玉ちゃんのライティング話

第31回 Photoshopでライティングの仕上げ

解説 : 玉内公一

玉:玉内 編:編集部

 デジタル処理を前提としたライティングでは、やっぱり「ハイライトは飛ばさず、シャドーは潰さず、データをヒストグラム内に納める」ということが、コツですかね?

 コツというか、デジタルを前提にしたら、その方が後々、便利です、ということです。最近のデジタルカメラはハイライト部、シャドー部の再現力もあり、昔のようにデータがハイライト部で破綻するとか、シャドーノイズが大量に出るなんてことはない。つまりフィルムと同じようなライティングで撮っても、問題はない。

ただ、ライティングですべて詰めず、後処理で仕上げた方がより効率よく写真のクオリティをアップさせられるならば、それはそれでよいわけです。

 なるほど。それで「後処理で仕上がりに持っていく」とは、具体的には?

撮影したままのデータ

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後ろ斜め上にバンクライト1灯をセット。手前はレフ板で起こしている。全体に光を回したライティングだが、ハイライトが飛ばないように、アンダー気味に撮っている。

 まず作例、ケーキの処理前の写真を見てください。ライトは後ろ斜め上からのバンクライトで、全体に光を回している。いわゆる「天トレ」ライトですね。手前にはレフ板を置いて、ケーキ前面を起こした。少しアンダー気味に撮っていて、階調的にはハイライトの飛びもなく、シャドーの潰れも少ない写真です。

 うーん、今ひとつ美味しそうに見えませんよね。鮮度がないというか…。

 メインのバンクライトで、一応、イチゴやムースにハイライトが入って立体的な表現にはなっていますが、ケーキの写真ならもう少しコントラストをつけ、イチゴや紫のムースの色を出したいところですね。ライティングでそこまで持っていくなら、メインライトだけでなく、サイドからフィルイン的に拡散光を入れるのが一般的かな。露出もオーバー目にする。

 つまりもう少しライトを詰めなくてはいけない。

 小さなケーキなので、メインのバンクライトの位置と角度だけでも、かなり良く見せられるとは思うのですが、その調整はそれなりに時間がかかるし、その間にケーキのような被写体はスタジオの熱で溶けてくる。そこで今回、ライティングはここまでにして、後処理で幾つかの仕上がりパターンを作ってみました。

作例1 Photoshopでトーンカーブ補正をして完成した写真

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作例1のトーンカーブ補正
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Photoshopでのトーンカーブ補正。中間ポイントを左斜め上に上げる感じでトーンカーブを持ち上げた。シャドー部のラインを立たせコントラストを強め、ハイライトはなだらかに階調を残している。ただし背景はほぼ完全に飛ばした。

まずトーンカーブで補正した「作例1」はシャドーを硬く、ハイライトの階調をなだらかにする、ごく一般的な補正ですね。背景は飛ばしています。

 テカリが出て鮮度が上がった。

 広告などで使う写真なら、少し飛ばし気味の方が、ケーキのイメージに合いますよね。ちょうどこれが、さっき話したメインのバンクライト+サイドからフィルインのライティングに近いかな。

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左が補正前の写真のヒストグラム。ハイライト側の高い山が背景の白。すべてヒストグラムに納まっている。右が補正後。背景はほぼ飛ばしているので、ヒストグラム外に。中間から下も明るくしている。

作例2 トーンカーブ補正その2

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img_tech_lightingstory31_09.jpg 作例1と同様、トーンカーブで補正しているが、カーブの傾きを変えている。特に中間部のコントラストを強め、色を濃く出している。背景はやはり白く飛ばしている。

「作例2」も、ハイライト部分は飛ばして、中間調はコントラストをつけて硬くした仕上がり。もしライティングでやるなら、メインの光量とフィルインの光量に差をつけて、ハイライト基準で撮る。

 ハイライトを強い光で作りながら、やや暗めに撮る感じですか?

 全体に色がのって、少しゴージャスな感じ。印刷でどこまで差が出るかちょっと不安ですが。

 印刷する紙質にもよりますからね。

作例3 レベル補正

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レベル補正でシャドーポイントとハイライトポイントを内に寄せ、中間ポイントも左に寄せている。明るいフィルインで、全体に光を回したライティングに近い仕上がり。イチゴ、ムースの色を出すために、グリーンを弱めている。

 そこで「作例3」は、マット系のざらついた紙でもよく見える補正。レベル補正でハイライト、シャドーを整理した上で、中間調をシャドー側(左)に寄せている。さらにグリーンチャンネルを明るく調整して、マゼンタを濃くしてます。全体的にコントラストは少ないんですが、側面の色も明るく出て、紙質の悪い印刷でも写真が暗く濁らないようにしました。

 Photoshopでやると簡単ですね。

 できたらRAWで撮って16bit処理で補正すると画像の劣化も少ない。ただし、今回はあくまでPhotoshopで簡単にできる補正ということでやっています。

レイヤーを使った複雑な調整やRAW現像時の調整など色々あるわけです。また、補正できるからといって、何でも後処理に持っていこうとすると、今度は補正による画像劣化や、それを防ぐためにより複雑な処理が必要となって、「こんなことならライティングで調整した方がずっと効率がいい」ということもある。

どこまでライティングで詰めるか、どこから後処理にするか、またそのためにどんなライティングをするか。最近のプロのテクニックとしては、その「見切り」がとても重要になっています。

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玉内公一 Kohichi Tamauchi

ドイテクニカルフォト、コメットストロボを経て、2000年に独立。銀塩写真、デジタルフォト、ライティングに関する執筆、セミナーなどを行なっている。日本写真映像専門学校非常勤講師、日本写真学会、日本写真芸術学会会員、電塾運営委員。

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