2012年08月07日
玉:玉内 編:編集部
玉 デジタル撮影の弱点について、お話ししましょう。
編 弱点? デジタルカメラが苦手な被写体やライティングということですか?
玉 弱点というと大げさですが「落とし穴」みたいな感じかな。最初期のデジタルカメラは、それこそ「コントラストが高いライティングはできない」だとか「シャドーはノイズが出る」だとか、撮影やライティングにも、非常に気を遣ったのですが、最近の一眼レフタイプはそうした欠点も解消され、問題なく撮れるようになった。
編 ほんとに昔のデジタルカメラは「あれはダメ」「これはNG」という感じで、弱点があることが前提で撮影していましたよね。
玉 でも、今はそういうこともほとんどなくなった。だからこそ、たまに問題にぶつかると「なんでこうなるの?」という「落とし穴」になるんですね。原因がわからないまま、そこで悩んでしまうと、作業が進まなくなる。そこはもう「そういうものだ」と割り切って、次の手を考えた方が早い。幾つかそんな例を挙げてみましょう。
デジタルカメラはビビットな赤の再現が苦手?
撮影したままの画像
グレーバランスをとり、適正露光で撮影しているが、本来の赤よりもイエローが強く出て、朱色に見える。カメラの機種にもよるが、特に彩度の高い赤はデジタルカメラの苦手な色と言われている。
Photoshopで補正した実物に近い色味
Photoshopで色味を補正して、実物の色に近づけた。このような彩度の高い赤は、カメラの性能上、再現されないこともあるので、その時はPhotoshopで調整してしまった方が効率がよい。
玉 まずは赤の発色。カメラにもよりますが、デジタルカメラはビビットな赤が苦手。マゼンタ系の赤がY(イエロー)に転ぶ傾向にあります。
編 それはなぜですか?
玉 多くのデジタルカメラのセンサーのカラーフィルターが「RGGB」配列になっているのはご存じですよね。RとBの情報はGの半分しか取り込めない。600万画素のカメラだとしたら、Gが300万画素、RとBが150万画素と考えてもいい。
つまりRはもともと情報量が少ないんです。しかも赤の光はノイズの原因にもなるので、Rのフィルターは若干、色を制限しているというか あえて波長をカットしている。
その結果、ビビットな赤がくすんで写る傾向になります。これはいくらグレーバランスをきちんととって撮影しても、カメラ本来の傾向だから仕方ないんですね。
編 ではどうすれば?
玉 色が出ないことを悩んで時間を潰すより、色の出にくい被写体は、Photoshopでの補正を前提に考えた方が楽。
エメラルドグリーンの再現
玉 同様にエメラルドグリーンも苦手と言われますね。作例では透明のビンにシアン系のフィルターをつけたライトをあてて撮っていますが、見た目は適正でしょ?
編 そうですね。青基調だから、若干ローキーに見えるくらい。
玉 でもヒストグラムを見ると青のハイライトが切れているでしょう。この写真をそのまま使うなら問題はないのですが、ちょっといじると、途端にデータが崩れ出す。
編 なるほど。だけどフィルターでこんなブルーにした写真なんて、滅多に撮らないですよね。
玉 たとえばブルーのカラーフィルターを使って背景にグラデーションを作る時、見た目はちょうどよい明るさの背景ができても、このようにブルーがデータ的に飛んでいたら、補正をかける際、気をつけないと、直ぐに階調が破綻してしまう。結果、背景のグラデーションにトーンジャンプが起きるのです。
高感度撮影はJPEGの方がノイズが少ない場合がある
弱いライトをあてて、ISO1250設定で撮影。RAWとJPEGの同時記録でそれぞれの仕上がりを比較してみた。
RAWデータ撮影、現像処理
JPEGで撮影
玉 最後にRAW撮影が絶対ではないという例を挙げましょう。たとえば最近のデジタルカメラは高感度も得意ですが、その際、RAWをそのまま現像すると、シャドーノイズやカラーノイズが出て、画像が汚くなることがあります。現像時にノイズ処理をすれば多少は軽減されますが、同じ条件でJPEG撮影した方が、結果、仕上がりが良いということがあります。
編 高品質を目指すならRAWで撮っておくというのが通例ですが。
玉 そこが陥りやすい「落とし穴」の訳です。JPEGはカメラ内部の演算で画像処理をします。自動処理だから画質が悪いと思われているかもしれませんが、カメラ内部での処理は、むしろそのカメラに特化している訳ですから、高感度撮影など画像自体を無理に補正するような場合、自然に仕上がることも多いのです。
今回、挙げた例は撮影状況や使用カメラによって結果が違ってきますが、いくらカメラの性能がアップしたからと言って、万能ではない。自分の使っているカメラの特性を理解して、特に色の転ぶ傾向とか、ノイズが出やすい条件などを把握しておくとよいと思います。
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玉内公一 Kohichi Tamauchi
ドイテクニカルフォト、コメットストロボを経て、2000年に独立。銀塩写真、デジタルフォト、ライティングに関する執筆、セミナーなどを行なっている。日本写真映像専門学校非常勤講師、日本写真学会、日本写真芸術学会会員、電塾運営委員。
- 最終回 照明機材発明の歴史は表現の歴史
- 第34回 デジタルカメラの落とし穴
- 第33回 段階露光したカットをデジタル合成
- 第32回 ライティングと色味の調整で朝〜夕の光を演出
- 第31回 Photoshopでライティングの仕上げ
- 第30回 グレーバランスとRGB数値
- 「玉ちゃんのライティング話」が本になりました
- 第29回 3段アンダーの画像を救う3つの方法
- 第28回 グレースケールをヒストグラムで見る
- 第27回 ヒストグラムとライティングの関係
- 第26回 最初に揃える照明機材は?
- 第25回 ライトパネル+アンブレラで撮影
- 第24回 スローシャッターを使った表現
- 第23回 アクリルボードを使った背景の演出
- 第22回 カラーフィルターで背景を作る
- 第21回 ライトで背景のグラデーションを作る
- 第20回 ボトルのエッジを光らせろ
- 第19回 天からのスポットで被写体を強調
- 第18回 透明感を演出するライトテーブル撮影
- 第17回 バンクライト2灯でクラムシェル
- 第16回 商品撮影に便利な「天トレ」セット
- 第15回 モーテンセンの5つのパターン
- 第14回 ポートレイトライティングの組み立て
- 第13回 ループ、スプリットそしてバタフライ
- 第12回 レンブラントライティングで撮るポートレイト
- 第11回 半逆光でモノがよく見える
- 第10回 透明物の透過光撮影と黒締め
- 第9回 入射光式露出測定と反射光式露出測定
- 第8回 黒でシャドーを締める
- 第7回 鏡面の被写体を撮る
- 第6回 柔らかい光 硬い光
- 第5回 明暗のグラデーションを作る
- 第4回 円柱、円錐、球のライティングパターン
- 第3回 四角い箱のライティング
- 第2回 メインライトの位置を考える
- 第1回 フィルインライトは 天空の輝き?