製品レビュー

ライカ SL2-S|写真・映像、2つの世界を1台で写し撮る

撮影・文:南雲暁彦

2020年12月17日に発売されたLマウントのフルサイズミラーレスカメラ「ライカ SL2-S」。その前年2019年に発売された「ライカ SL2」に新開発の2400万画素裏面照射型(BSI)CMOSセンサーを組み込んだモデルで、高感度耐性、動画撮影性能を向上させたカメラとなる。静止画・動画、どちらも撮影するマルチなフォトグラファーにとって、このハイブリッドなカメラはどれほどの優位性を持つのだろうか。今回は作品づくりの中で、その実力を確かめていく。

完成度向上! 3代目ライカ SL

ここ最近、ライカの新製品ラッシュは目を見張るものがある。ラージフォーマット一眼レフ「ライカ S3」 、高画素35mmフルサイズミラーレス「ライカ SL2」と立て続けにプロ機を発売。私も「ライカ S3」プロトタイプで撮影をして作品を展示したり、「ライカ SL2」では2020年3月号の本誌にて特集記事を作っていたりする。その勢いもは止まらずに今回「ライカ SL2-S」が発売となった。

img_products_rev_leicasl2s_01.jpg ライカ SL2-Sの主なスペック
撮像素子:35mmフルサイズ裏面照射型(BSI)CMOSイメージセンサー/有効画素数: 2460万画素/感度:〈オート〉ISO100~100000・〈マニュアル〉ISO50~100000/動画記録:C4K(4096×2160)59.94/50/29.97/25/24p・4K(3840×2160)59.94/50 /29.97/25/23.98p・Full HD(1920×1080)180/150/120/100/59.94/50/29.97/25/23.98p/外寸:約146×107×83mm/質量:約850g(バッテリー含まず)


人気の高いM型やラージフォーマットのSシリーズとは違い、この「ライカ SL2-S」はフルサイズミラーレス一眼という国産カメラの強豪ひしめくカテゴリーのカメラである。しかも今回は2400万画素という解像度とダイナミックレンジのバランスの取れたど真ん中の機種。さらに「ライカ SL2」から動画機能を強化しての登場である。「ライカ SL2」は凄まじい解像度を自然に表現するという離れ技をやってのけるカメラだったが、この「ライカ SL2-S」もプロの仕事機として期待が高まるのも必然と言えよう。

暗闇の中で光る表現力

このカメラを初めて手にしたときに驚いたのは、まずライカロゴがブラックアウトされていること。しかも黒いボディに黒い塗料でLEICAと塗装されている。これはカッコいい。「ライカ SL2」と同時に使っていても迷うことはないだろう。

暗闇の中でのスナップが初めての撮影だったが、2400万画素の裏面照射センサーは、そのスペック以上に被写体の表情を見事に抽出してくれた。金属やガラスの質感は見事と言うほかなく、これはこのカメラの最大の武器と言える。

下の写真は車に東京タワーを映し込ませて撮影したものだが、欲しいところは見事に再現し、暗く落としたいシャドーはしっかりと締めてくれる。映像エンジンのチューニングとプライムレンズの特性だと思うが、非常にドラマチックな絵作りだ。

夜の東京タワーを車体に映したスナップ撮影

img_products_rev_leicasl2s_02a.jpg アポ・ズミクロンSL f2/90mm ASPH./f2 1/15s ISO800

img_products_rev_leicasl2s_03a.jpg アポ・ズミクロンSL f2/50mm ASPH./f2 1/100s ISO1250

高感度性能を試すために、夜の東京でスナップ。クーペ・フィアット(被写体の車名)の最大の特徴である、ダブルバブルのヘッドライトカバーや車体に東京タワーを映し込んだ。ピントが合っている位置からの自然なボケアシはプライムレンズならでは。

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プロジェクターを使用したポートレイト撮影

img_products_rev_leicasl2s_04a.jpg TS・アポ・エルマー S f5.6/120mm ASPH./f4 1/25s ISO3200
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モデル:ALICE ヘアメイク:タテノマサシ(pep) スタイリスト:山崎由佳


豊かなダイナミックレンジと信頼できる高感度耐性

モデルをスタジオ撮影。プロジェクターで被写体に写真を投影し、その光をメインに撮影するという方法で作品を制作。投影する写真やプロジェクターの性能にもよるが、この方法だとそれなりに感度を上げての撮影になる。

圧倒的解像度という点では「ライカ SL2」という横綱がいるので、「ライカ SL2-S」のダイナミックレンジを活かした暗闇の中での高感度表現にこだわって撮影してみることにした。

モデルの肌を少しメタリックにメイクし、シルバーのアンモナイトの写真を投影したのだが、見事にそれを表現してくれた。より写真的に、よりクリエイティブな仕上がりになってくれたように感じる。

img_products_rev_leicasl2s_11.jpg
img_products_rev_leicasl2s_12.jpg
プロジェクターの画像や色を変えてアザーカットも撮影。照明は他に使用せず、プロジェクターの光のみでのライティングだが、高感度耐性の高さゆえ、破綻することなく美しい描写をしてくれた。
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豊富なレンズ選択肢で様々な撮影スタイルに対応

今回メインに使用したレンズは「TS・アポ・エルマーS f5.6/120mm ASPH.」というSシステムのアオリが可能なレンズで、マウントアダプターを介して使用している。SLシリーズのマウントはこのSマウント用アダプターをはじめ、Mレンズ、Rレンズ、CINEレンズのアダプターが純正で用意される。こと愛用者の多いMレンズを使った場合の性能が気になるところだが、Mボディの次にその性能をしっかり発揮するのがこの「ライカ SL2-S」のボディだそうだ。

さらにこのSL用のLマウントはパナソニック、シグマとのアライアンスで生まれた共通マウントなので、レンズのバリエーションは豊富と言えよう。

オフロードバイクのシズルを描くブツ撮影

img_products_rev_leicasl2s_06a.jpg アポ・ズミクロンSL f2/90mm ASPH./f11 1/80s ISO100
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シャープさと素直さが両立するプライムレンズの実力

20年以上前のオフロードバイクを引っ張り出してきて被写体にした。細かい傷や錆などがあり、そういった年月が醸し出す風格まで写し撮ってみようというわけだ。

レンズはプライムレンズ「アポ・ズミクロンSL f2/90mm ASPH.」を使用した。普段ライカのレンズを使用する場合は開放で使うことが多いのだが、奥行きのあるバイクのプロダクトカットということで、それなりに絞って撮影。それでも前後に少し空気感が欲しかったのでf11を選択。開放でもすこぶるシャープだが絞ってもそのまま被写界深度が深くなっていく。

結果は大変満足のいく仕上がり。切れるようなシャープさと極素直にそこからの空気感がつながっている。往年の名車はその迫力を見事に蘇らせたと言える。

img_products_rev_leicasl2s_07.jpg 上画像の拡大。レザーの滑らかな質感や、金属パーツの重厚感などもしっかりと描写してくれた。プライムレンズの特徴はこのシャープさと、そこから極素直に空気感へつながっていく表現だと改めて感じた。

Capture Oneを使用したテザー撮影が可能に

また、「ライカ SL2-S」はCapture One Pro 21を使用したテザー撮影が可能。これはスタジオ撮影では必須の機能で、しかもかなりサクサクとストレスなく動く。24Mの扱いやすいデータサイズも効いて、快適な撮影を行なうことができた。USBケーブルはTETHER TOOLSの「TetherPro」を使用したが一度も接続が切れることはなかった。

都内を駆ける名車を様々なシーンで動画撮影

img_products_rev_leicasl2s_08a.jpg 上記シーンのカットは、アポ・ズミクロンSL f2/90mm ASPH.をF2開放で使用し、撮影している。
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青色が美しくライカらしい艶っぽい色表現

「ライカ SL2-S」は、静止画だけではなく、動画性能にも力を注いでいる。今回は、曲線と光沢が美しい名車コブラを連れ出し、早朝から夜にかけて動画を撮影した。もちろん4Kでの撮影である。暗い中での空気を含んだ豊かな映像は特筆ものだ。

動画でも写真と同じように「ライカ SL2-S」とSLレンズが作り出す艶っぽい質感表現は健在で、それだけでもこのカメラで撮影する意味があると思わせるものだった。

Logで撮影してカラーグレーディングに回すワークフローにももちろん対応するが、映像エンジン「LEICA MAESTRO III」がいい仕事をするので、現場で「もうこれでいこう!」と色調を決めてしまえることも多かった。


また、動画・静止画の設定を独立してキープすることができるのも魅力のひとつ。両方を同時に撮る必要がある場合、これは本当に便利だ。動画・静止画を切り替えていちいち感度やシャッタースピードなど設定し直す必要がないのは、とても効率的。「ライカ SL2-S」のコンセプトとなっている『Two worlds. One choice.』とはまさにこのことなのである。

フォーカスは全てカメラ任せにすることはできないので、それなりに操作が必要。この辺はこれから進化していくべき部分であろう。また、動画に関してはさらにファームウェアアップデートも予定されているらしいので、気になるところ。是非またテストしてみたいものである。

フォトグラファーが撮影に集中できる嬉しい道具

4ヶ月ほどこの「ライカ SL2-S」で撮影しまくった。頑強なボディ、シンプルだが握りやすく疲れないグリップ、軽快で品のあるシャッターフィーリング、シンプルな操作性、見やすいファインダー、こんなに撮影に集中させてくれるカメラはないと思った。

良い道具は使っているときにその存在が消えるというが、まさにそういうカメラだと感じた。道具の進化は機能が増えていくことだけではない。道具として使う人と一体化できることが大事であり、それがフォトグラファーのクリエイティブを解放させる。

絵作りも素晴らしく、高感度で撮影した写真に写り込むノイズは、粒子という表現がしっくりくる。これは本当に写真的であると言える。

写真文化はカメラとフォトグラファーの二人三脚で進んでいくものだ。こういったクリエイティブに対して、同じ方向を向いてくれるカメラの存在をとても嬉しく思う。やるべきことはカメラを操作することではなく、1枚の傑作を産むことなのだ。フォトグラファーとして、このコロナ禍においても写真で希望を表現していきたいと思う。「ライカ SL2-S」はそんな風に思わせてくれるカメラだ。


img_products_rev_leicasl2s_09.jpg なぐも・あきひこ
凸版印刷TIC ビジュアルクリエイティブ部チーフフォトグラファー。1970年神奈川県生まれ。幼少期をブラジル・サンパウロで育つ。世界遺産を中心に世界約300都市位上での撮影実績を持つ。知的財産管理技能士、日本広告写真家協会(APA)会員。

南雲暁彦写真展「Lens of Tokyo ─東京恋図─」

img_products_rev_leicasl2s_10.jpg

今回記事を執筆した南雲暁彦氏が写真展「Lens of Tokyo -東京恋図-」をライカプロフェッショナルストア東京およびライカ大丸心斎橋店にて、2021年4月3日(土)まで開催中。


展示される作品は全て、「ライカSL2-S」で撮り下ろされている。ライカプロフェッショナルストア東京では13点、ライカ大丸心斎橋店では12点の展示となっている。


また、「夜の東京タワー」の写真と「青いコブラ」の動画データは、この写真展で展示(動画はモニターで流れている)されるものを使用している。ぜひ、大きくプリントされた作品を生で見ていただきたい。


会期:
2020年12月12日(土)~2021年4月3日(土)


会場:
ライカプロフェッショナルストア東京
東京都中央区銀座6-4-1 東海堂銀座ビル2F Tel. 03-6215-7074
営業時間:11時~19時、日・月定休


ライカ大丸心斎橋店
大阪市中央区心斎橋筋1-7-1大丸心斎橋店 本館6F Tel. 06-4256-1661
営業時間:10時~20時(状況により変更の可能性あり)


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