2019年06月25日
2420万画素のスチル撮影でも秒間20コマという高速連写を実現したソニーのフルサイズミラーレス機α9。
発売時、「これだけ速ければ動画を撮れるのでは?」という話も聞かれたが、それを実際にやってしまったのがスポーツ専門チャンネル「J SPORTS」のチャンネルID。
企画・撮影に携わった腰塚光晃氏に話を聞いた。
J SPORTS チャンネルID
Producer+Director of Photography:腰塚光晃(MORE VISION tokyo) Director:石丸 洋(kirameki) Camera assistant:高橋雄三(代官山スタジオ) CG Producer:新田健士(NICKEN) Motion Graphics:竹野智史・足達太朗(モンブラン・ピクチャーズ)
企画
なぜスチルモードで動画撮影?
──α9は最大4K30fpsという動画性能を持っている。それなのにあえてスチルの高速連写モードを使った理由は?
腰塚 この映像はJ SPORTSの番組の合間に流れるチャンネルIDです。ディレクターの石丸 洋君と考えたのは、自然の風景の中、有機物のようにゆっくりと伸びる光のラインをCGで描くというもので、風景を写真のようなハイクオリティな映像に仕上げたい。そのために、まずスチル写真を使ったコマ撮り映像を考えました。スチル撮影であればPhotoshopやCapture OneのRAW現像で、写真としてカラーグレーディングができる。特に今回は日の出前や日没後の撮影がほとんどで、ダイナミックレンジの面でもスチルのRAW撮影の方がムービー撮影より有利。しかも動画としてそのまま仕上げたら、4K以上の解像度の映像になるわけです。
映像に編集する前の写真データ。2400万画素。A4見開きで印刷しても充分な解像度。これを繋げれば、圧倒的な画質の動画になるというのが、今回の撮影の原点。
ただ秒10コマ程度の連写だと背景がパラパラしてしまい、滑らかに動くCGのラインと合わない。そこで行き着いたのが最速のコマ撮りができるα9でした。
Blackmagic Pocket Cinema Camera 4Kという選択肢もあったのですが、1枚絵としての暗部の再現やディテールは圧倒的にαの方がいい。動画と写真を比べるのだから当然なのですが、今回は動画の性能よりも解像感、画質を第一に考えてα9でコマ撮影という選択をしました。
カメラはα9。レンズはFE 16-35mm F2.8 GMをメインに使用。
テスト撮影
秒20コマ撮影の映像はどう見えるか
──秒20コマでは一般的なCM映像の30fpsの2/3、映画の24fpsにも4コマ足りない。しかも通常、動画撮影のシャッター速度は撮影フレームレートの2倍。シャッター速度が速すぎると動画がパラパラと見えてしまうが、α9の秒20コマ連写はシャッタースピードを1/125秒以上に設定しなければならない。
腰塚 速い動きの被写体やカメラを動かす撮影では難しいのですが、今回は風景。テスト撮影をして、どのくらいの速度でカメラを動かせば映像が滑らかに見えるかをテストしています。実際の撮影でもスライダーを使いカメラを非常にゆっくり動かし、最終的には秒30コマの映像にして、少し早送りで見せるという手法です。
撮影
少人数、最小機材で島を回る
──撮影は、とある離島。スタッフは腰塚さん、監督の石丸さん、アシスタントの3人。機材はα9とレンズ、ハンディスタビライザーRonin-Sとedelkrone社の小型スライダーSLIDERPLUSを用意した。
腰塚 撮影は実質2日、その間に予定した場所を回らなくてはならない。時間も日の出前と日没後に限られているので、少人数で機動力を活かした撮影でした。α9の秒20コマの撮影では大体、10秒前後でバッファが一杯になり速度が落ちます。ただ監督からの要望は15秒のCMに4シーン、できたら5シーンということだったので、ワンシーンの撮影時間が10秒でも充分なわけです。
α9、Ronin-S、スライダーという最小限の機材で島の各所を撮影。
カラーグレーディング
写真RAWデータの現像で色、階調を作る
──連写で撮られた写真は3000枚以上。連番に並ぶが、シーンの切れ目は手などを画面に入れてわかるようにしてある。その状態で全てJPEGで仮現像。そのデータを石丸監督に渡し、監督の方ではそれを動画ソフトで動画として確認、シーンをセレクト。そのシーンカットを再現像、TIFFデータに出力する。
腰塚 今回、カラコレ、グレーディングはCapture OneのRAW現像でほぼ仕上げています。やっているのは基本的にホワイトバランス、露出、ダイナミックレンジ、レベル、クラリティで岩の質感を調整、それにビネットで若干周囲を落としました。最終的にTIFFをそのまま編集プロダクションへ。今回はCGもそこにお願いして、テレビ放映用CMをカット編集しています。
撮影したスチルRAWデータをCapture Oneで現像。ムービーにおけるカラーコレクション/カラーグレーディングにあたる作業をこの時点で行なってしまう。上が補正なしのデータ、下が補正後のデータ。
高速スチル連写によるコマ撮り動画の可能性
──現在、全てのデジタル一眼は動画撮影機能を持っている。その一方でスチルの連写性能も各社、力を入れていて、2020年のオリンピックに向けてさらに凄い連写性能を持つカメラが登場するかもしれない。腰塚さんにコマ撮り動画の可能性を聞いてみた。
腰塚 この撮影は、まず誰もやっていないことをやってみたかったというのがあるのですが(笑)、確かに被写体もカメラもほとんど動きがない。岩などの暗い被写体が多く、それを高感度で撮影しなくてはならなかった。しかも映像のハイライト部に後からCGラインの映り込みを入れるため、明るめに撮ってCG合成後、少しシャドーをしめるという方法をとっています。それでもノイズのないディテールを再現するためには、この方法が最善でした。
映像にCGのラインを乗せるためのコンテ。J SPORTSの4つのチャンネルでCGラインの本数を変え4バージョン、5秒、10秒、15秒のタイプを制作。
他の撮影に応用できるかというと、人物撮影でも同録がなくて、被写体がゆっくりと動くのなら可能でしょうね。髪の毛が動いてしまうとダメかもしれませんが 。テストでラジオ体操している人を撮ったのですが、20コマを30fpsにすると多少動きは速くなりますが、それなりに見ることができた。
ムービーをやっている人からすれば、20コマ連写可能時間が10秒程度で、長回しができないこともデメリットと言えばデメリットですが、フォトグラファー発想の動画で画質、ラチチュードを重視するなら、面白い表現ができると思う。
そもそも連写のコマ数とか連写可能時間というのは、今後、もっと性能が上がっていくでしょう。もしかしたら映画フィルムと同じ秒24コマなんて、もう技術的に可能だけれど、動画機能との兼ね合いであえて20コマに抑えているだけなのかもしれない。いずれにせよ、このままカメラの性能が上がっていけば動画、静止画という垣根はなくなっていくんじゃないかと思います。
1997年より写真家として活動。以降、映像も数多く手がける。2017年、WEB、SNS動画に特化した映像制作プロダクションを(株)MORE VISION tokyo の新規事業部として立ち上げ、プロデューサー、撮影、照明を自身で行なう。これによってスチル撮影規模の少人数精鋭の映像撮影が可能になり、よりクリエイティビティーの高い表現を実現している。SNS動画クライアントとしてはSUNTORY、Kanebo、LEXUSなど。
※この記事はコマーシャル・フォト2019年6月号から転載しています。
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