玉ちゃんのライティング話

第19回 天からのスポットで被写体を強調

解説 : 玉内公一

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被写体は嵯峨狂言面。スヌートで絞ったトップからの光だけでライティング。コントラストの強い光が古い美術品の存在感、歴史感を演出する。

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上が撮影のセット。ライトと被写体の距離によって、スポット感、コントラストが変わる。下はライトの位置を高くした作例。

玉:玉内 編:編集部

 物を撮影台に置き斜め俯瞰から撮るテーブルトップ撮影では、被写体の上から光をあてることが多くなります。その代表的なライティング方法が、前に紹介した「天トレ」ですね(第16回 商品撮影に便利な「天トレ」セット)。

 テーブル全体を覆うような広い拡散光を作り、被写体全体をまんべんなく照らすライティングですね。

 「天トレ」の記事でも話しましたが、「天トレ」はシンプルなセットで過不足のないライティングが簡単にできるというメリットがある反面、光を回すために写真がフラットになりがち。特に、被写体の存在感をガツンと際立たせたい時は、「天トレ」でイメージを作るのが難しい。

 「ガツン」と…?

 そう「ガツン」とだったり、ちょっと陰影でニュアンスを出したい時。

 その時はどうすれば?

 「天トレ」の利点でもあり、ある意味、弱点でもある「回した光」をやめてしまえばいい。

 「天トレ」の場合、大きなトレペやディフューザーで光を拡散しましたが…。

 そのディフューザーをなくして、集光した光を直にあてるのです。

 つまりスポットライトのような感じですね。

 どのくらい集光するかによって表現の違いはありますが、要はそういうことです。たとえば、単純にリフレクターのみの光にすると、上からの光が被写体上部にのみ強くあたり、光が回らないサイドは暗く落ちる。これはちょうどディスプレイ照明のダウンライトと同じですね。

 ダウンライト?

 宝飾店のショーウィンドウやショーケースは、よく上からのライトで商品を照らしますよね。それを「ダウンライト」というのですが、一番見せたいジュエリーの玉の部分や、時計の文字盤の部分を光り輝かせるためです。また被写体の影が落ちて、重厚感も出る。

実際の撮影の場合、小さな被写体は通常のリフレクターだと照射範囲が広く光が回りすぎるので、スヌートやグリッドなどで光を絞ります。

黒アルミホイルでスヌートのような筒を作ってもいいです。くれぐれも黒ケント紙ではやらないように。

 いつもの「注意事項」ですね。

 実際、紙でスヌートを作って、モデリングの熱で火事になったケースもあるんですから。

また舞台照明で「スポットライト」と呼ばれるようなシャープなスポットを出す場合、レンズ系のスポットアタッチメントを使います。

バンクによる拡散照明
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トップから大きなバンクによる拡散光ライティング。いわゆる「天トレ」照明。1灯でも光が全体に回り、被写体の形と色をきちんと見せる写真となっている。
スヌートによる集光
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スヌートで光の照射範囲を絞った。周囲が暗く影になり、糸巻きの横の面も暗く落ちて、コントラストの強い、存在感のある写真となる。

リフレクターにグリッドをつける
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リフレクターに目の細かいグリッドを装着。スヌートとほぼ同じような仕上がりとなる。このセットではわかりにくいが、スヌートとグリッドの違いは、周囲のグラデーションの出方。一般的にグリッドの方がきれいなグラデーションが得られる。
レンズ系スポット
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レンズによる集光。ここでは定常光のスポット照明器具「エリスポット」を使用。シャープな輪郭で、いかにもスポットがあたっているという仕上がり。同じ被写体でも、バンクでの拡散照明とは、まったく違う印象となる。

 スポット撮影の注意点は?

 全体に拡散した光を上からあてる「天トレ」は、極論を言えば光が回っている範囲であれば、誰でも簡単に、それなりの写真が撮れる。

一方、スポットは「被写体のどこを強調したいのか」「どう強調したいのか」、つまりどんなイメージにしたいのかを、きちんと考えて撮影しなくてはいけません。

そしてその目的のイメージを作るために技術的な面でも、ハイライト部分とシャドー部分の境をどんなグラデーションにするのか、そのためにはどんな集光機材を選ぶのか。またバックの素材でもスポット感は変わってくる。基本的に光を反射しない黒系のペーパーなどの方がスポット感を強調できるわけです。

つまりフォトグラファーの個性が出しにくい「天トレ」撮影に比べて、センスや作画意図、機材の特性がダイレクトに写真に現れる。

 それだけに、決まればカッコイイ。

 ブツ撮りにアート作品的なニュアンスも出せるのですね。

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玉内公一 Kohichi Tamauchi

ドイテクニカルフォト、コメットストロボを経て、2000年に独立。銀塩写真、デジタルフォト、ライティングに関する執筆、セミナーなどを行なっている。日本写真映像専門学校非常勤講師、日本写真学会、日本写真芸術学会会員、電塾運営委員。

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