玉ちゃんのライティング話

第14回 ポートレイトライティングの組み立て

解説 : 玉内公一

玉:玉内 編:編集部

 前2回、ポートレイトライティングの基本パターンについて話しましたが、今回はそれをベースにライティングの組み立て手順を追っていきましょう。

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 仕上がりが上の写真です。この写真の灯数は?

 メインライト1灯、フィルインライト1灯、それに背景のグラデーション演出用に1灯、計3灯です。物撮影でも人物撮影でもベーシックなライティング構成は、①一番見せたい部分を輝かせ、陰影を作り立体感を出す「メイン(の光)」、②メインを補い全体の明るさを調整する「フィルイン(の光)」、③特別の演出や強調のために入れる「アクセント(の光)」に分かれます。

 メイン、フィルインについては以前、この連載でもやりましたね(第1回)。

 まずメインありき。メイン1灯の表現もありますが、フィルインでバランスを取り、必要ならばアクセントを入れる。アクセントとは、たとえば髪に光沢感を出すライトなどですね。ですから上の作例で言えば人物に関しては、メインとフィルインの2灯ライティングです。

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メインライト:右斜めからディフューザー越しのアンブレラ1灯。ちょうどループライティングの位置にセットしている。右側のシャドーはレフで起こしている。
フィルイン:正面(レンズ光軸方向)からディフューザー越しのアンブレラ1灯。全体のシャドーを起こす。
バックグラウンド:グレーのムラバックに対し、オレンジのカラーフィルターをつけたリフレクター1灯。背景を赤く仕上げている。



 ではそれぞれのライトの役割を見ていきましょう。まずメインですが、ここでは右斜め横からループライティングの位置にセットしています。作例1はメインをリフレクター直光にしたもの。

作例1:リフレクター1灯でのループライティング

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リフレクター直光。左側はレフで起こしているが、明暗のコントラストが強く、ループの特徴である鼻の輪のような影がくっきりと出ている。

 確かに鼻の影がループになっています。

 陰影が強い昔の肖像写真風ですね。左側のシャドーはレフで起こしていますが、女性を撮るには少しコントラストが強すぎる。そこで作例2ではメインをアンブレラ+ディフューザーの拡散光に変えてみました。

作例2:拡散光でのループライティング

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メインをアンブレラ+ディフューザーの拡散光に変える。光が回って影が弱まり柔らかさが出てくる。

 顔の左側にも光が回ってきますね。

 鼻の影も弱まってきた。しかしもう少し、肌の明るさ、輝き、滑らかさを出していきたい。そこで作例3では、フィルインライトとして、正面からアンブレラ+ディフューザーの光を入れています。

作例3:フィルインライトを入れる

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作例2のメインに加え、正面からアンブレラ+ディフューザーでフィルインを入れる。顔全体が明るくなり、凹凸感、立体感は減少するが、肌の輝き、滑らかさが表現される。
光量比はメインf16、フィルインf11。

 かなり現代的な写真になったという印象を受けます。

 最近はこうした回し気味の光が主流ですからね。やはり、ループやレンブラントのライティングパターンはモノクロ写真時代に考えられた手法、つまり光と影の表現です。しかしフィルムがカラーになると、ライトコントラストよりも色の美しさ、滑らかな繋がりが重視されるようになった。カラーではどうしてもシャドー部は色が濁りますから、中間調からハイライトを重視した回し気味の光の中で、階調を美しく出していく表現になるのですね。

 そう言えばモノクロのポートレイトでは、今でも明暗のコントラストをつけた表現が多い。

 さて、作例4はさらにフィルインの出力を上げて、メインとの差をなくした完成カットです。こうなるともう、顔左側の影もなくなり、レンブラントでもループでも関係なくなりますね。

作例4:メインとフィルインの光量差を少なくする

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作例3のライト位置のまま、フィルインの光量を1/2段アップ。顔全体が明るくなり、ループ特有の影はほぼ見えなくなる。最近の女性ポートレイト、ビューティフォトでは、このくらいの明るさが好まれる。

 へ…? 関係ない?

 だってレンブラントもループも、シャドー部の影の形で決まっていたのですから、影がなくなったら、もうレンブラントやループもないでしょう。だから最近はあまりレンブラント、ループが意識されなくなった。

 それじゃ、過去2回の講座は無駄だったということ?

 そんなことはありません。たとえばこれからライティングを習得しようとする人は、今回の説明のように、まずメインの位置を決める時、レンブラントやループからスタートして、表現を広げていけばいい。もちろんレンブラントやループが絶対ではない。だけど実際、レンブラントって言葉を知らなくても、大体、斜めからメインライトをあてるでしょ。その時、顔の陰影がきれいに立体的に見えるように考案されたのが、レンブラントだったりループだったわけですから。


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ドイテクニカルフォト、コメットストロボを経て、2000年に独立。銀塩写真、デジタルフォト、ライティングに関する執筆、セミナーなどを行なっている。日本写真映像専門学校非常勤講師、日本写真学会、日本写真芸術学会会員、電塾運営委員。

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