2018年12月21日
フォトキナ2018に合わせて各社フルサイズミラーレスカメラを発表してきた。そこで現状揃えられる機種を用意した。今回はCanon EOS Rを検証する。
未来のEOSシステムを感じさせる新インターフェイス
キヤノン EOS R
マウント:キヤノンRFマウント / 有効画素数:約3030万画素 / 記録メディア: SD、SDHC、SDXCメモリーカード UHS-IIカード対応 / 動画フォーマット:MP4 / 液晶モニター:3.15型TFT液晶(バリアングル) / 外寸:約135.8×98.3×84.4mm / 質量:約580g(本体のみ)
いよいよキヤノンからもフルサイズミラーレス機が登場した。画質スペック的には5D Mark IVに近い印象を受けるが、6D Mark llと同様のバリアングル液晶や、シングルのSD/SDHC/SDXCメモリーカードスロットなど、2機種の中間的な存在となっている。新採用のRFマウントはEF同様の内径54mmながらフランジバックを短縮し、レンズ設計に余裕を持たせる事で高画質化を実現。メーカーの真意としては、更なる光学性能の向上のために、あえて選択したミラーレス化。超高画素化の一方で問題を抱えていたレンズ性能向上への回答がこのRFマウントシステムの開発だった訳だ。仮に5Ds/5DsRがミラーレス化されれば、ミラーショックやAF精度の問題も完全に解消されて、5000万画素超の超高画素が活かされる事になるだろう。実際にRF24-105mm/F4とEF24-70mm/F2.8llを比べても殆ど筐体サイズは変わらない。これは小型化が可能なショートフランジバックのメリットを、光学性能やAF駆動などの改善と引き換えにしたという事なのだろう。RF24-70mm/F2.0がラインナップされた事を見ても、光学性能を追求するレンズ開発の姿勢が見て取れる。
EF24-70/2.8 L(左)とRF24-105/4 L(右)を比較。 こうして並べるとショートフランジバックで開放値が1段違うのに、大きさはほぼ変わらない。光学性能への期待値は自ずと高まる。
ボディに目を移すとミラーユニットを排除した事によりボディ中央部が薄くなったが、全体のフォルムは5Dや6Dシリーズに近いサイズで、実際に手に取ってみても、従来の一眼から持ち替えて違和感のない剛性・ホールド感となっていた。小型化に固執する事なく、ホールド感や操作性を第一に考えた筐体設計に熟慮のあとが伺える。こういったボディデザインとそれを支える新マウントレンズ群を見れば、他メーカーの小型化主体ミラーレス機開発と異なるコンセプトだという事が明確に理解できる。キヤノンとしての回答が、このEOS R SYSTEMのトータルコンセプトなのだ。
創作意欲を沸き立たせる操作感
メーカーホームページにはこの様な記述があった。「EOS Rシステムが目指したのは『従来と同じ映像表現ができる小さな一眼カメラ』ではありません。かつてない映像表現と撮影領域を拡大するシステムです」。これは確かにその通りだと感じた。基本性能の向上と共に、新マウントのRFレンズやマウントアダプターに配したコントロールリングは、同社の従来機にはない操作系で、同じくマルチファンクションバーと合わせて、新しい使い方をユーザーに提案する姿勢に好感が持てる。
視覚的なインターフェイス
新インターフェイスは従来のデザインと差別化する事で、ユーザーは視覚や触覚的にそれが新しい物だと認識できる配慮を感じた。コントロールリングにはISOや露出補正を割り当てる事で、従来カメラをホールドしている右手に強いらていた操作を、左手の指先に委ねる事ができる。これによりカメラのホールドとレリーズが安定し、より作画に集中できる事になるだろう。加えて、RFレンズ使用時はマニュアルフォーカス時のフォーカスリングの回転方向や操作角度の敏感度を切り替えられる様になっている。これは電子制御の賜物だが、回転速度で変動か回転量に連動かが選べるので、他社カメラユーザーが持ち替えても違和感なく操作できるだろう。また回転量に連動を選べば、動画撮影時にはマニュアルフォーカス時の繰り返し精度が高まるので、現場での使用感は良さそうだ。
メニューの表示と操作はEOS 5D Mark IVのユーザーであれば迷うことは皆無だろう。静止画と動画の機能切り替えが、MODE→INFOボタンとなっているが、背面・上面のLCDに視覚的に切り替え方法が表示されるのでマニュアルを読まずとも操作できる筈だ。光学ファインダー(OVF)に近い見え味の液晶ファインダー(EVF)は、見易さと同時に、センサーの実画像に映像処理を加えた状態が確認出来る訳で、仕上がりイメージと実ピントを同時に確認できるという点で、作者の意図がリアルタイムに反映できる点はミラーレス一眼ならではである。とりわけ短納期のJPEG納品案件などでは、撮りっぱなしのデータ画質を担保できる事で、仕事の回し方も変わってくるだろう。当然ながらキヤノンの色「ピクチャースタイル」がそのまま使えるので、従来の色設計をそのまま使える事は既存ユーザーには心強い限りである。
従来機を踏襲しつつ、新たなインターフェイスを盛り込んだ上面に加えて、充分な深さを確保したグリップで操作性・ホールド感共に向上している。各ボタンは形状の違い以外にも、押し味を変えて従来機以上に撮影中の誤操作防止への配慮を感じる事ができた。
プロユーザー向け一眼レフデジタルカメラの2強時代に凌ぎを削った同社だからこそ、画質と操作性に加えて、道具としての信頼感まで兼ね備えながらも、従来ユーザーも納得できる内容にまとめられたのだと思う。従来のEFレンズ群をアダプターを介して今までと同様に使えるだけなく、22mmのフランジバックの差を活かしてコントロールリング付き、PL内蔵、可変NDフィルター内蔵など4種類のマウントアダプターを用意。写真用にはコントロールリング、動画用には可変NDなど、撮影用とに応じて機能を変えられる点は1台2役と仕事の境目が無くなりつつある静止画・動画の撮影がよりシームレスに1台のカメラで対応出来る様になる。そうなればRシステムへの投資価値がより見出せるはずだ。複数台所有する従来のEOSカメラを、1台EOS Rに入れ替えて様子をみるのも良いだろう。レンズへの投資を最小限にできる事で導入のハードルは下がる筈だ。
SDカードがシングルスロットなのは賛否分かれるところだろう。
おすすめはデュアルピクセルフォーカスガイド機能
さて、サンプル機という事情もあり、画質面での評価は避けて、操作関係をさらに掘り下げて行きたい。オートフォーカスは今までライブビュー撮影時に使用する事ができたデュアルピクセルCMOS AFを採用している。写真系ユーザーでは余り馴染みがないかもしれないが、CINEMA EOSシリーズでは既に熟成の域に達しているAFシステムだ。今回注目したいのはマニュアルフォーカス時のデュアルピクセルフォーカスガイド。これはCINEMA EOSで採用済みのデュアルピクセルCMOSならではの機構で、3点のマークでガイド枠内のフォーカス面の位置に対して現フォーカス位置の前後を示し、合焦時に色が変わる事で視覚的に合焦を教えてくれる。ピーキング表示も使えるが、より繊細に被写体のディティールを把握しつつ、正確なMF操作をサポートしてくれるので、フォトグラファーは使いこなしておきたい機能だ。特に動画では狙ったフォーカス面に意図した速度でピントを送りたい時にはピントの山を外すリクスを軽減できるので有用だ。応用しだいで静止画のブツや建築撮影でも便利な機能と感じていただく事ができるだろう。背面液晶(LCD)に加えて、EVFが使える様になった事で、AF機能をフルに活かす事ができる。炎天下でLCDの視認性が低下しても、EVFを除けばフォーカスポイン視認できるし、拡大フォーカスも使う事ができる。加えてタッチ&ドラッグAFを入りにする事で、EVFを覗きながらフォーカスエリアをLCDの操作で移動できる。今回グリップのホールド位置からLCDまでの距離が改善された事で、従来の一眼レフよりも操作感が改善されているので、この辺りもデュアルピクセルAFとの親和性を高めている様に感じた。
4K切り出し(Dual Pixel AF)
低照度でのAF動作も安定しており、動画での撮影には心強い。下手から上手、手前から奥へとカメラをパンチルトしても、フォーカスエリアの移動に滑らかに追従する。光学ファインダーではピントの山が掴み難い状況でも、EVFとデュアルピクセルAFの組み合わせならピントを外す心配はないだろう。
4K切り出し
4K動画撮影時には1.7倍にクロップされてしまうが、映画フィルムサイズと同等のSupoer35に近しい画角だと考えれば、実用性がとりわけ問題になることはないだろう。写真と動画を並行撮影の場合には、画角の変化に戸惑うが、Dot by Dotで撮影されるので鮮鋭度は極めて高い。
EOS 5D Mark IVとの比較
最後にもっとも気になる部分。読者の多くが使用しているであろうEOS 5D Mark IVとの違いに触れておこう。ボディの高さの差は僅かだが、プリズムがなくなった事でペンタ部がグッと小さくなり、上面液晶部までつながる肩のラインも変更になった事でグッと小さく精悍なイメージになっている。
レンズマウントは同じ54mm口径なので、マウント周囲のボリューム感で比較すればその大きさが想像できるだろう。側面から比較すればグリップの高さと前後長はほぼ変わらず、これがホールド感を損なわない理由の一つになっている。
右肩部にボタンとダイヤルを集中配置して、各操作時の指の移動を最小限にしている。後部ダイヤルとメニューボタンが融合したデザインになった事で、触覚的にボタンを探せるので、EVFを覗きながらでも楽に操作できた。
カードスロットはCF+SDのデュアルに対してSDカードのシングルスロットとなっている。性能差のあるカードを挿入した際に、低速書き込み側のカードが足かせになる事があるが、それにも増してシングルスロットで撮影しているユーザーが多い事。カード自体の信頼性が上がった事で書き込みトラブルが実質皆無と言える状況になっている事が、シングルスロット採用の一つの理由だと思われる。ただ、このカメラの先にある製品ロードマップの中ではより上位機種も検討されているであろうし、期待して今後の展開を見守りたい。
カードスロットはEOS 5D Mark IVのCF+SDのデュアルに対して、EOS RはSDカードのシングルスロットとなっている。
動画撮影の為にカメラの買い換えを検討しているユーザーも多い事だろう。所有するEFレンズ資産を生かせるマウントアダプターを介して他メーカーのボディへの乗り換えユーザー、またその予備軍の方たちもEOS Rシリーズに一度触れて見る事をおすすめしたい。手持ちのEFレンズが完璧に機能するフルサイズミラーレス一眼。他社にはないデュアルピクセルAFのスピードと精度。ホールド感や操作性においても違和感無く使う事ができる。EOS Rシステムの初号機として充分にユーザーを満足させてくれる事だろう。
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※この記事はコマーシャル・フォト2018年11月号から転載しています。
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