玉ちゃんのライティング話

第32回 ライティングと色味の調整で朝〜夕の光を演出

解説 : 玉内公一

玉:玉内 編:編集部

 今回も「デジタルの後処理でライティングを仕上げる」という具体例を紹介しましょう。

以前にもこのコーナーで、天トレを使った朝の光、ベアバルブでの昼の直射光などを紹介しましたが、さらにそこにデジタル処理でひと味加えてみます。

朝のイメージ

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元画像と補整カーブ

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写真上は、逆光ライティングで朝の光を表現した元画像。
トーンカーブ①トーンカーブのBを持ち上げ(補色のMがマイナス)、Rを下げる(補足のCがプラス)。トーンカーブ ②トーンカーブ全体(RGB )の中間調より上を持ち上げて、明るさを強調。
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斜め後ろ、やや低めの位置よりバンクライトの拡散光をあてる。同じ拡散光でもアンブレラだと、傘の骨が瓶に写ってしまう。

 さて、朝の光ってどんなイメージがありますか?

 クリアだけどあまり強烈な光ではなく、透明感があって清々しい感じ?

 そうですね。季節、時間によって太陽の高さは違いますが、東の窓から明け方の光が差し込んでくる。でも、まだ直射光はあたらず、明るくなり始めた空の光で、部屋が明るくなっている感じ。

 空全体の明るさ、天空光ですね。

 そう。つまり朝の光には、天空光の青味が多く含まれている。科学的に言えば短波長の光が多い。

しかもまだ大気や地表が熱せられていないため、大気中の水蒸気の粒子も細かく、その光が大気中であまり乱反射しない。もともと太陽の直射ではなく天空光だから拡散光なんですが、ある程度シャープさもあるんですよね、朝の光は。

 それをライティングで表現する。

 いくらデジタルで修正ができるとしても、光のあたり方や影の出方はライティングできちんと作っておいた方が楽です。デジタルは味付けですね。

具体的な朝の光のライティングですが、今回は早朝のイメージ。大きめのバンクライト(8角形のオクタバンク)を斜め後ろから半逆光であてました。ただ、それだけだと物足りない。

 朝の雰囲気は、そこそこあるのですが…。

 そこで、撮影後のトーンカーブ処理で、やや青味を強調してみました。さらに中間調より上の部分を持ち上げて、明るさを強調しています。実際には1回のトーンカーブ処理でもできるのですが、ここではわかりやすいように色味補正と明るさ補正のトーンカーブを分けています。

また調整レイヤーでトーンカーブを重ねているから、「不透明度」で効果の微妙な調整もできます。

 青味でかなり雰囲気が変わりますね。

 ちょっと大げさかもしれませんが、特にイメージ重視の広告写真では、大げさなくらいの方がわかりやすいと思います。

日中のイメージ

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元画像と補整カーブ

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ベアバルブ撮影で被写体の影を濃く出した。日中のイメージなのでカラーバランスはニュートラルのままで、トーンカーブ(RGB全体)をS字カーブにして、コントラストを強調。またカーブ右の頂点を左に移動して、ハイライトを飛ぶギリギリまで持ち上げる。

ベアバルブ状態のライトを、被写体上高い位置にセット。このセットでは天井にバウンスした光が拡散光のフィルインになっているが、影をよりシャープにする場合、黒ケントを天井に貼り、バウンスをカットする。
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 次の昼のイメージは、濃い影を作るためベアバルブ撮影ですね。

 ライトヘッドにリフレクターをつけないで照射する方法ですね。

 この作例では昼過ぎの陽があたるベランダをイメージ。ベアバルブで撮って、トーンカーブでコントラストをつけています。ハイライト部分、背景は飛ぶギリギリぐらいまで明るくしました。色味はニュートラルのままですね。

もし海辺や砂漠のシーンでもっと強い日差しを表現するなら、セットの天井に黒ケントなどを貼ると、バウンスがなくなり、影はさらにシャープになります。またトーンカーブでS字カーブを大きくしてコントラストもつけてもよいですね。

夕方のイメージ

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元画像と補整カーブ

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朝のイメージよりさらに光を回して撮影。
トーンカーブ① Rを持ち上げ、Bを下げることで、アンバーにする。トーンカーブ② RGB全体で、中間調より下を下げ、シャドーを濃くし、夕方の落ち着いた雰囲気に仕上げた。
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朝のイメージと同じバンクライトに加え、逆方向からレフ板で光を回す。朝のイメージに比べ、さらにソフトな雰囲気を出した。

 夕方のシーンは?

 夕方と言えば、やはり夕暮れのアンバーな色味ですよね。この色味だけでかなり夕方のイメージになるのですが、ライティングも、少し工夫しています。

大地が熱せられて、大気の水蒸気やホコリが多い夕方は、朝の光よりも光が拡散しますよね。そこでライティング段階では、朝と同じバンク1灯に加え、逆目からレフで起こして、光を回している。

ただし、光を回し、トーンカーブでアンバーな色味にすると、色あせたような感じになってしまう。そこで中間調より下を暗めにして少しだけ全体を締めています。これで夕方の落ち着いた感じが出ると思います。

 これらの作業をライティングだけでやろうとすると?

 色味に関してはカラーフィルターなどを使いますよね。ただ、色によるイメージ作りって、朝なら青、夕方ならアンバーという大まかな方向はあるけれど、あくまで個人の感覚によるところが大きい。しかも夕方と言っても時間帯で色が変わってくるでしょ。そこをデジタル調整にすることで、微調整やトライ&エラーが可能になるわけです。

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玉内公一 Kohichi Tamauchi

ドイテクニカルフォト、コメットストロボを経て、2000年に独立。銀塩写真、デジタルフォト、ライティングに関する執筆、セミナーなどを行なっている。日本写真映像専門学校非常勤講師、日本写真学会、日本写真芸術学会会員、電塾運営委員。

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