玉ちゃんのライティング話

第6回 柔らかい光 硬い光

解説 : 玉内公一

玉:玉内 編:編集部

 「硬い光」「柔らかい光」ってよく言いますけど、実際のところ、それはどんな光なんですか?

 もっともシンプルにお答えすると、硬い光とは直進性がある光、つまりスペキュラー(specular)ライト。モノの影がシャープに出ます。光源で言えば点光源、ベアバルブの光が、スペキュラーライトですね。

柔らかい光とは拡散光、つまりバンクライトやバウンスを使ったディフューズ(defuse)ライト。光が回り、影は柔らかく表現されます。

img_tech_lightingstory06_01.jpg
img_tech_lightingstory06_02.jpg
左:リフレクター直のいわゆる「硬い」光。黒い革が適度に光を反射して質感が出た。
右:アンブレラによる「柔らかい」拡散光。光が回って全体のディテールは出るが、シャープ感は少なくなる。

img_tech_lightingstory06_03.jpg
撮影セット。リフレクター、アンブレラとも左斜め上からの1灯で撮影。右の白幕で被写体右側を起こしている。

 シンプルな答えということは、シンプルじゃない答えがある?

 そういうわけではないんですが、たとえば拡散光のバンクでもホットスポットから周辺までの光の落ち方が急激だと、そのバンクの光は硬いなんて言われますね。

さらに光の硬/軟と、写真の硬/軟が混同される場合もありますが、光の硬/軟はあくまで写真の硬さの一要素であって、イコールではない。写真の硬さは被写体(の材質)、光のあて方、また昔で言えば印画紙の硬さや焼き、ピント、シャープネスなどさまざまな要素で決まる。

つまり拡散光で撮った「硬い写真」というのもあるわけです。

 でも、一般的にシャープでカリッとしたイメージを作りたい場合は、硬い光を使うのがいいんですよね。

 そうですね。特に光の硬/軟と光のあて方は、被写体の質感を表現する上で重要です。

 硬い金属などは硬い光ですね。

 そうとは一概に言えません。光にスペキュラーライトとディフューズライトがあるように、被写体にもスペキュラーサブジェクトと、ディフューズサブジェクトがあります。スペキュラーサブジェクトとは光を直進的に強く反射させる表面を持ったもの。ディフューズサブジェクトは光を拡散して反射する表面のもの。

ディフューズサブジェクトはスペキュラーライト、ディフューズライトのどちらでも撮影できるけれど、スペキュラーサブジェクトはスペキュラーライトで撮らないのが、ライティングの基本なんです。

シャープに見せたい被写体の代表、銀食器など光沢の強いモノは、スペキュラーライトで撮ると光を強く反射してむしろ質感が損なわれる。

 言われてみればそうですね。

 また、柔らかい毛糸のような素材も、あまり光を回しすぎると、メリハリのないぼやけた写真になる。ちょっと硬めの光をあてた方が、毛足に陰影がついて毛糸の感じが出る場合もあるんです。

 お汁粉の仕上げに、塩をひとつまみ入れると甘さが引き立つのと同じですね。

 たとえ話が飛躍しすぎてません? ま、いずれにせよ被写体の表面の質感、またそれをどう見せたいかを考えた上で、最適なライトの硬さを決めていくわけです。

ベアバルブの光
img_tech_lightingstory06_04.jpg直進性の光により、影が強く出る。錆た鉄球のざらついた表面が強調された。
標準リフレクターの光
img_tech_lightingstory06_05.jpg適度な直進性と拡散性を持った光。影ははっきりと出るが、エッジは柔らかい。

アンブレラの光
img_tech_lightingstory06_06.jpg光が回り、細部のディテールが再現される一方、コントラストが減り、柔らかな表現となる。
バンクライトの光
img_tech_lightingstory06_07.jpgアンブレラよりさらに光が拡散して柔らかい仕上がり。毛糸の質感もほどよい。

シルバーアンブレラの光
img_tech_lightingstory06_08.jpg銀面が光を直線的に照射するので、シャープではないが濃い影ができ、「ヌメッ」とした印象になる。
アンブレラ+ディフューズの光
img_tech_lightingstory06_09.jpg光をかなり拡散させたソフトな表現。光は柔らかいが、毛糸などの被写体表面の凹凸感が少ない。

 ところで銀食器などの「光り物はディフューズ光」ということですが…。

 特に鏡面のものは直に光をあてない。周囲の環境をライティングするのが基本です。

 環境をライティングする?

 そこは次回ということで。

おすすめ商品・アイテム

写真:玉ちゃんのライティング話

玉ちゃんのライティング話

スタジオ撮影のライティングを基礎から知りたい人へ。月刊誌コマーシャル・フォトで約3年にわたり連載された「玉ちゃんのライティング話」を再構成。カラー作例をふんだんに使い、プロのスタジオ撮影の基礎を解説したライティング読本。

玉内公一 著 定価1,620円(税込)

写真:商品撮影の基本を学ぶ

プロが教える上達の早道商品撮影の基本を学ぶ

さまざまな広告写真で30年のキャリアのベテランフォトグラファー 熊谷晃氏が教える、商品撮影における極意。難しく考えられがちな「商品撮影」を楽しんで取り組めるようになる。

熊谷晃 著 1,800円+税

写真:クリップオンストロボの実践ライティング

基本をマスターすれば光は操れるクリップオンストロボの実践ライティング

便利なTTLオート発光や安心感のマニュアル発光など、クリップオンストロボの基礎知識からプロの現場での活用法を紹介。クリップオンストロボユーザーや、これからクリップオンストロボに挑戦するユーザーに送る1冊。

2,000円+税

写真:あなたにもできる実践ライティング&撮影テクニック

あなたにもできる実践ライティング&撮影テクニック

5人の講師によるセミナー形式でライティングと撮影テクニックを解説。豊富な作例、目からウロコのテクニック、便利な機材などの情報を満載。商品撮影から人物撮影まで、すぐに役立つ、真似したくなるプロワザを惜しみなく披露する。

定価2,160円(税込)

写真:基礎から始める、プロのためのスチルライフライティング

基礎から始める、プロのためのスチルライフライティング

スチルライフのジャンルでも、特にプロの世界で「ブツ撮り」と呼ばれるスタジオでの商品撮影をメインに、ライティングの基礎から実践までを解説する。

定価2,808円(税込)

玉内公一 Kohichi Tamauchi

ドイテクニカルフォト、コメットストロボを経て、2000年に独立。銀塩写真、デジタルフォト、ライティングに関する執筆、セミナーなどを行なっている。日本写真映像専門学校非常勤講師、日本写真学会、日本写真芸術学会会員、電塾運営委員。

関連記事

powered by weblio




バックナンバー