2021年09月16日
2019年、“世界最小・最軽量のフルフレーム・ミラーレス”として登場したSIGMA fp。そして、今年新たに画素数が大幅にアップしたSIGMA fp Lがシリーズに追加された。広告撮影において、フルサイズミラーレス機の使用頻度は高まり各社さまざまなカメラを生み出しているが、SIGMA fpシリーズは、そのフォルムからして他とは違う独自のコンセプトを有する。今回は改めてこのSIGMA fpとfp Lの2機種の性能を実写テストで検証。スペックや描写力はもちろんのこと、豊富なレンズ群、自由度の高いアクセサリーも合わせて紹介する。
主なスペック
SIGMA fp
撮像素子:35mmフルサイズ(35.9mm×23.9mm)裏面照射型CMOSセンサー / 有効画素数:約2,460万画素 / 感度:ISO 100〜25600(拡張:ISO 6〜102400) / AF検出方式:コントラスト検出方式、シングルAF、コンティニュアスAF(動体予測機能付) / 手ブレ補正:電子式(EIS) / 連写:高速 約18コマ/秒、中速 約5コマ/秒、低速 約3コマ/秒 / 記録メディア:SD、SDHC、SDXC(UHS-Ⅱ対応)、ポータブルSSD(USB3.0接続、バスパワー対応) / 液晶モニター:3.15型TFTカラー液晶、アスペクト比3:2、約210万ドット、静電容量方式タッチパネル / 外寸:112.6×69.9×45.3mm / 質量:370g(ボディ単体) / 実勢価格:200,200円前後 / 詳細スペック:sigma-global.comSIGMA fp L
撮像素子:35mmフルサイズ(36.0mm×24.0mm)裏面照射型CMOSセンサー / 有効画素数:約6,100万画素 / 感度:ISO 100〜25600(拡張:ISO 6〜102400) / AF検出方式:位相差検出方式+コントラスト検出方式、シングルAF、コンティニュアスAF(動体予測機能付) / 手ブレ補正:電子式(EIS) / 連写:高速 約10コマ/秒、中速 約5コマ/秒、低速 約3コマ/秒 / 記録メディア:SD、SDHC、SDXC(UHS-Ⅱ対応)、ポータブルSSD(USB3.0接続、バスパワー対応) / 液晶モニター:3.15型TFTカラー液晶、アスペクト比3:2、約210万ドット、静電容量方式タッチパネル / 外寸:112.6×69.9×45.3mm / 質量:375g(ボディ単体) / 実勢価格:275,000円前後 / 詳細スペック:sigma-global.com
2機種の外観の違いは製品名の刻印のみ。いずれも、背面液晶は3.15型、約210万ドットのタッチパネル式TFTカラー液晶。ボディと背面液晶の間には冷却用のヒートシンクを搭載している。ボディ左右と底面の3箇所には1/4インチのネジ穴を配置。ストラップ装着用としてだけでなく、各種アクセサリーや三脚装着用に活用できる。端子部は左側面に配置。USB Type-C、HDMI Type D、ステレオマイク端子を備えている(画像はfp L)。
シグマ初のフルサイズミラーレス
「Pocketable Full-frame(ポケッタブル・フルフレーム)」というキャッチコピーとともに2019年10月に発売されたSIGMA fp。世界最小・最軽量のレンズ交換式フルサイズミラーレス一眼カメラとして話題になったのは記憶に新しい。2021年4月にはSIGMA fp Lがシリーズに加わり、高感度に強い有効約2,460万画素のfpと、高精細な有効約6,100万画素のfp Lのツートップ体制になった。
この2機種の外観上の違いは製品名の刻印のみ。掌にスッポリと収まるボディサイズは全く同じで重量が5g違うだけとなっている。
このコンパクトなカメラはユニークな特徴を持っている。まずはシグマ初のフルサイズおよびベイヤー方式センサーを採用したところだ。独特かつ高精細な写りで名高い同社のFoveonセンサーではなく一般的で扱いやすいセンサーをチョイスした点である。交換レンズはライカLマウント方式となり、シグマやライカ、パナソニック製の同マウントレンズが使用可能。また電子式シャッターのみを採用したのもポイントだ。これにより機械的なシャッターユニットを廃して小型軽量化を実現している。
動画性能も魅力的だ。3種類のRAW記録に標準対応しているのと、HDMI外部出力によってレコーダーにBlackmagic RAW、ProRes RAWでの記録を可能にした。
制作コスト削減によりワンマンオペレーション要請が高い昨今だが、SIGMA fp、fp Lなら、よりコンパクトな体制で高次元なスチルとムービーが撮影可能だ。
fp
レンズはコンパクトな「24mm F3.5 DG DN | Contemporary」をチョイス。小さなボディとの組み合わせで、フットワークを活かした撮影ができた。
SIGMA fpシリーズは標準でホットシューユニット「HU-11」が付属するが、大きなアクセサリーを装着する場合はケージを装着したほうがいいだろう。
街灯を背にISO 2500でのカット。シグマのカメラというとFoveonセンサー搭載機で、暗所に弱いというイメージがあるがfpは別物。低照度撮影を楽々こなす。
高感度耐性を活かした撮影が可能
SIGMA fpでポートレイト撮影。上のカットは、LEDライトをコントラストが強くつくようにダイレクトに照射し、モデルを生っぽく写し出した。肌を白飛び近くまで持っていきつつ、背景の色味にノイズがギリギリ乗らない絶妙な雰囲気を表現できた。標準設定ISO感度は100〜25600だが、デュアルベース感度はスチルの場合ISO 100、640となっており、この2つでの描写はとてもクリーンだ。より高感度になっても整ったノイズ感なので、地明かりを活かしたい場合や照明が入れられない環境でも安心して感度をアップできる。懐の深い約2,460万画素のセンサーが頼もしい。
またオートフォーカスも実用的で、顔/瞳優先AFに頼ってシャッターを切ったがなかなかの精度であった。テンポ良くシャッターを切れるが、AFスピードは劇的に速いわけではない。背面のスクリーンを見ての撮影が基本だが、別売アクセサリーの純正EVF、LVFが用意されているので、シーンによって装着して使用するといいだろう。
fp L
「65mm F2 DG DN | Contemporary」を絞り開放で使用。撮影は手持ちで行なっている。
ムービー撮影もテスト。スチルとムービーのワンオペをそつなくこなす。3つのRAW動画フォーマットと外部レコーダーに対応するのが心強い。
数多くのカラーモードを備えるが、「モノクローム」の調整幅や、「ティールアンドオレンジ」のシネルック調、「パウダーブルー」の清涼感が特に気に入った。
像面位相差AFによるピント合わせ
小さなボディに約6,100万画素のフルサイズセンサーを搭載したSIGMA fp L。SIGMA fpがコントラスト検出方式のみだったのに対し、像面位相差AFを加えたハイブリッドAFなので、オートフォーカスがより正確かつ高速だ。画素数アップに伴うシビアなピント合わせでも余裕で応えてくれた。ボディ内手ブレ補正機能を持たないが、コンパクトなボディはホールド感が高く手ブレしにくい。明るいプライムレンズを使って積極的に手持ち撮影ができるのがいい。
上のカットはカラーネガ調の仕上がりを目指し、自然光を背にしたモデルにやや右からLEDライトを当て、ISO 6400まで感度をアップ。揃った粒状感と、ハイライトの粘り、艶のあるスキントーンを表現できた。DNGによるRAW撮影は、SIGMA Photo Proによる現像だけでなく、Adobe Camera RAWやLightroomでの処理が可能で汎用性が高い。
コンパクトなボディはタブレットなどと組み合わせることによって、よりミニマムでクイックなロケ撮影ができそうだ。
fp
「85mm F1.4 DG DN | Art」での撮影。別売りの電子ビューファインダー「EVF-11」を装着すると視認性良好で、コンパクトながらホールド感が高まって、手持ち撮影での歩留まりがアップする。
上写真の看板部分のアップ。ISO 3200と高感度ながら発色と整ったノイズ感が良好である。絞りは少し絞ったF2。日中から低照度までオールマイティーに使えるカメラだ。
カラフルなオブジェを撮影。広いダイナミックレンジで余裕のある絵作りを感じる。ローパスフィルターレスなので、表面の細かいディテールも緻密に再現されている。
ロケ撮影でも便利な小型軽量ボディ
ロケ撮影でもSIGMA fpは活躍する。コンパクトなので機動性がバツグンだからだ。ボディとレンズ数本が小さいカメラバッグに収まってくれるのがうれしい。
薄暮のシーンを撮影したが、的確なホワイトバランスと色再現性でイメージどおりのカットになった。ハイライト部の粘りとシャドウ部の締まりがいい。ISO 3200だがコントラストもノイズ感も良好で、特に光源周りの描写に色づきがないのが好印象だ。これはDG DNレンズの良さも大いにある。開放域近くなのでボケ感も良好だ。
ロケでの撮影には外付けファインダーの装着がオススメ。しっかりとフレームを確認するためと、接眼部と両手による3点支持で手ブレを防ぐ意味合いもある。
SIGMA fpシリーズは電子シャッターのみなので動きの速いものはローリングシャッター現象が出てしまうが、風景やスナップなどの撮影では問題ないだろう。またフリッカー対策はカメラ任せにするか、撮影地の周波数に合わせて選択して撮影したい。
fp L
「85mm F1.4 DG DN | Art」と組み合わせて、絞り開放、ISO 100、シャッター速度は1/1000秒で撮影。露出的にはマイナス2段程度にしている。
エアクリーナー部分のアップを拡大して見てみると、フィルター部分の写りに驚かされた。さすが約6,100万画素という解像感の高さである。
SIGMA fp Lの高画素はシグマ DG DNレンズの解像感の高さとベストマッチだ。ヘッドライト部分のヌケ感、ボケ味、ハイライトの粘りには舌を巻くほどである。
高い画素数による描写力
約6,100万画素の描写力は圧倒的だ。特に低感度でのディテールの連続感が美しいと感じる。掌にスッポリ収まってしまうカメラで撮れる絵とは思えないほどだ。
このカットは自然光でのものだが、ホワイトバランスはデイライトにし、カラーモードをシネマにして撮影した。タンク上部のハイライトの質感、エンジンフィンのシャドウまで広いダイナミックレンジでキレイに表現してくれた。やや暖かみのある仕上がりは硬質感の中に柔らかさを生み出す。豊富なカラーモードをうまく使いこなすのがコツかもしれない。もちろんこれも手持ち撮影だが、ダイレクトフォーカスフレーム移動を使って測距点をタンク上の文字に設定し、シャッターを切った。
コントラストAFに像面位相差AFを取り入れたハイブリッドAFのおかげで、開放域での薄いピント合わせも正確に行なってくれる。画面中央部を拡大して撮影できる「クロップズーム」など高画素を活かした機能も搭載している。また、ローパスフィルター実装となっているのでモアレの心配が少ない。
自由度の高い拡張性が魅力
SIGMA fpシリーズは拡張性の高さが特徴だ。特に豊富なラインナップを誇るレンズ群は魅力的だろう。大口径、ショートフランジバックで高画質のミラーレス専用設計「DG DNシリーズ」は明るいプライムレンズから超望遠ズームまで着実に増えてきているし、携行しやすい小型軽量の「Iシリーズ」や、ムービー撮影で活躍するコンパクトな「DC DNシリーズ」も見逃せない。また、シグマ製キヤノンEFマウントレンズを装着可能にするマウントコンバーター「MC-21」もあるので、手持ちのレンズが流用できるのがいい。これらレンズ群の価格がリーズナブルなのもうれしいところだろう。
さらに純正アクセサリーが数多く用意されており、アドオンすることによって撮影目的に合わせて機能向上できるのも面白い。ハンドグリップ2種類から電子ビューファインダー、SmallRig社と共同開発したケージまで幅広い。
SIGMA fpシリーズは高感度と高画素、ムービーとスチルなどと使い分けがしやすく、システム全体がコンパクトに済むのでワンマンオペレーション撮影に好適だ。小さくて軽いということは移動時のストレスも低減され、いいことずくめである。それでいて画質と拡張性が申し分ないのだから素晴らしいではないか。
数年前からシグマはプロサポートをスタートしているので、多くのフォトグラファーに選ばれるカメラになって欲しいと思っている。
待望の電子ビューファインダー「EVF-11」
0.5型、約368万ドットの有機ELパネル採用の外付けEVF。外光を遮断して確実にフレーミングするのに必携だ。SIGMA fpシリーズのボディ側面に装着する。上方向に90度まで可動するのでローアングル撮影時にも活躍する。
ルーペ方式で長玉使用時に活躍「LVF-11」
背面液晶部分に装着する光学的なファインダー。約2.5倍に拡大して構図やピントの確認が可能になる。高性能レンズとコーティング採用で像が驚くほどクリアに見える。また視度調整も可能となっている。
所有しているEFレンズを使用可能にする「MC-21」
このマウントコンバーター「MC-21」を使用すればシグマ製のEFマウントレンズ群をSIGMA fpシリーズに装着・使用することが可能になる。手持ちのレンズ資産を活かしてシステム構築可能なのが魅力だ。
「SmallRig Cage Kit for SIGMA fp series 3227」
シグマとSmallRig社が共同開発した専用ケージが登場した。もちろん装着した「EVF-11」をもガードするシステムも組める。多数配置されたネジ穴に多くのアクセサリー装着が可能で、自分好みにカメラをカスタマイズすることができる。
解説・撮影:三井公一
サスラウ代表。新聞、雑誌カメラマンを経てフリーランスフォトグラファーに。雑誌、広告、ウェブ、ストックフォト、ムービー撮影や、執筆、セミナーなども行なっている。
www.sasurau.com
※この記事はコマーシャル・フォト2021年9月号から転載しています。
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