2010年12月08日
斜め俯瞰のアングルで被写体上にトレペを張った「天トレ」セット(写真上)。上の作例では布の上に電卓を置き撮影。液晶部分の文字表示を出し、ボタンに立体感を与えるため、黒ケント紙で電卓表面にあたる光を調整している(写真下)。
玉:玉内 編:編集部
玉 今回から、テーブルトップ撮影の基本的なライティングパターンを紹介していきましょう。まずは「天トレ」です。
編 「天トレ」は、この連載でも何度か出てきましたよね。
玉 撮影台、つまりテーブルに被写体を置いて斜め俯瞰のアングルで撮る時、被写体上方にトレペなどを張って、その上から光をあてるセット。
編 被写体の上、つまり「天」にトレーシングペーパーだから「天トレ」ですか。
玉 正式な呼称という訳ではないでしょうが、撮影現場の用語としてはかなり定着してますね。
いつ頃から「天トレ」という言葉が使われるようになったのかははっきりとしないのですが、私の記憶では、ちょうどレンタルスタジオが増えだした70年代後半じゃないかと思います。
編 スタジオアシスタントの人にセットを指示する時、「天トレ」の一言で済んでしまいますものね。
玉 そうそう「天トレ」とはそれほどパターン化されたライティングなのです。「天トレ」のポイントは、被写体上に大きな拡散面を作り被写体全体に光を回すこと、そして拡散面が広いために表面に艶がある工業製品やガラスなどの製品に、ライトの光芒の映り込みが防げること。
編 広告の商品撮影にはぴったりですね。
玉 つまりは物がきれいに見えて、影も柔らかく出る「薄曇り」の状況をセットで作るわけです。この状態さえ作ってしまえば、ある程度のサイズの被写体なら「それなりに」撮れてしまうんです。
それにライトも、メインと、必要に応じて影起こしのサブが1灯あればよいですから、セットが簡単。マンションの一室でも物撮りのテーブルセットが組めますし、料理などの出張撮影でも便利ですね。
編 すばらしいじゃないですか。
玉 うーん、確かに便利ではあるけれど、セットさえ組めば誰でも撮れてしまうわけですから、プロの個性やこだわりは出しにくい。もちろん「天トレ」も、被写体によってディフューズ素材を変えたり、トレペ越しにあてるメインライトの位置を工夫したり、さらにアンブレラやソフトライトリフレクターで光質を変えたりと、実はこだわると奥が深いんですけどね。
特に光の回し過ぎには注意。「天トレ」ライティングの性質上、どうしても写真がフラットになりがち。どの写真も同じに見えてしまうんです。上の作例のように黒ケント紙などを使って、適度なシャドーの締まりを作っていくと、写真にメリハリが出てくる。
つまり大きな拡散面で全体に光を回しておき、光りすぎる部分を抑えていくという考え方ですね。
編 複数のライトを使って被写体を浮かび上がらせるライティング手法と比べると合理的ですね。
玉 合理的というか効率的というか。プロの仕事というのは自分の個性をきちんと出したカットを撮らなくてはいけない時もあれば、カタログ用製品写真のような膨大な点数のカットを、できるだけ素早く確実に撮らなくてはならない時もある。そういう時は「天トレ」セットを組んでおいて、流れ作業で撮ったりもしますよね。
編 「天トレ」は諸刃の剣?
玉 便利だけどテーブルトップ撮影がすべて「天トレ」じゃ、プロとしてお金が取れないでしょう。ネット通販が盛んな最近は、誰でも簡単に「天トレ」風の照明ができる撮影台も売られていますから。しかもライト一式付きで。プロフェッショナルの撮影なら、数あるライティングパターンのひとつとして、撮影状況に応じて使いこなしたり、先に述べたように、同じ「天トレ」でも色々な工夫をしてみて下さい。
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ドイテクニカルフォト、コメットストロボを経て、2000年に独立。銀塩写真、デジタルフォト、ライティングに関する執筆、セミナーなどを行なっている。日本写真映像専門学校非常勤講師、日本写真学会、日本写真芸術学会会員、電塾運営委員。
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