玉ちゃんのライティング話

第20回 ボトルのエッジを光らせろ

解説 : 玉内公一

玉:玉内 編:編集部

 このボトルの作例を見て下さい。

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 エッジが暗闇に浮かんで、海外のお酒の広告写真みたいですね。こういう照明を何て言うんですか?

img_tech_lightingstory20_02.gif 黒ウールの前にボトルを置き、左右斜め方向から逆光を入れた。これがエッジライトとなる。ライト前にディフューザーを垂らしたのは、均一な面光源を作るため。ボトルの上から下まで均等に光をあてることで、エッジを均一に出すことができる。ボトル前面の文字を見せるため、フロントからもバンクライト1灯を入れている。

img_tech_lightingstory20_03.jpg ポールにボトルを立てて撮影。黒ウールは画角ギリギリのサイズ。両サイドからのディフューザー越しの面光源が、被写体にあたり、エッジにハイライトを作る。今回の作例のようにシンプルな形のボトルならこのセットでOKだが、複雑なシルエットの被写体は、多灯でエッジのラインごとにライトをあてていくこともある。

 「エッジライト」と言います。

 ということは、今月はその「エッジライト」の解説ですね。

 そうです。上の作例のポイントとなるのが「暗視野照明」と「エッジライト」。

 「アンシヤ…照明」? 初めて聞く単語ですが。

 では「暗視野」から説明しましょう。「暗視野」の写真とは、背景に全く光が入らない、つまり背景が真っ暗な写真です。

「暗視野」の写真ですぐに思い浮かぶのが、顕微鏡写真。観察対象をはっきりくっきり見せるために、背景を完全な闇にします。微細なモノを撮る顕微鏡写真では、特殊な絞り機構を使って「暗視野」にするのですが、通常の撮影では、ライティングとセットで「暗視野」を作ります。

光を反射しない黒ウールなどをバックに使ってもいいですし、光が届かないくらい、背景を被写体から離してもいい。背景に光のない黒を作る。これが「暗視野照明」です。逆に背景を明るくするライティングを「明視野照明」と言います。

 ファッション撮影の白バックなどは「明視野照明」ですね。

 前々回紹介したライトテーブルも「明視野照明」の一種です。

フロントライト
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上のボトルをフロントライトのみで撮影。背景が黒ウールのため、順光を入れても暗視野になる。
左右からのエッジライト
img_tech_lightingstory20_05.jpg
エッジライトのみで撮影。左右斜めから入る逆光がボトルのエッジをハイライトで浮かび上がらせる。

さて、「エッジライト」ですが、これは被写体の斜め後ろ方向からライトをあてて、シルエットだけを光らせるライティングです。光を斜めにあてるため、大部分の光はレンズに入らず、被写体のエッジにあたる光だけが、ハイライトとなりシルエットを見せる。また逆光のライティングなので、背景には光があたらず、「暗視野」となります。

 「エッジライト」でも、背景に光があたれば「暗視野」じゃないんですよね。

 そうです。「エッジライト」と「暗視野」は必ずしもイコールではない。斜め逆光の「エッジライト」だけで撮ると、必然的に暗視野になるということです。フロントから光をいれて、背景を明るくした「エッジライト表現」もあります。ただし、エッジのハイライトを見せるには、背景が真っ暗な方が効果的ですよね。

さて、ここまでは理解できました?

左後ろからのライトのみ
img_tech_lightingstory20_06.jpg

キャップの部分のハイライト
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ボトル部分のハイライト
img_tech_lightingstory20_08.gif
向かって左後ろからのライトのみで撮影。不透明なキャップ部分と、透明なボトル部分では、ライトとハイライトの関係が異なり、キャップは左側のエッジが光り、光を透過するボトルは、右側の内面に光が反射してハイライトとなる。

 バッチリです。

 では、ここからがちょっとややこしいのですが、作例のような透明ボトルと、不透明な被写体では、同じ円柱の形でもハイライトの出る位置が違います。

不透明な被写体は左斜め後ろからのライトが、左側面にハイライトを作る。透明のボトルの場合、左斜め後ろからあてた光が、右側面にハイライトを作ります。

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 ちょっと考えればわかると思うのですが、不透明な被写体はライトがあたった面が光るけれど、透明なボトルは光を透過するので、ボトルの反対側の内面にあたった光が強く反射する。その結果、左斜め後ろからあてた光は、右側のエッジに効いているのです。(上図参照)

 あ、なるほど。

 透明な被写体を撮る場合、どの光がどの部分に効いているかわかりにくいですよね。でも、そこを上手くコントロールすると、ボトルやグラスなどの透明な被写体は、エッジライトで面白い表現ができます。

また、ボトルのように透明なもの、表面が滑らかものでなくても「エッジライト」の技法は使えます。

いろいろな被写体をエッジライトで撮ってみた
セットはページトップの作例と同じく、左右2灯の逆光。ただしフロントライトはなし。被写体下も黒ウールを敷いて、光の回り込みをなくしている。

img_tech_lightingstory20_09.jpg
タワシの馬。体の部分と耳の部分の材質の違いで、ハイライトの出方も変わる。タワシの毛羽立ちが強調された。
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錆びた鉄球。球体のためエッジの光が広く回り込み、錆びた表面の凹凸感が表現できる。

img_tech_lightingstory20_11.jpg
木彫りの人形。複雑な形のため、各部によって光のあたり方(ハイライトラインの太さ)に変化が出てくる。

 上の作例ですね。

 素材が木や錆びた鉄球なので、ボトルみたいにシャープなエッジができるわけではありませんが、ざらついた表面の強調や、シルエットで形を抽出するような表現ができます。

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ドイテクニカルフォト、コメットストロボを経て、2000年に独立。銀塩写真、デジタルフォト、ライティングに関する執筆、セミナーなどを行なっている。日本写真映像専門学校非常勤講師、日本写真学会、日本写真芸術学会会員、電塾運営委員。

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