2012年05月07日
玉:玉内 編:編集部
編 デジタル処理を前提としたライティングでは、やっぱり「ハイライトは飛ばさず、シャドーは潰さず、データをヒストグラム内に納める」ということが、コツですかね?
玉 コツというか、デジタルを前提にしたら、その方が後々、便利です、ということです。最近のデジタルカメラはハイライト部、シャドー部の再現力もあり、昔のようにデータがハイライト部で破綻するとか、シャドーノイズが大量に出るなんてことはない。つまりフィルムと同じようなライティングで撮っても、問題はない。
ただ、ライティングですべて詰めず、後処理で仕上げた方がより効率よく写真のクオリティをアップさせられるならば、それはそれでよいわけです。
編 なるほど。それで「後処理で仕上がりに持っていく」とは、具体的には?
撮影したままのデータ
後ろ斜め上にバンクライト1灯をセット。手前はレフ板で起こしている。全体に光を回したライティングだが、ハイライトが飛ばないように、アンダー気味に撮っている。
玉 まず作例、ケーキの処理前の写真を見てください。ライトは後ろ斜め上からのバンクライトで、全体に光を回している。いわゆる「天トレ」ライトですね。手前にはレフ板を置いて、ケーキ前面を起こした。少しアンダー気味に撮っていて、階調的にはハイライトの飛びもなく、シャドーの潰れも少ない写真です。
編 うーん、今ひとつ美味しそうに見えませんよね。鮮度がないというか 。
玉 メインのバンクライトで、一応、イチゴやムースにハイライトが入って立体的な表現にはなっていますが、ケーキの写真ならもう少しコントラストをつけ、イチゴや紫のムースの色を出したいところですね。ライティングでそこまで持っていくなら、メインライトだけでなく、サイドからフィルイン的に拡散光を入れるのが一般的かな。露出もオーバー目にする。
編 つまりもう少しライトを詰めなくてはいけない。
玉 小さなケーキなので、メインのバンクライトの位置と角度だけでも、かなり良く見せられるとは思うのですが、その調整はそれなりに時間がかかるし、その間にケーキのような被写体はスタジオの熱で溶けてくる。そこで今回、ライティングはここまでにして、後処理で幾つかの仕上がりパターンを作ってみました。
作例1 Photoshopでトーンカーブ補正をして完成した写真
まずトーンカーブで補正した「作例1」はシャドーを硬く、ハイライトの階調をなだらかにする、ごく一般的な補正ですね。背景は飛ばしています。
編 テカリが出て鮮度が上がった。
玉 広告などで使う写真なら、少し飛ばし気味の方が、ケーキのイメージに合いますよね。ちょうどこれが、さっき話したメインのバンクライト+サイドからフィルインのライティングに近いかな。
作例2 トーンカーブ補正その2
「作例2」も、ハイライト部分は飛ばして、中間調はコントラストをつけて硬くした仕上がり。もしライティングでやるなら、メインの光量とフィルインの光量に差をつけて、ハイライト基準で撮る。
編 ハイライトを強い光で作りながら、やや暗めに撮る感じですか?
玉 全体に色がのって、少しゴージャスな感じ。印刷でどこまで差が出るかちょっと不安ですが。
編 印刷する紙質にもよりますからね。
作例3 レベル補正
玉 そこで「作例3」は、マット系のざらついた紙でもよく見える補正。レベル補正でハイライト、シャドーを整理した上で、中間調をシャドー側(左)に寄せている。さらにグリーンチャンネルを明るく調整して、マゼンタを濃くしてます。全体的にコントラストは少ないんですが、側面の色も明るく出て、紙質の悪い印刷でも写真が暗く濁らないようにしました。
編 Photoshopでやると簡単ですね。
玉 できたらRAWで撮って16bit処理で補正すると画像の劣化も少ない。ただし、今回はあくまでPhotoshopで簡単にできる補正ということでやっています。
レイヤーを使った複雑な調整やRAW現像時の調整など色々あるわけです。また、補正できるからといって、何でも後処理に持っていこうとすると、今度は補正による画像劣化や、それを防ぐためにより複雑な処理が必要となって、「こんなことならライティングで調整した方がずっと効率がいい」ということもある。
どこまでライティングで詰めるか、どこから後処理にするか、またそのためにどんなライティングをするか。最近のプロのテクニックとしては、その「見切り」がとても重要になっています。
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玉内公一 Kohichi Tamauchi
ドイテクニカルフォト、コメットストロボを経て、2000年に独立。銀塩写真、デジタルフォト、ライティングに関する執筆、セミナーなどを行なっている。日本写真映像専門学校非常勤講師、日本写真学会、日本写真芸術学会会員、電塾運営委員。
- 最終回 照明機材発明の歴史は表現の歴史
- 第34回 デジタルカメラの落とし穴
- 第33回 段階露光したカットをデジタル合成
- 第32回 ライティングと色味の調整で朝〜夕の光を演出
- 第31回 Photoshopでライティングの仕上げ
- 第30回 グレーバランスとRGB数値
- 「玉ちゃんのライティング話」が本になりました
- 第29回 3段アンダーの画像を救う3つの方法
- 第28回 グレースケールをヒストグラムで見る
- 第27回 ヒストグラムとライティングの関係
- 第26回 最初に揃える照明機材は?
- 第25回 ライトパネル+アンブレラで撮影
- 第24回 スローシャッターを使った表現
- 第23回 アクリルボードを使った背景の演出
- 第22回 カラーフィルターで背景を作る
- 第21回 ライトで背景のグラデーションを作る
- 第20回 ボトルのエッジを光らせろ
- 第19回 天からのスポットで被写体を強調
- 第18回 透明感を演出するライトテーブル撮影
- 第17回 バンクライト2灯でクラムシェル
- 第16回 商品撮影に便利な「天トレ」セット
- 第15回 モーテンセンの5つのパターン
- 第14回 ポートレイトライティングの組み立て
- 第13回 ループ、スプリットそしてバタフライ
- 第12回 レンブラントライティングで撮るポートレイト
- 第11回 半逆光でモノがよく見える
- 第10回 透明物の透過光撮影と黒締め
- 第9回 入射光式露出測定と反射光式露出測定
- 第8回 黒でシャドーを締める
- 第7回 鏡面の被写体を撮る
- 第6回 柔らかい光 硬い光
- 第5回 明暗のグラデーションを作る
- 第4回 円柱、円錐、球のライティングパターン
- 第3回 四角い箱のライティング
- 第2回 メインライトの位置を考える
- 第1回 フィルインライトは 天空の輝き?