2018年02月06日
今回採り上げるのは、季節を問わずネイチャーフォトが楽しめる水辺のシーン。Camera Rawフィルターだけを使って、より印象的な色彩と雰囲気を出す方法について解説する。
ネイチャーシーンでは、紅葉や雪景色、桜や新緑など、被写体がきれいに写し取れる季節を意識することが大切だ。しかしながら、中途半端な季節でも魅力的なシーンは探せるし、Photoshopで印象やイメージを作り込むこともできる。
中でも、水辺のシーンは季節を問わず楽しめる撮影スポットのひとつで、高速シャッター、スローシャッター、ハイキー、ローキーなど、いろいろな写し方が可能だろう。
ただし、撮影する時間帯や光の加減によっては、面白みのない写りになりやすいシーンでもある。作例はその一例で、薄曇りのしっとりとしたシーンだったのだが、写真からはその雰囲気が伝わりにくい。
より印象的な色彩と雰囲気を出すにはどうすればよいのか、順を追って考えてみよう。
テーマ:渓流のシーンにしっとりと幽玄な雰囲気を出す


キヤノン EOS 5D MarkIII EF17-40mm F4L USM シャッター速度優先AE(f9 1/6秒) 露出補正なし ISO50 評価測光 WB:オート NDフィルター
しっとり感を出すために、(コントラストが強くならないように)画面内に光が射さないタイミングで撮影。コントラストの弱い落ち着いた印象は出ているが、湿り気のある幽玄な雰囲気が感じられないのが不満。冷たく濡れたような質感を目指して補正したい。
>>作例写真のダウンロードはこちらから
※作例写真を使ってPhotoshopの操作が学べます。画像の利用目的は個人利用に限ります。
しっとり感を出す方法とは?
今回紹介するのは、渓流などの水辺のシーンで使いやすい「湿度感たっぷりの幽玄な描写」を再現するテクニック。
注意点は写真の状態で、画面内に陽が射して、地面や水面が部分的に明るくなっているカットはNG。強い光源があることで、幽玄さとしっとり感が相殺されてしまう。
補正の方向性としては、明るい領域を押さえるようにコントラストを弱くして、色温度を調整して青っぽい色調に調整すればよい。
難しいのは「しっとり感」や「湿度感」の出し方で、これは「かすみの除去」を上手く応用することで再現することができる。
はじめに

補正前後を比較すると複雑な作業をしているように見えるかもしれないが、使っている機能はシンプルに「Camera Rawフィルター」だけ。 「背景」のレイヤーをスマートオブジェクト化して(①)、そのレイヤーに対して「Camera Rawフィルター」を適用している(②)。
①「Camera Rawフィルター」の準備をする
■STEP1 「背景」をスマートオブジェクト化する
「レイヤー」パネルで「背景」のレイヤーを選択し、 ボタンから「スマートオブジェクトに変換」を選択。「スマートオブジェクト」のレイヤー(レイヤー0)が作られたら準備は完了。




≪ワンポイント≫
■「スマートオブジェクト」とは
元の画質を維持したまま編集が行なえる形式の画像レイヤーのこと。拡大や縮小、フィルター加工、変形などを行なった後でも、編集内容を変更したり取り消して元の状態にすることができる。「調整レイヤー」の編集機能版と考えると分かりやすい。
■STEP2 「Camera Rawフィルター」を表示する
「レイヤー」パネルで、①STEP1で作成したレイヤー(レイヤー0)を選択したら、②「フィルター」メニューの「Camera Rawフィルター」を選択。これで、「Camera Rawフィルター」画面が表示される。
レイヤーを選択して「フィルター」メニューの「Camera Rawフィルター」を選択
「Camera Rawフィルター」画面が表示される
≪ワンポイント≫
■「Camera Raw」とは
Photoshopに搭載されたRAW現像機能のこと。色温度の変更や露出の補正など、「写真的」な編集が行なえるのが特徴。Photoshop CCでは、Camera Raw機能をフィルターとして使用することができる。
②「Camera Rawフィルター」で冷たい印象にする
■STEP1 露出を補正する
渓流のシーンを幽玄に見せるなら、濃度の高い色彩で冷たい印象を目指すと効果的。分かりやすくいうなら、少し暗くて、明るい領域が控えめで、なおかつ青っぽい仕上がりだ。ただし、作例は暗くする(「露光量」スライダーを左に移動)とシャドウがつぶれる危険があるので、ハイライトを抑える補正から作業を開始。写真の白い部分を見ながら「白レベル」「ハイライト」スライダーを左に移動して水流の白い部分の明るさを抑え、ローコントラストでやわらかな状態に補正する。
補正前の状態
「白レベル」「ハイライト」スライダーを左に移動して、白い領域を重点的に暗く補正
■STEP2 露出を整える
ハイライトを暗くしたことで露出が変化し、薄暗さが目立つ状態になっている。そこで、「露光量」スライダーを右に移動して露出を明るく補正。明る過ぎるとハイライトの強さが際立ち、幽玄な雰囲気が出にくくなるので注意しよう。
補正前の状態
「露光量」スライダーを右に移動して薄暗さを改善。適正露出よりも少し暗い程度を目指して補正する
■STEP3 青っぽい色彩に偏らせる
冷たさを出す機能が「色温度」。スライダーを左に移動すると青っぽく偏り、冷たい印象になる。ただし、「青」が感じられる仕上がりは補正が強過ぎるので注意しよう。コツとしては、「暖色系の要素を取り除く」と考えると補正しやすいだろう。作例は岩肌のマゼンタの強さが気になったので、「色かぶり補正」スライダーを左に移動してマゼンタの偏りも軽減している。
補正前の状態
「色温度」スライダーを左に移動して青く偏らせ、冷たい印象を出す。さらに、「色かぶり補正」スライダーを左に移動してマゼンタの偏りを軽減
■STEP4 色彩に深みを出す
全体的に浅い色なので、濃度のある色調に補正する。使用する機能は「彩度」と「自然な彩度」。まずは、「彩度」スライダーを右に移動して全体の鮮やかさ(濃度)を高めてから、足りない濃度を「自然な彩度」スライダーで補う。「彩度」か「自然な彩度」のどちらか一方だけで仕上げると、特定の色だけが濃くなり過ぎることがあるので、両者をバランスよく組み合わせるのがポイント。
補正前の状態
「彩度」スライダーを右に移動して全体の濃度を上げる。補正が強いと鮮やかさが際立ってしまうので注意
「自然な彩度」スライダーを右に移動。これにより、白い部分のわずかな青さが強調され、冷たい印象が出てくる
③「Camera Rawフィルター」で「湿度感」を出す
■STEP1 「段階フィルター」を選択する
渓流の湿度感は、川霧や水煙を感じさせる描写にすると効果的。そこで、画面の上部にある滝の付近に対して、かすんだような効果を適用する。使う補正機能は「かすみの除去」。部分的な補正が必要なので、「段階フィルター」と組み合わせて使用する。「段階フィルター」を使う準備として、①「段階フィルター」ボタン をクリックして、②「新規」を選択し、③「かすみの除去」の「-」ボタンをクリックして最大値に設定しておく。「-」や「+」ボタンをクリックすることで、その他のスライダーがリセットされ目的の機能だけが調整された状態にできる。
「段階フィルター」機能にある「かすみの除去」の効果をマイナスの最大値に設定。これにより、補正範囲が分かりやすいというメリットがある
≪ワンポイント≫
■「かすみの除去」とは
白くかすんだような遠方の風景を、はっきりと見えるように補正する機能。効果は強弱の両方に調整することができ、弱めるとかすみが増したような雰囲気が再現できる。透明感を出したいときなどにも活用できる、覚えておきたい機能のひとつだ。
≪ワンポイント≫
■「段階フィルター」とは
部分補正機能のひとつで、直線的なグラデーション状に補正を適用する機能。写真上でドラッグすると、ドラッグを開始した部分から終了した部分にかけて補正が徐々に弱くなる。補正の内容は画面右のスライダーで調整し、補正を確定した後でも、対象となる段階フィルターのピンアイコン(〇印)をクリックして選択することで再調整が可能。
■STEP2 「段階フィルター」を適用する
写真上の補正する部分(画面上部)から補正しない部分(画面下部)に向けてドラッグ。これにより、上から下に向かって設定した効果(かすみの除去)が弱くなる補正が適用できる。キーボードのShiftキーを押しながらドラッグすると、補正の方向が45度単位に固定されるので覚えておくと便利。補正の位置を修正するときは、緑と赤のピンアイコン(●印)をドラッグすればOK。
上から下に向かってドラッグして、画面上部に対して補正が適用された状態にする
■STEP3 補正値を再調整する
補正の範囲が分かりやすいように強めに適用されているので、イメージに適した量に再調整する。「かすみの除去」スライダーを右に移動してかすんだ効果を弱め、軽く水煙が立っているような印象を出す。「かすみの除去」でかすませると白く(明るく)なるため、「露光量」スライダーを左に移動して暗くし、元の露出に近くなるように露出を微調整。
補正前の状態
「かすみの除去」スライダーを右に移動して、補正の強さを調整。画面上部が軽くかすむ程度にする。「かすみの除去」で明るくなった露出は、「露光量」スライダーを左に移動することで補正
≪ワンポイント≫
■「段階フィルター」を再調整する
他の処理をした後に「段階フィルター」を再調整するときは、「段階フィルター」ボタンをクリックして機能を表示し、画面上の〇のピンアイコンをクリックして選択すればOK。ちなみに、〇にマウスカーソルを重ねると、補正の範囲がマスク(初期設定は白色)として確認できる。



④「Camera Rawフィルター」で明暗を演出する
■STEP1 「円形フィルター」を選択する
左下や右下に黒いべたな領域や土の部分が見えていて雰囲気を壊しているので、これらを目立たないように処理する。トリミングでは画角が狭くなりワイド感が失せるため、周辺光量を落とすことで対応。補正の準備として、①「円形フィルター」ボタン をクリックして、②「新規」を選択し、③「露光量」の「-」ボタンをクリックして極端に補正が適用される状態(補正範囲が分かりやすい状態)にする。さらに、④スクロールバーでパネルの下に移動したら、⑤「効果」の項目を「外側」に設定。円の外側に補正が適用される状態にしておく。
「円形フィルター」機能にある「露光量」の効果をマイナスに設定
パネルの下部にある「効果」を「外側」に設定
≪ワンポイント≫
■「円形フィルター」とは
部分補正機能のひとつで、円状に補正を適用する機能。写真上でドラッグすると補正範囲を示す円が作られ、中央から円周に向かって補正が徐々に強くなる(または、弱くなる)効果が作り出せる。補正の内容は画面右のスライダーで調整し、補正を確定した後でも、対象となる円形フィルターのピンアイコン(〇印)をクリックして選択することで再調整が可能。
■STEP2 「円形フィルター」を適用する
補正したい部分(画面左下と右下)が補正範囲になるように、写真上でドラッグして円を作成。このとき、キーボードのShiftキーを押しながらドラッグすることで正円の補正範囲が作成できる。円を作ると、STEP1の設定に従って円の外側が暗く補正された状態になるので、中央の赤●のピンアイコンをドラッグして補正場所を、円周上の□をドラッグして補正の範囲を調整。
左下と右下が暗く補正されるようにドラッグして円の範囲を作成
■STEP3 補正の強さを調整する
画面の左下と右下が暗く補正され、気になる部分が見えない状態。ただし、このままでは暗過ぎるため、「露光量」スライダーを右に移動して適切な補正量に調整。暗い中に質感が出ていて、なおかつ土の色が目立たなくなる程度にすればOK。
補正前の状態
「露光量」スライダーを右に移動して、暗過ぎる状態を改善しつつ、見せたくない部分の明るさを押さえて目立たなくする
■STEP4 補正の幅を調整する
現状は、円の内側(水の流れの白い部分)も補正で暗くなっている状態。これは、「ぼかし」機能を使って補正の幅を調整することで改善できる。①スクロールバーでパネルの下部に移動したら、②「ぼかし」スライダーを左に移動。これにより、補正の境界付近のボケ量が少なくなり、円周の外側が重点的に補正された状態になる。
補正前の状態
「ぼかし」スライダーを左に移動して、円の内部への補正の影響を減らす
■STEP5 各補正を見直して確定
①「ズームツール」か「手のひらツール」ボタンをクリックすると、「円形フィルター」画面から元の状態に戻せる。②「基本補正」ボタンをクリックして「基本補正」パネルを表示し、必要に応じて各補正量を再調整。補正できたら、③「OK」ボタンをクリックして「Camera Rawフィルター」を確定しよう。今回はPhotoshopのレタッチ機能の出番はなかったので、これで作業は完了だ。
必要に応じて「基本補正」パネルの補正量を見直したら、「OK」ボタンをクリックして補正を確定する
おわりに
渓流は、春夏秋冬どんな季節でも絵になる魅力的なシーンだ。
今回は日射しを避けて写した作例だったのでしっとりとした仕上がりを目指したが、光芒のような光が射すシーンなら別の仕上げ方が考えられる。光あふれる渓流もまた美しいので、機会があれば紹介したいと思う。
ちなみに、今回紹介している、「暗くして邪魔な部分を見せない仕上げ」は応用の効くテクニックなので、覚えておくと便利。トリミングやスポット修正がしにくいときは、暗くしたり明るくすることで目立たなくする仕上げ方も試してみよう。
作例写真とPhotoshop体験版のダウンロード
記事中の作例写真を使ってPhotoshopの操作が学べるように、画像の無償ダウンロードを行なっています。画像の利用目的は個人利用に限り、商用利用や悪意のある再配布はご遠慮ください。上記の範囲内でブログ、Twitter、Facebookなどに掲載するのは自由です。
また記事はPhotoshopの最新版を使って説明していますので、最新版を試したい場合は、アドビ システムズのWebサイトから無償体験版をダウンロードしてください。
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関連情報
当連載の筆者・桐生彩希氏の著作「Lightroom カラー作品を仕上げるRAW現像テクニック」が発売中。Lightroomを使った「色調整」について解説、初心者から上級者まで幅広く対応できるテクニックを紹介している。
価格は1,800円+税、電子書籍は1,700円+税。
桐生彩希 Saiki Kiryu
レタッチャー/ライター。レタッチ系の記事や書籍を多数執筆。なかでもAdobe Photoshopに関しては、Adobe Photoshop 3.0の頃から20冊以上の書籍やムックを制作。個人的な活動としては、「売れる」「飾れる」デジタルプリントを目指し、自作の用紙で作品を制作している。
- 印象的な色彩を再現する②
- 臨場感を演出するレタッチ⑦
- 臨場感を演出するレタッチ⑥
- 印象的な色彩を再現する① マゼンタ系の場合
- レタッチの方針の立て方
- 消し跡が目立たない消去法
- 季節を意識したレタッチ③
- 臨場感を演出するレタッチ⑤
- 淡いトーンで仕上げる①
- 繊細で解像感の高い仕上がりを目指す①
- 朝・夕・夜の雰囲気を出す③
- 逆光のシーンを美しく仕上げる
- 臨場感を演出するレタッチ④
- 朝・夕・夜の雰囲気を出す②
- 臨場感を演出するレタッチ③
- 障害物を消去して色を整える
- 写真の質感を整える
- 臨場感を演出するレタッチ②
- 季節を意識したレタッチ②
- 思いどおりの露出に仕上げる
- 朝・夕・夜の雰囲気を出す
- 鮮やかで印象的な色彩の再現
- 季節を意識したレタッチ
- 臨場感を演出するレタッチ