2010年03月25日
玉:玉内 編:編集部
玉 今回は黒でシャドーを締めることについて。特にスタジオでの商品撮影では、光を全体に回すライティングが多いでしょ。しかし光を回しすぎると、写真がフラットになるデメリットもある。そこで黒い紙や黒いボードを使って、被写体に陰影を作っていくことが、重要なライティングテクニックなのです。
編 具体的には?
玉 わかりやすいのが、陶器のような真っ白い被写体を白バックで仕上げたい場合。バックと被写体を、どちらも同じような明るさの白で描写しようとすると、被写体が背景に溶け込んでしまいますよね。そこで被写体の一部分をシャドーにするんです。最も基本的な方法は、被写体のシャドーにしたい側に、光を反射しない黒いものを置く。ハイライトとシャドーの違いはありますが、やり方としてはレフを置くのと同じですよね。レフが被写体に光を映し込んでいくとしたら、黒でシャドーを映し込んでいくような感じです。
黒いボードを立ててシャドーを締める
光が全体に回って、立体感が乏しい。
編 よく撮影現場では「黒締め」と呼ばれる技法ですね。
玉 画角に入らない位置に黒いケント紙などを置くこともあるし、大きな被写体では、黒いボードを立てることもある。白い壁のスタジオで、壁に反射した光が被写体に回り込むのを遮るため、大きな黒布を垂らすのも、広い意味では「黒締め」と言えるかな。また切り抜き用のカットでは、被写体のエッジラインをきれいに出すために、黒ケント紙を被写体の形に切り抜いて使ったりもしますよね。被写体のエッジにシャドーを入れることで、白い紙に印刷された時、見栄えがよくなる。
輪郭に沿って黒ペーパーで囲み、エッジにシャドーを入れる
ケント紙による黒締めがないと、立体感が乏しく、シャドーによるエッジがないため、メリハリが出ない。
玉 つまり被写体のシャドー部を強調することで、立体感やシャープさを出していくわけです。また、シャドー部をきちんと出すことで、ハイライトがより白く見えるということも、忘れてはいけません。
編 目の錯覚によるものですね。
玉 そう。数値的には階調を残したグレー気味の白でも、シャドーとの対比によって、より白さを感じさせるんです。前回のシルバーの被写体も、黒を入れることで、ハイライト部分がより明るく、光を反射しているように見えたでしょう?
編 「黒で締める」とは、単にライトをあてて、成り行きでシャドー部を作るのではなく、意図的、積極的に被写体にシャドーを作っていくことですね。
玉 正にその通り。写真を音楽に喩えると、ハイライト部が主旋律、光があたり被写体の色や形を見せます。一方、シャドー部はベース音。主旋律を引き立てて、輪郭を作る。また重さ、軽さといったイメージを醸し出す。ライティングは光と影のシンフォニーなのです。
編 今日は詩的ですねぇ。
玉 そのくらいシャドーの役割は重要なんです。だからライティングを組み立てる際にも、どこに光をあてて明るくするかを考えるだけではなく、どこをシャドーにするかを考えなくてはいけない。光をあてるだけで思い通りのシャドーができなければ、積極的にシャドーを作っていく必要があるのです。
玉ちゃんのライティング話
スタジオ撮影のライティングを基礎から知りたい人へ。月刊誌コマーシャル・フォトで約3年にわたり連載された「玉ちゃんのライティング話」を再構成。カラー作例をふんだんに使い、プロのスタジオ撮影の基礎を解説したライティング読本。
玉内公一 著 定価1,620円(税込)
プロが教える上達の早道商品撮影の基本を学ぶ
さまざまな広告写真で30年のキャリアのベテランフォトグラファー 熊谷晃氏が教える、商品撮影における極意。難しく考えられがちな「商品撮影」を楽しんで取り組めるようになる。
熊谷晃 著 1,800円+税
基本をマスターすれば光は操れるクリップオンストロボの実践ライティング
便利なTTLオート発光や安心感のマニュアル発光など、クリップオンストロボの基礎知識からプロの現場での活用法を紹介。クリップオンストロボユーザーや、これからクリップオンストロボに挑戦するユーザーに送る1冊。
2,000円+税
あなたにもできる実践ライティング&撮影テクニック
5人の講師によるセミナー形式でライティングと撮影テクニックを解説。豊富な作例、目からウロコのテクニック、便利な機材などの情報を満載。商品撮影から人物撮影まで、すぐに役立つ、真似したくなるプロワザを惜しみなく披露する。
定価2,160円(税込)
基礎から始める、プロのためのスチルライフライティング
スチルライフのジャンルでも、特にプロの世界で「ブツ撮り」と呼ばれるスタジオでの商品撮影をメインに、ライティングの基礎から実践までを解説する。
定価2,808円(税込)
玉内公一 Kohichi Tamauchi
ドイテクニカルフォト、コメットストロボを経て、2000年に独立。銀塩写真、デジタルフォト、ライティングに関する執筆、セミナーなどを行なっている。日本写真映像専門学校非常勤講師、日本写真学会、日本写真芸術学会会員、電塾運営委員。
- 最終回 照明機材発明の歴史は表現の歴史
- 第34回 デジタルカメラの落とし穴
- 第33回 段階露光したカットをデジタル合成
- 第32回 ライティングと色味の調整で朝〜夕の光を演出
- 第31回 Photoshopでライティングの仕上げ
- 第30回 グレーバランスとRGB数値
- 「玉ちゃんのライティング話」が本になりました
- 第29回 3段アンダーの画像を救う3つの方法
- 第28回 グレースケールをヒストグラムで見る
- 第27回 ヒストグラムとライティングの関係
- 第26回 最初に揃える照明機材は?
- 第25回 ライトパネル+アンブレラで撮影
- 第24回 スローシャッターを使った表現
- 第23回 アクリルボードを使った背景の演出
- 第22回 カラーフィルターで背景を作る
- 第21回 ライトで背景のグラデーションを作る
- 第20回 ボトルのエッジを光らせろ
- 第19回 天からのスポットで被写体を強調
- 第18回 透明感を演出するライトテーブル撮影
- 第17回 バンクライト2灯でクラムシェル
- 第16回 商品撮影に便利な「天トレ」セット
- 第15回 モーテンセンの5つのパターン
- 第14回 ポートレイトライティングの組み立て
- 第13回 ループ、スプリットそしてバタフライ
- 第12回 レンブラントライティングで撮るポートレイト
- 第11回 半逆光でモノがよく見える
- 第10回 透明物の透過光撮影と黒締め
- 第9回 入射光式露出測定と反射光式露出測定
- 第8回 黒でシャドーを締める
- 第7回 鏡面の被写体を撮る
- 第6回 柔らかい光 硬い光
- 第5回 明暗のグラデーションを作る
- 第4回 円柱、円錐、球のライティングパターン
- 第3回 四角い箱のライティング
- 第2回 メインライトの位置を考える
- 第1回 フィルインライトは 天空の輝き?