玉ちゃんのライティング話

第15回 モーテンセンの5つのパターン

解説 : 玉内公一

玉:玉内 編:編集部

 ウイリアム・モーテンセンについてお話ししたいと思います。

img_tech_lightingstory15_01.jpg
img_tech_lightingstory15_02.png1935年に出版されたウイリアム・モーテンセン(William Mortensen)の「PICTORICAL LIGHTING」。人工照明でいかに「絵画的」表現をするか。500Wのライト2灯を使ったライティングパターンが紹介されている。

 もう千点?

 M、O、R、T、E、N、S、E、N。モーテンセンです。

 で、どんな方なんですか?

 人物ライティングを初めて、数値的、理論的に定義した人と言っていいかな。1935年の著書「PICTORICAL LIGHTING」で示された理論は、当時としては非常に新しく、日本の写真技法の本などでも紹介されていました。

現代の目で見れば「そんなの当たり前」という基礎なのですが、当時は人工の光で写真を演出するという考え方自体が、今ほど当たり前じゃなかったですから。

 これはまた昔の話ですね。それはどのような理論ですか?

 人工照明で「絵画的」な写真表現をするため、メインライトと背景にあてるバックグラウンドライトの2灯を使ったライティングを、5つのパターンにまとめたものです。バックグラウンドライトは固定なので、メインの位置と距離、カメラの距離でライティングパターンを作るわけです。

モーテンセンのライティングパターン

Basic Light
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メインライトをカメラとほぼ同位置から照射。メイン、バックグラウンドライトとも500W。
Contour Light
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ライトの光量、位置は変えずに、カメラ位置のみ被写体から離す。
Semi-Silhouette Light
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カメラの位置は「Basic Light」と同じ。メインライトをやや被写体から遠ざける。

Dynamic Light
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メインライトを被写体に、極端に近づける。
Plastic Light
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メインライトを被写体の斜め横から照射。
 

Basic Light
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img_tech_lightingstory15_09.jpg 正面からの光。背景の明るさと被写体の明るい部分を同程度の明るさにして、被写体周囲のシャドーハーフトーンをきれいに出すことがポイント。フラット気味だが落ち着いた表現となる。

 基本となる第1のパターンが「BASIC(ベーシック) LIGHT」。これはカメラと同位置から被写体にライトをあてる、今で言うクリップオンストロボの撮影に近いかな。

 それだと写真がフラットになるでしょ?

 重要なのが、メインライトがあたる被写体の明るい部分と背景の明るさを、ほぼ同じにすること。昔は調光機付き照明ではなくて一定光量の定常光ですから、距離で調整するのですが、その位置関係をモーテンセンは数値で示しています。

確かにカメラと同じ方向から光をあてると写真はフラットになりますが、背景とバランスを取り、被写体周囲のシャドー、ハーフトーンをきれいに出すことで、とても柔らかな美しさが作れます。

Contour Light
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img_tech_lightingstory15_11.jpg Basic Lightと同じセッティングでカメラを被写体から離す。影で被写体の輪郭が強調され、力強さ、存在感が増す。

「Contour(コンツァー) Light」は「Basic Light」のライト位置はそのままで、カメラを被写体から遠ざけるパターン。カメラを引くことで、立体感あるもの、特に人物のように丸みのあるものは、周囲の影が強くなる。

 Contourとは輪郭の意味ですね。

Semi-Silhouette Light
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img_tech_lightingstory15_13.jpg Basic Lightのメインライトを被写体から離す。被写体の光量が落ちて、ややシルエットとなり、背景の方が明るくなる。

 3番目の「Semi-Silhouette(セミシルエット) Light」は、カメラではなくメインライトを後ろに下げたパターン。メインの光量が少なくなり、背景の方が明るくなります。今で言う白バックに近い表現ですね。

Dynamic Light
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img_tech_lightingstory15_15.jpg 被写体に非常に近い位置からメインをあてる。明暗の対比をつけた表現。

第4のパターンが「Dynamic(ダイナミック) Light」。これはメインライトを被写体斜め手前に極端に近づけたライティング。第3までのパターンが静的なライティングだとしたら、この「Dynamic Light」は非常にメリハリがあって、ドラマチックです。

Plastic Light
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img_tech_lightingstory15_17.jpg 被写体の斜め横からメインライトをあて、自然な立体感を出した表現。

そして最後、5番目のパターンが「Plastic (プラスチック)Light」。

 プラスチックって、何か安っぽくてイメージが悪いんですが…。

 それは現代のイメージでしょ。工業製品みたいな。ここで言うプラスチックとは「彫刻」、「彫塑」の意味。先の「Dynamic Light」よりもメインを被写体から遠くに置いたライティング。つまり…。

 つまり斜め横からのライティング。これって普通のブツ撮りなどのラインティングですよね。

 そう。このコーナーでも触れてきた、モノや人の顔の立体感が最も出るライティング。そういう意味でプラスチック=彫塑という名前なんです。

さて、駆け足でモーテンセンの理論を紹介したのですが、いかがです?

 基本は同じなんですね。

 そうですね。今はストロボ照明で調光も自由自在だし、バンクやアンブレラなどさまざまなアクセサリ−もあるけれど、基礎の基礎、光によるモノの「見方/見せ方」というのは変わりないんですね。

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ドイテクニカルフォト、コメットストロボを経て、2000年に独立。銀塩写真、デジタルフォト、ライティングに関する執筆、セミナーなどを行なっている。日本写真映像専門学校非常勤講師、日本写真学会、日本写真芸術学会会員、電塾運営委員。

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