製品レビュー

A3ノビに対応した小型インクジェットプリンター Canon PRO-G1/PRO-S1

解説:小島 勉
作品提供:佐藤かな子

A3ノビ対応PRO LINEシリーズとして実に5年ぶりのフルモデルチェンジとなる「PRO-G1」と「PRO-S1」が11月中旬に発売される。外観は大判プロモデルのimagePROGRAFシリーズと同様によりスタイリッシュで洗練され、新たなデザインを得たことで旧機種よりも容積比で85%小型化し、重量は5.6kg軽量化。高画質、小型・軽量、高生産性を両立したモデルに仕上がっている。今回は「PRO-G1」、「PRO-S1」それぞれの特徴、筆者が魅力に感じていることを紹介していこう。

Canon PRO-G1/PRO-S1

PRO-G1

インク:10色顔料インクプリント
解像度:最大4800dpi
印刷サイズ:L判〜A3ノビ
外寸:約639×379×200mm
質量:約14.4kg(プリントヘッド、インクタンクを含む)
想定市場価格:79,800円(税別)
詳細スペック:cweb.canon.jp/pixus/lineup/a3pro/prog1

PRO-S1

インク:8色染料インク
解像度:最大4800dpi
印刷サイズ:L判〜A3ノビ
外寸:約639×379×200mm
質量:約14.4kg(プリントヘッド、インクタンクを含む)
想定市場価格:69,800円(税別)
詳細スペック:cweb.canon.jp/pixus/lineup/a3pro/pros1



写真用紙にも新ラインアップが追加

キヤノン写真用紙・光沢プロ「クリスタルグレード」

左=通常の光沢紙サンプル 右=クリスタルグレードサンプル

高光沢のプラチナグレードからさらに光沢感を上げた超光沢として登場した写真用紙。新開発のハイスムージング層によって光沢感、鏡面のような面質を実現しており、光沢紙の決定版になりそうな個性を持っている。また、厚さ0.34mm、坪量380g/m2と高級感が感じられるコシも魅力的。特に「PRO-S 1」との組み合わせは銀塩プリントをイメージさせる。透明感のある鮮やかな仕上がりが欲しい時に最適と言えそうだ。繊細でインパクトのある作品づくりから展示まで活躍が見込める。

キヤノン写真用紙・光沢プロ「クリスタルグレード」

左=ファインアート・スムースサンプル 右=ファインアート・ラフサンプル

粗い面質が特徴でアート的な雰囲気を出しやすい用紙だ。坪量も320gとファインアート紙の中では標準からやや厚の部類。素材はコットン100%、蛍光増白剤を含まず、無酸性系でリグニンフリー。ファインアート紙としてのスペックを備えた長期保存性に優れる高品位な用紙である。A3ノビで使う場合、作品によっては若干テクチャーがうるさくなるかもしれない。作品をどう見せたいかによって選択が難しい紙ではあるが、新たな発見や気付きを与えてくれる。


向上した操作性と小型軽量のスマートデザイン

従来機のPRO-10S/100Sと比べて、本体サイズは横幅で50mm、高さ15mm、奥行きが6mm短くなっている。高さ、奥行きは若干の違いだが、横幅はかなり小さくなったという印象だ。圧迫感も感じずどこに置いてもスマートに見える。
操作系はPRO-1000と同じ3.0型のカラー液晶パネルを搭載した。タッチ機能はなく右側の十字ボタンで操作する。操作性もPRO-1000同様、快適だ。操作パネルの角度は若干フラットになっていて見やすいと感じた。実測したところ30度程度だった。カラー液晶パネルを搭載したことで、ノズルチェックなど日々のメンテナンス作業にPCを必要とせず単体で行なえるようになった点は嬉しいところ。また、インクカートリッジの残量画面では、購入サイトのQRコードが表示可能。スマホ、タブレットから読み込み、サッとオンラインショップで注文できる。
外観デザインは、2機種で異なるところがある。まず上面パネルはPRO-G1がPRO-1000と同じ高級感のあるシボ、PRO-S1はPIXUSシリーズでお馴染みの艶のあるヘアラインに仕上げになっている。またPRO-S1のボタン類は立体的な作りになっている。実機を触るまで気がつかなかったのだが、それぞれのターゲットユーザーをイメージしたデザインなのだろうか。繊細な作り込みに驚いている。

PRO-G1の操作部

PRO-1000と同様、高級感のあるシボ仕上げ。上部にはプロ機の証である「imagePROGRAF」のロゴが付く。ボタンはPRO-1000と同じようだ。

PRO-S1の操作部

PIXUSシリーズでお馴染みの上質なヘアライン。ボタンは立体的に作られており、上面のセンターにはPIXUSのアイコンが配置されている。

インク残量表示画面

両機種とも「インクを購入」が設けられた。近年、家電量販店のインクカートリッジの在庫が縮小傾向にある。残量確認から購入サイトへの導線は助かる。

インク購入用QRコード表示画面

ボタンを押すと、画面いっぱいにQRコードが表示される。スマホ、タブレットなどのカメラで撮影すると瞬時にキヤノンオンラインショップへつながる。


向上した操作性と小型軽量のスマートデザイン

PRO-G1はimagePROGRAFのラインナップに追加となった。A3ノビから60インチ機までのフルラインナップで、それぞれのワークスタイルに合わせてプリンターを使い分けることができる。これにより、無駄のないプリントワークが可能になるはずだ。
インクはプロ機で定評のあるLUCIA PRO inkを搭載。PRO-10Sとカラー構成は同じだが、色域の広がり、暗部領域の表現力が向上している。
最大の特徴は新規開発されたマットブラック。これまでよりも黒濃度がワンランクアップしている。筆者含めLUCIA PRO inkのマットブラックに若干の物足りなさを感じているユーザーは多いと聞いていたが、PRO-G1は満足のいく濃度感に仕上がったと感じている。
実際に筆者が普段テストしているオリジナルチャートを使ってPRO-10S、PRO-1000と比較してみた。X-Rite Color Checker PassportからLab値を実測し、その数値を元にPhotoshopでデータ化したものをプリントしている。用紙は新発売の光沢プロ[クリスタルグレード]とプレミアムファインアート・スムースを使用している。

用紙別で3機種の特製を比較

左側がPRO-G1、中央がPRO-10S、右側がPRO-1000で並べている。光沢プロ[クリスタルグレード]では、PRO-G1はPRO-10Sよりも全体的に色域が向上しているのが確認できる。
PRO-10Sはグリーン系の色相が特徴的で傾向的には青味寄りのグリーンだが、PRO-G1ではColor Checker Passportに近似している。カラーマネジメントに即した正しい表現と言って良いだろう。対してPRO-1000との比較ではやはりブルーを搭載しているPRO-1000の方にアドバンテージはあるものの、PRO-G1の色相はカラーマネジメントに沿った素直な印象のため、PRO-G1とPRO-1000の連携はスムースにいきそうだ。プレミアムファインアート・ラフではPRO-1000よりも一段黒が締まっている。Color Checker Passportの各24色のパッチもPRO-G1が一番現物に近い。


アート紙を使用した色域、黒濃度の確認

色域の広がり、マットブラックの伸びを確認するために実際の作品をプリントして比較してみた。作例は写真家・佐藤かな子さんの「Kaleidoscope」(kanakosato.com/project-1-kaleidoscope)から4作品をセレクト。





用紙は純正高級ファインアート紙として人気の写真用紙、プレミアムファインアート・スムースを使用した。左側がPRO-G1、中央がPRO-10S、右側がPRO-1000で並べている。写真ではわかりづらいが、黒の締まりはPRO-G1が一番であることが確認できた。


赤のシャドウの締まりには違いが出た。左がPRO-G1、右がPRO-10Sだ。発色、立体感、シャープネス、いずれもデータに忠実な再現。


ブルー系ではかなり顕著な違いが確認できた。上がPRO-10S、下がPRO-G1だが、青の透明感、珊瑚の立体感が素晴らしい。カラーマネジメントディスプレイでの見えに一番マッチングしている。データをそのままリニアリティに表現している。プリント作品のための絵作りがしやすいと言えるだろう。

PRO-G1の色表現領域の広がりは嬉しいが、何よりも光沢紙、マット紙問わずこの3機種のグレーバランスの良さには驚愕するばかりだ。プロとしては定量的かつ安定的な性能を求めるものだが、これだけレベルの高いプロダクトを世に送り出してくれたことで、ユーザーである我々もレベルアップできると考えている。
そしてプロとしてはマストの印刷スピードもかなり改善されている。カタログ値では光沢ゴールド、カラー、フチあり、A3ノビ、標準モードで2分50秒となっている。実際に筆者の環境でPRO-G1をラスターで実測したところ、20%程度は高速化した印象だ。プリントヘッドの大きいPRO-1000よりは若干遅いものの、数十秒程度の違いで非常に満足している。例えば色見本プリントを多数作る場合、印刷スピードは速い方がありがたいがクオリティが下がってしまうようでは元も子もない。
そこでテストチャートを色見本等で最も多用される写真用紙・微粒面光沢ラスターを用いて、印刷品質を「最高(G1)」と「標準」でテストした。

微粒面光沢ラスターでのプリントテスト(PRO-G1)

左が「標準」、右が「最高」で印刷している。良く見ると樹の黒の締まり方に違いが見られる。「標準」でも概ね満足できるレベルではあるが、明らかな違いはあるようだ。顔料インクは用紙表面にインクが乗っている形のため、各インクをどう積層させていくかが重要だ。観察した限りの想像だが、「最高」と「標準」ではその作り方が違うと推測できる。「標準」でも問題はないが、写真集などシビアに取り組みたい場合は「最高」で印刷する方が良いだろう。

imagePROGRAFとしてプロフェッショナルユーザーをターゲットにしているため、失敗プリントを防ぐための技術もしっかり実装している。まず信頼性においてはノズルリカバリーシステムを搭載した。これはインクの吐出状態をセンサーでチェックし、目詰まりがあった場合、別のノズルで補完しバックアップする機能だ。スジムラ(バンディング)のトラブル低減に役立つ機能だ。A3ノビ機でこれが搭載されたというのは仕事道具としての安心感がある。また、用紙の斜行補正機能、プリントヘッドと紙の間のインクの着弾ズレを自動補正する動的色間補正も備えている。ヘビーに使うプロユーザーに応える作りだと感じている。
プリント専用ソフトは、大判機の上位モデル専用の「ProfessionalPrint&Layout(PPL)Ver1.2」を新たにサポートするようになった。PPLは単体でも使うことができるため、純粋なプリントワークだけならPhotoshopやLightroomなどの親ソフトウェアを介す必要がなく、効率的にプリント作業できる。PPLはどちらかと言えば、大判サイズに多面付けして生産性を重視する作りなのだが、今回のアップデートで絵柄を紙面の中央に配置できるようにするなど、よりパーソナルな作品づくりのための機能が強化されている。
プロユーザーの場合、純正紙のみならずサードパーティー製の紙を使うことが多いと思うが、プリント設定のカスタマイズなどメディア情報の管理もMedia Configuration Toolで行なえる。プリント用のICCプロファイルの割り当てや紙とヘッドの距離など、オリジナルのメディア情報をプリンター本体に登録することが可能。プリントソフト側ではなく、プリンター本体に登録することができるため、複数のPCでプリンターを使用する際にも煩雑にならない上、プリント設定ミスによる失敗プリントも防ぎやすい。


マット紙へのモノクロ出力と相性がいい染料モデル「PRO-S1」

プロフェッショナル(仕事)用途として染料機は選択しづらい面もあるのだが、筆者はこのPRO-S1に最も興味を惹かれた。8色・新染料インクの表現力は実に素晴らしい。インクの構成はPRO-100Sと同様だが、黒濃度の向上だけでなく、レッド、ブルー、マゼンタ系の広がり、暗部色再現性が向上している。PRO-100Sから大きく進化したことでプリントするのが一層楽しくなるプリンターだと感じている。プライベートで気軽に楽しむのも良し、仕事上のポートフォリオなどインパクトが欲しい作例づくりにも向いているだろう。
新発売された光沢プロ[クリスタルグレード]での表現力は素晴らしいものがあるが、筆者の一押しはマット紙でのモノクロ表現だ。これまで染料機ではグレーバランスが安定しにくかったり、ハイライトからシャドウまでのトーンにおいて色転びなどを感じるなど、染料インクでのモノクロは難しい面があった。モノクロプリントは「顔料インクで」というのが一般的だが、これからは染料も「アリ」ではないかと感じている。PRO-100Sも色ねじれは少なくポテンシャルはとても高いのだが、わずかにグレーバランスがアンバー系に振られているため、個人の好みにもよるとは思うが多少トーンを調整しなければならない。PRO-S1はこのあたりを上手く追い込んでいるように感じた。

プレミアムマットでのプリントテスト(PRO-S1)

左側がPRO-S1。黒の締まり、発色、Color Checker Passportの24パッチともかなり近似している。キャリブレーションモニターとのマッチングも満足できるものだった。注目すべきはグレーバランスが特に素晴らしいところ。染料機でこれだけのパフォーマンスを出してくれると積極的に使いたくなる。実にハイレベルに作り込まれていると感じる。


縦パノラマプリントの作例

PRO-G1の作例と同じく佐藤かな子さんの「Another World(kanakosato.com/another-world)」の中から、ウミガメの作品を縦パノラマでプリントしてみた。





用紙はファインアート紙では世界的トップブランドのハーネミューレ・フォトラグを使っている。このパノラマの用紙サイズは210×594mmでPRO-S1(PRO-G1も同様)の定型サイズとしてサポートしている。国内ではまだ入手しづらいサイズだが、実際にはA2の半分なので自分でカットして作ることもできる。
ちなみにパノラマでは手差しのカスタムサイズなら330.2×990.6mmまでプリントすることが可能。1m近くのサイズを安定的にプリントできるメカ精度の高さはキヤノンならではと言えるだろう。黒のバランス、締まり、とても満足できるものに仕上がった。

解説:小島 勉
トッパングラフィックコミュニケーションズ所属。インクジェットによるアートプリント制作のチーフディレクター。1987年、旧・トッパンプロセスGA部入社。サイテックス社の画像処理システムを使った商業印刷物をメインとしたレタッチに従事。1998年よりインクジェットによるアート製作を担当し現在に至る。

作品提供:佐藤かな子
日本写真芸術専門学校・広告科修了後、街中でのスナッ プ撮影や水中撮影を行ない、国内外で個展を開催。写真教室・撮影イベントでの講師業。また雑誌・書籍への作品掲載や執筆も行なう。キヤノンEOS学園(東京校)講師。

PRO-G1

cweb.canon.jp/pixus/lineup/a3pro/prog1

PRO-S1

cweb.canon.jp/pixus/lineup/a3pro/pros1

※この記事はコマーシャル・フォト2020年12月号から転載しています。


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