2018年12月25日
フォトキナ2018に合わせて各社フルサイズミラーレスカメラを発表してきた。そこで現状揃えられる機種を用意した。2回目はNikon Z 6 / Z 7を検証する。
>前回 「【特集】最新ミラーレスを検証する① Canon EOS R」
完成度を極めたZシリーズが登場
満を辞して発表された新マウント採用のZシリーズ。最初に市場に投入されるのは、D850のミラーレス版と言える内容のZ 7。XQDシングルスロットや、シンクロターミナルの排除など、細かな相違点は見て取れるが、実機に触れてこそ分かる点について見ていきたい。
まずはこのタイミングでフルサイズミラーレス機へ参入は適切だったのか?筆者なりの意見を述べてみたい。他社の動向も踏まえるとギリギリのタイミングだと言えるだろう。キヤノンはコンシューマー機ながら、EOS Mを市場に投入してある程度のユーザーフィードバックを得ていたはずであるし、SONYのαシリーズはプロユーザーが増え続けている状況で、既に3世代目のフルサイズ機が市場に投入されている。他メーカーもフォトキナで大きな発表があり、話題性的にもこのタイミングは外せない事だっただろう。加えて、Nikon 1の1インチセンサーミラーレスシステムで基礎研究こそ進めていただろうが、そのユーザー達からZシステムに反映できるフィードバックは乏しいかったであろうし、これから市場と共に成長して行くにもギリギリのタイミングだったと推察される。ニッコールのレンズ資産を最大限活用できるミラーレス一眼を求めるユーザー達にとって、良い意味でZ 7が堅実なスペックにまとまった理由だと推測する。
ニコン Z 7
マウント:ニコンZマウント / 有効画素数:4575万画素 / 記録メディア:XQDカード / 動画フォーマット:MOV、MP4 / 液晶モニター:チルト式3.2型TFT液晶(タッチパネル) / 外寸:約134×100.5×67.5mm / 質量:約585g(本体のみ)
Zシリーズは一眼レフを超えたか?
手短に言えば、D850のミラーレス版なのである。現時点でマルチユースの一眼レフと言えば、D850を越える存在はないだろう。4500万画素超の高解像度、SRAW記録、センサークロップ、連射性能など、多くのユーザーが満足できる性能は、多ジャンルのプロが持て余しこそするものの、大きな不満がないという機種だ。このスペックを手堅くミラーレスシステムに取り込んだZ 7は正に即戦力の実用機だと言える。マウントアダプターFTZを利用すれば、今までのレンズ資産が活用できるので、2台目のD850の代わりとして買い増しの選択肢にもなる筈だ。
現時点でD850を商品や建築などの分野でライブビュー撮影を多用していたユーザーは、Z 7の方が使いやすいと感じるに違いない。特にFマウントレンズをFTZを介して装着した際の動作は違和感を全く感じない安定感で、高価な超望遠やシフトレンズのユーザーも安心して乗り換えられるだろう。マウントアダプターを介するというよりは、マウントアダプターもカメラの一部である様な動作の印象を受けた。
コンパクトなボディに大きめで握りの深いグリップ。本体は十分軽量化されているが、高い剛性感でホールド感は良い。ニコンフルサイズミラーレスの初号機としては必要充分な完成度を実現している。
同社初のフルサイズセンサーのミラーレスに加えて、同社初のセンサーシフト式の5軸手ぶれ補正の搭載も挙げられる。同クラスの性能の一眼レフから大幅に小型化を達成しながら、他社機と比較しても勝る性能の手ブレ補正を実現している点は、満を持して発売した同社の本気度が窺える部分である。小型化の代償としてシングルスロットを採用しているが、プロの要求性能を達成する為にあえてXQDを採用した事は、撮影時のストレスを低減するだけでなく、撮影後のデータコピーや、今後の更なる高画素化や、動画解像度やフレームレートの上昇にも対応する為であろう。
D850をSDカードで運用していたユーザーにとってはメディアの追加導入は痛い出費となるが、実際にXQDを使用している筆者としては、コピースピードの速さだけでもメリットがあると感じている。ユーザーへのコストデメリットを強いる形になっている反面、導入後のメリットをどう伝えて行けるかが普及の鍵になるだろう。
今後を見据えたXQDカードスロットの採用もプロシューマーも視野に入れた選択であろう。
動画性能の向上でさらなる進化
今回のミラーレス化でもう一つのトピックスが動画性能の向上だ。内部記録としては、D850に近い性能ではあるが、アクティブDライティングの補正効果の見直しや、ハイブリッドAF(位相差/コントラストAF)はDムービーの可能性を更に広げるだろう。
4K切り出し
顔認識AFやナイトシーンでの高感度撮影と、4500万画素の静止画と競合機に引けを取らない動画性能で、総合的なコストパフォーマンスは高い。
外部レコーダー使用しているユーザーには特に朗報なのがHDMI非圧縮データの10bit出力のサポートとN-Logの採用に加えて、カメラ動画撮影ボタンでのRECトリガー対応だろう。D850でもHDMI非圧縮8bit 4K出力は実装されていたが、RECトリガーだけが未対応だった。筆者もユーザー的に切望していた機能だっただけに、この機能は是非D850に実装して貰いたいと思う。
4K切り出し N-LOG調整前
4K切り出し N-LOG調整後
外部収録のみとはいえ、いよいよ10bitのLog収録にも対応。一眼の機動力を活かした撮影から、ハイエンドのワークフローまでをカバーできる事で活躍の場が広がる。
35mm一眼としては最長のフランジバックのFマウントから、Zマウントは業界最短の16mm、口径も55mmと次世代レンズを開発する上で余裕を持った仕様となっている。Fマウントの呪縛からの解放だけでなく、新たなるニッコールの歴史を築く上で必要不可欠な選択だろう。ショートフランジバックの採用で画質の向上とコンパクト化を目指しつつ、ボディと同時発売の24-70mm/F4ではズーム全域で最短撮影距離を0.3mとするなど、使い勝手の良さにもこだわっている。更に電磁絞り機構を採用し、連続撮影時にも安定した露出が得られる様になった事も見逃せない。EタイプのFマウントレンズで既に電磁絞りを採用していたが、これをZマウントの標準機構とする事で、制御精度に限界のあった連動ピンによる絞り機構を廃し他社との遅れを取り戻した。現時点で発表されている3本のレンズは、AF動作に静粛性の高いSTM(ステッピングモーター)を採用し、動画撮影での不要なノイズを抑えて、クリアな音声を収録を可能にするメリットもある。動画機能の総合性能で出遅れ感のあった同社が、レンズラインナップの拡充も含めて、どこまで巻き返して来るのか、Zシリーズの今後の展開を注目しておきたい。
スチル
Zレンズの一作目24-70mm/f4はズーム全域で0.3mまでの至近まで寄れるので、こういったマクロ的な撮影も可能。高い解像度をズーム全域で実現している事が良くわかる。コントラストAFでの正確なオートフォーカスと組み合わせる事で、様々な被写体で高精細な撮影が可能になるだろう。
Z 6にも期待
ニコン Z 6
マウント:ニコンZマウント / 有効画素数:2450万画素 / 記録メディア:XQDカード / 動画フォーマット:MOV、MP4 / 液晶モニター:チルト式3.2型TFT液晶(タッチパネル) / 外寸:約134×100.5×67.5mm / 質量:約585g(本体のみ)
ここでZ 6にも触れておこう。2450万画素のフルサイズセンサーといえば、同社ではD750が挙げられる。既に発売から4年が経過しているが、フルサイズで2400万画素クラスはプロの実用機として愛用者も多い機種だ。同社のフルサイズ一眼で初めてモノコック構造を採用して、小型軽量かつグリッピングの良さで、女性フォトグラファーにも根強い人気がある。SDカードダブルスロットなど、導入コストパフォーマンスの良さも人気の秘密かもしれない。その後継機といえるスペックにまとめ上げたのがZ 6である。Z 7同様XQDカードのシングルスロットという部分は単純に買い換えという訳にはいかない部分ではあるが、D750比では大幅に向上したAFに加えて、4K動画だけでも充分に魅力的だ。D800系の高画素ボディと、D750を2台持ちというプロユーザーも多いだけに、D750をZ 6に買い換えてフルサイズミラーレス機の本格導入の足がかりとするのも良いだろう。かくいう筆者もD850を残してZ 6の導入を検討している。今回の2機種同時発表は、ユーザーにとって様々な導入提案への道筋が選べる事で、悩ましくも嬉しい展開となった。
D850との比較
ニコン最強とも言えるD850にZ 7はどこまで肉薄しているのか? D850は性能良さと引き換えに、割と大柄なカメラという印象が拭えない。
特に見え味で定評あるファインダーは、巨大なプリズムのお陰なのだが、それは頭でっかちな独特のフォルムは重量増の大きな原因となっている。とはいえ、そのファイダーの見え味の良さはニコンユーザーの求める大切な要素で、Z 7の液晶ビューファインダー(EVF)にも大きな期待を抱いてしまう部分である。
ではEVFの実際の見え味はどうだろうか?これは驚きを隠せない優秀さで、現行機の中でもトップだと言える光学ファインダーのような見え味の良さに仕上がっていた。遅延の少なさもそうであるが、369万ドットの有機ELパネルはドットを感じさせない光学ビューファインダーと見紛う様な自然な見え味に仕上がっている。これならばファインダーの見え味の拘るD850ユーザーでも納得できるだろう。充分な見え味をコンパクトにまとめる事で、大幅な小型化に貢献している。
Z 7の液晶ビューファインダー(EVF)は369万ドットの有機ELパネル。光学ビューファインダーと見紛う様な自然な見え味に仕上がっている。
グリップ部分の全高は大幅に抑えられているが、充分な前後長が確保されている事でZ 7の方がホールド感は良かった。手の大きな方では小指が余るが、今後バッテリーグリップやエクステンションなどが発売されれば問題にはならないだろう。
全体のフォルムとしては大口径なマウントにEVFとグリップが付いている様なデザインなので、D850比ではふた回り程小さく見えるが、実際にカメラバックに収納してみるとその小ささに驚く事になるだろう。ミラーレスは電力の消費が多くなるだけに、今までの何倍かのバッテリーを持ち歩く事を考えれば、ボディの小型化はカメラバックの内容積を圧迫しない上でとても重要だ。
自社内に最大の競合機を持つニコン。現時点でD850と本機を比較しない者は居ないだろう。ライビュー機能を頻繁に使わない方はD850がまだまだ魅力的であるが、ブツ撮りなどでライブビュー撮影を多用する方はZ 7の方が格段に使いやすいだろう。ボタンの配置は左肩のボタン類を右に統合した事で多少慣れが必要だが、片手で操作できる点でこちらの方が使いやすい。
画質につながる機能面の違いを見ていこう。本機から採用されたハイブリッドAFは大きな特徴だろう。動きのある被写体に有効な像面位相差AFと、高精度な合焦が可能なコントラストAFを、フルサイズセンサーに最適化したアルゴリズムで自動的に切り替えて素早く高精度にピントを合わせてくれる。これに加えて撮影範囲の縦横90%をカバーしてくれるので、今までの測距点では物足りなかった画面周辺に被写体を配置した構図でもAF撮影が可能になる。これに加えて顔認識AFでは、捉えたフォーカスエリア内をAEの露出基準にする事で露出コントロールを人物撮影に最適化。さらに露出補正を加えれば難しい状況でも的確な露出で撮影できる。AFと協調制御するAEもまた本機の大きな特徴と言えるだろう。
>【特集】最新ミラーレスを検証する③ FUJI FILM X-T3 / GFX 50Rに続く
※この記事はコマーシャル・フォト2018年11月号から転載しています。
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