でスマートオブジェクトに変換した画像のレイヤーを選択し、②「フィルター」メニューの「Camera Rawフィルター」を選択すると、RAW現像でお馴染みの「Camera Raw」画面が表示される。これで、「Camera Rawフィルター」を調整レイヤー的に使う準備は完了だ。



■STEP4 色温度を調整する
「Camera Rawフィルター」では、「色温度」と「色かぶり補正」を中心に調整していく。ただし、これらを補正すると明るさや色の濃さも変化して見えるので、自ずと各機能の調整は必要になる。作例では、空の青と夕焼けの赤の色彩を強めるため、①「色温度」を左に移動して青を強め、②「色かぶり補正」を右に移動してマゼンタを強めている。さらに、澄んだ空気の透明感を出すために「露光量」と「白レベル」で明るめにし、薄くなったハイライトは「ハイライト」スライダーを左に移動して改善。この辺りは好みで仕上げればよいだろう。調整できたら③「OK」ボタンをクリックして確定。



■STEP5 補正のバランスを調整するアイデア



「Camera Rawフィルター」の補正の強さは、レイヤーパネルで「Camera Rawフィルター」の名称部分をダブルクリックすれば調整できるのだが、もっと確実な方法を紹介しよう。それが、元の画像で補正を馴染ませるテクニックだ。まずは、レイヤーパネルで①「背景」レイヤーを ボタンにドラッグ&ドロップして複製を作り、②「背景のコピー」レイヤーを作ったらドラッグで移動して、③いちばん上に配置する。



■STEP6 補正のバランスを仕上げる
STEP5の作業直後は、元の画像が見えているので補正は適用されていない状態になっている。そこで、レイヤーパネルで①複製した元の画像のレイヤーを選択し、②「不透明度」を下げて補正された画像と色を混ぜ合わせていく。多くの場合、最初の補正は強過ぎるため、弱めて馴染ませるこの方法は覚えておくと便利。元の色調との差で補正の強さが調整できるので、違和感のない色に仕上げられるのがメリットだ。





おわりに
Photoshop CCをもっていないなら、Camera Rawフィルターの前までで色を整えればOK。Photoshop CCなら、Camera Rawフィルターを使えばより微妙なニュアンスの色が表現できるようになるので、ぜひとも使ってみよう!
それはさておき、今回こそは短い手順でシンプルにまとめようと思ったのだが、やはり真面目に解説していくとそれなりのボリュームになってしまった……。
Photoshopをはじめて使う人でも気軽に読めるように、もう少しシンプルに仕上げられる作例も、機会を見て紹介したいと思う。
作例写真とPhotoshop体験版のダウンロード
記事中の作例写真を使ってPhotoshopの操作が学べるように、画像の無償ダウンロードを行なっています。画像の利用目的は個人利用に限り、商用利用や悪意のある再配布はご遠慮ください。上記の範囲内でブログ、Twitter、Facebookなどに掲載するのは自由です。
また記事はPhotoshopの最新版を使って説明していますので、最新版を試したい場合は、アドビ システムズのWebサイトから無償体験版をダウンロードしてください。
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桐生彩希 Saiki Kiryu
レタッチャー/ライター。レタッチ系の記事や書籍を多数執筆。なかでもAdobe Photoshopに関しては、Adobe Photoshop 3.0の頃から20冊以上の書籍やムックを制作。個人的な活動としては、「売れる」「飾れる」デジタルプリントを目指し、自作の用紙で作品を制作している。
- 印象的な色彩を再現する②
- 臨場感を演出するレタッチ⑦
- 臨場感を演出するレタッチ⑥
- 印象的な色彩を再現する① マゼンタ系の場合
- レタッチの方針の立て方
- 消し跡が目立たない消去法
- 季節を意識したレタッチ③
- 臨場感を演出するレタッチ⑤
- 淡いトーンで仕上げる①
- 繊細で解像感の高い仕上がりを目指す①
- 朝・夕・夜の雰囲気を出す③
- 逆光のシーンを美しく仕上げる
- 臨場感を演出するレタッチ④
- 朝・夕・夜の雰囲気を出す②
- 臨場感を演出するレタッチ③
- 障害物を消去して色を整える
- 写真の質感を整える
- 臨場感を演出するレタッチ②
- 季節を意識したレタッチ②
- 思いどおりの露出に仕上げる
- 朝・夕・夜の雰囲気を出す
- 鮮やかで印象的な色彩の再現
- 季節を意識したレタッチ
- 臨場感を演出するレタッチ