2015年09月25日
近代インターナショナルが発売する「LensTRUE」は、撮影時にカメラに取り付けるデバイスと専用ソフトからなるシステムで、レンズ特有の歪みとパースペクティブを自動的に補正してくれる製品である。「普通のレンズがシフトレンズになる」とも言うべきこのシステムで、いったい何ができるのか、詳しい検証を行なった。
補正前 撮影データ:Nikon D810 AF-S NIKKOR 16-35 f/4G ED VR(16mm相当)ISO 64 WB:AUTO f8.0 1/250s 手持ち撮影
LensTRUE 補正後
シンプルで、使うことを意識させないデバイス


写真にはレンズの歪曲収差による歪みのほか、光軸の俯仰による歪み、広角レンズ、すなわち視野角による歪みがあることは周知の事実であるが、作品の意図、あるいは商業的な要望から、すべての歪みを排除したいことがある。それらは本来、4×5や8×10ビューカメラのアオリを用いればレンズ起因の歪みを除き、光学的に補正することができる。もちろん、歪みの補正はPhotoshopでも可能なことであるが、撮影段階も含めてより効率的にすべての歪みを補正するソリューションがLensTRUEである。
LensTRUEは現代のデバイスらしく、根幹となる部品は高精度のジャイロセンサーである。ジャイロセンサーが得た、3軸方向の傾きデータを専用ソフトウェアで読み込み、補正するのである。当然、撮影データと傾きデータはリンクしていなければならないが、その方式はシンプルだ。シンクロ接点から得たレリーズ情報を傾きデータ記録のトリガーにし、後ほど撮影データに含まれるEXIF情報を基に専用ソフトウェアでマッチングするのだ。このシンプルな方式により、複数のメーカーの多様なカメラに(多様なレンズ機種にも)対応することが可能なのである。対応カメラと対応レンズを使用しているユーザーにとって、広角歪みや歪曲収差の補正といったルーティンな作業から解放してくれる便利なツールである。


パッケージに同梱されるのは、デバイス本体、シンクロケーブル長短2本、充電・データ転送用マイクロUSBケーブル、ソフトウェアインストールUSBメモリーである。本体およびUSBメモリーにはドングルとしての機能も持っているので、ソフトウェア使用時には、USBメモリーもしくは本体のどちらかがパソコンに接続されている必要がある。デバイス本体はLensTRUE メーター、ソフトウェアはLensTRUE visualizer と呼ぶ。現在ソフトウェアはMac版のみだが、Windows版も計画されている。
35mmデジタル一眼レフカメラ用 159,000円(税別)
中盤デジタル一眼レフカメラ用 190,000円(税別)
7月末日現在使用可能なカメラとレンズのリスト。今後も順次追加されてゆくので、最新情報は近代インターナショナルに問い合わせていただきたい。


LensTRUEの基本的な使い方

LensTRUEでは、撮影時刻、ファイル番号を基に画像と撮影傾斜角データのマッチングを行なう。それゆえ、時間の管理が最も重要だ。デバイスとカメラの時刻を同期させるのである。デバイスは、専用ソフトウェア(LensTRUE visualizer)からパソコンと同期できる。また多くのカメラは各メーカー製のPC接続ソフトウェアから時刻の設定を行なうか、GPS機能やGPSデバイスを利用するとよい。時刻合わせの許容値は最大5秒程度なので、手動での時刻合わせも実用範囲である。
また、画像の撮影順が ファイル番号と一致する必要があるので、カメラ側のファイルナンバー記録をリセットし、ファイルナンバーが1番から始まるようにする。なお、また再度1番から撮影を始めたいときはデバイス側もリセットする必要があるので、メニューから「全てのデーター削除」を行なってリセットする。
時刻とファイルナンバーの二つが重要項目である。これら二つの設定とLensTRUEメーターに充電がなされたら、撮影可能な状態だ。


環境設定ではマッチング方法が指定できる。また「保存」タブで、補正ずみ現像データを記録するフォルダーを指定できる。現像データはTIFF16bitのみである。
撮影後の処理も簡単
撮影後も簡単、というかシンプルである。撮影した画像データをまずは適当なディスクに保存する。その際、デバイスとPCもUSBで接続すると、USBドライブとして認識されるが、その中にジャイロセンサーの情報を記録した「Shots.txt」がある。このtxtファイルを、画像を保存したフォルダーと同じフォルダーにコピーすると、LensTRUE visualizerの補正データとして読み込まれる。

この時にカメラのファイルナンバーをリセットせず、LensTRUE visualizerからデバイスのデータ削除を行なわなければ、新たな写真を撮影してもデータのマッチングは保たれる。シンプルであるだけにちょっとしたコツも必要である。マッチングがおかしいと思ったら、環境設定のマッチング方法の設定、カメラのファイルナンバーを見直そう。




読み込みが完了すると同時に、補正も完了する。上図の中央ウインドウ左が元データ、右が補正結果だ。
もちろん手動での補正も可能だ。「構図の調整」にチェックを入れてスライダーで調整するが、ほぼ必要とはならないだろう。「フルサイズ保存」をクリックすると、表示されている一つの画像がTIFF16bitデータに現像されるが、このとき右のプレビューのように、補正の結果生まれた余白も記録される。ここで長方形に整えておきたい場合は、「長方形クロップ表示」をチェックする。クロップ枠が表示されるので、適宜調整して「クロップ画像保存」をクリックする。
複数の画像を一括で処理したい場合は、バッチ項目の「選択画像の処理」をクリックする。この場合は、すべて「フルサイズ保存」となる。
LensTRUE visualizer検証結果
LensTRUE visualizerでの補正結果を元データと比較した。効果を見るために、撮影は悪い意味でいい加減な撮影を行なった。すなわちカメラの水平出しを行なわず撮影している。それゆえ、俯仰と合わせ3軸の補正となるので、簡単なようでいて厄介な補正だ。また、ここでは同時にレンズの歪曲収差や周辺光量低下も補正されていることを忘れてはならない。あとはクロップが必要だが、満足できる結果であり、ほとんどの場合ノーチェックで良いだろう。








次に、より難易度の高い被写体で、PhotoshopのCamera Raw Pluginの自動補正と比較した。難易度の高さとは、俯仰角が大きい、建物以外の要素が多い、水平・垂直の線に乏しい、の3点である。結果は下の写真のとおり、Camera Raw Pluginではほぼ補正されなかったか、誤った補正となり、満足な結果は得られなかった。一方LensTRUE visualizerでは満足できる補正結果だ。これはCamera Raw Pluginでは画像を解析しているのに対し、LensTRUE visualizerではジャイロセンサーの計測結果を基に補正しているからだ。なお、LensTRUEが対応する俯仰角は±35度である。作例の元データ①は対応範囲外の仰角であったが、十分な補正が自動で行なわれた。
元データ








ソリューションとしてのLensTRUE
LensTRUEではシンプルな運用で手軽な歪み補正が行なえることは、以上見てきたとおりだ。この結果からすると、不動産広告で迅速にかつ大量のデータ補正を行なわなければならない現場や、1点1点を丁寧に処理する高度な建築写真の現場で、より歪み補正の正確性を求めたい時に最適なソリューションとなるだろう。
一方、その際のワークフローには注意も必要だ。LensTRUE visualizerでは広角歪みと歪曲収差や周辺減光などレンズ起因の瑕疵を補正することに特化している。ホワイトバランスやトーンの補正などカラーコレクションは他のレタッチソフトウェアで行なう必要がある。それゆえ、納品、完成データに早く導くためにはワークフローも一工夫したほうが良い。
LensTRUE visualizerではRAW データのみでなく、TIFF および JPEG データも扱えることがポイントになる。例えばPhotoshop と組み合わせることを例にすると
(1) | RawデータをLensTRUE visualizerで歪み補正 |
↓ | |
TIFFデータで一括書き出し | |
↓ | |
Camera Raw Pluginでカラーコレクション | |
↓ | |
Camera Raw Pluginで一括クロップし完成データとして書き出し |
(2) | RawデータをCamera Raw Pluginでカラーコレクション |
↓ | |
TIFFに書き出し | |
↓ | |
LensTRUE visualizerで歪み補正 | |
↓ | |
一括書き出し | |
↓ | |
Camera Raw Pluginで一括クロップして完成データとして書き出し |
上記2例では、最初にLensTRUE visualizerで処理するか、途中で行なうかの違いであるが、効率は(1)の方が良い。しかし、カラーコレクションの量、つまり画像のトーンや明るさの補正量が大きい時は、RAWデータのうちに処理しておくべきである。それゆえ、(2)という選択肢も考えるべきなのだ。もちろん、撮影時にしっかりと適正な露光を行ない、LensTRUE visualizerのみで完了するというワークフローも現実的だ。また、本稿でCamera Raw Pluginとしたところは、Lightroomでも置き換えが可能である。
以上、柔軟にワークフローを見直すことで、LensTRUEは建築のみならず風景においても魅力的なソリューションとなる。なぜなら、計測デバイスによる数値コントロールだからだ。正しい数値は、正しい結果にのみ結びついているのである。
関連情報
- 近代インターナショナル LensTRUEシステム 詳細ページ
http://www.kindai-inc.co.jp/satsuei_lenstrue.htm
http://lenstrue.com/jp/(日本語版)
http://www.lenstrue.com/(ドイツ語・英語版)
情報コーナー
ドイツJOBO社のLensTRUEのウェブサイト内「ギャラリー」において、他にも建築物やポートレイト等の複数の作例写真が掲載されています。併せてご覧ください。
http://lenstrue.com/jp/(日本語版)
茂手木秀行 Hideyuki Motegi
1962年東京生まれ。日本大学芸術学部卒業後、出版社マガジンハウス入社。雑誌「クロワッサン」「ターザン」「ポパイ」「ブルータス」の撮影を担当。2010年フリーランスとなる。1990年頃よりデジタル加工を始め、1997年頃からは撮影もデジタル化。デジタルフォトの黎明期を過ごす。2004年/2008年雑誌写真記者会優秀賞。レタッチ、プリントに造詣が深く、著書に「Photoshop Camera Raw レタッチワークフロー」、「美しいプリントを作るための教科書」がある。
個展
05年「トーキョー湾岸」
07年「Scenic Miles 道の行方」
08年「RM California」
09年「海に名前をつけるとき」
10年「海に名前をつけるとき D」「沈まぬ空に眠るとき」
12年「空のかけら」
14年「美しいプリントを作るための教科書〜オリジナルプリント展」
17年「星天航路」
デジカメWatch インタビュー記事
http://dc.watch.impress.co.jp/docs/culture/photographer/
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