風景&ネイチャー レタッチの教科書
臨場感を演出するレタッチ⑦
解説・写真:桐生彩希
日に日に秋めいてくる今日この頃、風景&ネイチャーの撮影ではそろそろ紅葉シーズンが待ち遠しいところだ。今回はシーズン到来に先駆けて紅葉のレタッチ方法を解説。Photoshopでどこまで手を入れるのかも考えながら進めていく。
紅葉のシーンは、木の葉の色付きや光の加減、撮影時のカメラの設定など、条件がよければレタッチの必要がないほど色彩豊かに写し取ることができる。
しかしながら、慌ただしい撮影の現場で、すべてに完璧を期するのは難しいこと。中でも、色彩を左右する「色温度」の設定などはカメラに任せがちだ。
肉眼では色付いて見えた景色が写真ではもの足りないと感じたのなら、それは撮影の設定が追い込めていないから。どんな要素が不足していたのかを見極めて、Photoshopで足りない要素を補うように仕上げていこう。
紅葉のシーンのレタッチは、「逆光のシーンを美しく仕上げる」や「季節を意識したレタッチ②」でも紹介しているので、そちらも参照してもらいたい。
テーマ:理想とする紅葉の色彩を再現する
補正前
補正後
撮影データ
キヤノン EOS 6D EF24-70mm F4L IS USM 絞り優先AE(f8 1/50秒) +1EV補正 ISO100 評価測光 WB:オート
紅葉の色付きは、年によって時期や色どりが異なるため、ベストな状態で写せるとは限らない。作例もそのパターンで、以前の同時期に訪れた紅葉の色彩には及ばない写りだ。せっかく撮影した写真だし、Photoshopの可能性を再確認する上でも、印象に残る紅葉の写真に仕上げてみよう。
レタッチの設計
「補正後」と「レタッチの設計」拡大図はこちらをクリック ※別ウィンドウで表示
※記事の最後には、作例写真とPhotoshop体験版のダウンロードコーナーがあります。
色彩を引き出すか、色彩を作り込むか
今回は、2とおりの考え方で補正してみよう。ひとつが、写真(データ)のもつ潜在能力を引き出して「写真的」な仕上がりを得るレタッチ。そしてもうひとつが、イメージする色彩に作り込む「芸術的」な仕上がりだ。
両者の違いは補正のリミット(止めどき)を決める重要な要素で、自分がどちらを目指しているのかを意識しておくと、安定したレタッチができるようになる。
ただし、どちらがよいというわけではなく、仕上げ方は目的次第。リアリティを求めるなら前者だし、Adobe Stockなどに作品として投稿したいなら、色彩が破たんしない程度にインパクトのある後者の仕上げが向いているだろう。
はじめに
最終的なレイヤーの状態
レイヤーの構成は、「写真的」な仕上がりを得る「Camera Rawフィルター」(②)と、「芸術的」な仕上がりにする3つの調整レイヤー(③から⑤)の組み合わせ。
③の「特定色域の選択」は紅葉の色を強調する補正で、④の「色相・彩度」は全体の色味のコントロール、⑤の「トーンカーブ」は透明感を出すための補正だ。
①は「背景」レイヤーをスマートオブジェクト化したレイヤーで、これにより「Camera Rawフィルター」のレイヤーをダブルクリックすることで何度でも再調整できるようになる。
①「Camera Rawフィルター」の準備をする
■STEP1 「背景」をスマートオブジェクト化する
「背景」レイヤーのスマートオブジェクト化は、「Camera Rawフィルター」便利に使うための技。「レイヤー」パネルで「背景」のレイヤーを選択し、
ボタンから「スマートオブジェクトに変換」を選択。「スマートオブジェクト」化された「レイヤー0」が作られたらOKだ。
ボタンをクリックして「スマートオブジェクトに変換」を選択
スマートオブジェクトのレイヤー(レイヤー0)が作られる
≪ワンポイント≫
■「スマートオブジェクト」とは
元の画質を維持したまま編集が行なえる形式の画像レイヤーのこと。拡大や縮小、フィルター加工、変形などを行なった後でも、編集内容を変更したり取り消して元の状態にすることができる。「調整レイヤー」の編集機能版と考えると分かりやすい。
■STEP2 「Camera Rawフィルター」を表示する
「レイヤー」パネルで、①STEP1で作成したレイヤー(レイヤー0)を選択したら、②「フィルター」メニューの「Camera Rawフィルター」を選択。これで、「Camera Rawフィルター」画面が表示される。
レイヤーを選択して「フィルター」メニューの「Camera Rawフィルター」を選択
「Camera Rawフィルター」画面が表示される
≪ワンポイント≫
■「Camera Raw」とは
Photoshopに搭載されたRAW現像機能のこと。色温度の変更や露出の補正など、「写真的」な編集が行なえるのが特徴。Photoshop CCでは、Camera Raw機能をフィルターとして使用することができる。
②「Camera Rawフィルター」で「写真的」に補正する
■STEP1 露出を補正する
華やかな色彩を得るには、少し明るめの露出が適している。ただし、明る過ぎると色が抜けたように薄くなるので注意したい。露出は最後に微調整すればよいので、ここでは木の葉の重なり部分のシャドウが薄くなる程度に補正しておく。
補正前の状態
「露光量」スライダーを右に移動して明るく補正
■STEP2 鮮やかさを補正する
露出の次は「コントラスト」を補正するのが定番だが、作例はコントラスト補正の必要はないので、次の鮮やかさ(発色)の補正を行なう。使う機能は「彩度」と「自然な彩度」スライダー。最初に「彩度」で全体の鮮やかさを底上げして、「自然な彩度」で不足している鮮やかさを補っていく。
補正前の状態
「彩度」スライダーを右に移動して、全体の発色をよくする
「自然な彩度」スライダーを右に移動して、「彩度」スライダーでは補正しきれない色を鮮やかにする
≪ワンポイント≫
■「自然な彩度」とは
「彩度」とともに、鮮やかさを補正する機能のひとつ。「彩度」機能との違いは、「彩度」がすべての色を等しく補正するのに対し、「自然な彩度」は印象的に見える色を重点的に補正する点。絶対的な鮮やかさがほしいときは「彩度」、誇張のない色彩を目指すときは「自然な彩度」を使うと効果的。
■STEP3 全体の色味を補正する
紅葉の色を整える上で、「色温度」の補正は欠かせない。撮影時に手動で設定したいところだが、慌ただしい現場で狙った色を作り出すのは難しい。そこで、黄色や赤みが足りないと感じたら、「色温度」スライダーを調整して暖色系を強めておく。紅のような深みが必要なときは、「色かぶり補正」スライダーも右に移動すると効果的だ。写真的な仕上がりにするなら、「基本補正」パネルの機能だけで仕上げられるこの段階で終わらせればよい。
補正前の状態
「色温度」と「色かぶり補正」スライダーを右に移動して、「暖色系+色の深み」を再現
③「Camera Rawフィルター」で「写真的」に色彩を強調する
■STEP1 「HSL/グレースケール」パネルを表示する
思い描く紅葉の色彩を作り出すときは、さらに色を個別に補正することになる。使う機能は、「Camera Rawフィルター」にある「HSL/グレースケール」パネル。まずは、①
ボタンをクリックして「HSL/グレースケール」パネルを表示し、②「色相」タブをクリックして色が変えられる状態にする。
「HSL/グレースケール」パネルを表示して、「色相」タブをクリックする
≪ワンポイント≫
■「HSL/グレースケール」パネルとは
レッドやグリーンなど8系統の色に対して、色相や彩度、輝度が補正できる機能。カラー画像の補正と、モノクロ化の機能が搭載されている。「色温度」機能などでは全体の色が変化してしまうが、「HSL」パネルのスライダーを使えば色ごとの補正が可能になり、気になる色だけ調整することができる。
紅葉の色彩というと、オレンジや赤系を連想する。そこで、黄色い木の葉をオレンジ色に近付けていこう。移動するのは「イエロー」スライダーで、左に移動すると黄色い木の葉をオレンジ色にすることができる。
「HSL/グレースケール」パネルのスライダーは、1本だけを大きく調整すると、特定の色だけ極端に変化するため色のつながりが途切れてしまう。これは、階調の崩れやトーンジャンプなどの要因となる。そこで、STEP2で調整した「イエロー」スライダーの上下にある①「オレンジ」と②「グリーン」スライダーも連動して移動しておこう。設定値はさほど気にせず、波型につながるように調整すればよい。必要に応じて「基本補正」パネル(③)の各スライダーを微調整して色調を整えたら、④「OK」ボタンをクリックして補正を確定する。この段階が、写真的な色彩を誇張した仕上げだ。
リアリティよりも、インパクトや発色を求めるときは、さらにPhotoshopのレタッチ機能で色調を作り込んでいく。作例はさらなる赤系の色彩がほしいので、黄色い要素を赤く変化させたい。使う機能は、調整レイヤーの「特定色域の選択」機能。「レイヤー」パネルの下部にある
ボタンをクリックして「特定色域の選択」を選択し、補正の画面が表示されたら、下部の設定を「絶対値」にする。
指定した色の系統(レッド系やブルー系など9系統)に対して、「カラーバランスとブラックの濃度」が補正できる機能。色別に補正できるため、補正する場所を「面」で制限する「レイヤーマスク」では難しい緻密で繊細な部分に対しても、適切な補正が施せる。「特定色域の選択」画面の下部にある「相対値」と「絶対値」は補正の効き方の設定で、相対値を選ぶと色の成分(RGBの数値)に対しての割合で(繊細な調整に適している)、絶対値を選ぶと指定した量で色の成分が増減できる(強めの効果が得られる)。